4WD車づくりで長い伝統をもつポルシェが開発した初のSUV「初代カイエン」

964型や993型といった空冷世代の911人気は継続していたものの、928や968などのFRモデルが思うように販売に繋がらなかった1990年代、ポルシェの経営状態が決して楽ではなかったことはよく知られている。

【画像】世界中を驚かせ、ブランドを未来へと繋ぐ最強の礎となった初代カイエン(写真10点)

その深刻な危機を救ったのは、水冷エンジンへと大きく舵を切った「996型911」であり、そして新たなエントリーモデルとしてラインナップに加わった2シーターオープン「ボクスター」であることは疑いようがない。

しかし、スポーツカー専業メーカーだったポルシェが、まったく新しいライフスタイルを世の中に提案すべく放った一手こそ、2002年に発売されたブランド初となるSUV「カイエン」であった。

脈々と受け継がれる、ポルシェ「4WD」の遺伝子

「スポーツカーブランドがなぜSUVを?」という周囲から投げかけられた懐疑的な声に対し、ポルシェには確かな技術的裏付けがあった。それは他ならぬ「4WD車づくりにおける長い伝統」である。

遡れば1980年代後半、グループB規定に向けた伝説のスーパーカー「ポルシェ959」において、同社はすでに電子制御式の高度な駆動力配分システムを実用化していた。

さらに、過酷なラリーフィールドや911のカレラ4シリーズなどを通じて、ポルシェは「ハイパワーをいかに四輪で路面に伝達させ、安全かつ圧倒的な速さに変えるか」という技術を長年磨き上げてきたのだ。

SUVという未知の領域へ踏み出すにあたっても、その伝統とスポーツカーづくりのノウハウが惜しみなく注ぎ込まれた。

圧倒的なパフォーマンスとともに幕を開けた歴史

カイエンの歴史は、340phを発生する4.5L V8エンジンを搭載した「カイエンS」と、ツインターボにより450psまで出力を上げた「ターボ」の2つのグレードから幕を開けた。

トランスミッションは6速のティプトロニックSが組み合わされ、4WDシステムはPTM(ポルシェトラクションマネジメント)が搭載された。PTMで4輪のトルク配分を電子制御により最適化することで、SUVとしてのオフロード走破性を担保している。

発売から1年後には、3.2L V6エンジンを搭載したエントリーグレードとなるカイエンを追加。このカイエンには6速MTモデルも設定されており、同時にカイエンSにもMTモデルが追加された。見た目はSUVでも、ポルシェのスポーツカーをMTで操る楽しさを用意している点がカイエンの特筆すべきポイントかもしれない。

なお、MTモデルは2014年の2世代目カイエンがマイナーチェンジするタイミング以降廃止となっている。

05年に最上位グレードとなるターボSがラインナップに追加され、その後06年には初のMCを迎えた。前期型を955型、後期型は957型と呼び分けられるように、MCにより大規模な変更が行われている。

まずはエンジンで、V6 3.2Lは3.6Lへ、V8 4.8Lは4.8Lへとそれぞれ排気量が拡大され、さらには直噴化されることで動力性能が飛躍的に高められた。また、PDCC(ポルシェダイナミックシャシーコントロール)と呼ばれるアクティブアンチロールバーシステムがオプションで設定可能に。これにより、車体のロールが油圧でコントロールされ、高速なコーナーリングでもフラットで安定性の高い乗り心地を実現した。

後期型ではGTSが新たにグレードに追加され、カイエン、S、GTS、ターボ、ターボSの5グレードがラインナップに並んだ。

モデル終盤となる08年には、トランスシベリア・ラリーでのポルシェの連勝(07、08年)を記念した特別仕様車 S トランスシベリアを追加設定。内外装にはオフロード専用の装備や同ラリーに参戦した車両を模したデザインが用いられており、全世界でわずか286台しか生産されていない非常に希少なモデルとなっている。

初代カイエンは約7年半の販売を経て、2010年3月には2世代目となる958型のカイエンにバトンタッチをした。

その後のカイエンやマカンの発展を見れば、ポルシェというスポーツカーメーカーにおける初のSUVが残した功績がどれだけ大きかったは言うに及ばないだろう。

「どんな路面であっても、そこにあるのはポルシェでなければならない」開発陣の揺るぎない執念から生まれた初代カイエンは、重厚なボディサイズをまとっていながらも、ひとたびアクセルを踏み込めばスポーツカーさながらの鋭いハンドリングと圧倒的な動力性能を発揮した。

世界中を驚かせ、ブランドを未来へと繋ぐ最強の礎となったカイエンの誕生は、ポルシェが「スポーツカーの魂を持ったSUV」という新しい扉を開いた歴史的瞬間だった。

文:西村泰宏 写真:ポルシェAG

Words: Yasuhiro NISHIMURA Photography: Porsche AG