貯金なし・配偶者なし・知識なし(でもオタク仲間あり)に、“明るい老後”はやってくるのか? 身内の介護や看取り、老後問題……介護資格をもつアラフォーのバンギャル2人が、介護業界にガチ取材し、老後を模索する体当たりルポ・エッセイ『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)より、一部を抜粋してご紹介します。

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「バンギャル同士で老人ホームを作って、将来は楽しく暮らそう!」と盛り上がるも、老人ホームってどうやって作ればいいの? 個人でも作れるものなの? そもそも老人ホームとは? 疑問は尽きません。まずは老人ホームの検索サービス「LIFULL 介護」の小菅さんにお話を伺うことから始めましょう。


今回の登場人物

藤谷千明:バンギャル歴約四半世紀のフリーライターで介護資格持ち
蟹めんま:バンギャル歴20年以上の漫画家・イラストレーターで介護資格持ち
Oさん:ウェブメディア「tayorini」編集者の元バンギャル
小菅秀樹:日本最大級の老人ホーム・介護施設検索サービス「LIFULL 介護」編集長


趣味推しの介護施設って存在するの?

藤谷:いきなりですが、私たちは「バンギャル 老人ホーム=趣味でつながる老人ホーム」を作りたいと考えています。そのような施設はすでに存在するのでしょうか?

小菅:結論から申し上げますと、聞いたことがありません。現状、介護施設というのは、ご本人が選ぶのではなく、ご家族が選ぶことが多いんです。その場合は住みやすさや、スタッフの質など、安全に暮らせることが優先されます。

:そうなると、趣味は二の次、三の次になっちゃいますね。

小菅:介護が必要ない自立の方に向けた施設の場合ですと、社交ダンスやコーラス、ダーツやビリヤードなどのサークル活動や、レクリエーションに力を入れているところもあります。

Oさん:ただ、「うちでは芸人さんが毎日来ます!」とか「歌手の方が毎日コンサートします」とか、エンタメを全面に出した施設という話は、あまり聞いたことがありませんね。

藤谷:どうしてなんですかね?

小菅:歌手やタレントの出演料は、すべての施設の利用料に転嫁されます。利用料が高額だと入居者が限定されてしまいますよね。現状では、娯楽よりも、医療やリハビリに特化した介護施設であれば多少高額でも人気がある……という感じですね。

:そう言われると、現状だと難しいかもしれませんね。今後増える可能性はあるのでしょうか? 実は私、介護資格(介護職員初任者研修)を取るために学校に通っていたことがあって、そこの先生が、「身の回りの介助はもちろん大切だけれど、趣味を充実させると幸福感はぐっと高まる。だから濃い趣味を持っている介護士と利用者さんは意気投合しやすく信頼関係も生まれやすい」という話をされていたのが印象に残っているんです。介護のテクニックとは別に、共通の趣味で盛り上がれる施設や、介護士の需要も増えそうだな……って。

藤谷:例えばですが、「婚活」も流行り始めた頃と違って、最近は差別化をはかるためなのか、「ロック婚活」とか「オタク婚活」とか、趣味を押し出しているものも増えました。そのうち老人ホームも、漫画がたくさん読める「漫画オタク老人ホーム」、充実したシアタールームのある「映画好き老人ホーム」みたいな施設が出てくる可能性もあるのでは。

小菅:映画好き老人ホームなら、僕も入りたいですね(笑)。そういった施設が出てくる可能性も、ゼロではないと思います。趣味を続けている人は、肉体的にも精神的にも「元気で若い」人が多いと言われていますし。

90代でも「推しの力」で楽しく過ごせる

  • 画:蟹めんま

:これも学校で聞いた話になってしまうんですけれど、施設に入っているおばあちゃんが、演歌歌手の氷川きよしさんのファンになったことがきっかけで、どんどん前向きになっていったという例が何件もあるんだそうです。「氷川くんのコンサートに行きたいから、この日までに手術を終わらせてリハビリもしなきゃ」とか、「氷川くんのコンサートに行くなら綺麗にお化粧しないと」とか、「氷川くんの最新情報が知りたいから、インターネットを勉強しなきゃ」とか……。

藤谷:新しいことにチャレンジしている……! 氷川くん(つい「くん」付けに)、完全に人生の救世主(メシア)じゃないですか!

:そうなんです、救いまくってますよ。介護士さんたちもあまりの回復力に「これがときめきの力か……!」と驚いていたそうです。趣味って金食い虫かもしれないけど、生きる力を与えてくれるんですよね。

藤谷:私の遠い親戚に94歳の女性がいるんですけど、彼女も80代の男性唱歌グループのイベントにおしゃれして足を運んでいます。「推しの力」で楽しく過ごせる老後、憧れますね。

小菅:今、施設にいる方々でも、単なる「リハビリ」では積極的にやってくれない人も多いんです。リハビリ計画を立てる時に「これだけ足を動かせるようになりましょう」ではなく、登山が好きだった方に「またあの山に登れるようになりましょう」だとか、「あなたの夢を叶えましょう」など、具体的な目標があったほうが、モチベーションにつながるようです。

藤谷:お話しを聞いていると、趣味推し施設の存在も、将来的な需要はありそうな……?

知らなかった! 「老人ホーム」の定義

小菅:そうそう、お伝えしていませんでしたが、そもそも「老人福祉法」ではな、身体介助や生活支援、食事の提供などをしている場合は、定義としては「有料老人ホーム」なんです。

:えっ!? じゃあ高齢者のシェアハウスに、ヘルパーさん的な人がいれば「老人ホーム」と呼んでいいってことですか?

小菅:定義としてはそうなります。だから、たとえ少人数の施設でも行政に届け出は必要ですが……。

藤谷:開設のハードルがぐっと下がった……!

小菅:それに、老人ホームを作るのに、わざわざ大きな建物を用意しなければならないというわけでもありません。空き家を改築して、小規模な老人ホームにするケースは結構あるんですよ。住宅街を歩いていても「ここ老人ホームなんだ」ってところ、ありませんか?

:たしかに、マンションみたいな施設を想像しがちですけど、一軒家みたいな家に看板が出ていたりしますね。

藤谷:仮に、相続した実家をバリアフリーに改築して、そこを老人ホームにするなんてことも、法律上はできちゃうんですか?

小菅:できますよ! 既存の施設はさまざまなニーズを満たせていないと考え、自分の理想とする小規模な施設を作りたいと独立される方も少なくありません。

藤谷:じゃあ、「バンギャル老人ホーム」も作ろうと思えばできるんですね(ガッツポーズ)。とはいえ、恥ずかしながら本当に知識がないので、そもそも「老人ホーム」にも漠然としたイメージしかないし、具体的にどういう場所なのかあまりわかっていないんです。なので、今回は、そういった知識も教えていただけると嬉しいです。


進む超高齢化社会、老後資金に2千万円と言われ、キラキラ元気な老人がもてはやされる一方で、高齢者を狙う詐欺やカルトにハマる事例も……次回「ルームシェアから考える」に続きます。

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『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)
著者:藤谷千明・蟹めんま 監修:LIFULL 介護

「老後はオタク仲間で一緒に住もうぜ!」から楽しく始まった企画のさなか、当事者として直面することになった身内の介護・看取り・老後問題。漠然とした不安だらけの世の中で、オタク女子に“明るい老後”はやってくるのか。オタク・ネットワークとユーモア、そして「趣味から得た養分」を手に、戦略を考えてみた! 老人ホーム・介護施設検索サービス大手の「LIFULL 介護」が監修し、解説も充実。Amazonで好評発売中です。