2026年8月31日、佐賀市において、地域創生に向けた“佐賀発”の次世代イノベーター育成プログラム「SAGA IGNITE(サガ イグナイト)」始動に関する共同記者会見が開催された。同プログラムは地域の若手人材を発掘・育成して全国にイノベーションを広げる経済産業省「AKATSUKIプロジェクト」の採択事業。NTT西日本の100%子会社である地域創生Coデザイン研究所が運営事務局となり、プログラムの趣旨に賛同した佐賀大学、西九州大学、鳳雛塾、SDCソリューションズ、およびNTT西日本佐賀支店の6者連携による取り組みだ。
記者会見後は、SAGA IGNITEに選ばれた10プロジェクトの代表クリエータ及びプロジェクトを伴走支援するプロジェクトマネージャー(PM)らが参加するキックオフ合宿の見学も実施された。
アイデアコンテストに終わらせず社会実装の入り口までを目指す
冒頭、地域創生Coデザイン研究所の横井幸博所長が取り組みの詳細を説明した。横井所長はSAGA IGNITEについて「若手人材の挑戦と地域課題を結びつけ、佐賀から社会実装を生み出すことを目指すもので、優れたIT技術やアイデアを持つ若手人材を発掘し、第一線で活躍するPMが伴走しながら育成する事業です」とその概要を解説したうえで、佐賀でこの取り組みを行う背景として次のように語った。
横井所長によると、佐賀県では人口減少や若手の県外流出、一次産業や地域福祉の担い手不足、中小企業のDXなど、さまざまな地域課題を抱えている。一方、大学・研究機関の人材や研究シーズ、地域企業の技術・経験などが、地域課題の解決や新たな価値の創出に十分に結びついていないという。
「参加者は、まず佐賀の地域課題を自ら発見・設定し、解決策を検討して、ITを活用したプロトタイプ開発に取り組みます。さらに地域の現場で検証・実証を重ね、社会実装の入り口までを目指します」(横井氏)
この取り組みで大切にするのは、“単なるアイデアコンテスト”で終わらせないことだと横井所長は強調。「地域の現場と向き合いながら、実際に手を動かし、社会実装まで挑戦する。それがSAGA IGNITEの本質であり、佐賀発のイノベーション人材を育てる土台になると考えています」と話した。
SAGA IGNITEの大きな特徴は次の3点だ。まずは、公募・選考を経たプロジェクトに対する最大100万円のプロトタイプ開発費支援。2つ目は、専門性を持つPMが課題設定から企画開発、発表まで一人ひとりのクリエータに伴走し、挑戦をリードすること。そして3つ目は、地域との接続である。「産官学連携により実証や事業化、さらなる次の挑戦へとつながる関係を築き、佐賀の強いネットワークで若者の挑戦を確かな形にしていきます」と、横井所長は力強く宣言した。
6つの地域課題をテーマに、選ばれた10プロジェクトを伴走支援
SAGA IGNITEでは、佐賀が抱える課題に6つの切り口で臨むテーマが設定されている。人口・人材の流出・縮小に取り組み、次世代へ前向きに転換する「Next SAGA」、一次産業の技術・知識・暗黙知を継承する「Root SAGA」、中小企業のDXの入り口となる「Switch SAGA」、地域福祉の担い手不足を解消し新たなケアの形を描く「Care SAGA」、文化資産の発信・活用不足に対応する「Legacy SAGA」、そして挑戦課題を自由に設定する「Free」の6つだ。
15~39歳の学生・研究者など若手人材がこれらのテーマに即して応募し、選ばれた10プロジェクトについて数々のサポートが提供される仕組みとなっている。「重要なのはクリエータがテーマを選ぶだけで終わらず、自らが課題を探索・設定し、解決策を設計・実装すること。主役はあくまでも挑戦する若者自身です」と横井所長は語った。
伴走支援の体制では、佐賀大学と西九州大学が学術的知見とPM・メンターを担い、鳳雛塾が起業家育成と事業化支援を、SDCソリューションズがIT及び技術開発支援を担当。事業主体の地域創生Coデザイン研究所が運営事務局を務め、NTT西日本佐賀支店が地域連携を担う。
さらに佐賀県、佐賀市、さが産業ミライ創造ベース(RYO-FU BASE)の後援を受けて実施していく。タイムスケジュールは、8月30、31日両日のキックオフ合宿を皮切りに、PMの伴走支援を受けながら開発を進め、10月にプロトタイプ開発の中間発表、年が明けて2027年2月に最終発表となる「Demo Day」を予定。続いて同4月頃からの社会実装を目指す。
横井所長に続き、佐賀大学研究・社会連携担当理事・副学長の青木茂久氏、西九州大学学長の兒玉浩明氏、鳳雛塾理事の横尾敏史氏、SDCソリューションズ専務取締役の古賀正幸氏、NTT西日本佐賀支店長の柿井健一氏がそれぞれ挨拶を行った。
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左から、地域創生Coデザイン研究所所長の横井幸博氏、佐賀大学 研究・社会連携担当理事・副学長の青木茂久氏、西九州大学学長の兒玉浩明氏、鳳雛塾理事の横尾敏史氏、SDCソリューションズ専務取締役の古賀正幸氏、NTT西日本佐賀支店長の柿井健一氏
記者会見後の質疑応答でSAGA IGNITEに関して問われた横井所長は、次のように答えた。
「参加者が佐賀の地域課題に向き合い、自ら課題を設定して、周囲を巻き込みながらプロトタイプ開発を前に進めるプロセス自体が、人材育成という目的に照らしたポイントです。地域の産官学のつながりが強くなり、起業・事業化に向けた第一歩が生まれてくること、そして今回参加したクリエータが今後も佐賀で挑戦を続け、それに触れた次世代の人材が同じように挑戦を始めていくサイクルにつながっていけば、大きな成果になると捉えています」(横井氏)
ちなみに、今回選ばれた10プロジェクトのテーマ別内訳は「Root SAGA」が4件、「Switch SAGA」が2件、「Care SAGA」が1件、「Free」が3件となっているが、他のテーマについても応募はあり、結果として選ばれたのがこれらのテーマだったという。
地域課題をどう形にする? クリエータとPMが語る「社会実装」への挑戦
記者会見の後、キックオフ合宿の様子が公開され、クリエータとPMに話を聞くことができた。まず「Root SAGA」のテーマでクリエータとして参加した西九州大学講師の小形幸平氏は、もともと茶農家で働いていた中で農作業のタイミングの判断が難しく、その課題を解決するため西九州大学で研究を続けていたところ、SAGA IGNITEの情報を得て応募したという。
「お茶を収穫する前に布を被せるタイミングや剪定のタイミングは勘や経験でばらつきがあるのですが、その暗黙知を定量化していくことが今回の挑戦です。SAGA IGNITEを経て、最終的には農家がきちんと使えるものを開発していきたいと考えています」(小形氏)
続いて、5人のPMにも話を伺った。
「参加者は自らの原体験に基づきサービスを作ろうとしているわけですが、すでにあるサービスとの差別化を図るためにしっかりと市場調査を行い、課題の深掘りを繰り返したうえで、プロトタイプを開発できるような支援をPMとして心がけています」(西九州大学・植田友貴氏)
「実社会につなげるため、“みんなにいいものを提供しよう”というマインドは捨ててくださいと言っています。少数の人について“この人たちがほしいものは何か”を考え、深く刺さるものをまずは作ることが最初のステップとして重要です」(アンカーデザイン・木浦幹雄氏)
「なぜこれをやりたいのか、本人が気づいていないことが意外とあります 話をしていく中でその思いを言語化できるようサポートし、なぜやりたいかを深掘りしていく作業がPMの仕事だと考えています」(佐賀大学・中山功一氏)
「まずは、提案段階とこれまでのプロセスである程度形になっているものを作ってみる。そしてその中で、現地に行ってわかることや、さまざまな壁に当たることがあるでしょうから、アイデアをブラッシュアップし、佐賀中あるいは日本中に広げるチャレンジをしてほしいですね」(きゅうりトマトなすび・佐々木佑介氏)
「今回(AKATSUKIプロジェクトの採択事業が)初めて佐賀で行われるということで、身の回りの関係性だけでなく、同世代の人たち、あるいは支えるPMたちとつながりをつくることが、まずは最も大切です。それを財産として有効活用し、自らの人間形成につなげることを期待しています」(佐賀大学・中村隆敏氏)
始動したSAGA IGNITE、このあとの歩みに注視したい。


