貯金なし・配偶者なし・知識なし(でもオタク仲間あり)に、“明るい老後”はやってくるのか? 身内の介護や看取り、老後問題……介護資格をもつアラフォーのバンギャル2人が、介護業界にガチ取材し、老後を模索する体当たりルポ・エッセイ『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)より、一部を抜粋してご紹介します。

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もはや社会問題ともいえる「高齢者の免許返納問題」。数年前にも高齢者の運転による痛ましい事故がセンセーショナルに報道されました。その影響もあって「祖父母や両親の免許をどうするか?」と考えている人は多いのでは……。


今回の登場人物

藤谷千明:バンギャル歴約四半世紀のフリーライターで介護資格持ち
蟹めんま:バンギャル歴20年以上の漫画家・イラストレーターで介護資格持ち
並木靖幸さん:NPO法人高齢者安全運転支援研究会で、高齢者の認知機能や身体能力との関係を調査・研究し、高齢でもできるだけ永く安全運転を続けるための講習会などを行っている


高齢者“だから”危険な運転をする?

並木さん:まず皆さんに質問があります。「高齢者の運転は危ない」って思います?

藤谷:そうですね。近年の事故報道などを見るかぎり「危ないのでは」と心配してしまいます。

:本人の怪我も怖いですが、人生の終盤に加害者側になるのもつらすぎます。

並木さん:では具体的に、ご家族、ご親戚の運転の「何が危ないか、どこが危ないか」は説明できますか?

藤谷:……ぐ、具体的に挙げるとするとパッとは出てこないですね。

並木さん:大前提として、危ない運転をする人は免許を持ち続けてはいけない。けれど、年齢だけで危ないとは言いきれないんです。10万人あたりの年齢層別の交通事故件数は、若い人も すごく多いんです。なのに「若者は免許を返納しましょう」とはならないでしょう。

:言われてみたら、それはたしかに。

並木さん:「高齢者の運転は危険」という先入観が蔓延しているんです。超高齢社会となって、高齢者で免許を持っている人口も増えていますが、多くの高齢者は普通に運転しています。だからこそ、もう少しフラットな目線で高齢者の運転を考えてもらわないと、高齢者の方も納得しないですよね。

:自分も15歳くらいのときに、親から「危ないからライブに行くな」と言われ、「危ないって言うなら一度現場を見て何が危ないのかちゃんと説明してくれ!」って思っていたのに、大人になって、あのやるせなさを忘れていました……。

現在の免許制度と高齢ドライバー

  • 画:蟹めんま

藤谷:では、そもそも現在の免許制度では「危ない運転」をする人を見つけるためにどのような制度があるのでしょうか?

並木さん:70歳以上の人は免許更新のときに「高齢者講習」を受けなければなりませんが、とくに75歳以上の人は過去3年間にさかのぼって交通違反があった場合に、「運転技能検査」を受けなければなりません。

これは2022年5月から始まった新しい制度で、免許試験場や教習所などで運転の実地検査を行います。実地検査をパスできなければ免許更新ができません。実地検査をパスできれば、「認知機能検査」を受けることになっています。この検査によって、「記憶力・判断力が低くなっている方(認知症のおそれがある方)と、「記憶力・判断力に心配のない方(認知機能が低下しているおそれがない方)の二つに分けられます。

ちなみに以前の検査では、認知症が疑われ医師の診断書が必要な第一分類と、認知機能の衰えが懸念されるという第二分類、そして問題のない第三分類の3つに分かれていました。これがなぜ変更されたかというと、警察の統計によれば、第一分類とそれが射の交通事故率が「ほぼ変わらない」という結果が出たからなんです。

:だから実地検査を行うことになったんでしょうか?

並木さん:そうですね、高齢者の方からも「検査に通るのだろうか」と心配の声が多数あがり、注目されていました。けれど制度がスタートして半年ほどの時点で、検査に通らない人は、警察の当初の予測よりも少なくなっているようです。

藤谷:認知機能と運転技能は必ずしも一致するわけではないんですね。またしても先入観。

並木さん:検査で「認知症のおそれがある」と判断されると、運転を続けるには、認知症かそうでないかを示す医師の診断書が必要になります。でも、実際は約45%の人が、診断書を取る前に自分で返納しちゃうんです。

:お医者さんの診断結果によって免許を失ってしまうよりは、自分から返したほうが精神的なショックは軽そうですね。

並木さん:そうですね。家族や周囲から「認知症のレッテルを貼られたくない高齢者は多いと思います。プライドがそうさせているケースもあるのかもしれませんが、認知機能の低下を知ることが、運転をやめるきっかけになった人も多いのではないでしょうか。

藤谷:ふむふむ、危ない運転をする人は免許継続できないし、反対に高齢になっても安全な運転をする人は胸を張って継続できるという仕組みになりつつあるんですね。

:免許を返納した後のサポートも充実してきているそうです。免許を自主返納すると「運転経歴証明書」というものがもらえて、それがあるとタクシークーポンをもらえるようなサービスをやっている行政もあるそうです。地域差もあるとは思いますが。

並木さん:免許の返納や取り消し処分によって運転ができなくなる前から、電車やバスなどの公共交通機関を使って活動することも選択肢に入れて、少しずつ慣れていくといいと思います。電車に乗る楽しみなんかも、新たに見つかるかもしれませんし。

:バンドが解散してしまう前に「推し増・推し変」しておけ! ということですね。


後編に続きます。

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『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)
著者:藤谷千明・蟹めんま 監修:LIFULL 介護

「老後はオタク仲間で一緒に住もうぜ!」から楽しく始まった企画のさなか、当事者として直面することになった身内の介護・看取り・老後問題。漠然とした不安だらけの世の中で、オタク女子に“明るい老後”はやってくるのか。オタク・ネットワークとユーモア、そして「趣味から得た養分」を手に、戦略を考えてみた! 老人ホーム・介護施設検索サービス大手の「LIFULL 介護」が監修し、解説も充実。Amazonで好評発売中です。