暗くて寒い冬の先には美しい夏が待っていますが、夏至祭はスウェーデン人にとってとても大切な祝祭です。そして今年の今日6月26日は待ちに待った夏至祭。

歴史的に見て、夏至は北ヨーロッパの初夏の繁殖と成長を祝うことに由来しています。農村社会では一年間の仕事の転換期を意味する一方で、夏至には魔法のような力が働き、超自然的な創造物があふれると言われていました。それゆえに治癒的な植物を集めたり、未来を占ったりするのに適していました。

夏至の露に裸で寝転がると身体が強くなる、また夏至の夜に枕の下に7種か9種の花を置いて寝ると夢で将来の伴侶が現れるといった言い伝えもあります。

  • スウェーデンの夏至祭 提供:Vilhelm Stokstad/imagebank.sweden.se

夏至祭の歴史

キリスト教受容前のヨーロッパでは、夏至の頃に祝祭が行われていましたが、聖ヨハネの誕生日とされる6月24日とこのお祝い事が結びつきました。ヨーロッパでは、聖ヨハネの日に野外で大きな焚き火を焚いていましたがスウェーデンでも一時期、焚き火を焚く習慣がありました。

最も早い 記述の一つで、1555年に出版された『北方民族文化誌』の中で宗教家オラウス・マグヌスは、「聖ヨハネの前夜祭に……大勢の老若男女が町の広場や屋外で、至るところにつけられた焚き火の明かりの周りで楽しそうに踊っていた」と描写しています。

ちなみにそれよりも遥か以前の青銅器時代(紀元前約1700年から500年)にスウェーデンでは太陽崇拝が起こったと言われています。太陽を祝うために行われたと思われるダンスや儀式の一部が岩絵に刻まれています。

スウェーデンのお祝いにかかせない夏至柱(ミッドソンマルストング)、あるいはマイストングと呼ばれるものはドイツのマイバウムに由来すると言われています。ヨーロッパ大陸の国では5月1日に初夏を祝う習慣、夏の豊穣を予祝する祭りである五月祭がありドイツではマイバウムを飾ります。

おそらく中世にマイバウムがスウェーデンに入ってきたと思われますが、北国の寒い気候のため5月には葉も花も十分にはなかったので、もっと遅い時期に柱をたてる必要がありました。こうしてドイツのマイバウムはスウェーデンの夏至柱となったのです。マイストングのマイは5月ではなく、スウェーデン語の「葉で飾る」ことを意味する動詞マイヤ(maja)からきています。

夏至柱の形ですが、いろいろな形を経て1800年代に、現在一般的になっている十字架に二つの輪がぶら下がっているものになったと言われています。夏至祭では老若男女、しばしば子どもや女性は草花でつくった冠をかぶり、夏至柱の周りに輪を描きよく知られた歌や童謡を歌いながら踊ります。

夏至のテーブルには酢漬けのニシンやしばしばディルと一緒に茹でられた新ジャガが並び、デザートにイチゴを食べます。多くの人は食事に合わせてスナップスを飲むのです。

テラスや庭で食事をすることが多いのですが、夏至の日は突然の雨に襲われることが多く、食事をしていても突然の雨に襲われ家の中に入り、また日差しが戻り外に出る、というのを繰り返すこともよくあります。

スウェーデンではクリスマスに次ぐ「夏至祭」

夏至祭はスウェーデンではクリスマスに次ぐ祝祭です。1900年代の工業化社会において夏至が夏季休暇の始まりと重なったことも、この祝祭をさらに人気のあるものにしました。クリススマスが家族と過ごすのが一般的であるのに対して夏至はより広い交友関係にある人たちとお祝いします。

スウェーデンでは1952年までは6月23日が夏至前夜と固定していましたが、翌年から移動祝日となり、現在では6月20~26日の間のいずれかの日になります。夏至当日の教会の祝祭としての本来の機能は今ではほぼ存在していません。

聖ヨハネの誕生日、ヨーロッパ大陸の5月祭、マイバウム、小さなカエルの歌、イチゴ……といったさまざまな要素が入り現在のお祝いのスタイルに至ったようです。

毎年、ストックホルムにある野外博物館では来年盛大にお祝いされているのですが、今年はお祝いのスタイルが異なるようです。コロナ禍が収束しましたら、一番美しいスウェーデンを伝統音楽やダンスとともにお楽しみください。

なお昨年放送された、スウェーデンの夏至のお祝いを紹介する番組『グレーテルのかまど ~スウェーデン 短い夏のベリーケーキ~」(NHK)が今年再放送されます。スウェーデンの夏至祭をもっと知りたい方はいかがでしょう。