カトパコ、大好きな日本で解き放った「真の自由」──愛とカオスが生んだ奇跡、ジャンルも常識も飛び越えた狂騒の一夜【CA7RIEL & Paco Amoroso】

アルゼンチンの異才デュオ、カトリエル&パコ・アモロソ(CA7RIEL & Paco Amoroso)が最新アルバム『FREE SPIRITS』を携えて再来日。大阪・東京ともにソールドアウトを記録した単独公演で、ロック、ファンク、レイヴなどを縦横無尽に横断し、圧倒的なパフォーマンスで観客を熱狂させた。10月22日の東京・豊洲PIT公演をレポートする。

舞台装置としてのウェルネス施設

「自由でありさえすれば、ほかに何もいらない」──ホセ・デ・サン・マルティン(アルゼンチン独立の英雄)

「素早く動き、既存のものを打ち壊せ」──マーク・ザッカーバーグ(Meta共同創業者)

「間欠的ファスティングこそ、すべての鍵!」──グウィネス・パルトロウ(俳優・実業家)

10月22日、東京・豊洲ピットはウェルネス施設「Free Spirits Wellness Center」へと姿を変えていた。天井から吊るされた曲線的なロゴ、ステージ中央に配置された診察台と点滴スタンド。奔放さではカトパコにも引けを取らないカナダ出身の奇才ピアニスト、チリー・ゴンザレスの穏やかなピアノ曲が、施設内の環境音楽さながらに流れている。

ステージ左右の特設スクリーンには、哲学者や宗教家、実業家、アスリート、セレブリティの自己啓発的なメッセージが次々と映し出される。カトパコの母国アルゼンチンの英雄であるリオネル・メッシやマラドーナをはじめ、スティーブ・ジョブズ、ダライ・ラマ、ブッダ、Amazon創業者のジェフ・ベゾスから、データを駆使して老化に抗おうとする実業家ブライアン・ジョンソン、睡眠と脳科学について発信する神経科学者アンドリュー・ヒューバーマンまで。時代も分野も異なる人物たちの言葉がアットランダムに表示されていく。

精神的な自由を手に入れること、健康であり続けること、成功を追い求めること、絶えず自分を成長させること──いずれも現代社会では肯定的に語られがちな価値観だ。しかし、「ありのままの自分」を受け入れることと「より良い自分」へと変わり続けることは、そもそも両立しうるのだろうか? 一見すると心身を整えるためのリトリートのようでありながら、この空間そのものがウェルネス文化への風刺であり、これから繰り広げられるライブの舞台装置にもなっている。会場を埋め尽くした3000人近い観客は、瞑想と正反対の歓声を上げながら、開演を今か今かと待ちわびていた。

Photo by Totopons

昨年のフジロックで鮮烈な初来日を果たしたカトパコ。しかし、世界的ブレイクの裏側では、膨れ上がる期待と過密スケジュールによって心身ともに限界を迎えていた。そんな危機を乗り越え、今年3月に発表した最新アルバム『FREE SPIRITS』では、成功に伴う孤独や焦燥、承認欲求を、持ち前のユーモアでもって型破りなサウンドへと昇華してみせた。

4月には新作プロモーションのため再来日。下北沢で開催されたプレミアム・イベントでは、サプライズでアコースティック・ライブを披露してお祭り騒ぎとなった。その際に収録した本誌インタビューでは、待望の再来日公演に向けて「観客の度肝を抜くサプライズ」を用意していると予告していた。そこから待つこと半年。5月に地元ブエノスアイレスで開幕した「FREE SPIRITS World Tour」は、北米、メキシコ、ヨーロッパを巡って、いよいよ日本の番が巡ってきた。

来日公演に先駆けて出演した日本テレビ系『DayDay.』では、自身初となる生放送出演でスティングとの共演曲「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」をパフォーマンス。ろく助の塩をまぶしたおにぎりや天ぷらを堪能し、母国から遠く離れた「大好きな惑星」日本への愛を熱く語った。前日の大阪・なんばHatch公演も大盛況。そして迎えた東京公演で、カトパコが作り上げた最新の世界観が、いよいよその全貌を現そうとしていた。

Photo by Totopons

Photo by Totopons

奇想天外な12ステップのセラピー

開演予定時刻の19時から19分遅れで暗転。ステージ中央に現れた白衣のナースは、本職がダンサーのアブリル(Abril)。このあとのショーでは、カトパコにさまざまなトリートメントを施しながら、身振り手振りを交えて進行役も務める。

さらに、エドゥ・ジャルディーナ(Dr)、フェリペ・ブランディ(Ba)、ハビエル・ブリン(Key)、マキシ・サジェス(Perc)という、バンド「UATS」としても活動するおなじみの凄腕メンバーも登場。ファン有志から贈られた日本語入りの法被を身にまとったその姿は、昨年のフジロックでヴルフペックが着用していた「抹茶ヴァイブス」法被を思い起こさせる。

「『Free Spirits Wellness Center』の集中プログラム・デモンストレーションへようこそ」というナレーションが聞こえてくる。流暢な日本語で語りかける声の主は、同センターを主宰するスティング。なんでも彼は、自らの思考をリアルタイムであらゆる言語に翻訳し、世界中のどこに向けても発信できるテクノロジーを開発したそうだ(言われてみれば声質もスティングっぽい)。

これから始まるのは、どれほど打ちひしがれた人でも、90分以内に自由な精神(Free Spirits)を取り戻せるというインタラクティブなショーケース。「想像しうる限り最悪のコンディションで目を覚ました」被験者たちが、綿密に設計された12ステップのセラピーに臨むことで、現代社会の抑圧から解放され、真に自由な精神を取り戻していく──アルバムの軸となるコンセプトが、そのままステージ上で展開されるというわけだ。

スティングは語りかける。「どうか、今この瞬間を全身で体験してください。余計な気を散らさず。抵抗せず。心を開き、共感を持ち続けながらこのプロセスを見届けることで、皆さん自身も同じような変化を体験できるはずです。それでは早速、本日の被験者をご紹介しましょう。カトリエル&パコ・アモロソ!」

オープニングを飾ったのは「No Me Sirve Más」。躍動的なトランスのビートに乗せて、「金や名声をいくら手に入れても、もはや心は満たされない」というメッセージが歌われる。世界的成功を収めたポップスターが、治療を必要とする「患者」として登場。ところが当の2人は、診察台に横たわりながら元気いっぱいに歌い踊っている。このシュールで倒錯した演劇的/コメディ的表現と、カトパコの圧倒的なパフォーマンス能力、バンド陣の卓越したアンサンブルが融合。1曲目からフロアを熱狂の渦に巻き込んでいく。

派手な衣装を早々に脱ぎ去り、黒を基調としたシンプルなルックへ。パコは鍛え上げられた上半身をあらわにする。最初の治療プログラムは《身体の浄化》。関節と筋肉を解放するステップ1として披露された「Nada Nuevo」では、ボリウッド調のサウンドに乗せて、2人が密教の儀式さながらのダンスを見せる。パコによるパンチライン〈Lady Gaga es Argentina(レディー・ガガはアルゼンチン人だ)〉をフロアも一斉に叫び、会場中にこだました。

続く2曲は序盤屈指のハイライトだろう。身体に蓄積した毒素を汗とともに排出するステップ2の「Ay Ay Ay」では、〈アーイ、アイアイ♪〉というキャッチーなフレーズで、地鳴りのようなシンガロングが響き渡る。パコは本誌インタビューで「僕らの曲はスペイン語なので、どうしても言語の壁がある。だからこそ、ニューアルバムには、みんなで一緒にハミングしたり歌ったりできるようなメロディックな瞬間を、意図的にたくさん詰め込んであります」と語っていたが、その狙いは他の曲でも見事にハマっていた。タオルを勢いよく振り回す2人に煽られ、フロア中から無数の手が突き上がる。

カトパコ来日公演、「ニューアルバムには日本のみんなも一緒に歌ったりできるようなメロディックな瞬間を意図的にたくさん詰め込んであります」とパコが言ってたけど「Ay Ay Ay」のシンガロングはすごかった。というかスペイン語の歌詞もガンガン歌っててファンの進化を強く感じた。ガチ勢恐るべし pic.twitter.com/jBVO5rh1TY

— 小熊俊哉 (@kitikuma3) October 22, 2026 シンガロングが巻き起こった「Ay Ay Ay」(筆者撮影)

心拍数を上げるステップ3の「Muero」は、ブラジル音楽のグルーヴと縦ノリのビートが炸裂するクラブバンガー。カトは縄跳びを始め、パコは右手でケトルベルを振り、観客も一斉にジャンプする。さらに2人は、下北沢のイベントでも披露した振り付けを見せたあと、不敵な笑みを浮かべつつ、背中合わせになってバトルロープを猛スピードで波打たせる。〈立ち止まらなければ俺は死ぬ〉という切迫した歌詞を、スポーティーで生き急ぐようなパフォーマンスで体現。豊洲ピットが祝祭空間と化した。

さらに、「筋肉を鍛える」ステップ4として、フジロックでも披露されたラテン・アーバン調の「Mi Diosa」、成功のために外見や自分自身を作り変えることを求める音楽業界を皮肉った「#TETAS」を立て続けにパフォーマンス。それをもって《身体の浄化》は完遂された。スタートからいきなり濃密だが、まだ全体の1/4も終わっていない。ライブはここからジャンルレスな混沌へと突き進んでいく。

愛と友情を「正直に」歌う

インタールードで、スティングが「これから歌う曲の歌詞は、すべて自分を肯定する言葉でできています。ぜひ私たちと一緒に歌い、マントラのように繰り返してください。隣の人に共感を示し、互いにハグをしてください。恥ずかしがらず、思いきり大きな声で歌いましょう」と呼びかけ、治療プログラムは《精神の再構築》へと移行する。

メディカルウェアにも宇宙服にも見える、プーマのベルベット素材ジャージに着替えたカトパコ。「勇気を持つこと」を掲げたステップ5で鳴り響いたのは、スティングとのコラボ曲「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」。〈自分の気持ちに従えば/何だって解決できるはず〉というポジティブなメッセージを力強く歌い上げる。続く「Soy Increíble」も『FREE SPIRITS』収録曲で、最近のセットリストからは外れていたが、熱心なスーパーファンからのリクエストを受けて来日公演で復活した模様。80年代アリーナロックを彷彿とさせるこの2曲がサウンドの広がりをもたらし、カトパコらしい「何でもあり」な奔放さを印象づけた(カトがギターソロを弾く合間、パコが「お金がない!」と日本語で連呼する奔放極まりない一幕もあった)。

Photo by Kazumichi Kokei

Photo by Kazumichi Kokei

「悩みを打ち明けること」を掲げたステップ6では、膨れ上がった期待への不安をインポスター症候群になぞらえ、自虐的に歌ったジャジーな人気曲「IMPOSTOR」を軽快に披露。そこから次の曲へと進む前に、パコが真剣な表情で語り始める。先述の『DayDay.』でも、成田空港まで出迎えに来てくれたファンへの感謝を述べていたパコ。彼の言葉からは、温かく誠実な人柄が伝わってくる。

「この瞬間を、僕たちは1年以上も待ち望んでいました。今日来てくれたみんな、本当にありがとう。みなさんからは、たくさんの手紙やプレゼント、そして何より、多くの愛をもらいました。だから……もし、いつか悲しくなったり、孤独を感じたりしたら──僕も同じような気持ちになったことがあります。そんなときは、この曲を聴いてほしい」

ステップ7のテーマは「正直になること」。哀愁を帯びたサンバのリズムに乗せて、パコが「Vida Loca」を歌い始めると、カトは寄り添うようにギターで伴奏する。パコはこの曲について、アヴィーチーのドキュメンタリーを観て、彼の苦悩に自分自身の姿を重ね合わせたと本誌インタビューで語っていた。外からはすべてが順調そうに見えても、その内側では深刻な苦しみを抱えていたのだ。

曲の後半、2人が肩を寄せ合って歌うくだりに目頭が熱くなる。6歳の頃からの幼馴染であるカトパコは、時に傷つくことがあっても、互いを信じて一歩ずつ前に進んできた。そんな彼らの友情物語が重なることで、この曲は特別なものになる。90分間に及んだ狂熱のライブにおいて、このセンチメンタルな束の間のひとときは何にも代えがたい時間だった。

Photo by Totopons

カトパコ振り返り。「Vida Loca」で2人が寄り添って歌う光景はセンチメンタルで特別な時間でしたね。いつかお前も分かるよ、オレはヤバい人生を送ってるって…最後のシンガロングもエモい。この曲大好き pic.twitter.com/Tp6BBoguZI

— 小熊俊哉 (@kitikuma3) October 23, 2026 2人が肩を寄せ合って歌う「Vida Loca」(筆者撮影)

そこから一転、「Goo Goo Ga Ga」ではボサノヴァ調のメロディに乗せて、赤ちゃんに戻りたい、君の赤ちゃんがほしいという願望を「正直に」歌う。カトは甘えん坊のベイビーになりきっていたが、そのときの表情が妙にセクシーで、観客をいろんな意味で興奮させ、格好の撮影タイムとなった。

ステップ8「謝り、許しを乞うこと」では、成功の代償として自分たちが嫌な人間になってしまったことへの自己嫌悪と後悔を歌う「RE FORRO」を、ステップ9「わだかまりを手放し、許すこと」では、衝突を乗り越えてきた2人の固い絆を讃える「EL DÍA DEL AMIGO」を立て続けに披露。共に『PAPOTA』収録のキラーチューンで大いに盛り上がると、スティングも「友情とはなんて美しいものなんでしょう!」と興奮気味に語り、《精神の再構築》が完了したことを告げた。

Photo by Totopons

ファンクからメタルまで、自由奔放な音楽の宴

治療はまだまだ続く。「私たちは内面こそがすべてだと思いがちです。けれど、現実には世界が目にするのは外見だけなのです」というスティングの身も蓋もない一言を挟んで、ステップ10「完全なる美容トリートメント」へ。

このパートではまず、いまや伝説となったTiny Desk Concertのパフォーマンスを再構築。頭にタオルを巻いた着席スタイルで、フェイシャルケアを施されながら「DUMBAI」から「BABY GANGSTA」へと続くメドレーを披露する。フジロックでは冒頭の「ツカミ」に配置された必殺の2曲が、今回は中盤のフックとなっているわけで、セットリストの爆発力は段違い。後者は「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスも話題となったが、そこで共演したKing Gnuの新井和輝&勢喜遊も会場を訪れていたようだ。

CA7RIEL & Paco Amoroso

【カトリエル&パコ・アモロソ】

#カトパコ 初単独来日公演

FREE SPIRITS JAPAN TOUR

DUMBAI from『BAÑO MARÍA』

カトパコの名前を世界に知らしめたシグニチャーソング

▼セトリ・プレイリスト

https://t.co/RS9M8CyNa2

— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) October 22, 2026 保湿ケアを施されながら「DUMBAI」を熱唱(ソニーミュージック撮影)

さらに、こちらもフジロックでも熱狂を巻き起こした「A Mí No」を、ピンセットで顔のムダ毛を抜かれながら快演。そこからTiny Deskでも披露された「MI DESEO / BAD BITCH」のメドレーになだれ込む。カトはフェイスパックを着けたままギターをかき鳴らし、プリンスばりのファンクネスを振りまいたかと思えば、ヴァン・ヘイレン譲りのギターソロとグルーヴで客席を圧倒。『FREE SPIRITS』収録の重厚なファンクロック「Todo Ray」、ポリス風のレゲエチューンに生まれ変わった「Cosas Ricas」を勢いそのままに畳みかける。

そして、フジロックではラストを飾った「EL ÚNICO」をここで披露。カトパコ最大のシンガロング曲である一方、全編スペイン語だけに、日本人が歌うにはハードルの高い曲であるのも事実。それでも2人は観客を信じてマイクを向けると、昨年の苗場をはるかに上回る大合唱が巻き起こった。カトパコが進化を遂げたのと同じように、ファンの愛と理解もますます深まっている(公式Instagramにアップされたオーディエンスの熱唱ぶりも凄まじい)。

Photo by Totopons

Photo by Totopons

「みなさんは自分の顔をバイオハックすることに成功しました。ですが、まだ終わりではありません。全員が一つになり、同じエネルギーと一体化する必要があります」という天の声を受けて、ステップ11「シンクロ」へ。主役のラップとバンドの演奏が凄まじいテンションで限界突破する「LA QUE PUEDE, PUEDE」で会場を爆発させたあと、フライングVを構えたカトが「ハッハッハ、がんばれがんばれ!」と日本語で煽り、驚愕のメタル編へ突入。パンテラを愛するカトがギターソロを炸裂させ、パコも激しくヘドバンし、人気曲「Todo El Día」が別次元のヘヴィなアレンジへと生まれ変わる。「Suck My Cock!」と叫び、ギターを高々と掲げるカトの姿は、まぎれもないロックスターだった。最強のパフォーマーであり、ラッパーであり、アイドルであるのと同時に、ミュージシャンとしての確固たる実力を秘めた彼らならではのハイライトだった。

続いて披露されたのは、パコが本誌インタビューで「間違いなくハイライトになります」と豪語していた「Ha Ha」。メロウな出だしから一転、ノイジーなレイヴサウンドへと突入する楽曲だ。ライブではアップダウンの落差をさらに強調。引き続きメタル路線で圧倒したかと思えば、拡張されたアウトロでは祭囃子を思わせるグルーヴを叩き込む。中盤のジャンルレスな音楽の宴から、このあと幕開けするレイヴパーティーへと橋を架ける一曲となった。

カトパコのメタル編。カトが激鉄ギターソロを弾き、パコも勢いよくヘドバン。バンドの演奏も凄まじい。楽しい場面がありすぎた pic.twitter.com/M8JGgWG3AN — 小熊俊哉 (@kitikuma3) October 23, 2026 メタルアレンジに変貌した「Todo El Día」(筆者撮影)

狂騒のレイヴ、カオスの果てに見つけた「自由」

とにかくエネルギーも情報量も桁外れ。この時点で、会場はもはや何度目かわからなくなるほど熱狂のピークを迎えていた。

ここでスティングは、いよいよ最後のステップ12に進むことを告げる。「少し刺激が強いかもしれません」と前置きし、まずはレッド・ライト・セラピーによって体内リズムを整えると説明。「何より大切なのは、持てる力をすべて出し切り、踊ることで精神を完全に解放することです」と宣言する。テーマは「精神の解放」だ。

バンドメンバーは退き、胸元をはだけたカトパコ2人だけのステージに。フレッド・アゲインとの共作曲「Lo Quiero Ya !」が始まった瞬間、心身の治癒を目指していたはずの施設が、巨大なナイトクラブへと変貌する。予告どおり赤いレーザーが会場を覆い尽くし、図太いビートが響き渡る。〈あの”ブルンブルン”がほしい〉というパコのラップとカトのシャウトを合図に、観客も「オイ! オイ!」と声を上げ、これでもかと飛び跳ねる。

CA7RIEL & Paco Amoroso

【カトリエル&パコ・アモロソ】

#カトパコ 初単独来日公演

FREE SPIRITS JAPAN TOUR

Lo Quiero Ya ! from『FREE SPIRITS』

会場中が踊り狂った、ハイエナジックな爆裂パフォーマンス

▼セトリ・プレイリスト

https://t.co/RS9M8CzkZA

— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) October 22, 2026 「Lo Quiero Ya !」で会場中が踊り狂う(ソニーミュージック撮影)

そこから「スマホのライトを掲げて」というパコの呼びかけとともに、バラード調の「Pirlo」へ。一旦クールダウンするのかと思いきや、サビに突入した瞬間、ハイエナジーなダンストラックに激変する。さらにノンストップで、キャリア初期のダンスチューン「Cono Hielo」を、Crazy Frogのカバーやネットミームで知られるコミカルなシンセ曲「Axel F」とマッシュアップ。パラパラにも通じる高速BPMで畳みかける。よくぞここまで突き抜けたアイデアを思いつくものだ。

狂騒を煽るように、プエルトリコ発のネットミームとして広まったレゲトン「Culo con Caca」に乗せて、客席にトイレットペーパーが投げ込まれる。「お尻とウンチ」という曲名どおりの下ネタだが、お茶目な悪ふざけもカトパコの真骨頂。底抜けにアッパーな展開で、ここまで来れば独壇場だ。

Photo by Totopons

そしてついに、あの威風堂々としたイントロが轟き、この日一番の大歓声が巻き起こる。フレッド・アゲインとの化学反応から生まれた、破壊力抜群のアンセム「Betos Horns」だ。つい数日前、リミックスに参加したエズラ・コレクティヴも同じ豊洲ピットでこの曲を演奏したばかり。昨年のフジロックから続く音楽的な物語が、ここでひとつの結実を見せた。割れんばかりの大歓声とはこのことを言うのだろう。モッシュピットも発生し、会場全体がクレイジーな興奮に包まれ、誰もが全身で「精神の解放」を実践していた。

カトパコ劇場すごかったな。ほぼ全編↓こんな感じでブチ上がりまくりだし音楽的にも演出的にもパフォーマンス面の隅々まで完成度が高く、しかもどんどんカオスになっていくという驚異的すぎる90分。もう来年はフジロックのヘッドライナーでいいんじゃないか pic.twitter.com/3fmH2CFkak

— 小熊俊哉 (@kitikuma3) October 22, 2026 「Betos Horns」でモッシュピットも発生(筆者撮影)

音楽的にも視覚的にもカオスを極めた1時間半。そのフィナーレを飾るのは「Himno del Mediocre」。タイトルは「凡人賛歌」の意。冒頭の〈金や名声をいくら手に入れても、もはや心は満たされない〉という第一声から始まった『FREE SPIRITS』のストーリーは、己の不完全さを認め、必ずしも特別な存在になる必要はないと受け入れることで、ひとつの円環を描く。自らの弱さや未熟さもさらけ出す人間臭さに加えて、感傷を笑い飛ばすユーモアも込められているからこそ、この曲は胸を打つし、エンディングにふさわしい。彼らと思いを分かち合うかのように、フロアにはウェーブが広がり、カトパコはバンドメンバーとともに一礼した。

そして延長戦とばかりに、9月リリースの新曲「Sexy Magic」が最後に投下される。ピンクパンサレス、フレッド・アゲイン、フレンチ・ハウスの先駆者エティエンヌ・ド・クレシーと制作し、11月発売予定のゲーム『グランド・セフト・オートVI』の公式アルバムに収録される一曲だ。遊び心あふれる陽気なクラブチューンが、すでに天井を突き抜けたテンションをさらに押し上げる。パコは興奮を抑えきれずフロアへ飛び込む。これ以上ない大団円だ。

Photo by Totopons

Photo by Totopons

今回のライブは、世界各地での公演を重ねながら磨き上げられたものであり、演出や振付、楽曲のリアレンジに至るまで、緻密に計算し尽くされていた。とはいえ、ここまで興奮させられたのは、彼らのパフォーマンスが完璧だったからではない。むしろ完璧であることを手放し、目の前で生まれる混沌を楽しんでいるように映ったからだ。自分たちではコントロールできないフロアの熱狂やシンガロングを信じ、観客のエネルギーを自らの力に変えていく。「日本は世界で一番大好きな場所」と語るカトパコの愛と、そんな2人に惜しみない愛を注ぐオーディエンス。その思いがこれまで以上に強く響き合ったからこそ、奇跡の一夜が生まれたのだと思う。

「大好きな惑星」を巡る相思相愛の物語は、もちろんこれからも続いていくに違いない。開演前のスクリーンに映し出された、インドの思想家オショーの言葉がふと思い出される──愛こそが目的地であり、人生はそこへ至る旅なのだ。

筆者撮影

カトパコ来日公演セットリストプレイリスト

https://ca7rielpaco.lnk.to/FreeSpiritsTourSetlistRS

カトリエル&パコ・アモロソ

完全生産限定盤 7インチ・アナログレコード『From THE FIRST TAKE』

発売中 価格:¥3,500(税込)

購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/FromTHEFIRSTTAKE

〈収録曲〉

SIDE A:BABY GANGSTA – From THE FIRST TAKE

SIDE B:MUERO – From THE FIRST TAKE