今年、創立100周年を迎えたスズキ。2019年度を最終年度とする5カ年計画は、新型コロナウイルス感染拡大の影響に加え、主力としているインド市場の低迷、国内工場における完成検査不正対策などが重なり、未達に終わった。アフターコロナに向けたスズキの方策は。

  • スズキ「ハスラー」

    主力市場の低迷やコロナ禍などで業績に影響を受けたスズキ(画像は新型「ハスラー」)

インド偏重からバランス経営へ

スズキが5月26日に発表した2020年3月期(2019年度)連結決算は売上高3兆4,884億円(前期比9.9%減)、営業利益2,454億円(同33.7%減)、当期純利益1,342億円(同24.9%減)となった。減収は3期ぶり、減益は2期連続だ。

決算発表の電話会見には鈴木俊宏社長とともに、自動車業界最長老で90歳の鈴木修会長が登場。鈴木俊宏社長は「インド経済の停滞でインド市場全体の回復が遅れ、コロナの影響が期末に追い打ちをかけた。日本国内では完成車検査不正問題への対策があり、国内とインドの双方で問題を抱える中、減収減益にとどまった。今期の見通しについては、コロナの影響が工場の稼働や世界販売に影響を及ぼしており、未確定要素が多く現状で見極めきれない。連結業績予想および新中期経営計画の公表は延期する」と総括した。

また、90歳を迎えたものの影響力のある会長としてその発言が注目される鈴木修氏は、「主力のインドの危機は本物で、コロナ危機は大変なものと受けとめている。幾多のピンチを経験してきたが、スズキは今やインド一本足打法だから、今後はバランスの取れた経営に切り替えていく。ピンチはチャンスに変えられるから、自信と行動力を持って『チームスズキ』で当たっていきたい」とし、ポスト100周年、アフターコロナのスズキの方向性を示唆した。

鈴木修会長が言うように、スズキはインドにおける売上・収益が連結業績に大きく影響する状況となっている。インドにいち早く着目し、同国での事業展開で先行したスズキは、今やインド市場で50%の販売シェアを確保し、現地の生産拠点も拡大している。だが、これまで順調に成長してきたインド経済は昨年から停滞しており、スズキのインド子会社であるマルチ・スズキも、2019年度の業績は売上高1兆1,114億円(前期比16.3%の減収)、営業利益587億円(同54.1%の減益)と停滞。インド事業の不調がスズキ本体の業績に響いている。

  • スズキの鈴木修会長
  • スズキの鈴木俊宏社長
  • スズキの鈴木修会長(左、2016年度決算発表会見で撮影)と鈴木俊宏社長(2017年12月のスペーシア発表会で撮影)

アフターコロナは新発想、工場・本社を見直し

静岡県浜松市を本拠とするスズキは「小さなクルマづくり」を特色とし、国内では軽自動車プラスA・Bセグメントで特異な存在であり、海外ではインドやハンガリーなどに乗り込む独自の戦略を進め、3兆円超の企業にのし上がった。その推進者である鈴木修会長は、1978年に社長に就任して以来、40年以上にわたりスズキを引っ張ってきたカリスマ経営者である。

国内では日本独自規格の軽自動車を支え、ここまで根強い軽自動車市場を形成したのは鈴木修会長の執念でもあり、インドで圧倒的な販売シェアを築き上げたのも、「どこかで一番になる」という経営勘が原動力だった。

スズキは1981年に米GMと資本提携し、それから長らく提携関係にあったが、リーマンショックによるGMの経営破綻で提携を解消。その後は2009年に独フォルクスワーゲン(VW)と資本提携したものの、関係がこじれて2015年にはこれを解消した。VWとの提携解消直後、鈴木修氏に代わって社長に就任したのが長男の鈴木俊宏氏だった。

鈴木俊宏体制となり策定された中期5カ年経営計画は、連結売上高3兆7,000億円、ROE(自己資本利益率)10%、営業利益率7%、四輪販売340万台、二輪販売200万台の数値目標を掲げた。この計画の達成に向け、2018年度までは業績が順調に推移していたスズキだったが、最終年度の2019年度には国内工場の完成検査不正対策で生産が遅れ、インド市場は停滞し、そこにコロナ危機が重なったため、結局のところ計画は未達に終わった。2017年度にはROE17.9%、営業利益率10%を達成していただけに、残念なところだ。

鈴木俊宏社長は今期からの新中期経営計画について、「数字を明示するよりも、コロナの影響が見えない中で、財務体質を是正することが先決となる。コロナ後の世界もなかなか難しいが、従来の発想では受け入れられない。新しい発想で考え直す。工場や本社の在り方も、全て見直していく必要がある」とし、ウィズコロナ、アフターコロナの体制づくりに取り組むことを強調した。

スズキの主要生産拠点は、5月下旬に操業を再開したインドも含めほぼ稼働しているが、パキスタンは停止状態であるとのこと。「国内もバックオーダーを抱えているが、部品調達が一部滞っている」(鈴木俊宏社長)状況にある。コロナの影響と見通しについて鈴木修会長は、「4~5月は全滅、6月は3分の1程度。7月以降は分からないが、コロナショックは続くだろうと見ている。7月、8月から挽回したい」と微妙な言い回しだった。

四輪、二輪のほかにマリン事業も展開しているスズキは、浜松にティア2、ティア3の部品取り引き先を抱える。「サプライチェーンについては、浜松周辺の部品企業に資金援助も含めて手を差し述べていくとともに、リスクはあるが部品工場の分散、さらには2社発注も進めていく」(鈴木俊宏社長)との考えも示した。

スズキはこれまで、インドでの大増産を主体に事業拡大を進め、2030年に世界700万台という壮大な構想も打ち出していたが、この方向性はコロナの影響で見直さざるを得ない。2019年に資本を持ち合い、提携関係に入ったトヨタ(スズキが0.2%、トヨタが4.9%を出資)との関係を今後、どういかしていくかも経営課題となるだろう。