映画『アバター』の成功を皮切りに、映像業界は今や3-D時代に突入。『アリス・イン・ワンダーランド』や『ヒックとドラゴン』など続々と3-D映画が上映される中、多くのハリウッド映画プロデューサーも今後の3-D映画の制作に意欲を示すなどその勢いは驚くばかりです。

そしてこの3-D化は映画だけにとどまらず、テレビ業界にも波及。日本を始め世界の大手家電メーカーから続々と「3-Dテレビ」が発表発売されたり、アメリカでは"Comcast's 3D channel"という局が最近ゴルフトーナメントを3-D放映したり、"ESPN"という大手スポーツチャンネルが3-Dネットワークを今年中にスタートさせるという計画を発表したりと、2-Dは今や過去の産物とでも言わんばかりの勢いで3-D化は進んでいるようです。

3-D映像は確かに臨場感ありでエキサイティング。一度体験すると2-Dが物足りないと思われる方も少なくはないでしょう。しかし、医療関係者からは3-D映像は一部の人にとっては不快に感じたり、時には身体に何らかの支障をきたす恐れがあると警告する声が上がっているそうです。

起こりうる症状については未だ医師によってその見解は様々なようですが、注目すべきは、韓国の大手家電メーカー『サムスン』が発売している"3D LED TV"に記載されている注意書き。それによると(記事からの抜粋):「It cautions that certain flashing images or lights could induce epileptic seizure or stroke, and that "motion sickness, perceptual aftereffects, disorientation, eye strain and decreased postural stability" may result.」

つまり、この部分だけを訳してみると、3-Dテレビ上で写し出される激しく点滅する映像や光は:

・motion sickness(乗り物酔い)

・perceptual aftereffects(知覚的後遺症、知覚的余波)

・disorientation(見当識障害)

・eye strain(眼精疲労)

・decreased postural stability(姿勢の不安定感)

そして最悪の場合は、

・epileptic seizure or stroke(てんかん性発作)

などを起こす恐れがあるということになります。

どうしてこのようなことが起きうるかと言うと:

簡単に言ってしまえば私たちが実社会でものをとられるときは二つの目で、二つの異なる角度から距離と奥行きを判断し、たとえばものがこちらに向かって動いているとすると、その動きを目のレンズを調整することで追うという「accommodation(順応)」と呼ばれる作業をしているのだそうです。

そして実社会での「もの」には必ず「depth=奥行き」が存在するのですが、3-D映像は2つのdepthのないフラットな映像をずらすことであたかも奥行きがあるかのように人の脳に錯覚を起こさせるもの。つまり皆さんが3-D映像を楽しんでいるとき、皆さんの脳内では「これって一見奥行きがあり、こちらに向かっているようには見えるけど、これってやっぱり二つのフラットな映像。動き回ってはいるようだけどこっちに向かっては動いていないよね」といった葛藤が起きているんだそうです。そしてこの不自然な「not accommodate(順応しない)」という感覚が人間の脳に悪影響をもたらすんだとか……。

しかし案ずるなかれ!!、記事によるとこういった3-D映像は、我々の80%には何の支障ももたらさないとのこと。たとえ何かあったとしても、大抵の場合は軽いめまい程度ですむと記載しています。深刻な影響は身体に持病など何らかの問題を抱えている人、または、健康な人でも極度に疲れていたり、抵抗力が落ちている人などに限るんだそうです。

また同記事によると、「People whose eyes are not perfectly aligned, or who have a weak eye muscle, will not be able to see in 3-D. Some people with amblyopia, or lazy eye, may also miss out on the depth perception effect when wearing 3-D glasses.」のように、弱視や斜視な人、眼球の筋肉の弱い人はたとえ3-Dメガネをしても3-D映像自体見ることができないこともあるんだそうです。

毎日繰り返し見るテレビだけに関して言うと、それが3-Dになったとき、私たちの体にどのような影響を及ぼすかはまだよくわかっていないのが現状。映画に比べ見る頻度と鑑賞時間の長さからしても映画以上に身体に影響を及ぼしかねないかもしれないテレビですが、今この時点で私たちができることと言えば、テレビは2-Dであれ、3-Dであれ、度を超した視聴は避けること。それだけが現時点での唯一の防御策なんでしょうね。

今回のURLは、Can 3-D movies, television make you sick? - CNN.comです。興味がある方は是非チェックしてみてください。

英語ワンポイント:

3-Dは「three dimentional」の略で「三次元の、立体映像の」といったような意味

・斜視:医学用語は「strabismus」ですが、日常では「cross-eye」といった表現がよく使われます。

・弱視:医学用語は「amblyopia」ですが、日常では「lazy eye」と言うのがより一般的です。

・「seizure」は「発作」や「急病」のことですが、一般的には「stroke」とも言います。

ではまた次回。