
BIGBANGに憧れた少年は、なぜ正体を隠してバラードを発表したのか。タイのボーイグループでキャリアを重ね、ソロアーティストとして歩み始めたSVRN(ソブリン)。映画やアニメから着想を得る音作り、BLACKPINKのLISAとの友情、そして今、心の平穏を求める理由。「自分らしさ」を探し続ける表現者の素顔に迫る。
BIGBANGへの憧れから、自分だけの表現へ
―日本では、今回初めてあなたを知る読者も多いと思います。まず、SVRNというアーティスト名に込めた思いを教えてください。
SVRN:まず、ローリングストーンのような大きなメディアに取り上げてもらえて、とても光栄です。SVRNは、僕自身を表しているんだ。アーティストとして、自分にどんな面があるのかをもっと探っていきたい。一人の人間としても、アーティストとしても成長していく、そんな自分を表している。自分の心の健康をもっと大切にしたいし、自分自身や自分の行動、自分がすることすべてを、自分の意思で決められるようになりたい。音楽をはじめとするアートを通して、自分自身や自分の感情を表現していきたいんだ。だからSVRNであるというのは、日々成長しながら、もっと自分らしくなっていくことなんだと思う。
―子どもの頃は、どんな音楽を聴いて育ちましたか? 自分も歌ったり踊ったりしたいと思うきっかけになったアーティストを教えてください。
SVRN:覚えている限りでは、最初はカバーダンスから入った。僕が小さい頃、タイではカバーダンスがすごく盛んだったんだ。最初に影響を受けたのはBIGBANG。子どもの頃から、そして今も、僕にとって最も大きなインスピレーションを与えてくれる存在の一つだね。欧米の音楽やラップでいえば、エミネムやケンドリック・ラマー。既存の枠を超えたものを作って、ほかのアーティストにも刺激を与え続けている。そういう人たちに影響を受けた。
―当時から、タイでもK-POPの影響は大きかったのでしょうか。
SVRN:あったよ。ただ、当時はカバーダンスという形での影響が大きかったと思う。ダンスクルーを組んで、K-POPグループの振付を踊るんだ。振付師が作った動きを覚えて、みんなで踊っていた。今は音楽がもっと世界中で共有されるようになったし、インターネットも速く、使いやすくなった。だから、K-POPだけでなく、世界中のいろいろなところから刺激を受けるようになっていると思う。
―ご自身もカバーダンスをしていたんですね。
SVRN:そう。カバーダンスや、ダンスの大会に出るところから始めたんだ。
―子どもの頃、特に好きだった振付や動きはありますか。
SVRN:いい振付はたくさんあるね。その一つが、s**t kingzというグループが手がけた振付。EXOの「History」だったと思う。
―先ほどエミネムやケンドリック・ラマーからの影響を挙げていましたが、ラップだけに活動を絞らなかったのはなぜでしょうか?
SVRN:僕はラッパーだけど、一つのスタイルに縛られたくはないんだ。「自分はラッパーだから歌わない」という考え方ではないんだよ。ラップは、自分の思いを伝えるために、僕が特に好んで使う表現方法なんだ。長い歌詞を書くのが好きだし、ケンドリックやエミネムは、歌詞に隠された意味や二重の意味を込めたり、言葉や声の使い方で遊んだりしているよね。それがかっこいいと思う。僕自身、ラップから始めたので、ラッパーと呼んでもらっていいと思っている。ただ、それだけに限定したくないということだね。
―ソロになる前には、いくつかのグループで活動されてきました。その経験が今の活動に生きていると感じることはありますか。また、グループとソロでは、どんな違いを感じていますか?
SVRN:一番の違いは、曲の中で自分をどう表現するか、その決め方だと思う。グループでは、メンバーのアイデアをすり合わせて、一つにまとめていく。ソロでは、まず自分で考えてから、どんな曲やビートで何を伝え、どう届けるかをチームと相談するんだ。そのぶん細部まで考える必要があるし、より個人的な表現になる。そこが難しいところだね。でも、細部への気配りや、チームやプロデューサーとの意思疎通には、グループでの経験が生きているよ。
―ソロで活動すると決めたとき、最初はどんな音楽を作りたいと思っていましたか?
SVRN:最初はラップやヒップホップを中心にやりたかった。でも、僕は飽きっぽいんだ。だから、子どもの頃から親しんできたゲームや映画、アニメの要素も取り入れて、もっとダイナミックな音楽に挑戦したくなった。以前の自分のままでは成長できないし、新しいものや人にも出会えない。自分らしさを大切にしながら、可能性を探り続けたい。そう考えて、ポップやヒップホップに映画のように情景が浮かぶ表現を取り入れたり、いろいろなスタイルを組み合わせたりするようになったんだ。

Photo by Takuya Maeda
孤独や痛みを描く、映画のような音作り
―もともとラップやダンスのイメージを持っていたファンも多いと思います。SVRNとしての最初のシングルに、バラードの「WHY」を選んだのはなぜですか。
SVRN:歌っているのが僕だと明かさずに、バラードを出してみたかったんだ。先入観なく聴いてもらったら、どんな反応があるのか。僕もチームも、それを確かめたかった。まだまだ学びたいし、自分の可能性を閉ざしたくないから、成長するための挑戦でもあったんだ。正体を明かしたあとは、曲やメッセージに加えて、それまでの僕のイメージとは違う作品だったことも褒めてもらえた。アーティストとしても、一人の人間としても、新たな一面を見てもらえたんじゃないかな。
―「WHY」では、壁やベッド、床を叩く音をリズムに取り入れたそうですね。そうした身近な音を使うアイデアは、どこから生まれたのでしょうか。
SVRN:壁を叩く音をビートに使うなど、フォーリーのアイデアは、プロデューサーのマックス(The Darkest Romance)によるものなんだ。僕が考えたのは、「人はどうして、一人きりの夜に考えたくないことを考えてしまうのか」というコンセプト。それをチームと話し合い、彼に伝えた。すると、孤独や心のもろさ、気持ちのやり場がなくて壁を叩いてしまうような状態を、音で表現してくれたんだ。この曲を聴く人にも、部屋やベッドで一人きりになっている自分を思い浮かべてほしい。泣いていたり、考えたくないことが頭から離れず、自分に腹を立ててドアや壁を叩いてしまったり。そういう姿をね。
―身近な音を使って感情を表す、意味の込められたアプローチなんですね。
SVRN:うん、そうだね。
―「OVERHOPED」では、希望や期待を抱きすぎることで、かえって苦しくなってしまう気持ちが描かれています。このテーマを曲にしようと思ったきっかけを教えてください。
SVRN:僕自身が期待しすぎて傷ついた経験から生まれたんだ。曲には自分の経験を書くことが多いけど、そのまま語らず、比喩を使ってすぐには意味がわからないようにしている。サウンドは、一本の映画のように展開し、クライマックスを迎える構成を目指した。オーケストラの要素を取り入れたり、シンセと生楽器の音を組み合わせたりしてね。歌詞を意識せずに聴けば楽しく踊れるけれど、よく読むと、その楽しさとは対照的な思いが見えてくる。そんな曲にしたかったんだ。自分の経験を語る難しさはあったけど、いい形になったと思うし、制作は本当に楽しかったよ。
―暗い内容の歌詞を、あえてディスコのような踊れる曲にしたのは、意図的だったんですね。
SVRN:うん。自分でそうしたいと思って作ったんだ。
―オーケストラのパートやストリングスのアレンジにも、こだわりを感じました。TikTokではベースを弾く姿も拝見しましたが、楽器はどのように学んだのでしょうか?
SVRN:最初はピアノだった。クラシックのピアノから始めて、アニメの曲も弾いていたんだ。ベースを始めたのは、ずっとあとになってから。ジャズのベースを弾くようになって、ウォーキング・ベースなどを練習していた。そういう経験もあって、楽器を演奏することが好きなんだ。最初に始めた楽器は、その二つだね。
―曲を作るときも、ピアノやキーボードなど、ご自身が演奏できる楽器から始めることが多いですか。
SVRN:電子ピアノから始めるね。「OVERHOPED」は、フォー(Four)というプロデューサーと一緒に作った。まずドラムとベース、それからイントロを作ったと思う。バイオリンのサンプルも使った。ベースは、最初はMIDIで打ち込んだものを仮のガイドとして使っていて、生演奏にしたのはずっとあとの段階だったんだ。
―先ほどアニメの話もありましたが、「ONE PIECE」はアニメ作品から影響を受けた曲ですよね。どんな作品や場面が、曲を作るヒントになったのでしょうか?
SVRN:曲名はアニメの『ONE PIECE』から取った。「この世界で一緒にいられないなら、別の宇宙で自分の”ONE PIECE”を探したい」という思いを込めている。海賊たちが探し求める、ゴール・D・ロジャーの残した宝に、自分が求めるものを重ねたんだ。ほかにも、『リーグ・オブ・レジェンド』をもとにした『アーケイン』や、『スパイダーマン:スパイダーバース』、『サイバーパンク エッジランナーズ』から影響を受けている。『チェンソーマン』のデンジとレゼ、『鬼滅の刃』の猗窩座と恋雪の場面もそう。ネタバレになるから詳しくは話せないけど、登場人物たちが恋人や妻と離ればなれになってしまう。そうした場面が、この曲の着想になっているんだ。
―「ONE PIECE」では、ギターを含め、サウンドの面ではどんなところにこだわりましたか?
SVRN:僕がとても気に入っているのは、シンセの音。 音程を少しずつずらして重ねたユニゾンの音で、この曲の中心となる音の一つになっている。その音によって、夢の中にいるような、宇宙を漂っているような感じが生まれるんだ。曲のテーマにも合っているよね。自分だけの”ONE PIECE”を探して、宇宙を旅しているように感じてもらいたい。でも同時に、寂しさや悲しさも感じられる音にしたかった。
―メロディを歌う部分と、ラップする部分は、制作の中でどう決めていくのでしょうか?
SVRN:曲を書いたD Gerrardとは、どこに歌とラップを入れるか、イメージが一致していたんだ。浮遊感のある美しい歌が続くところに、短く歯切れのいいラップを入れて、流れを切り替える。その意外性で、聴く人をもう一度引き込みたかった。飽きずに聴いてもらうための工夫だね。
―曲を作る段階で、ステージでどう踊るかまで考えていますか? ダンスやパフォーマンスを想定して、リズムや曲の構成を考えることもありますか。
SVRN:うん。ビートを作る段階から、自分のパフォーマンスや、曲に合う景色や映像を思い描いている。聴いて情景が浮かぶ曲なら、チームもMVやビジュアルのイメージを膨らませやすいからね。音楽には、想像力をかき立てて、目の前に景色を見せてくれるような力がある。僕はその力が好きだから、聴く人にも曲の世界を感じてもらえるように作っているんだ。

Photo by Takuya Maeda
将来の自分が、今の僕を誇りに思えるように
―音楽を映画のように捉えて、情景を思い描きながら作っているのですね。俳優として役を演じてきた経験が、その作業に役立つこともありますか。
SVRN:いや、まったくないよ。僕にとっては、本当に別のことなんだ。個人的には、俳優としての経験を、そのままアーティストとしての表現に持ち込むことはできない。音楽のパフォーマンスをしているときは、100パーセント自分自身でいる。でも、演技をするときは、自分とは別の誰かにならなければいけない。その人物の振る舞いや表現の仕方は、僕自身のものではないんだ。ただ、物語のあるMVで演技をする場合には、俳優としての経験を少し使うこともある。でも、パフォーマンスとなると、やはり別だね。
―では、俳優の仕事では、どんなところに一番楽しさを感じますか?
SVRN:自分とは別の人物を作り上げることだね。『愛しのアサシン』で演じたMも、生い立ちや家族、子どもの頃の表情から、好きな食べ物、話し方、体つきまで考えた。監督の「アクション」を合図に、その人物を自分の中に迎え入れる。彼が僕の体で動き、僕自身はそれを見守っているような感覚なんだ。想像上の人物なのに、どこかに実在するように感じられる。そんな別の人間を知っていくのが楽しいんだよ。

Photo by Takuya Maeda
―「WHY」「OVERHOPED」「ONE PIECE」に続いて、現在はアルバムも制作されていると伺いました。そのアルバムを通して、リスナーにどんなことを知ってもらいたいですか?
SVRN:僕の曲を通して、聴く人が自分をもっと理解し、愛せるようになってほしい。このアルバムでは、幸せや悲しみ、ストレスなど、僕自身のさまざまな感情を描いている。「自分にもこんな気持ちがある」と気づくきっかけになればうれしいね。作品を好きになるかどうかは、僕にはコントロールできない。でも、気に入ってもらえたかどうかにかかわらず、僕とチームが心を込めて作ったものに触れてくれたことに感謝しているよ。
―「ONE PIECE」では、欧米のサウンドとタイらしいメロディを組み合わせたと読みました。ご自身が「タイらしい」と感じるのは、どんな部分なのでしょうか?
SVRN:メロディだと思う。タイのメロディには、独特の音の流れやキャッチーさがある。タイ語には、発音のうえで崩せない決まりがあるんだ。だから、聴く人が自然に聴けるように、言葉の使い方を工夫しなければいけない。そうしたメロディにあるタイらしさと、欧米のプロデューサーであるジョシュ・カンビー(Josh Cumbee)が作ったトラックが、うまく混ざり合ったと思っている。タイの音と欧米の音が、いい形で一緒になったね。
―今後、海外であなたの音楽を聴く人も、さらに増えていくと思います。そうなっても、曲作りで変えたくないことや、譲れないことはありますか。
SVRN:ありがとう。変えたくないのは、自分らしくあることだね。自分を探し続けてきたからこそ、心の健康や目標、幸せ、平穏が創作に欠かせないと感じている。世界に活動が広がっても、そこは変わらないと思う。もちろん世界で聴かれたいけれど、将来どうなるかはわからない。でも、今やっていることには満足しているよ。ローリングストーンに取材してもらえること自体、予想していなかったからね。これからも自分らしく、努力を続けたい。
―長年の友人であるBLACKPINKのLISAについて、彼女の努力する姿に刺激を受けてきたと話されていました。どんなところに影響を受けていますか?
SVRN:僕たちは長い付き合いだし、お互い、アーティストとしての道に真剣に取り組んできた。自分が好きなことのために、努力を続けているんだ。彼女から受ける刺激は、「目指すものをつかむまで努力し続ける」ということだと思う。そういう姿勢だね。
―ご自身も、とてもストイックで、努力家なんですね。
SVRN:ありがとう。でも、まだまだだよ。まだ十分じゃない。
―心の健康についてもお話しされていましたが、音楽や俳優の活動など、さまざまな仕事をしている今、ご自身をどんな人間だと捉えていますか。
SVRN:自分の心の平穏を探している、一人の人間だと思っている。どうすれば、もっと自分自身を表現できるアートを作れるのか。それを探し続けている人間だね。結局は、穏やかな気持ちでいたいと願っている、ただ一人の人間なんだと思う。
―最後に、SVRNとして、これから音楽やライブで挑戦してみたいことや、アーティストとしての目標を教えてください。
SVRN:アーティストとしての目標は、将来の自分が、今の僕を誇りに思えるようにすること。
―まだまだ、ということでしょうか。
SVRN:将来、後悔しないように、毎日ベストを尽くし続けているということだね。

最新デジタルシングル「ONE THING I CAN'T LIVE WITHOUT」
SVRN
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