
いま私はこの文章を、海釣りから帰ってきたタイミングで書いている。何度も石鹸で手を洗ったはずなのに、まだ生臭い。別にこれを書くために海へ行ったわけではない。たまたまだ。鳥取の海でもない。
でも、なんとなくだけれど、jo0jiという人間は、未知なる自然が広がる海のもとで育った心を持っているからこそ、情報で頭がギチギチになることから解放されて、自分の頭の中で想像を広げる瞬間を作る大切さを知っているのだと感じ取った。
jo0jiが11月2日にリリースした新曲は、「飽々」。様々な人や出来事からもらったインスピレーションを詰め込んだ一曲であるが、名作『あしながおじさん』の一行「わたしは月の光りが大嫌いです。だってそれはこんなに美しいのに、それを一緒に眺めたいあの方が、ここにいないからです」も大事な創作源になった。頭の中で想像力を働かせることで疲れた脳を切り替えたいという欲求から、最近はスマホで映像を見るよりも紙で本を読む時間を増やしているのだという。そうして、jo0jiなりの秋ソングが誕生した。
jo0jiにとって2026年は、『呪術廻戦』エンディングテーマを手がけることから始まり、初の海外ライブを経験、夏には幼少の頃から愛読していた『BLEACH 千年血戦篇』最終クールのオープニングという大役を務めるなど、ビッグトピック続きの1年だった。そんな1年を締め括るのは、jo0jiの原点を自ら振り返るような曲。でも決して振り返るだけでなく、自らが進化していることに確信を持ち、そのまま前へと歩み続ける意思を固める曲。この先のjo0jiは、海に出た船が錨を下ろし、行き先も速度も船長の手でコントロールするように、彼自身が船長を務める船で、音楽シーンという海を自分のペースで自由自在に進んでいくのだろう。
Photo by Ayumu Kosugi
ー今日は「飽々」についてたっぷり聞かせてください。これはどんなきっかけから作り始めた曲ですか?
これは「秋の曲を作ろう」ということをもとに作り始めました。俺の曲に夏や冬っぽいものとか、「なんとなく春かな」みたいなものはあっても、秋はないよなと思って。いままでは曲を書いた季節がそのまんま曲に出ちゃって、冬に書いたら冬っぽい曲ができるという感じだったんですけど。秋といえば何だろうなと思って、自分的には「中秋の名月」があるからお月見かなと思って、「月」をテーマに書いてみようというところから始まりました。それで月にまつわる言葉を探していたら、たまたま読んでいた『あしながおじさん』に「わたしは月の光りが大嫌いです。だってそれはこんなに美しいのに、それを一緒に眺めたいあの方が、ここにいないからです」(『あしながおじさん』望林堂完訳文庫/ジーン・ウェブスター 作、毛利孝夫 訳)という文章が出てきて、すごく素敵だなと思って。そこから「一緒に見てくれるあなたがいなかったら虚しいだけだな」みたいなふうに書き始めていきましたね。しかも秋って、気づいたら終わっているじゃないですか?
ー近年、特にそうですよね。
始まったことにも気づけないし、終わったことにも気づけない。でも逆にそれが救いというか。気づいたら終わっているというのは、救いがあるよなと思って。俺、秋が一番好きで、もしかしたらそういう儚いけど、思い切りがよかったり潔いところが好きなのかもしれないなと思ったんです。いままでは、すごく落ちたり、紆余曲折があった上で奮起したり、というストーリーで曲を作っていたんですけど、今回は「気づいたらそっちに流れがいっている」「気づいたらもう気持ちが前へ向かっている」みたいに作れたらいいなと思って。同じサビが3回繰り返されるんですけど、その中で「気づいたら前向きに聴こえるな」みたいなふうになったらいいなと思いながら作りました。だからいままでよりあっさりしているというか、淡々としているとは思います。
ーアルバム『あえか』も「人は変わっていく」ということをテーマにしていたと思うんですけど、心の在り方や視点はまた違っているなと感じました。〈誰かを傷つけた事実を抱えながら歩いてゆく〉とかは、「よあけのうた」から続く描写でもあるなと思ったりして。
そうですね。ふとした拍子に思い返すことってあるじゃないですか。フラッシュバックというか。そういうものに「飽々だ」と思いながら歩いていくというか、「またこれか」って、そこまでカロリーを取られないくらいには乗り越えられている。少し大人になった感じ、「それでもいいんだぜ」って思えるようになった感じを、曲にしました。そうは言っても、昔の思い出を適当に扱ったところで、それがダメになっちゃうわけではない。それはそれで、いまのあなたの何かにはなっているから。ただ、大事に大事に隠そうとする必要もないだろう、という意味もあるかもしれないです。あと、「再出発」というのもこの曲のテーマのひとつではあって。imaseが復活したじゃないですか?
ー去年8月からの活動休止期間を経て、9月に帰ってきてくれましたね。
あいつの出したEP(『はてな』)をリリース前に聴かせてくれて、「めっちゃいい曲だな」と思ったんですけど、「再出発」みたいなテーマはあいつから引っ張られた可能性がすごくあります。でも今回は誰かひとりを浮かべながらというよりかは、いろんな人がちらつきながら書いた感じがあるので、そういう意味でもいつもと違う感じになった気がしますね。
ー『はてな』からのインスピレーションがあったということは、リリース前に聴いていたといえど、最近作った曲なんですね。
そうですね。フル尺を書き終えたのは、それこそimaseがEPから1曲目を出したタイミング(9月4日)くらいで、アレンジとかの作業が終わったのはつい最近です。
ー『はてな』は私もリリース前に聴かせてもらっていて、imaseさんに感想を送ったら「周りのアーティストたちにも、これを聴いて少しでも前向きな気持ちになってもらえたら嬉しい」ということをおっしゃっていて。こうして音楽を通して刺激や感情の循環が生まれているというのは、すごく素敵なことですね。
(再出発することに)imaseもワクワクしていたし、俺も横目で見ていてワクワクしたから、このテーマをより後腐れない感じで書けたのかもしれないです。全体的に恋愛の曲として聴こえるようには書いたんですけど、恋愛だけじゃないようにということを意識していて。歌詞の中に「光」と「ひかり」を入れてみたんですけどーー〈夜空に浮かぶ月の光〉の「光」は、物理的に月の光に照らされている状態。〈貴方がいないのなら影を落とすだけのひかり〉の「ひかり」は、もし自分が脚光や視線を浴びたりしても、隣にライバルや友達がいなかったら虚しくて影を落としてしまう、という意味でも通るようにしました。道を違いてしまった仲間がいて、「あいつと一緒に行きたかったんだけど、いまお前がいねえな」みたいな。そういったことを考えていると、いろんな人がよぎり始めたっていう感じでしたね。
ーそういう意味でも、やっぱりこの曲は『あえか』や「よあけのうた」と繋がっているし、それらで書いた感情の先を書いているとも言えそうですね。
同じ人間が曲を書いているので、どうしても繋がっていっちゃうんだとは思いますね。
歌の深化の要因、アレンジのこだわり
ー『あしながおじさん』からインスピレーションがあったとのことですが、本はけっこう読むタイプですか?
いろんな人に「本読んでそうだよね」って言われるんですけど、いままであまり読んでこなかったんですよ。たまに読むくらい。言葉は、映画の字幕で覚えたんだと思うんですよね。だけど意識的に本を読むようにしようかなと思って、『あしながおじさん』『星の王子さま』『車輪の下』『大人は泣かないと思っていた』『52ヘルツのクジラたち』『ことり』とか、とりあえず名作と言われているものを読み始めました。
ーそれは、作詞に活かすため?
それも少しはあるんですけど……携帯を見ていると、ストレートネックになるじゃないですか。目も疲れるし。しかも携帯でいろんな映像をバーっと見ちゃうせいで、自分で映像を思い浮かべる作業が減った気がしていて。情報がない状態で自分で考える作業をしたほうが、頭がすっきりするというか。俺のキャパが狭いのもあって、携帯を見ちゃうとずっと頭の中がぐるぐるしちゃっていっぱいいっぱいになるから、最近は頭の切り替え的な感じで本を読んでいます。
ーたしかに、本や音楽という頭の中に映像が浮かぶものに触れることで、頭や心が休まることってありますよね。
想像力を働かせる瞬間がどんどんなくなってきている感じがして、でもそういうところからアイデアが生まれる気がするから、そういう状況を作るべきかなと思って。最近は意識的にやっていますね。
ーアレンジ面に関しては、どんなことを考えていましたか? 部屋で独りで弾いているようなピアノの音で始まる感じからも、jo0jiさんの初期っぽさを感じました。
そうですね。「進化系」みたいな感じで原点回帰をしようとは思っていました。しばらくタイアップとかいろんなものをやる期間が続いたので、一旦ここで原点回帰系のものを置くべきだなと思って。アレンジはバンドメンバーの(Reo)Anzai、(Koki)Furukawa、KNOBと一緒に作っていったんですけど、今回は「淡々とする」「カロリー高くなく、何回も繰り返し聴けるもの」というのがテーマにあったので、なるべく音数を減らして、でも物足りなさがないように、ということを意識しました。全部の楽器で「もっと素朴でいこう」とか、でも素朴にしすぎて「パンチ足りんな」とか言って、1dB上げたり下げたりする微調整をずっとやっていましたね。最初のプリイントロが終わったあとからずっと同じシンセの音が鳴り続けているんですけど、変わり映えない日々を淡々と過ごしていく中にも起伏があって、でも終息していく、ということを音楽で表現できたらいいなと思っていました。鳴っているものは同じなんだけど、最初のボボボボの音と、最後のボボボボの音だと、どこか違う感じがする。同じものが鳴り続けている上を、いろんなものが乗っかっていったり消えていったりする、ということをテーマに音作りをしました。
ー音数少なく、「カロリー高くなく、何回も繰り返し聴けるもの」というテーマを設けたのは、「よあけのうた」や「I-BULL」のあとだから、という考えもあってですか?
そうですね。あれだけミチミチに鳴らしているので、またここでヘヴィなものがくると聴く人も疲れるだろうし、季節的にも秋だしということで、そういうふうにしました。あと懐かしさみたいなのも出したいなと思って、〈二番線へと列車がやってくる〉のところとかは、我らの事務所の大先輩である奥田民生さんっぽさをちょっと意識してみました。
ー楽曲のクレジットに「Vocal Produce:Hideki Ninomiya」と書かれていますけど、これは初めてですよね。久保田利伸さん、Skoop On Somebody、Kさんなどの歌に関わられてこられた方で、音数少ないトラックの上で深みのある声で一文字ずつ丁寧に歌う今回のjo0jiさんの歌は、二宮さんから引き出されたものがあったのかなと思いました。
二宮さんは、柳ジョージさんともお仕事をされていたんですよね。二宮さんと仕事をしたことのあるスタッフから「ボーカルプロデュースがいいから、一回一緒にやってみたらどうかな?」ということで入っていただいたんですけど、本当にめっちゃよかったです。とりあえず自分の好きなように歌って、そこに対してプラスしていく形で「ここは、こういう気持ちなんだったらもっと激しくいってもいいんじゃないか」みたいにちゃんと言ってくれて。「ピッチを気にして歌え」とかそういう話ではなく、歌心が伝わるようにするにはどうしたらいいのかを一緒に考えてくれたので、心強かったです。迷いなく歌えた感じがありました。それによって曲自体がより聴きやすくなった気がします。そういえば二宮さんから、〈雁渡しの匂い〉という言葉を見て「古い言葉が好きなんだね」って言われたんですけど、これ、漁師が使う言葉なんですよ。
ーへえ!(歌詞には〈みんな忘れてしまったよ雁渡しの匂いを/途切れ途切れに鳴く百舌のような独り言〉とある)
「雁渡しが吹いたけ、もう秋だな」みたいな。これが吹いたら捕れる魚の種類が変わるらしくて、じいさんとかがよう言ってたなと思って。百舌も、ギーギー鳴くんです。「何かしらの工事の音なのかな」と思うような、鳥っぽい鳴き声じゃなくて、本当にギーギー鳴くんですよ。そうやって縄張りを主張しているらしくて、それで「途切れ途切れに言っても独り言になっちゃう」という意味で、あの歌詞を書きました。俺なりの「秋といえば」を詰め込んだんですけど、他の人からすると「そんなことあるんだ?」みたいなギャップが生まれて、それにはびっくりしつつも、自分らしく書けたんだなと思いました。

Photo by Ayumu Kosugi
人前に出ることが苦手だったjo0ji、来年の抱負
ー「飽々」がリリースされる前日から12月19日までは、全国ツアー『jo0ji one-man tour 2026 「いかり」』が開催されます。どんなツアーにしたいですか?
「いかり」という題名は「怒り」と「錨」をかけているんですけどーー「怒り」は、いままで自分の優しい部分や温かい部分を前面に出した上で、その奥に熱さや怒りがあるという感じでやっていたんですけど、『I-BULL』の3曲は熱さや怒りを前に出す形で作ったもので。前のインタビューでも言いましたけど、いままでは優しいところばかりを見せてきて、怒ったりしている部分をあまり出してこなかったから、なんとなくファンの人や聴いてくれている人に、嘘をついてるとまでは言わないけど本来の自分とは違う姿を見せている感覚があって。だから今回は見せてこなかった部分、怒りの部分を解放してやろうという意気込みです。「錨を下ろす」のほうは、バンドメンバーとも仲良くなって、一緒にアレンジも含めて曲を作ったりしていく中で、自分の音楽性みたいなものがちょっとずつ固まりつつあって、もう流されることはないだろうなという大らかさを手に入れた感じがあったので、ここで一旦「重心が低くなったぜ」ということを表明する場になったらいいなと思っています。このライブでは、jo0jiとしての思春期から大人に変わる段階を出せたらいいなと思いますね。この先で成人を迎えるのか、まだこじらせるか、それはわかんないですけど(笑)。だからライブアレンジもけっこう激しめになっていて、ライブハウスっぽいパワフルなライブになると思います。

『jo0ji one-man tour 2026 「いかり」』初日11月1日公演より(Photo by Ayumu Kosugi)
ー秋ということは、1年も終盤に入るということで。年2、3回のペースでインタビューさせてもらっている中で今年はこれが最後になりそうですが、改めて2026年は、jo0jiさんにとってどんな1年でしたか?
初めてのことがたくさんあった刺激的で新鮮な1年でしたね。初めて海外にも行ったし、海外でライブもできたし、大人気アニメのタイアップもオープニングとエンディングをやらせてもらったし。「こんなこと、人生であるんだな」ということを、今年はより強く思いました。
ロンドン公演の映像
ー来年はどんな年にしたいか、何かいま考えていることはありますか?
こうやって雑誌のインタビューでしゃべる分にはまだギリすんなりやれているけど、自分が外に出ていくことはあまり得意じゃなくて。ライブが苦手だった理由もそれだし。人前に出るのがすごく苦手で嫌だという気持ちがずっとあったんですけど、来年はそれをもうちょっと克服してみようかな。ちょっとずつやれそうなことはやってみようかなと思っていますね。また土壇場になったら嫌になるのかもしれないですけど(笑)。
ーそれは、テレビとかっていうことですか?
そうですね。やっぱり親とか地元のやつらからは「お前はいつテレビに出るんだ?」って、すごい言われるんですよ。「だってカメラ苦手だし」とか言っていたんですけど、いいタイミングがあったら……というか、テレビなんてポンポン出られるものでもないと思うし、機会があればありがたいことなので、もしお話があればやってみようかなと思っています。
ー「人前に出るのが苦手だ」という感情の根っこにあるのは、どういう理由なんですか?
小さい頃からカメラを向けられるのも苦手だったんですよね。だからミュージックビデオも最初のほうは嫌だったし。Margtという気の知れた人たちがカメラを回してくれるから普通にやれるようにはなってきたけど、それでもまだ恥ずかしいというか、気まずさのほうがデカいです。やっぱり「一般人」という感覚が、どうしてもまだある。というか全然一般人なんで。地元のやつらからも「有名人だ!」「芸能人が来た!」とかいじられるんですけど、「そういうのがダメなの、お前らが一番知っとるやん」っていう感じ。でもちょっとずつ殻を破っていけたらいいなと思っていますね。
ーカメラの前に立つというのは、そこで求められる役をやりきらなきゃいけない、という部分が多少は出てきますよね。
一個ギアが入る瞬間があるじゃないですか。でも、このまま出ていくというやり方もあるのかなとも思うし。自分なりにやるにはどうしたらいいかを考えつつ、来年はもう少し、あんまり好き嫌いせずにやってみようかなと思っていますね。

Photo by Ayumu Kosugi
<INFORMATION>

jo0ji
「飽々」
配信中
『jo0ji one-man tour 2026 「いかり」』
2026年11月1日(日) 神奈川・KT Zepp Yokohama
11月3日(火・祝) 石川・金沢 EIGHT HALL
11月8日(日) 大阪・Zepp Namba(OSAKA)
11月14日(土) 香川・高松 festhalle
11月15日(日) 広島・BLUE LIVE HIROSHIMA
11月22日(日) 北海道・Zepp Sapporo
11月28日(土) 福岡・Zepp Fukuoka
12月5日(土) 愛知・Zepp Nagoya
12月13日(日) 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
12月19日(土) 宮城 SENDAI GIGS
『live tour 2027 "≒" nearly equal』
2027年
4月10日(土)埼玉・戸田市文化会館 大ホール
4月17日(土)福岡・福岡市民ホール 大ホール
4月25日(日)岡山・岡山芸術創造ハレノワ 大劇場
4月29日(木・祝)北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
5月16日(日)大阪・大阪フェスティバルホール
5月29日(土)台北・Legacy Taipei
6月6日(日)宮城・東京エレクトロンホール宮城
6月13日(日)東京・SGC HALL ARIAKE
6月25日(金)愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール
