●2020年のアニサマ、できなかった”予習”をみんなでしよう!

先日、2021年への開催延期が発表された「Animelo Summer Live 2020 -COLORS-」。毎年恒例となっていた世界最大級のアニソンフェスは、数多くのアニソンアーティスト・声優アーティストにとっての目標でもあり、同時に多くのアニソンファンが心待ちにする夏の祭典でもある。

近年アニソンや関連コンテンツの多様化、それに伴うアーティスト数の増加もあって、アニサマを機会に曲を聴いたり、初めて生のパフォーマンスを目にする人も少なくないはず。2020年はその機会が失われてしまったことにより、リスナーサイドとしては観覧に向けた"予習"も不要となってしまうこととなる。 そう、アニソンファンが1年間のアニソンシーンを総括し、振り返りの機会を失ってしまうのだ。それはファンにとっての機会損失なだけではなく、アーティストにとっても大きな"無形の損失"でもある。

そこで今回から短期集中企画として、「アニサマ2020」の出場が発表されていたアーティストを、今聴いてほしい楽曲のレビューとともにご紹介。本来開催されるはずだった「アニサマ2020」の初日に間に合うペースでの"予習"を通じて、一組でも多くのアーティストに興味を持ち、その楽曲に触れていただければ幸いだ。

さて、初回となる今回は、岡崎体育、岸田教団&THE明星ロケッツ、スピラ・スピカ(全組DAY1出場)をご紹介。この3組を貫くテーマは、"悲願"だ。

【岡崎体育】“タイアップ”ではない! 岡崎体育のアニソンとの相性の良さ

岡崎体育にとってさいたまスーパーアリーナは、かねてからワンマンライブを活動の目標として掲げていた”悲願”の地(※昨年6月に見事実現)。加えて、昨年急逝してしまったアニサマバンドにも参加していたドラマー・山内“masshoi”優は、岡崎の代表曲のひとつ「感情のピクセル」でもドラムを担当。ゆえに今年のアニサマ出場は、彼の弔いという意味も込められていた。

だが、そんなメタ的な部分を取り払っても、彼がアニサマのステージに立つ資格は十二分に存在する。 『ポケットモンスター』をはじめ、岡崎体育が手掛けてきたアニソンはどれも"タイアップ"ではなく作品の内容やファンに寄り添った"主題歌"である。これは最新作「二二二二二」(ドラマ『いいね!光源氏くん』主題歌)や、脚光を浴びるきっかけとなった「MUSIC VIDEO」のMVなどでも感じられる点なのだが、彼は物事のコンセプトをすくい取り具現化する能力にとてつもなく秀でているのだ。それは”90秒という制限の中で作品の顔となる”アニメ主題歌とも非常に相性の良いもので、実際に次々と良作を生み出してきた。だから彼もまた間違いなく、アニサマのステージに立つにふさわしいアーティストのひとりである、と断言できるのである。

☆この曲を聴け!……「潮風」(2016年 TVアニメ『舟を編む』OPテーマ)

約3年にわたって主題歌を担当し続けた『ポケモン』よりも先に、岡崎体育初のアニメ主題歌として世に放たれたのは実はこの曲。

明るくポップな"盆地テクノ"全開であるがゆえに、第一印象として本編の雰囲気との乖離を感じた人も少なくなかったかもしれない。だが、本編の主題となっている”言葉”も含めて評価すれば、その感覚はガラリと変わる。

実はこの曲、国語辞典の編纂が物語の軸となる『舟を編む』という作品に寄り添ってか歌詞にアルファベットが1文字も用いられておらず、カタカナの単語でさえも片手で数え切れる程度。そこからは、前述したサウンド感からは想像できない”重み”さえも感じられる。しかもそれをただ視覚的な効果のみに用いず、まるで文学作品のように美しく切り取った日常の景色を描いている。

それによくよく考えてみれば、"辞書"や"文字"が地味で落ち着いたイメージ……ということ自体も偏見の窮みではないだろうか。なぜなら、その裏にある面白さや輝きのようなものにとりつかれた者こそが本作の主人公・馬締なのだから。そして"盆地テクノ"のサウンド感は、そのきらめきと見事に結びつくものだ。 ……といったように、掘れば掘るほど『舟を編む』のための存在であることがわかるこの曲。ぜひ”言葉”を大事に、味わってみてほしい。

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●カラーの対称的な2バンド、それぞれの”悲願”とは?

【岸田教団&THE明星ロケッツ】岸田教団&THE明星ロケッツにとっての”悲願”は、10周年の年を飾る最高のギフト

記念すべきメジャーデビュー10周年を飾る今年、待望のアニサマ初出場を決めた岸田教団&THE明星ロケッツ。そんな節目に彼らに届いたひとつのギフトは、『とある科学の超電磁砲T』EDテーマの担当だった。

同シリーズも含め、かねてからライトノベルを愛し続けていた岸田(Ba.)や、白井黒子の決めゼリフにちなんで「JUDGEMENT」という名のバンドを組んでいたichigo(Vo.)にとっての"悲願"のひとつといっていい出来事であろう。

そして、作品や主題歌に真摯に向き合い生み出したその「nameless story」の好評が、もうひとつのさらなる"悲願"――アニサマ初出場への架け橋となった。

☆この曲を聴け!:「nameless story」(TVアニメ『とある科学の超電磁砲T』EDテーマ)

これまでの岸田教団&THE明星ロケッツの楽曲のようなスピード感は残しつつ、EDという位置においてズバリとハマる、爽やかさと切なさを感じられるサウンドに。シングル表題曲としては初めて作編曲において岸田が草野華余子とタッグを組み、最高の1曲を目指して互いに遠慮なく楽曲をブラッシュアップし続けたことで、"これまでの積み重ねの先"にいながらも"これまでにない"岸田教団&THE明星ロケッツをみせられる楽曲を生み出せたのだろう。

また、歌詞には今回のシリーズにおいてクローズアップされている食峰操折の視点が強く盛り込まれているが、同時に前述した彼らの"物語"にまつわる想いも投影されているように感じてしまうのは筆者だけだろうか。しかも、それが色濃くみえてくるのが2番以降という点も見逃せない。

つまり、TVサイズでは『超電磁砲T』のための楽曲であることに徹し、それ以降の部分で自分たちの想いも叩きつけたのだ。だからこそアニソンとしても決して独りよがりではなく、それでいて自らの万感の想いもしっかり詰め込まれた単一の楽曲としても成立する、絶妙なバランスを生んだのだ。

しかし、彼らが密かに紡いできていた名もなき物語が「nameless story」という名前を得て結実したとは――なんとエモーショナルなことだろうか。

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【スピラ・スピカ】ひとつまみの切なさがより前向きさを感じさせる、スピラ・スピカの必聴曲

スピラ・スピカといえばよく話題にあがるのが、マシンガンのような幹葉(Vo.)のMCだろう。昨年のアニサマを機により広くまで認知されたであろうそれがステージのなかで浮かないのは、バンド自体や楽曲のカラーがハッピーを広げていく震源地となっているから。

ポジティブな感情やパワーを受け取れるバンドだからこそ、エッセンスのひとつとして成立しているのであろう。

そんな3人は、昨年のアニサマでは客席近くの”スペシャルステージ”に初登場。さらに「イヤヨイヤヨモスキノウチ!」でトロッコに乗車……した結果、メインステージに自らの出番で立つことが叶わなかった。今年こそは"悲願"のメインステージでのパフォーマンスを果たすはずだった……はずだ。

☆この曲を聴け!……「リライズ」(アニメ『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』OPテーマ)

前述したようなスピスピのバンドカラーから、さらに一歩踏み出して新たな面をみせたのがこの曲。『ガンダムビルドダイバーズ』のEDテーマだった「スタートダッシュ」にも通ずる爽やかさのあるポップ・ロックではあるが、作品の主人公・ヒロトの過去にある陰の部分を反映した部分もあってか、サウンドの有する切なさ成分が既発の表題曲以上に色濃くなっている点が特徴。

だが、それでも前向きな感情を主として、ただ明るく引っ張るだけでなくリスナーの”共感”をより強く呼ぶ楽曲に仕上げている。

歌声としては爽やかさを前面に出しながらも込めるべきポイントでは力がぐっと込められており、想いが最も強く表出するDメロラストのロングトーンでは全開で歌い上げたりと、その起伏をあらわにしていく。幹葉が自ら紡いだ言葉の”伝わる”ボーカルワークにも、合わせて注目してほしい。

ちなみに、この曲も収録されているアルバム『ポップ・ステップ・ジャンプ!』も必聴作。同じく幹葉が作詞を行ない、メンバーの寺西裕二(Gt.)が作編曲を手掛けた楽曲もふんだんに収録されている。ポップ・ロックからバラードまで揃った"スピスピ入門盤"で、ぜひメジャーデビュー後のスピスピ自体も総ざらいしてみてほしい。

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三者三様の”悲願”を果たすために、今年の「アニサマ」に臨むはずだった三組。だがもちろん「アニサマ」は終わるわけではないし、音楽が消えるわけでもない。「2020年の夏、SSAに立てなかった」という新たな”悲願”も胸に抱いた3組が、”アニサマ2021”のステージで2年分の想いをぶちかます姿を、ぜひ目に焼き付けたいものだ。

さて、次回は” キャラクターコンテンツの新星”をテーマに、Peaky P-key from D4DJ・Photon Maiden from D4DJ・AiRBLUEの3ユニットをピックアップ。コンテンツ展開がいよいよ本格的に指導した彼女たちの楽曲の注目ポイントなどをご紹介していく予定なので、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
まいにち勉強中。イラストのお仕事随時募集しております。Twitter→@jimaojisan12