自分の死後、苦労して残した財産がどのように分けられるのかは、誰しも気になるところです。特に代々引き継がれ守ってきた先代からの財産であれば、その行く末を案じるのはなおのことでしょう。

今回ご紹介するのは、借金を繰り返し、散々困らせられた息子を勘当した場合の相続についてです。まず初めに、相続の基礎知識や「勘当」の法的効果について触れ、勘当した息子にも同じく遺産が分けられるのかという部分を説明します。その後、さらに一歩進めて、勘当した息子に遺産を渡さないようにするにはどうすればいいかなど、さまざまなケースをまとめて解説していきます。

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「勘当」の法的効果は?

「勘当」という言葉は、親が子どもを家から追放し、縁を切るという意味合いで使われます。では、勘当に法的な効果はあるのでしょうか。

そもそも、親子の縁は法的には切れません。例えば、子どもが結婚して他の戸籍に入ったとしても、親と同じ戸籍上にないからと親子関係が否定されるわけではないのです。つまり裏を返せば、勘当しても法的に親子関係への影響はないため、子どもは何ら変わらずに相続の権利を持つことになります。

■相続の順位と割合
それでは、具体的にどのような遺産の配分となるのかを見ていきましょう。

民法では、実質的な公平の見地から、具体的に遺産を相続する人の優先順位と割合が以下のように定められています。

●第1順位:直系卑属(子) 1/2の割合・配偶者 1/2の割合
※子がすでに死亡していれば、子の直系卑属である孫などが代わりに相続します。
●第2順位:直系尊属(父母や祖父母など) 1/3の割合・配偶者 2/3の割合
●第3順位:傍系の血族(兄弟姉妹や甥・姪など) 1/4の割合・配偶者3/4の割合
なお、第1順位の相続が行われれば、第2順位以下の相続はありません。

■具体的な遺産分割の金額
次に、具体的なケースに当てはめて、実際の相続する金額を計算してみましょう。

例) 被相続人(遺産4,000万円)に妻と2人の子ども(A、勘当されたB)がいる場合

相続財産は「4,000万円」です。
勘当しても子供は依然相続人であり、先に述べた法定相続の第1順位に該当します。

●妻:1/2であるため「4,000万円×1/2=2,000万円」
●子ども(AとBの2人分):1/2であるため「4,000万円×1/2=2,000万円」
●A・B:2,000万円を2人で分けるため「2,000万円×1/2=1,000万円」

よって、妻は2,000万円、子どもAは1,000万円、勘当された子どもBも1,000万円の金額を相続します。このように、勘当された場合も等しく遺産が渡されます。
※被相続人が、勘当した子どもBの借金の肩代わりをしたなどの事情がある場合は、特別受益(民法903条)の主張をすることも検討できます。

遺言で財産の処分方法を残す

親が子どもを勘当したにもかかわらず、遺産の配分に親の意思は一切反映できないのでしょうか。

そこで、考えられる方法のひとつが「遺言」(民法960条)です。

遺言は、民法で定まっている遺産の配分方法(法定相続)とは異なる分け方をしたいという場合に有効です。基本的には、遺言の指示通りに遺産を分けることができます。

ただし、遺言には2つの注意事項があります。

1. 形式に則る必要がある
遺言の方式はいろいろありますが、誰でもすぐに作成できるのが「自筆証書遺言」です。

ただ、遺言者本人が自筆する必要があり、形式に不備があれば遺言自体が無効になります。遺言書の紛失などの恐れもあるため、確実に遺言を残したいのであれば、時間と手間がかかっても「公正証書遺言」がおすすめです。

2. 遺留分は侵害できない
「遺留分」とは、一定の相続人に対して財産の取得が保障されている割合のことを言います(民法1028条)。つまり、「財産全てを〇〇に寄付する」と遺言を残し、相続人に遺産が配分されないようにしても無効にはなりませんが、あとで相続人が「遺留分」を主張すれば、認められた一定の割合分だけ遺言の記載に関わらず当該相続人に財産が配分されることになります。

「遺留分」は、残された相続人の生活を保障するための制度ですので、遺言の記載よりも優先されるのです。

「遺留分」の対処方法

■「遺留分」の割合
それでは、実際の「遺留分」の割合はどれくらいなのでしょうか。民法では、以下のように定められています。

●直系尊属(父母や祖父母など)のみが相続人である場合:遺産の1/3はこの直系尊属に残す
●その他の場合(配偶者や子が含まれている場合):遺産の1/2を相続人全体に残す
●兄弟姉妹には遺留分はない

■「遺留分」の具体的な遺産分割の金額
先ほどの例において、「全財産を寄付する」という遺言が残されたケースを想定します。

例) 被相続人(遺産4,000万円)に妻と2人の子ども(A、勘当されたB)がいる場合

相続財産は「4,000万円」ですが、「全額寄付する」との遺言があります。このケースですと、相続人全体としての「遺留分」は遺産の1/2となるので2,000万円です。この2,000万円を法定相続の第1順位で配分します。

●妻:1/2であるため「2,000万円×1/2=1,000万円」
●子ども(AとBの2人分):1/2であるため「2,000万円×1/2=1,000万円」
●A・B:1,000万円を2人で分けるため「1,000万円×1/2=500万円」

よって、妻は1,000万円、子どもAは500万円、勘当された子どもBも500万円の金額を相続します。残り2,000万円は寄付されることになります。

■「遺留分」の放棄
「遺留分」の特徴として、生前に放棄が認められているということが挙げられます。具体的には、相続の開始前(生前)に遺留分の放棄をすれば、効力が認められるということです(民法1043条)。なお、放棄を強要することがないよう、家庭裁判所の許可が必要になります。

今回のケースであれば、勘当した息子に「遺留分」を放棄するように頼み、息子もそれを受け入れて手続きをすれば、遺産が配分されないことになります。ただ、借金を繰り返していることなどを考慮すれば、「遺留分の放棄」を受け入れることは現実的に難しいかもしれません。

「推定相続人の廃除」で遺産を渡さない

続いて、勘当した息子に遺産を渡さないための方法として、「推定相続人の廃除」(民法892条)を紹介します。

■「推定相続人の廃除」とは?
「推定相続人の廃除」とは、下記のような事情があれば、相続人から除外するという制度です。

・「遺留分」を認められている相続人であること
・以下の廃除の原因があること(1・2のどちらか)
1. 被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたとき
2. 推定相続人にその他著しい非行があったとき

これが認められれば、勘当した息子は相続人の地位を失います。よって、「遺留分」も含めた遺産が配分されないことになります。

■「推定相続人の廃除」までの流れ
まずは家庭裁判所に申し立てをし、審判の手続きにて「廃除」を認められる必要があります。具体的には、申立人の言い分のみではなく、相手方の言い分も聞いて、公平な判断を行うことになります。

今回のケースでは、親が申し立てをし、これまでの経緯を説明します。その後、勘当された息子の言い分も聞いて「廃除」の可否が決せられるわけです。

生きているうちに申し立てがしづらいようであれば、「推定相続人の廃除」は遺言でも可能です。また、逆に勘当した息子が更生すれば、再度「廃除」を取り消すこともできます。

なお、この「推定相続人の廃除」の手続きは、相続人から除外するという大きな効力を生じさせるので、裁判所も慎重な判断を行います。そのため、実務で利用される数は少なく、通常は遺言などで対応することが多いのが現状です。


執筆者プロフィール : 弁護士 松村 茉里(まつむら まり)

第二東京弁護士会所属。京都大学法学部卒業。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に相続分野を取り扱う。交渉・調停・遺言作成等幅広い相続案件に従事しており、セミナー活動・執筆活動も行っている。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員、「家族で話すHAPPY相続」を執筆。事業承継スペシャリストの資格も有する。