稼ぎ頭のオービスに撮られた?「有名ピアニストが84キロ超過」の今後

10月6日(火)、私は午後から裁判所(東京高地簡裁合同庁舎)へ行った。

東京地裁の開廷表に10時~11時30分の期日で「道路交通法違反」の新件があった。法廷は532号。傍聴席の数は、この庁舎の刑事の法廷でいちばん少ない20席だ。

普通は1時間だ。1時間半は長い。公判前整理手続きを経た、オービスの否認事件で、初回からメーカー社員の尋問をやる? いや、事件番号的にそれは考えにくい。じゃあ、自白事件で、弁護人がちからを入れ、情状証人を何人もやる? でも裁判官が複数人を許すってあんまりない。別件で執行猶予中だったりして実刑確実、悔いを残さず刑務所へ行ってもらうため、複数人を許した?

 

なーんて0.5秒で思いつつメモ。あとで報道を知った。以下は同日付朝日新聞の一部。

・ピアニスト反田恭平氏、スピード違反で在宅起訴 144kmで運転か

首都高速を運転中に、制限速度を84キロ上回る時速144キロを出したとして、ピアニストの反田恭平被告(32)が道路交通法違反の罪で在宅起訴されていたことがわかった。6日に東京地裁で初公判があり、検察側は拘禁刑3カ月を求刑した。判決は29日に言い渡される予定。起訴内容は昨年12月20日午後9時ごろ、東京都目黒区中目黒2丁目付近の首都高速中央環状線で、制限速度が時速60キロの道路を時速144キロで運転したというもの。公判は即日結審した。

うわお。以下、私以外にたぶん誰も言わないことを。

■あそこのオービスは稼ぎ頭

目黒区中目黒2丁目8番、首都高の中央環状線・内回り、11.23キロポスト付近のオービスⅢ(スリー)は、同区目黒2丁目11番、外回りの10.63キロポスト付近のやつと並んで、首都高のオービスの稼ぎ頭(かせぎがしら)だ。
 私はもうさんざん傍聴してきた。中目黒とくれば脳内に、2-8、内回り、11.23kpがぱっと浮かぶよ。

あそこは、山手通りの地下を通る、山手トンネル内だ。内回りも外回りも、独立した片側2車線で、見通しがいい。

私も何度か通行した。制限速度は60キロだが、60キロ以下で走るクルマはまずいない。80キロで走ってもどんどん追い越される、そういう道路ゆえ、稼ぎ頭になるのか。

有名社長もプロ野球の有名選手も餌食(えじき)になってきた。

 

■超過80キロ台は拘禁刑3月、執行猶予2年で決まり

速度違反の裁判だけで600件近く、私は傍聴してきた。別件で執行猶予中だとか特別な事情がない限り、首都高で超過速度が80キロ台なら、直ちに判決、「拘禁刑(2025年6月より前の犯行だと懲役)3月、執行猶予2年」で決まりだ。

もう少し詳しく言うと、主刑は昔から超過80キロ台なら3月(さんげつ)で決まり。執行猶予は、昔は3年が普通だった。その後、情状がよければ2年となり、近年はもう2年で決まりだ。

執行猶予は、要するに「その間はおとなしくしてないとヤバイぞ!」という期間なわけで、3年より2年のほうが判決的には軽い。「交通三悪」のひとつとされる速度違反は、法定刑自体が馬鹿に軽いうえ、厳罰化ならぬ“減罰化”といえる。

 

■次回判決は異例、なぜ?

直ちに判決、それが普通だ。判決を別日とするのは、私が見てきた限り、次の3つのどれかと思われる。

1、裁判官がいわば新人で、「新人のくせに直ちに判決は生意気だ。慎重にやれ」という空気がある。

2、被告人の反省がどうも浅く、またやりそうなので、「もしかして実刑(執行猶予なし)?」と不安になる期間を与える。

3、弁護人が罰金判決を強く求めており、そんなの無理なんだけども、いちおう慎重に検討した風に見せる。

3番の典型的な例が、さっき出てきた有名プロ野球選手の事件だ。

 

などと思っていたら、お世話になってる傍聴マニア氏からメールあり。ピアニスト氏の本件を傍聴したという。海外公演のビザの関係で、弁護人は罰金判決を求めたという。やっぱり3番でしたか。 

執行猶予付きでも拘禁刑だと、公務員は失職、医師は医業停止、不動産業者はさまざまな資格が取消し等の対象になる。人生に大きなダメージを受けかねない。「たかが速度違反でそんなことになるとはまったく知らなかった!」と驚き、焦り、「どうか罰金刑に」と懇願する裁判も私は多く傍聴してきた。願いが叶って罰金判決となるのは、皆無ではないが、きわめてまれだ。

有名企業に就職して頑張り抜き、長年の夢だった海外勤務が決まり、労働ビザの関係から「どうか罰金刑に」と可哀想なほど懇願、交通遺児の支援団体に100万円を贖罪寄付した若者君(超過84キロ)もいた。しかし普通に「懲役3月、執行猶予2年」を言い渡された。それきりじーっとうつむき、裁判官が何を言っても無反応だった。

 

特に、今回のピアニスト氏のケースは、大きく報道されてしまった。もしも「求刑は拘禁刑なのに罰金判決だったよ!」なんてことになったら、「あの事件は許されたのに、俺はなぜダメなんだ!」ということに、きっとなる。メンツ的に裁判所は困る。
その面からも、今回は「拘禁刑3月、執行猶予2年」で決まりだろう。

ただ、異例にも執行猶予1年ということはあり得る。大きな病院の勤務医が100万円を贖罪寄付して執行猶予1年というのを傍聴したことがある。
本件の判決も傍聴し、ここに追記しよう。

〈文=今井亮一〉