【対談】Don Toliver × Malcolm Todd 新世代ヒットメーカーが語る創作哲学「痛みと技術が大事なんだ」

最新アルバム『OCTANE』で全米1位を獲得したヒューストン出身のラッパー/シンガー、ドン・トリヴァー(Don Toliver)。一方、ロサンゼルス出身のマルコム・トッド(Malcolm Todd)は、インディーポップとR&Bを横断する音楽性で支持を広げ、「Earrings」のバイラルヒットで躍進。11月25日にはKT Zepp Yokohamaで初来日公演を控えている。ともに飛躍の年を迎えた2人を結びつけたのは、ドンがマルコムの楽曲をサンプリングしたヒット曲「E85」だった。そんな両者の対談がここに実現。

Photographs by MICAIAH CARTER

ドン・トリヴァーとマルコム・トッドによる「Musicians on Musicians」の対談が終わる頃、マルコムは汗びっしょりになっていた。「この赤いカシミアを着ているせいで、もう汗だくだよ」と彼は言う。ドンも暑そうだ。カメラが止まってようやく、マルコムは振り返り、背後の暖炉に火がついていることに気づいた。その日はロサンゼルスにしては異例の猛暑だった。

考えてみれば、これほどふさわしい状況もない。というのも、2人は1時間近くにわたって「エネルギー」、すなわち自分たちを創作へと駆り立てる内なる原動力について語り合っていたからだ。今では親交を深めつつある2人だが、ドンが初めてマルコムの音楽に出会ったのはインターネット上だった。当時22歳だったロサンゼルス出身のシンガーがSNSに投稿していた楽曲の断片を耳にし、ドンはどの時代にも属さないような不思議なサウンドに惹かれた。その後、2人が正式に顔を合わせるよりも前に、ドンはマルコムの「Chest Pain (I Love)」をサンプリングし、全米トップ20入りを果たしたヒット曲「E85」を生み出すことになる。

マルコムが音楽を作り始めたのは、その数年前、パンデミックのさなかのことだった。ロサンゼルスの自宅の寝室で制作を始め、インディーポップとR&Bの中間に位置するような楽曲でリスナーを獲得していった。2023年には「Art House」や「Roommates」がインターネット上で注目を集め始め、翌年にはオマー・アポロのツアーに同行。その後、2人は「Bleed」でコラボレーションを果たし、この曲は2025年にリリースされたマルコムのセルフタイトルのデビューアルバムに収録された。今年発表された次作『Do That Again』では、知名度が上がることの意味を、自分なりに整理しようとしている(姉のオードリー・ホバートも、この1年でポップ・シンガーソングライターとして大きな飛躍を遂げており、一家にとって例年になく慌ただしい時期となっている)。

マルコムが作るのは、繊細な感情をじっくりと描き出し、聴き手の心に残り続けるような楽曲だ。たとえば、初期のミックステープ『Sweet Boy』に収録され、ここ数カ月でインターネット上で再び人気を集めている「Earrings」。この曲では、アクセサリーをかつての恋愛を思い起こさせるものとして描き、誰もが知るような日常の小さなディテールを通じて、自身の心の痛みを聴き手に伝えている。今回の対談では、次に何をすべきかを見極めることへの不安も語った。「自信はあるけど、傷つきやすいところもあるんだ」と彼は言う。ひとまず今後数カ月は、アジア、ヨーロッパ、オーストラリアを巡る『Do That Again』ツアーが続く。

一方、ヒューストンで育ったドンは、同郷のトラヴィス・スコットが2018年に発表したアルバム『ASTROWORLD』への参加をきっかけに、全米規模でその名を知られるようになった。以前からスターとして活躍してきたが、2026年にはその人気をさらに拡大させている。ドンは、楽曲のムードを作り上げることに長けたアーティストだ。ラップと歌を自在に行き来する彼の声は、ヒューストンのラップ特有の酩酊感を、巨大な会場にも映えるスケールの楽曲へと昇華させている。2018年の初ミックステープ『Donny Womack』のタイトルは、唯一無二の歌声で知られるソウルシンガー、ボビー・ウーマックに由来する。ドンは、小学5年生の頃に合唱団に所属していたことや、授業が終わると仲間と集まってビートを作り、ラップをしていた日々を振り返る。「あの経験が、アーティストとしての自分をより深く意識するきっかけになったんだ」と彼は言う。

「E85」を聴けば、2人の音楽的なつながりがよくわかる。マルコムの楽曲をサンプリングすることで親密な感触をもたらし、ドンはそれを土台に、スコットやアリアナ・グランデとの仕事で知られるアーロン・パリスらによる壮大で高揚感あふれるプロダクションを重ね、感情表現を大きく広げている。この対談でも、それに似たようなことが起こった。2人は何度も楽曲の細部に施された工夫へと話を戻し、ほんの数秒の出来事が、その前後の印象をいかに一変させるのかを言葉にしようとする。「E85」がチャート1位を獲得したドンのアルバム『OCTANE』のオープニングを飾り、マルコムの「Earrings」も勢いを増し続ける今、2人は仕事仲間のような関係になっている。ただし、対談の大部分では、マルコムがドンからさまざまな知恵を吸収する側に回っている。未来のこと、優れたブリッジを生み出す秘訣など、話題は多岐にわたった。最初に2人が振り返ったのは、すべての始まりとなったサンプリングの話だった。

「E85」から始まった2人の友情

ドン:あの曲(「Chest Pain (I Love)」)は本当に最高だよ。ネットで曲の断片を耳にするたびに、「これはすごいな」って思っていた。いつ聴いても惹きつけられる独特の雰囲気があったんだ。どこかで聴いたことがあるようで、でも同時に、これまで一度も聴いたことがないような感覚もあった。そういうエネルギーを持つ曲だったんだ。

マルコム:最初は、マネージャーが「E85」のラフミックスを送ってくれたんだ。10秒おきに「この音源を共有してはいけません」って声が入るやつ。それで初期バージョンを聴いたんだけど、「なんてことだ、めちゃくちゃいい曲じゃないか」って思った。きっとドンはものすごい数の曲を作っているだろうし、この曲がどうなるかもわからなかった。でも、たとえリリースされなくても、自分だけが持っている音源として楽しめるだけで最高だと思ったんだ。だから、一人で高速道路を運転しながら、よく車の中で流していた。それがアルバムの発売直前になって、「ああ、あの曲は1曲目になったよ」って言われてね。その後ミュージックビデオを見たら、ものすごく映画的でスケールの大きな作品になっていて。曲が変貌していく過程を目の当たりにすることができた。鳥肌が立ったよ。

ドン:あの曲の制作過程は本当にすごかった。最初にどうやって作り始めて、そこからどう組み立てていったかというところも含めてね。でも、あれは最初から「この曲は絶対にアルバムに入れる」って思えるような曲だったんだ。

マルコム:『OCTANE』を完成させるまでに、何曲くらい作ったの?

ドン:丸1年間レコーディングしていたからね。何百曲も作ったよ。

マルコム:そこからどうやって絞り込むの?

ドン:自分にとって一番自然で、自分らしいと感じられるものを選ぶんだ。もうしばらく音楽を作り続けているから、ファンがどんなものに反応するのか、自分自身がどんなものに心を動かされるのかも、ある程度わかっている。だから、その感覚を大切にしているんだ。

マルコム:それは今の僕にとって、すごく興味深い話だよ。僕はまだキャリアがそこまで長くないからね。でも、ファンと一緒に成長して、聴いてくれる人がどんどん増えていくと、いつファンのことを考えるべきで、いつ自分の考えを優先すべきなのか、わからなくなることがあるんだ。毎回同じようにはいかないから。

ドン:それは難しいよね。僕も、ファンが自分のどんなところを気に入ってくれているのかを考えて、その期待に応えようとはしている。でも、僕が作る音楽は、すべて自分の好きなものから生まれているんだ。ほんの小さな要素や、ちょっとした音の断片だったりする。たとえば、ビリー・アイドルの曲を聴いて、あるフレーズの言い回しや歌い方を思いつくこともある。そういう些細なことが大切なんだ。「あの独特な歌い方をしたフレーズが自分のアルバムに入っているなんて、最高だな」って。

マルコム:うん。僕も最近考えているんだけど、何かにインスピレーションを受けるときって、必ずしも曲全体から影響されるわけじゃないよね。ブリッジのほんの一瞬だったりする。正直、それほどいい曲だとは思わなくても、ブリッジだけはとんでもなく素晴らしい曲というのもあって。そのブリッジが大好きだという理由だけで、そこを出発点に1曲丸ごと作ることもある。

ドン:それこそがソングライティングの魔法なんだ。曲全体を通して何かの旅をしているような感覚があっても、1分26秒のところで出てくるたった一言によって、その曲に対する見方がすべて変わることもある。たったひとつのブリッジでね。僕も何度も経験しているよ。あるパートが流れてきて、「うわ、ここがヤバい」ってなるんだ。

マルコム:「今すぐスタジオに行きたい!」って感じになるよね。

ライブの熱狂と孤独、痛みを音楽に変える力

ドン:君の最新アルバムに入っている、あの曲が大好きなんだ。〈Break my heart again...(もう一度、僕の心を壊して……)〉っていう。

マルコム:「Difficult Love」だね。

ドン:あのフックがもう一度戻ってくるところで、物語の中にぐっと引き込まれるんだ。あそこ、何て歌っているんだっけ? Bで始まる言葉の前に、何か言っているよね。

マルコム:〈You could rip my heart out just like you did last time(前と同じように、僕の心を引き裂いてもいいんだ)〉。

ドン:まさに今話していたことだよ。そこにたどり着くまでの流れがあって、その言葉が出てきた瞬間に「うわ、胸に響くな」ってなるんだ。本当に感情が伝わってくる。でも、そこに至るまでに、すでにひとつの物語を語っているんだよね。

マルコム:僕が君の音楽で好きなのも、そういうところなんだ。アウトロでいったん音を削ぎ落として、そこからまた盛り上げていく、あの細かな工夫が好きなんだよね。たとえ同じフックをもう一度持ってきても、今度はドラムがなくなって、ギターの代わりにシンセサイザーが鳴っていたりする。歌っていることは前と同じなのに、まったく違う聴こえ方がするんだ。そして、そこから一気に次の曲へと移っていく。

ドン:ライブでは、そういう展開でワクワクさせることが大切なんだ。曲をアウトロまで全部演奏したいときもあるけど、場合によっては半分くらいで切り上げて、別の曲に飛び込まなきゃいけないこともあるからね。

マルコム:セットリストの組み方にも、自分でかなり関わっているの?

ドン:正直、僕は本当にギリギリにならないと動かないタイプなんだ。今回のツアーでは、ツアーが始まってステージに上がる直前まで、セットリストをまともに見ていなかったと思う。たぶん本番の1時間前くらいに、「セットリストってどうなってる?」って聞いたんじゃないかな。

マルコム:じゃあ、ステージのどこかにセットリストが置いてあるんだよね?

ドン:普通はスタッフが次の曲を教えてくれるんだ。でも、今年は初めて、一度もセットリストの紙を見ずにやっている。それまでは毎年、どの公演でも、紙とにらめっこしていたんだけどね。

マルコム:僕なんて何度失敗したかわからないよ。セットリストを読み間違えて、次の曲じゃないものを演奏し始めちゃうこともあって。そうするとバンドのメンバーが「一体どうなってるんだ?」ってなるんだ(笑)。僕も君と同じで、今のツアーの準備は何もかもギリギリになってやっているよ。

ドン:でも、それがエネルギーを新鮮に保ってくれるんだ。

マルコム:どうやってライブの興奮を保ち続けているの? ほとんど1年中ツアーをしているよね。

ドン:モチベーションだね。毎晩、何かしら自分を奮い立たせるものを見つけたり、考えたりしている。ステージに立っても、まだその日のモチベーションが見つかっていないこともあるんだけど、そんなときは僕の子供のことを考えるんだ。「いや、これから20年は最高の自分でいなきゃいけない。とことんやってやるぞ」ってね。

マルコム:君のライブを見たときは、すごく興奮したよ。それまで一度も生で見たことがなかったのもあってね。僕がステージに出るのは最後の曲だったから、それまでのライブを丸ごと楽しみながら、どんどんテンションを上げることができた。曲が進むたびに、「もう少ししたら自分もあそこに立つんだ」って思っていたよ。そして出番が近づいてくると、「いよいよ自分の番だ!」って。君はステージでの動きもすごくしなやかだよね。

ドン:ただ楽しんでいるだけだよ。本当に音楽が大好きだし、ファンも音楽を愛している。そして、自分がずっとやりたかったことを今やれていると感じるんだ。だから、慣れきってしまうことはないんだよ。

マルコム:ツアーバスではどんなふうに過ごしているの?

ドン:僕のツアーバスでの生活は、すごく退屈だよ。たまに急に元気が湧いてきて、音楽を聴きたくなることもあるけどね。そのとき何をしているかにもよるけど、基本的には本当に地味なものさ。バスの中で一服したり、昼寝をしたり。実は結構疲れているんだよね。外の世界から完全に離れたような気分になるんだ。電話にも出ないことがあるけど、それも世間から離れている感覚があるからなんだ。

マルコム:君には世間から離れていられるだけの理由があるよね。

ドン:そう、息抜きが必要なんだ。ときには周囲とのつながりを完全に断ちたくなる。ある意味、みんなが僕の生活に関わっているからね。警備スタッフもいるし、アシスタントもいる。現場に着けば、ほかのバスに乗っている人たちまで、僕が何をしているのか知りたがってやってくる。たまにはすべてをシャットアウトしたいんだけど、そうすると嫌なやつだと思われてしまうこともある。だから、そのバランスを取らなきゃいけない。ツアー中に悩むのは、ほとんどそれだけだよ。一人でいたいと思うことが多いんだ。みんなが慣れてくると、気軽に楽屋に入ってきて「よお、何してる?」なんて声をかけてくる。でも、こっちは別に話したい気分じゃなかったりするんだ。

マルコム:今回のツアーでは初めて、仲のいい友達2人を自分のバスに乗せるか、それとも完全に一人で過ごすかを選べるようになったんだ。仲間がみんな別のバスに乗っていたら、自分だけ楽しいことを逃しているような気分になりそうで。でも一方で、ツアーが始まって最初の週末くらいには、「もう誰とも一切話したくない」ってなりそうな気もするんだ。

ドン:仲間をそばに置いておくのはいいことだよ。みんなにとってチャンスにもなるからね。でも、今こうしてツアーができているのは君のおかげだってことを、みんなに理解してもらわなきゃいけない。君には君自身の時間が必要なんだ。

マルコム:仲間が周りにいると、友達であると同時に、彼らをまとめる立場にもなるから難しいんだよね。

ドン:自分は上司なんだと考えるより、責任があって、自分を頼りにしている人たちがいるんだと考えたほうがいい。僕らはみんな家族なんだ。仲間のことは心から愛しているけど、全員が何かの目標に向かって努力していなきゃいけない……自分の音楽が売れ始めたときに何を学んだかって? とにかく止まらないことだよ。挑戦し続けること。そして、「さっきやったことをもう一度やらなきゃ」なんて考えないことだ。そうじゃなくて、とにかく作り続けるんだ。何が起こるかなんて誰にもわからないからね。自分が作る曲は、すべて自分自身の財産になる。どんな曲だってそうなんだ。ボイスメモでも、1分の曲でも、5分の曲でも、全部が自分の財産になる。成功するうえで大切なのは、そういうことなんだよ。ただ前に進み続けるしかない。僕らには何ひとつ保証されていないんだから。

マルコム:ある程度のところまで行くと、居心地がよくなりすぎてしまう人もいると思うんだ。そうすると考えすぎて、作品を完璧にしようとして、4年、5年、6年と経ってしまう。最初に作ったものをそのまま発表していれば、大成功していたかもしれないのにね。

ドン:それを乗り越えるには、音楽を作るときに、自分の抱えている痛みを思い出すことだと思う。自分の心を本当に動かすものをね。誰かに何かを言われて、そのまま何事もなかったように一日を過ごしたとしても、その言葉がずっと頭に残っていたりするだろう。

マルコム:それが曲になるんだよね。

ドン:そう、それが曲になるんだ。

マルコム:僕らは本当に恵まれていると思う。日常の嫌な出来事さえ、アートに変えられるんだから。普通なら嫌なことが起きたら、そのせいで一日が台無しになってしまう。でも僕らは、それを何かの作品に昇華できるんだ。

ドン:しかも、そこから実際に何かを生み出せる。特にライブで演奏すると、その意味がよくわかるよ。ファンは君がどんな状況にいたのか知らなくても、そのエネルギーを感じ取ってくれるからね。音楽を作り続け、表現を磨いていけば、曲に込めた感情が伝わっていることを、ファンの反応から実感できるようになる。みんな本当によく理解してくれるんだ。

マルコム:痛みは、誰にとっても痛みだからね。

ドン:そう、痛みは痛みなんだ。あるいは、ほかの誰かが抱えている痛みに目を向けることもできる。その人が置かれた状況をどうやって捉え、それを経験したことのない人たちに向けて、どうやって世界に伝えていくか。そういうことだと思う。

成功の先にある葛藤、自分らしさを貫く創作哲学

マルコム:決められた時期までに作品をリリースしなきゃいけない、というプレッシャーを感じることはある?

ドン:いや、ないね。僕はいつも自分で締め切りを決めるんだ。そうしないと、自分のやるべきことをちゃんと管理できていないような気がするから。

マルコム:僕も今回のアルバムではそうだったんだ。それを受け入れるようにしたら、すごくいい経験になった。「その時期までに自分が作れたものこそ、世に出すべき作品なんだ」って思えるようになったからね。今は次のアルバムのことを考えているけど、まだものすごく遠いところにあるように感じる。時間的に先の話だという意味じゃない。まだ何も形になっていないってこと。もちろん、いい音楽を作りたいし、成長もしたい。でも、それが具体的にどういうことなのかわからないんだ。自分が進化できることはわかっているような気がする。ただ、どうやってそこにたどり着くのか、まったく見当がつかないんだよね。

ドン:僕はアルバムを完成させると、まず最初に「次はどんなクリエイティブにしよう? 自分はどんな人物になるんだろう? 誰がその物語を語るんだろう?」って考えるんだ。『OCTANE』をリリースして、たぶん1週間くらい経った頃には、「さて、次は何をしようか」って考えていた。まず、自分がどんな人物になるのかを考えるんだ。リスナーが音楽と僕自身をひとつのものとして結びつけたとき、そこにいる自分は何者なのか。それから、どんな環境に身を置くのかを考える。

マルコム:すごいな。僕はそういうことを全部、最後に考えるよ。

ドン:最初にクリエイティブの方向性や、自分がどんな人物になるのかを考えておくと、それ自体が物語を導いてくれるんだ。たとえば、「次のアルバムはスイスに行って、全曲そこで作ろう」と決めたとする。それだけで、もうスイスの木々や自然、地形といったものが出発点になるわけだ。

マルコム:あの白い衣装は、曲を作り始める前から決めていたの?(※『OCTANE』のビジュアルコンセプトとして取り入れている、全身白で統一したファッションのこと)

ドン:今回のアルバムでは、いろいろ迷っていたんだ。最初は「NASCARのレーシングスーツにしようかな」と考えていたけど、「いや、あまりしっくりこないな。マッドサイエンティストなんてどうだろう」って。それで、ある日たまたま全身白の服を着てみたら、「これだ、これが『OCTANE』だ」って思ったんだ。それ以来ずっと白を着続けている。すべてが終わるまではね。

マルコム:最後まで白で通すんだね。

ドン:何かひとつに決めて、それを貫くことのよさって、そういうところにあるんだ。僕はそれを音楽とも結びつけている。そうすることで、音楽を具体的な何かとつなげられるからね。ただ曲を作るだけでももちろんいい。でも、これだけたくさんの音楽を作ったあと、自分は何をしているんだろう? 本当の自分って何者なんだろう? って考えるんだ。

マルコム:制作途中の曲は、どのくらい人に聴かせる? 僕は曲を半分くらい作った段階で、完成する前に誰かに聴かせたくなることがあるんだ。でも同時に不安にもなる。制作中にあまり多くの意見を聞きたくないんだよね。自分の感覚が乱されるのが嫌だから。

ドン:僕は間違いなく、聴かせるのが好きだよ。自分の音楽には自信があるけど、それでも人がどう思うかは聞いてみる。批判はあまり真に受けすぎないことだね。もちろん、ちゃんと耳を傾けるのは大事だけど、何より自分自身がその曲を好きでいなきゃいけない。

マルコム:聴かせる相手を選ぶことも大事だね。

ドン:今、君にできるだけ的確な言葉を伝えようとしているんだ。僕も同じような経験をしてきたと思うからね。でも、僕は昔から自分の音楽を人に聴かせることに、ものすごく自信があったんだ。いつだって誰かに聴かせたかった。自分の音楽を聴いた人がどんな反応をするのかを見るのが、たいていの場合は大好きだからね。

マルコム:僕はときどき、自分のアイデアにあまりにも自信がありすぎて、「誰かに余計な解釈を加えられるくらいなら、誰にも聴かせないほうがいい」って思ってしまうんだ。でも、それじゃ長くは続かないよね。たった一人に聴かせたとして、その人が唯一のリスナーだったら、その人の意見がすべてになってしまう。そうすると、それが世間一般の意見なんだと思い込んでしまうんだ。でも、次に聴いた人は「こんなに素晴らしい曲は初めて聴いた」と言うかもしれないし、「この部分が大好きだ」と言うかもしれない。だから、一人の意見だけで判断しちゃいけないんだよね。

ドン:僕は同業の仲間や、ほかのアーティストに曲を聴かせるのが好きなんだけど、最近はあえて人に聴かせず、自分の中に留めておく曲もある。だから、君も無理に人に聴かせなくていいと思うよ……今は誰にでも成功のチャンスがある。いい曲を作って、やるべきことをきちんとやって、インターネット上でどう売り出すか、その方法を理解していれば成功できるんだ。今この瞬間に曲をリリースして、12分後には100万人が聴いているなんてこともあり得る。

マルコム:面白いのは、12分で100万人のリスナーを獲得できるのと同じくらいの速さで、その次の12分には100万人を失うこともあるってことだよね。今は何かを手に入れるスピードが本当に異常なくらい速い。そして、「よかったね、おめでとう。で、その勢いを維持できるの?」って話になる。みんな次から次へと、あっという間に誰かへの関心を失っていくからね。本当にすごい時代だよ。

ドン:曲がヒットして、そういうことが起こるのはいい。でも、本当に大切なのはそのあと何をするかなんだ。1曲がヒットしたあとには、想像もつかないほどさまざまな出来事が一気に押し寄せてくる可能性がある。そのときに、ひとつひとつ正しい判断をしていかなきゃいけないんだ。

マルコム:それに、いい曲をもっと作らなきゃいけない。

新しい音楽との出会いはInstagram、創作に必要なのは「痛みと技術」

マルコム:ところで、新しい世代の音楽についてはどう思う?

ドン:特に決まった意見はないかな。今、どんな音楽が主流で、何がカルチャーを牽引しているのか、僕にはよくわからないんだ。ヒップホップが中心だとも言えないし、ロックが中心だとも言えない。何がリードしているのかわからないんだよね。

マルコム:僕もよくわからないよ。結局のところ、本当にエネルギーなんだと思う。面白いよね。さっき映画の話をしていたときも、「どんな種類の映画が好きか? どんなジャンルの音楽が好きか?」って話になったけど、結局は全部エネルギーなんだ。

ドン:そう、すべてはエネルギーなんだ。ハイテンションなものも、悲しいものも、エモも、ヒップホップも、R&Bも。2026年の今、僕らがかつて体験したことのあるものも、まったく体験したことのないものも含めて、すべてがエネルギーの異なる形なんだよ。

マルコム:僕らは互いに影響を与え合う循環の中にいる。誰も聴いたことがない、完全にオリジナルなものを作るなんて不可能だよ。そんなものは存在しない。あらゆる音は、もう誰かが奏でているんだから。大事なのは、エネルギーを正しく捉えることなんだ。そして、そこには痛みがなきゃいけない。痛みが感じられなかったら、僕はたぶんその音楽を信じられないと思う。

ドン:その通り。まさに痛みと、それを伝えるための技術なんだ。「これは自分にも通じる話だ。この人の言っていることは信じられる」と感じさせるものだね。

マルコム:痛み(pain)と技術(technique)か。

ドン:そう、その2つが大事なんだよ。

マルコム:シンガーとして、これまでにボイスレッスンを受けたことはある?

ドン:いや、ないね。でも子供の頃、もっと歌に興味を持つきっかけになったのは、小学5年生のときに入っていた合唱団なんだ。音楽について何を教えているのか知りたくてね。ただ、曲を書くことや楽譜の読み方を覚えることには、まったく興味がなかった。僕が好きだったのは、授業が終わったあとにやることだったんだ。音楽を作っているほかの子供たちと一緒に部屋に集まって、一日中ビートを作ったり、ラップをしたりしていた。そういう経験を通して、アーティストであることに、もっと深く向き合うようになったんだと思う。音楽が好きな仲間たちと一緒に過ごしたことが、自分にとって大きかったんだ。僕自身も、子供の頃から音楽が大好きだったからね。

マルコム:すごくマニアックで、あまり知られていない音楽はどうやって見つけているの? Apple Musicをひたすら漁ったりする?

ドン:最近は、自分から積極的に探しに行くことはあまりないかな。でも、一番とんでもない音楽に出会うのはInstagramなんだ。ストーリーズとか、リールとか、写真の投稿とかね。「うわ、ありがとう。これ、いただき」ってなるんだ。どこから流れてきたって構わない。耳に入ってきて気に入ったら、それを手に入れたいんだ。

マルコム:Instagramにいる女の子たちの中には、投稿の見せ方がものすごく上手な人がいるよね。そういう人たちは、投稿にぴったりの曲を見つけなきゃいけない。そのために完璧な曲を探し出そうとする熱意が、実はすごい音楽の発見ルートになっているんだ。本当に選曲がうまいんだよ。おかげで、ドナ・サマーのことを知ったりするわけだからね。

ドン:そう、ドナ・サマーを知ったり、ほかの誰かを知ったりね。ある女の子がマドンナの曲をノリノリで流していたりする。「ああ、この曲いいな。もっと聴きたい」ってなるんだ。

マルコム:みんな最高の雰囲気を探しているんだよね。投稿に合う曲を見つけようとしている。

ドン:昔のミュージックビデオや曲ばかりを紹介しているInstagramのアカウントも大好きだ。たまにそういう投稿がフィードに流れてくると、「うわ、懐かしい。これを忘れていたよ」ってなる。

マルコム:自分をひとつの型にはめちゃいけないんだよね。これからどんな方向に進んでいくかなんて、誰にもわからない。それができるのは、自信があるからこそだと思う。

ドン:それに、いろいろな音楽を聴くことも大切だよ。僕は古い音楽も新しい音楽も好きだし、ハウスもドラムンベースも好きだ。どんな音楽にも、自分なりに好きな部分がある。それがジャンルを融合させるときに役立っているんだ。

マルコム:居心地のよさって、人を駄目にするものだと思う。ひとつの場所に慣れきってしまうと、怖くなって、そこから抜け出すことを自分に許せなくなってしまうんだ。

ドン:周りにいる人たちが原因になることもあるよね。今やっていることがうまくいっていれば、それで満足してしまう人もいる。でも、自分を次のレベルへと押し上げてくれる人たちを、常に周りに置いておくべきなんだ。賛否が分かれるようなもの、これまで聴いたことがないようなサウンド、メロディへの新しいアプローチ。そういうものは、いつだって際立つからね。

マルコム:今は誰もが意見を持っていて、そのすべてがインターネット上にあるよね。君はそういう世界と、どのくらい距離を取ってきた? 僕はネットから離れることを覚えたんだけど、自分について書かれたものを読むのって、精神的に本当によくないと思うんだ。

ドン:僕も距離を置くようになったよ。キャリアのある段階まで来たとき、何もかもが嫌になってしまったんだ。誰かが何を言っていても、それが嫌で仕方なかった。だから、ネットから離れたんだ。そういうアプリを使うのをやめた。今使っているのは、本当にInstagramだけだよ。投稿するのは好きなんだ。ファンやみんなに「僕はここにいるよ。いろいろやっているよ」って伝えられるからね。それだけで十分なんだ。正直、インターネットとの付き合いは、かなり制限したほうがいい。5つも6つもアプリを使って、あれこれ情報を浴び続けるなんて、僕には刺激が多すぎるよ。

マルコム:僕もネットから離れているけど、本当によかったと思っているよ。「ああ、ネットにどっぷり浸かっていないと、人生ってこんなに最高なんだ」って感じるんだ。

ドン:だって、君は現実の世界で生きていて、本当のマルコムでいられるわけだからね。僕らは、こういうことができるだけでも本当に恵まれているよ。今だってカメラが回っていて、こうして話ができている。それだけでもありがたいことなんだ。僕のファンはきっと「マルコム・トッドが?」って驚いているだろうし、君のファンも「ドン・トリヴァーが?」って思っているだろうね。でも、すごくいいことじゃないか。こういうことがもっと起こるべきだと思うんだ。アーティストだったら、普段はやらないようなことにも積極的に取り組んで、いろいろ試してみたいと思うべきだよ。それこそが音楽を面白くするんだから。君はものすごく才能がある。ギターも弾けるし、歌えるし、スタイルもある。だったら、やらない理由なんてないだろう。一緒に映画でも作ればいい。自分にとってうまくいっていることに固執するんじゃなくて、もっと多くの人がそういうふうに考えるべきだと思う。僕は、うまくいっているからというだけで同じことを続ける考え方が嫌いなんだ。

マルコム:今の言葉、完璧だね。

ドン:本当に嫌なんだよ。「うまくいくから、これをやる」っていう考え方がね。レイジ(rage)系の音楽についても、そう考えたことがある。僕がそういう音楽をやれば、観客は熱狂してくれる。それは誰にでもわかることだよね。確かにうまくいく。でも、ある意味ではうまくいかないんだ。だって、僕らには単にエネルギーで盛り上がること以外にも、伝えたいことがたくさんあるんだから。

マルコム:僕のアルバムに「I Saw Your Face」という曲があるんだけど、あれはたぶん4通りくらいのバージョンを作ったんだ。2、3カ月くらい、何度も作り直していたと思う。以前は、ひとつの曲にそこまで時間がかかるなら、そもそも形になる運命じゃなかったんだと思っていた。でも今は、いろいろなことを繰り返し試してみることにも、美しさがあるんだと学んでいるところなんだ。

ドン:僕の場合、曲作りに本当に30分くらいしかかからないこともあるよ。「BODY」なんて、僕にとっては考えるまでもない曲だった。サンプリングを聴けばわかるだろう。自分が歌っていることも最高だと思った。自分の体を愛している世界中の女の子たちのエネルギーを、僕自身が体現しているんだ。あの曲は、かなり余白のある作りになっている。余白があるっていうのは、ドラムの音数があまり多くないということなんだけどね。それで、「これだけで十分なのかな」とも思った。でも、自分自身に自信を持って、その気分を楽しんでいるだけの曲って、それだけでも聴く人によっては強烈な印象を残すものなんだ。そこに音楽を加えて、ドラムも入れた。ときには、あらゆる要素を詰め込むより、シンプルにしたほうが魅力的になることもあるんだよ。

マルコム:シンプルなのが一番だと気づくために、あらゆることを試さなきゃいけない場合もあるんだよね。

ドン:それは人生のすべてに言えることだと思うよ。とにかく何でも試してみることだ。気に入らなかったら、そんなものは手放せばいい。うまくいかなくたって構わないんだから。

マルコム:そうだね。

ドン:手放せばいいんだ。

From Rolling Stone US.

Malcolm Todd: Do That Again Tour Tickets, Tour and Concert Dates –  www.livenationhip.co.jp

マルコム・トッド来日公演

Malcolm Todd: Do That Again Tour

2026年11月25日(水)KT Zepp Yokohama

開場 18:00 / 開演 19:00

特設サイト:https://www.livenationhip.co.jp/all-events/malcolm-todd-tickets-ae1610806

Do That Again - Album by Malcolm Todd | Spotify

マルコム・トッド

最新アルバム『Do That Again』

発売中

再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/malcolmtodddothatagain