
文化を継承しながら新たなものを生み出し、歴史を更新していくこと。モンゴル出身の異形のロック・バンド、The HUが実践しているのはまさにそんな偉業だ。母国の民族衣装に身を包み、現代的なヘヴィ・ロックに伝統的な楽器や歌唱法を取り入れながら”天と地と人間”について歌う彼らのエネルギッシュなライブ・パフォーマンスと勇猛なたたずまいは、2022年夏のフジロック出演時にも注目を集めたものだが、その後も彼らの音楽は進化と深化のスピードを緩めていない。今回は、先頃リリースされた第3作『HUN』について、フロントマンのひとりであるガラーに話を聞いた。なお、このインタビューは英語とモンゴル語、そして少しばかりの日本語が入り混じった形で行なわれたものである。
『HUN』で描く「人間の内省」
―2022年当時、あなたは1stアルバム『THE GEREG』(2019年)についてThe HUのアイデンティティを提示したアルバム、2ndアルバム『RUMBLE OF THUNDER』については、そこからの進化/発展を遂げた作品になったと発言していました。その第2作から4年を経ての今作『HUN』の制作においては、どのような作品にすることを目指し、また、実際どんな作品に仕上がったと感じていますか?
ガラー:今回のアルバムは、フンヌ・ロック(=匈奴ロック)というジャンルの多面性をさまざまな角度から表したものになっている。俺たちの伝統音楽を多様な表現方法で体現しているんだ。結果、この3rdアルバムではクラシック・ロックからヘヴィ・メタルに至るまで、タイプの異なる曲を形にしてリスナーに届けることができたと思っている。実際、このアルバムの出来にも、ファンからの反応にもとても満足しているよ。
―アルバムの制作プロセスにおいて、従来の2作品とはどんな違いがありましたか?
ガラー:曲作りとかレコーディングのプロセスは、さほど変わってはいない。俺たちの中ではこのアルバムをどういうものにすべきかが明確になっていたし、プロデューサーもふんだんにアイディアを持ち込んでくれた。ただ、アルバムの全体的なコンセプトは前2作とは違っているし、収録曲ごとに発想も違う。あと、今回は全員が納得するまでスタジオでレコーディングし直した曲もいくつかあった。何度も録り直したおかげで、完成までに1年かかった曲もあるくらいなんだ。その一方で、2~3日程度で完成した曲もあった。そんな具合で、曲によって完成までの過程はそれぞれ違っていたけど、アルバム自体の制作プロセスはほぼ従来どおりだったかな。
―今作には『HUN』というシンプルなタイトルが冠せられていますが、この言葉はモンゴル語でman、human、personを指すものですよね? このタイトルにはどんな意味合いや想いが込められているんでしょうか?
ガラー:君の指摘は正しいよ。この言葉はhumanを意味するものだ。俺たちは主に、天と地の間で暮らすさまざまな人間の体験について歌っている。俺たちはリスナーに対して、このアルバムを聴きながらその人自身を見つめて欲しいと思っているんだ。人間は善い行ないもすれば悪い行ないもするものだけど、俺たちは善を讃える側でありたいし、どうすれば人はポジティブであれるのか、ということについて歌っている。どうすれば人々に活力を与えられるのか、それがその人にどんな影響や作用をもたらすものなのか、ということを常に意識しているんだ。ただ、俺たちは同時に悪を裁く立場でもある。今作で言うなら「Shadow」や「Lost Soul」、「Grey Hun」などの歌詞に目を通してもらえれば、この世にはびこるさまざまな悪のこと、それが人々にどんな悪影響を及ぼしているかということ、そしてそれを裁くことが俺たちの目的のひとつだということが理解してもらえるはずだ。俺たちとしては、アルバムを聴き終えたあとで、みんなに自分自身の内面と向き合ってもらいたい。「俺の人生は、自分をどこに連れて行こうとしているのか? この人生はどこに向かおうとしているのか?」ということを考えるきっかけになれば、と思っているんだ。その意味では、このアルバムのテーマは「人間の内省」ということになるかな。
―1曲目の「Warrior Chant」から最後の「Second Face」に至るまで、まさしくThe HUらしい壮大で勇猛な楽曲が並んでいますが、随所に実験性も感じられます。あなた自身が今作において特にチャレンジングだったと感じているのはどの曲でしょうか?
ガラー:The HUはさまざまなタイプのパワフルな楽曲をプレイすることができるし、どんなオーディエンスに対しても、ステージからエネルギーを届けることができる。ただ今回、スタジオでレコーディングするにあたっていちばんデリケートさが求められ、なおかつチャレンジだったのは「Echoes of My Father」だった。この曲には、ある種のテクニックが求められるパートがあるばかりじゃなく、どう扱うべきかが難しいテーマが伴っていたからね。タイトルが示すように、父親からもたらされる影響がテーマになっているんだけど、実際問題、父親ってものは家庭内の人間関係においてもすごく誤解されやすい立場にあるよね? そのためか、日常的な会話においても父親の話というのは避けられがちなところがあると思う。ただ、俺たち自身が実際に子を持つ父親になったことで、こうしたテーマについても他人事じゃないものとして理解することができるようになったし、俺たち自身が父親からもらってきた愛情というものについて、より深く理解することができたんだ。変な話、この曲のボーカルをレコーディングした時はめちゃくちゃエモーショナルな気分になったし、大泣きしてしまったほどだった(笑)。とても微妙でデリケートなテーマでもあるだけに、当初はかなりプレッシャーを感じていたからね。
―まさに男泣きというやつですね。その「Echoes of My Father」についてはもちろん、「Grey Hun」や「Horsemen」についてもそうですが、今回も映画を思わせるスケール感のミュージック・ビデオの数々が秀逸です。そこでの労力も相当なものだったはずだと察します。
ガラー:このバンドを始めた当初から、俺たちは人一倍の努力をして映像制作にも取り組んできた。そのことは、「Wolf Totem」や「Yuve Yuve Yu」といった過去楽曲のビデオからも伝わるはずだと思う。常にモンゴルの大自然の美しさを伝えることを重視してきたし、それこそが俺たちにとっての最優先事項でもあった。撮影はいつも大掛かりだけど、今回のアルバムに収録の「Grey Hun」のビデオについては、実は2年前には撮り終えていたんだ。撮影場所については、何処にすべきか考えに考えた末に、南ゴビ砂漠にすることにした。ところが、あの岩場の絶景の中での撮影が終わろうとしていた時、まさにビデオの最終撮影日に、ものすごい砂嵐が起きてね。あのビデオのエンディングあたりには、馬が転んだりする場面があるけど、ああいった場面はまさにその時に撮られたものだった。まるで映画の『マッド・マックス』シリーズでも観ているかのようだったよ(笑)。ただ、モンゴルの気候ってまさにああいうものだし、あの景色もまた実にモンゴルらしい。だからあの時の砂嵐さえ、そういったものを世界に向けて提示するための、自然からの恵みだったんじゃないかと思えるね(笑)。ああいった要素は、俺たちにとってはとても重要なんだ。
モンゴルの遊牧文化を次世代へ伝えていくために
―『マッド・マックス』の世界観とあなた方の音楽は相性が良さそうですよね。ところで今作では、ボーカルをシェアするメンバー各々の個性も際立ってきているように思います。あなた自身の歌唱面での他のメンバーの違いというと?
ガラー:俺のボーカル・スタイルは、カッシャ(kharkhiraa)という超低音のホーミーをベースとするものなんだ。ただ、俺たちがやっているのはあくまでロックだから、それを基盤にしながらもロック/メタル的な歌唱法を取り入れている。特に今回のアルバムでは、全11曲(日本盤はボーナス・トラックを含む全12曲を収録)でホーミーのさまざまな技法を試して、その多様さを網羅することを心掛けたつもりなんだ。たとえば「Lost Soul」での歌唱法が「Warrior Chant」のそれとは違っているのは、一聴すればわかってもらえるはずだ。つまり、あくまでホーミーが基盤にはあるけど、さまざまな歌唱法を試してみたし、俺たちには既成のジャンルとは違った新しい音楽をやっているという自負もあるから、ボーカル面でも新しいものを取り入れようとしているんだ。
―なるほど。これは皮肉ではないので誤解して欲しくないのですが、あなた方が母国の歴史や文化を重んじ、モンゴル人としてのアイデンティティを熱心に伝えようとしているのは、現在のモンゴルにおいてそれが薄まりつつあるからでもあるんじゃないでしょうか? 世界のどこかではいまだにサムライが着物姿で歩いている国だと思われている日本の腐敗した現状の中で暮らしている身としては、そんなふうにも感じられます。
ガラー:グローバル化された現代社会においては、どんな国家にとっても、その独自性や歴史の特徴を維持することが重要だと思う。今、モンゴルという国にはとても興味深い傾向がある。遊牧生活と、特定の場所にとどまる生活スタイルが共存しているんだ。新旧どちらの生活様式にも順応することに成功している、数少ない国のひとつと言えるんじゃないだろうか。そして俺たちとしては、この音楽の世界で独自性を保っていくためには、遊牧文化を次世代へと伝えていくこともきわめて重要なはずだと考えている。歴史を生き永らえさせていくために、文化は生き続けなければならない。俺たちはそう考えているし、The HUがいつも身にまとっている伝統的な民族衣装がこうして今の時代でも注目を集めているのは、俺たちの望むところだ。たとえば今年は、フェス出演時に何千頭もの馬が集まり、そこで人々の気持ちがひとつになったことがあった。国家元首も会場にやって来て、支援してくれた。そうやって文化は生き続けていくんだと思うし、そういうことを続けていくべきなんだという見解はバンド内で一致しているんだ。
Courtesy of Better Noise Music
―このインタビューが読者の目に届く頃にはすでに終了していますが、モンゴルの首都であるウランバートルでは、結成10周年記念の大規模なライブが行なわれるようですね(※同公演は去る8月8日に終了。この取材はその数日前に実施されている)。その後はマリリン・マンソンとロブ・ゾンビのジョイントによる北米ツアーに同行することになっているようですが、ツアーの一環として日本に再上陸する可能性はありそうですか?
ガラー:実は今、まさにその10周年記念公演の準備のために忙しい毎日を過ごしているんだ。その合間を縫ってこうして君と話しているというわけだよ(笑)。実のところ2026年のスケジュールはもう完全に埋まっていて、北米ツアーの後はヨーロッパを廻ることになる。残念ながら年内に日本に行くことはできないけど、2027年には是非とも行きたいところだね。日本のロック・ファンがいかにクレイジーでエネルギッシュかはすでによく知っているから、早くそっちに行ってみんなと会えることを願っているよ。
―こちらも楽しみにしています。そして、改めて10周年おめでとうございます。
ガラー:(日本語で)アリガトウゴザイマス! ワタシは10年以上マエニ日本にイッタケド、イマはニホンゴはワスレチャッタよ(笑)。
―いきなりの日本語、ビックリしました!(笑)次回の来日までにどうにか思い出してください。そして是非、日本語でインタビューしましょう(笑)。
ガラー:はははは! 頑張ってみるよ(笑)。

The HU
『HUN』
発売中
日本盤:解説、歌詞・歌詞対訳、ボーナストラック収録
再生・購入:https://thehu.lnk.to/hun
