7回目となる今回は、DAY2より鬼頭明里、鈴木愛奈、halca(五十音順・敬称略)を紹介。いずれもソロでのアニサマメインステージ出場は初。そのうち鬼頭・鈴木はソロデビューから1年足らずでの出場でありhalcaも昨年のけやきひろばの”STORYステージ”出演からステップアップしての、”勢い”をもっての出場となるはずだった。

この3人がアニサマのステージに立つ姿を想像しながら、今回も”予習”におつきあいいただければ幸いだ。

【鬼頭明里】徹底的に作品に寄り添った、清らかにまっすぐに歌った曲

近年多数の作品でメインキャストも務め、昨今では『鬼滅の刃』竈門禰豆子役としても大注目を浴びている彼女は、昨年10月にソロデビュー。今年6月には1stアルバム『STYLE』をリリースし、秋には初のライブツアーも予定している。

シングル表題曲やアルバムリード曲にはロックナンバーが中心となっているが、その他にも声での表現力を十二分に活かし、多彩な楽曲を歌唱。声優アーティストとしても、ぜひ目を離さずにいてほしい存在だ。

☆この曲を聴け!……「Tiny Light」(TVアニメ『地縛少年花子くん』EDテーマ)

原作ファンでもある鬼頭自身の要望を受けて、とにかく”『地縛少年花子くん』の世界観とのリンク”を大事に生み出された、2ndシングル収録曲。実際本編の終盤では、毎回イントロがインサートしてEDへと流れるようにつながっていっていた。

そのイントロは、静かにピアノの音色が響き、そこにストリングスやグロッケンが徐々に重なっていくというもの。特にピアノのみからなる冒頭4小節は旋律以外に打鍵の衝撃音までも聴き取ることができ、暗闇の中で反響する音のようにも感じられ、その空間の中で感じる孤独さが伝わってくるよう。さらに、その旋律自体も切なく、胸にぐっとくる。

そんな空気感にいざなわれるかのように、鬼頭の歌い出しもスーッと清らかなものに。その後も歌声は終始まっすぐで、主体の心の内を素直に描き出すかのようなこの曲の魅力を最大限に増幅させるベストアプローチ。

サビに向かって徐々に力強さを増してはいくものの、サビを経てもサウンドが激しくなったままの2-A・Bメロでは、その勢いからは浮かずに言葉に込められたメッセージに寄り添って、1番に近い力加減で大事に歌っていった点も印象深い。

この点からも、曲作りの出発点だけでなく歌唱においてもブレずに作品を第一に生み出された”アニソン”であると十二分に言えるし、その発信源である鬼頭の歌声に再注目してほしいと強く思う。

ちなみに鬼頭の楽曲は、前述の通りその他の楽曲も非常にバリエーション豊か。この曲も収録された2ndシングルのカップリング「Closer」のようにちょっと小悪魔にオーディエンスをノセる曲や、ファルセットも交えて清らかに歌われたアルバム新曲「君の花を祈ろう」などなど様々なので、ぜひアルバムもチェックして彼女の音楽に浸ってみてほしい。

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【鈴木愛奈】門出を祝うプレゼントは、絶えずそばにい続ける最強の武器に

『ラブライブ!サンシャイン!!』Aqoursのメンバーとして大きな注目を集めた一方、それのみにとどまらずド真ん中なヒロインからアホの子、クズな悪魔まで幅広いキャラクターを担当。

その芝居の力と、高校時代にアニソングランプリの決勝大会に残ったほどの歌唱力を組み合わせることで、歌という側面からも様々なキャラクターを表現。そして今年1月、待望のソロデビューを果たした。

☆この曲を聴け!……「ヒカリイロの歌」(TVアニメ『はてな☆イリュージョン』EDテーマ)

鈴木のデビューアルバムのリード曲でもあるこの曲。もちろん、鈴木自身がヒロイン・星里果菜を務める『はてな☆イリュージョン』や果菜を連想させるフレーズも織り込んではいるが、やはりこの曲のメイン要素は新たな一歩を踏み出す鈴木にあてられたはじまりと未来への胸の高鳴り。この曲は、手掛けたZAQからの贈り物と言ってもいいかもしれない。

同時に、この曲は試練でもある。あふれんばかりの疾走感と壮大さを兼ね備えたサウンドに負けない力強さをもたせつつ、広い音域の中において自分しか乗せられない感情を込めた”鈴木愛奈の歌”にしなければいけないからだ。

しかし鈴木はその試練を見事乗り越え、この曲を自分のものにした。降り注ぐ流星のようなスピード感と輝きを有するサビでは、メロディを軽々と、それでいて生き生きと乗りこなしていくし、1・2番ともにとりわけ自身の内面に結びつくであろうBメロは、楽曲のスピード感は殺さずに言葉の一つひとつを優しく抱きしめるかのように大事に歌っていく。

Dメロ後のブレイクでの「ふうっ」という息遣いもいい。大きな期待とちょっぴりの不安と緊張がないまぜになった、何よりも伝わる”生の声”であり、それを踏まえての直後の落ちサビでは新世界への扉を開けて飛び立っていく姿が目に浮かぶ。半音キーの上がる大サビも神々しささえ感じさせるほどに高らかに歌い上げて締めくくり、”歌うこと”を切望していた者のデビューを飾るにはパーフェクトな1曲を誕生させた。

こうして最高輝度の”ヒカリイロ”を放つまで高められたこの曲は、鈴木専用の”勇者の剣”なのかもしれない。この先どんな困難が待ち受けていても、その闇を切り裂いていける――彼女にとってこの曲は、そんな存在であり続けることだろう。

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【halca】アニメに寄り添いつつも”halcaらしさ”も兼ね備えた、今年生まれた新たな代表曲

2018年、TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』EDテーマ「キミの隣」でメジャーデビューを果たし、以降数々のTVアニメの主題歌を担当し続けているアニソンシンガー。

とろけてしまいそうな甘さと透明感を併せ持つ歌声で、アニメ作品にマッチした主題歌を生み出し続けている。また、ラブコメ作品の主題歌を担当することが多く、ラブソングを志向する自身のアーティスト性ともリンクした楽曲も多い。

☆この曲を聴け!……「時としてバイオレンス」 (TVアニメ『邪神ちゃんドロップキック’』OPテーマ)

前述したようなhalcaらしさと『邪神ちゃん』らしさを兼ね備えた、今年生まれた彼女の新たな代表作。

この曲は、halcaがこれまで主題歌を担当する際に発揮することの多かった、甘めの歌声を活かせるアッパーチューン。メロディラインも非常に耳馴染みのよいもので、頭サビの数秒から聴覚的な部分での掴みはまずバッチリである。そんな主題歌としての面で言えば、語らないわけにはいかないのが歌詞。

メインキャラ・邪神ちゃんと花園ゆりねの関係性を描いたかのようであり、タイトルから引用した「ドロップキック」という言葉も登場する、いわば”王道アニソン”の流れをも汲んでいる。突然魔界から呼び出された邪神ちゃんや、彼女とゆりねが繰り広げるドタバタでバイオレンスで、でもちょっぴり愛おしい日々が自然と脳裏に浮かぶ。

その一方でこの曲は、独立したひとつのラブソングとしても成立しているもの。追いかけても追いかけてもひらりとかわしてしまう好きな人への想い描いたようにも解釈でき、halca自身のアーティスト性も尊重。こうしたダブルミーニング性によって、恋愛の絡まないアニメ本編にも彼女自身にもマッチした楽曲を生み出すことに成功したのだ。

もちろんhalcaの歌声の甘さやサビの開放感は、ラブソングとしても楽曲にマッチ。加えて、エッジの立った子音の発音も、振り回されている側のちょっとした苛立ちを反映したかのようで要注目なポイントだ。

また、halcaはこういったストレートなアッパーチューンだけでなく、このシングルのカップリング曲「キュンとさせてあげるよ」などのようなスピード感ある楽曲ではかわいげを保ちつつさらに歌声のトゲや刃を上乗せしたりと、曲に応じた様々な表情をみせるボーカリストでもある。ぜひサブスク配信や公式YouTubeチャンネルなどを通して、多彩な歌声を味わってほしい。

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それぞれの”勢い”をもってアニサマ出場を決めていた3人。だが3人とも一過性のものに終わらない確かな魅力を持ち、さらなる成長への期待が膨らんでやまないアーティストである。それぞれの活動を経てその魅力に磨きをかけ、さらに”勢い”を増した状態で、来年のさいたまスーパーアリーナで伸び伸びと歌唱する姿を観たいものだ。

さて、次回は藍井エイル、OLDCODEX (五十音順・敬称略)をピックアップ。DAY1に出場するトリ経験者2組のご紹介を、7月の本企画のトリを飾る回としたい。どうぞ、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
まいにち勉強中。イラストのお仕事随時募集しております。Twitter→@jimaojisan12