斬新で刺激的なことがスウェーデンで進行しています。食習慣の変化とともにこのスカンジナビア諸国でも静かな「食の革命」が起こりつつあるのです。

  • スウェーデンで起こる「食」の革命

野菜の地産地消が広がる

ストックホルム市内にある冷戦時代の防空壕は、今でも多くの人の緊急避難所として使われています。しかし核戦争の危機が薄れた今、この巨大な地下施設には新たな使い道が見つかりました。

ある防空壕はサラダに使う葉野菜でいっぱいです。これはスウェーデンの食品技術ベンチャー企業「アーバン・オアシス」の事業で、地産地消をめざし、二酸化炭素を排出しないで新鮮なケールや青梗菜その他の葉野菜を店やレストランに届けようというものです。

スウェーデンは年間30億米ドルにものぼるフルーツや野菜を輸入しているため、地産地消をすることで温室効果ガスの削減に大きく寄与する可能性があるのです。

壕の中では特殊な照明を使って植物を垂直仕立て栽培しており、水も通常の耕法と比べ少量で済みます。また、同社が新たに開発したAIソフトで野菜の成長を観察し、結果に基づいて与える栄養を調節します。

市内の活発な起業のおかげで、地元の住人は新鮮な野菜を年中食べることができます。特に暗くて寒い冬が到来する時にはありがたいですね。

  • 植物を垂直仕立て栽培する

美食の国として知られるスウェーデン

ほんの数十年前までスウェーデンの食文化は農業国から近代工業国へ移行した頃の伝統の名残がありました。典型的な食事はクリーミーなソースがかかった肉や、塩や酢漬けの魚、大量のジャガイモが中心でした。

しかし今日、スウェーデンは国際的にも知られる美食の国となりました。国際料理大会で活躍するナショナルチームはここ20年ほど世界トップクラスで、「料理ワールドカップ」では金メダル、「世界料理オリンピック」では銀メダルを獲得しています。

これらスウェーデンのシェフたちの国際的な活躍は、より広い一般のスウェーデン人の食習慣や人々と食べ物との関係の変化を反映しています。何十年も続いた国際化により旅行や移住が増えたため食文化も影響を受け、イマドキの子どもたちはさまざまな国の料理を食べて育っています。

どんな小さな町のスーパーでも和食やインド料理、中東や南米料理にヒントを得た食材が手に入ります。一世代前の人は聞いたことがないであろう、フムス、キプロスのハルミチーズ、豆腐、ベトナムの生春巻きなども、今では一般家庭のキッチンの常連です。

スウェーデンの食の革命はすべての家庭の冷蔵庫で今起こっているグローバリゼーションです。たいていの子どもたちが金曜の夕食にリクエストするのはメキシコ料理のタコスです。

お寿司も人気です。スウェーデンで20年ほど前に広まったお寿司ですが、今ではどこに行っても小さな寿司店があります。シーフードは人気が高く、平均で週2~3回は魚料理を食べることから、水産業の持続可能性に関する懸念が高まっているほどです。

あるスウェーデン企業はこのソリューションに取り組んでいます。スウェーデン北部の町へ―ネサンドにあるペッカス農場ではトマト栽培とサーモン養殖を組み合わせ、よりエネルギー効率がよくクリーンな養殖方法を発明しました。

養殖用水槽の水はトマト栽培の温室で浄化され、温室のトマトは魚の排出物から養分を吸収するのです。この水産養殖・水耕栽培を掛け合わせた循環型共生環境は「アクアポニクス」と呼ばれ、抗生物質や農薬は使いません。スウェーデン人が今後もお寿司を食べ続けるには、アクアポニクスが解決策の一旦を担うかもしれません。

スウェーデンで広がる「食の革命」

地球全体の食肉生産は温室効果ガスの排出量の14%を占めることに鑑み、多くのスウェーデン人が肉の消費削減に努めています。たんぱく源を肉以外に求め、スウェーデンの食品生産者は真菌の菌糸を使ったり、豆からタンパク質を取り出したりしているのです。

昔ながらの伝統に従って、木曜日には黄色いえんどう豆と玉ねぎの濃厚でクリーミーなスープが食されます。肉に代わり温暖化に影響を与えない食品を求める家庭が増えている今、この黄色いえんどう豆が金曜のスパイシーなタコスに使う牛ひき肉の代わりとして使われるようになりました。

以前からある食材も、スウェーデンのおいしくてサステナブルな「食の革命」で新たな使い道が見つかったのです。