いきなりですが、そもそもストレスは「悪いもの」という認識でいる方が多いのですが、本当にそうなのでしょうか?

これは半分正しくて、半分間違えています。

例えば「上司との関係が悪くてメンタル不調になってしまった」「相当難易度の高いコンペを皆で協力して勝ち抜き、大きく自分たちは成長できたと思う……」。

  • 様々な場面でストレスは発生します

どちらも「ストレス」がかかった状態であることは同じですね。

ただ、両者は「質」が違います。

悪性ストレスと良性ストレスとは?

仕事におけるストレスには、メンタル不調を引き起こしてしまう「悪性」のものと、その人を成長させる「良性」のものの2種類があるのです。

ストレスが「良性」か「悪性」かは、自分が、その事柄を自分がどう認識するかで決まります。

宗像恒次筑波大学名誉教授の開発された「ストレス関数モデル」という方程式をベースに考えると、

適切なレベルの要求×見通しがついている状態×支援がある状態

人間の脳は、その出来事に対し、この認識をもてるときに「良性」と解釈し、学びに変えていきます。

良性ストレスの場合

例えば異動があり、Aという未経験の業務をすることになったとしましょう。

新しいことをするわけですから負荷(=ストレス)は当然かかります。しかし、自分がこれまで経験してきたことから考えると

1:求められているレベルはやれそう
2:どうすればよいかというやり方もイメージできる
3:他のメンバーからの支援が得られそう

上記のように自分が認識している状態であれば、良性ストレスとして機能し、「成長ドライバー」になるのです。

悪性ストレスの場合

しかし、以下のように反転すると「悪性ストレス」を生じることになります。

難易度が高すぎるレベルの要求×見通しがつかない状態×誰も頼れない状態

同じ状況のAという業務でも

1:求められているレベルは難易度が高すぎる
2:どうすればよいかというやり方が全くイメージできない
3:他のメンバーの支援が得られそうにない

上記のように自分が認識している状態になると、悪性ストレスが溜まっていくわけですね。

この状況下では「気のもちよう」だとか「ポジティブ思考だ!」といった捉え方だけで全てを解決しようとするのは、あまりに無理があります。(もちろん最初にこの視座も大切ですが……)

こういった場合の効果的・効率的な打ち手は、

(1)適切なレベルの要求になっていない
(2)見通しがついていない
(3)支援がない

のどこに課題があるのかを分析し、解決策を考え、実践していくことです。

悪性ストレスの解決策

例えば

●適切なレベルの要求でなければ、その旨を伝えて、難易度を下げたものに変えてもらう
●見通しがついていないのであれば、最初の1時間で、マニュアルを読み込む
●誰が詳しいのかを調査し、支援を仰ぐ

こういった具体的な解決行動に落とし込んでいくのです。

ストレスコントロールの注意点

ただし、ストレス源となっている出来事(上記でいえばAという業務)の状況は「自分でコントロールして変えられるものか・否か」という点に注意を払う必要があります。

例えば、その異動先が

●難易度を下げたものに変えてもらおうと上司に相談したら、聞く耳をもってもらえず、一方的に「新人なのだから、四の五のいわず言われたことをやれ」と凄まれた
●あまりに短すぎる納期を設定され、やり方を学ぶ時間すらも与えてもらえなかった
●質問をしても、露骨にイヤな顔をして責任をおしつけてくるメンバーしかいない

という風土だったとしましょう。この環境では、何も変えることはできませんね。ただただ悪性ストレスが溜まっていくばかりです。

こういった、状況を変えようがない環境にいる場合は「そこから離れ、どう別のところで自分自身を活かすかを考える」ことも建設的なストレスマネジネントの手法です。

「いやいや甘い! 自分から働きかけてその環境を変えていく成長の機会と捉えるのだ!」といった考え方を持つ方もおられるでしょう。

それもごもっともで、もっと自分自身が信頼されるような主体的な働きかけが必要な場合もあると思います。

しかし、下の立場にいる人間のいうことになど、耳を全く傾ける気がない組織やチームがたくさんあることも現実です。

負荷のかかる環境は、人を成長させくれるのも事実ですが、その負荷が要因で心身に不調をきたすことがあるのも、また事実。

最優先順位に置くべきものは、心身の健康です

だから、「もう、これは無理」という場合は、「その環境から離れる」という選択肢をとることも考えてみましょう。

テクニックやスキルは万能ではありません。自分自身の範疇で「対処できること」と「対処できないこと」があるのですから。

執筆者プロフィール : 阿部淳一郎氏

株式会社ラーニングエンタテイメント 
代表取締役

若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(ストレスマネジメント領域)修了。保健学修士。社会人教育を行う東証一部上場企業等を経て2004年に起業。「メンタル不調者を減らし、若者の能力を引き出す」をコンセプトに人材開発業務に従事。大企業から中小・ベンチャー企業、学校、行政まで研修登壇実績は約1500本、コンサルティング実績30社。サンフランシスコ・シリコンバレーへも事業展開中。大学での就職活動領域における講師歴も長い。『これからの教え方の教科書(明日香出版社)』など著書3冊。『NHK』『日経新聞』『読売新聞』『日経アソシエ』『週刊SPA!』など取材実績も多数。
◆株式会社ラーニングエンタテイメント