人口減少と少子高齢化が進む中、地域の活力をいかに維持・向上させていくかは、どの地方も直面する喫緊の課題である。そこで注目されるのが、移住による定住(定住人口)や観光・ビジネス等での一時的来訪(交流人口)とは異なり、その地域と継続的に関わる「関係人口」だ。
2026年10月21日、福井県庁で「関係人口の拡大に係る相互協力協定」の締結式が行われた。総務省が推進し2026年度末の本格運用開始が予定される「ふるさと住民登録制度」の活用を見据えて、福井県、NTT東日本、インテージの3者が相互協力し、県内の関係人口の実態や潜在層を定量・定性の両面から調査しようという試みだ。
関係人口の実態と潜在層を調査、制度活用につなげる
福井県では2026年度に全国的にも珍しい「関係人口拡大ディレクター」というポストを新設し、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2022」を受賞した“名物公務員”の寺井優介氏をその職に起用して、ふるさと住民登録制度活用の準備を進めてきた。今回の連携協定は、ふるさと住民登録制度に向けて関係人口の認識や移動動向の現状を把握することと、関係人口の潜在層を探るとともに、同制度に対する期待を具体化し、制度の効果的な設計と円滑な運営に生かすことを目的としている。
共同研究では、関係人口に着目することから観光客やイベント参加者、ビジネス訪問客数といった一時的来訪者の量的な把握にとどまらず、人と人との関係性や、関係人口化につながるきっかけ・体験・関係づくりといったプロセスの質にまで踏み込むところが特徴的。福井県における関係人口の実態と潜在層の可視化、それを基にした地域にとって望ましい関係人口のあり方と制度活用の方向性、そして各種測定指標を検討することがテーマとなっている。
行政とNTT東日本、マーケティングリサーチ会社のインテージという民間企業が委託関係ではなく、対等な立場の共同研究として手を組むところも特徴で、同制度の開始前から関係人口を定量・定性の両面で把握し、政策設計に生かそうという共同研究事例は全国的にも珍しい取り組みだという。
共同研究はこの日の協定締結を皮切りに、県内先行事例のインタビュー、県民と県に縁のある県外在住者を対象としたWebアンケート、福井市・勝山市・あわら市・高浜町の4市町で実施する県庁主催モデル実証ツアーに同行してのモバイルエスノグラフィー調査などを順次実施していく。インタビュー・アンケート・モバイルエスノグラフィーを掛け合わせて関係人口が形作られるプロセスと測定指標を研究する点にも独自性がある。
「人と人との関係性」と「関係人口化のプロセス」に着目
協定締結式に先立ち、まずは福井県 未来創造部の田中秀和部長が挨拶を行った。
「地域外の方々と継続的なつながりを持ち、地域の担い手やファンになっていただくことを通じて、地域内のエネルギーも高める。この循環をつくっていくことがきわめて重要です。今回の協定で民間企業が持つ調査やマーケティングリサーチ、データ分析といった専門的な力を貸していただけることをとても心強く思っています。研究成果については県内17市町にも共有し、関係人口拡大推進に取り組んでいきます」(田中氏)
続いて、NTT東日本・地域循環型ミライ研究所の霜鳥正隆所長が次のように語った。
「NTTは通信を支えることで地域をつないできました。ただ、今後も地域をつないでいくには、通信がつなぐ地域の生活そのものが続いていかなければなりません。通信とともにある循環型の持続可能な社会とはどういうものか研究していくのが地域循環型ミライ研究所の使命であり、今回の取り組みにおいても、関係人口というものに対して何ができるのかを解き明かしていきます。最終的にはKPIの数字にとどまらず、その先の交流によって生まれる“人と人との関係性の質”を探求していきたいと考えています」(霜鳥氏)
さらに、インテージ取締役の松村洋平氏はこう話した。
「当社が長く培ったデータ収集・分析力を生かし、今回の研究に寄与していきます。関係人口に関する取り組みは当社にとっても初めてチャレンジする領域ですが、社会課題の解決に資するものですので、ワクワクする思いで参画しました。福井県にとって意義ある結果を出すことはもちろん、その先で日本全国にも展開できるモデルをつくりたいと思っています」(松村氏)
3氏の挨拶の後、関係人口拡大ディレクターの寺井氏と地域循環型ミライ研究所の北川真紀氏から連携協定の内容説明が行われた。寺井氏は「すでに北川氏とともに福井市や鯖江市、南越前町など先行事例のある地域に赴き、インタビューを始めています。11月からは4市町でのモデル実証ツアーに帯同し、調査を進めていきます」と現状を解説した。
北川氏は、地域循環型ミライ研究所が先行事例インタビューに加えて、4市町のツアー参加者の移動や行動、現地体験を観察する参与調査(モバイルエスノグラフィー)などミクロ視点での定性調査により、関係人口の地域との関わりやプロセス、望ましい関係人口像をあぶり出すと説明した。なおインテージは、マクロ視点の定量調査として大規模なWebアンケートを実施するほか、位置情報・行動データの分析や潜在層の捕捉・構造化を行っていくとのことだ。
定性・定量調査を組み合わせ、関係人口の実態を可視化
締結式後の質疑応答でNTT東日本×インテージ×自治体という枠組みは全国初と明かした霜鳥氏。移動や体験を観察するモバイルエスノグラフィー調査を含め、今回の調査と研究で着目する点についてはこう語った。
「“人”に着目します。人に関するインサイトは数字や論理では語り尽くせないところが多く、感情が変わる瞬間や揺れ動きを観察する必要がありますし、どのようなきっかけで福井県と関係を持とうと考えたのかを経験ベースで聞き取る必要もあります。そのミクロの観察と、インテージが行うマクロ目線の調査を掛け合わせ、実態のわからない関係人口の輪郭を明らかにしていきます」(霜鳥氏)
松村氏は、まだ定まっていない関係人口像を見出していくうえで現時点で設定している具体的な測定指標はなく、設計中だとしたうえで「例えば位置情報をキーに、県外から年に1回訪れる人と年2回訪れる人について、1回なら観光だとしても2回の場合は何か理由があると捉え、Webでヒアリングして、一例として何回来県すれば関係人口と見なせるか、といったことも検証していきたいと考えています」と話した。
ちなみに、4市町で実施する県主催モデルツアーで提供予定の体験について、寺井氏はこう語った。
「あわら市では牡蠣の収穫体験、勝山市は勝山左義長まつりの運営、高浜町ではレモン収穫などをいま調整しています。参加者は県外からだけでなく、県内の嶺北・嶺南という地域を超えた関係人口も考えられるので、異なる地域を訪れてその魅力を知っていただいたり、あるいは地域の方が自らの地域に誇りを取り戻す効果もあると期待しています」(寺井氏)
動き始めた福井県・NTT東日本・インテージの官民共創の画期的な取り組み。今後、共同研究の成果がどのように制度設計や地域づくりに生かされるかが注目される。






