デレク・トラックスが語る音楽哲学──クラプトン、スライ、ストーンズから受けた刺激「夢や目標が尽きることはない」

世界最高峰のスライド・ギター奏者であるデレク・トラックスと、圧倒的な歌声を誇るスーザン・テデスキが率いるテデスキ・トラックス・バンドが、今年3月リリースの最新アルバム『Future Soul』を携え、11月に名古屋、大阪、東京を巡るジャパンツアーを開催する。

約3年ぶりの来日を前に実現した、デレク・トラックスへのオフィシャルインタビューをここに掲載。結束を深めたバンドの現在地、新作に込めた思い、そしてライブへの尽きることのない情熱。スライ&ザ・ファミリー・ストーンやザ・ローリング・ストーンズのカバー、エリック・クラプトンとの忘れられない共演、ボブ・ディランのツアーにも参加したジュリアン・ラージとの交流まで。偉大な音楽家たちから刺激を受けながら、今なお新たな表現を追い求めるデレクの音楽観に迫る。

『Future Soul』と進化するバンドの現在地

―今回のツアーでファンが楽しみにできることは何でしょうか? また、あなた自身が楽しみにしていることはありますか?

デレク:ツアーが始まる1週間前から日本に行こうと、僕とスーザンで決めたんだ。これまではツアーで訪れても、日本をじっくり見る余裕がなかったから、今回は少しのんびりしようかと思ってね。楽しみだよ。

それに音楽面でも、前回日本に行ったとき以来、新曲がすごく増えたから、いろんな曲を演奏するのを楽しみにしている。家族もたくさん一緒に来るから、今回のツアーは特別なものになりそうだ。(プライベートで)沖縄にも行くんだ! 海に足をつけるくらいのことはするよ(笑)。

―おそらく日本でも演奏してくれると思いますが、新作『Future Soul』を一言で表すと、どんなアルバムですか?

デレク:これまで作った中でも、一番好きな曲が揃ったアルバムだ。今のところ、収録曲は全部ライブで演奏しているけど、どれも演奏していて本当に楽しいんだよ。まだ演奏し始めたばかりだから、ライブでやるたびに新しい発見がある。日本でも、全曲とまでは言わないまでも、かなりの曲を演奏する予定だよ。

―前回の来日から3年が経ちます。この3年間で、キャリアや個人的な経験において、大きな出来事や変化はありましたか?

デレク:僕たちの場合、一緒に演奏する時間が長くなるほど、全員が互いを信頼できるようになってきたと思う。そのおかげで、大胆なことにも挑戦できるようになった。新しいことを試したり、その場で即興演奏をしたり、思い切ったことをするのを誰も怖がらない。それがこのバンドの面白さだ。

「次、いけ!」と合図を送れば、誰もが思いきり自分らしい演奏をして、ステージを自分のものにしてくれる。そういうことができるバンドだってことが、本当に嬉しいね。

時間を重ねることで、メンバーそれぞれが持っている才能を、もっと活かせるようになってきたとも思う。ボーカリストそれぞれに見せ場があるし、ソロを担当するメンバーにもちゃんとスポットが当たる。メンバー同士の掛け合いもずっと増えた。そういう変化があるおかげで、僕たち自身もステージをさらに楽しめているんだ。

―そうやって経験を積んだことが、『Future Soul』の制作や今回のツアーにも反映されていると思いますか?

デレク:ああ。このバンドのすごいところは、スタジオに入るたびに、お互いへの音楽的な理解が深まり、学び合えることだ。それをライブに持ち込むことで、そこから広げられる表現も増えている気がする。

今のリズム隊を含むバンドの編成は、前回日本に行ったときはまだ新しくなったばかりで、ツアーも少ししか回っていなかった。でも、それ以来たくさんのライブをこなしてきた。数年前と比べても、バンドとしての結束がより一層強まったと思うよ。

―ステージでも、スタジオでも、ということですね?

デレク:その通り。

音楽は世界を救えなくても、誰かの力になれる

―あなたにとって、ステージで演奏することはどのような意味を持つのでしょうか?

デレク:僕は9歳のときからステージに立ってきた。スーザンは多分、それよりも前からだよ。だから僕たちにとってステージは、まるで「家」のようなもの。いい意味で「教会」、つまり心の拠り所だと言っていい。ステージに上がると、そのときに抱えているものすべてを解き放てる気持ちになる。そして、バンドと客席の間には特別な一体感が生まれる。

パンデミックで人と会えなくなって初めて、そういうつながりの大切さを実感したんだ。だから今、ステージに立って、オーディエンスとエネルギーを共有できることは、本当に特別なことだと思っている。当たり前だとは決して思わない。そのありがたさをいつも感じながら演奏しているよ。

―パンデミックのときは、本当に大変でしたね。

デレク:ああ、今から考えると信じられないね。

―ところで、『Future Soul』のジャケットでは、あなたとスーザンがまるでコミックのヒーローのように描かれています。収録曲にも「Hero」という曲がありますが、このヒーロー/アンチヒーローというコンセプトには、何かインスピレーションの源があるのでしょうか?

デレク:(笑)確かに、コミックに出てくるヒーローやアンチヒーローのようなイメージは意識していたよ。皮肉を込めた遊び心というか。

今、アーティストはみんな「自分たちもAIに食われるんじゃないか」という感覚を持っている。世界そのものに飲み込まれそうになる感覚というか。でも、そんな状況を笑い飛ばし、バンドとして「立ち向かってやろうじゃないか」という姿勢を見せているんだ。

目の前に立ちはだかるものに対して、自分たちにできることを、もう続けられなくなる日までやり続ける。決して音楽が世界を救えるわけじゃないけど、誰かが今日という1日を乗り越える力になれるなら、それは大きな意味のあることだ。そして実は、それが僕たち自身を支えてくれてもいるんだよ。あのジャケットは、そんなコンセプトなんだ。

それと、どこか「50年前の人々が思い描いていた未来」のようなイメージも取り入れている。50年後の現実は、思い描いていたものとはかなり違うものになってしまったけどね。アートワークを手がけてくれたのは、西海岸を拠点にアニメーションの仕事をたくさんしている、素晴らしいアーティストだ(※マーク・サッソ:マーベル・コミックス『アイアンマン』『スパイダーマン』『X-MEN』などに携わったほか、ジューダス・プリースト、モトリー・クルーなどのアルバムアートも手がけている)。

―たくさんのレパートリーがある中で、特にステージで演奏していて楽しいと感じる曲はありますか?

デレク:いつも変わるんだ。何曲か定番の曲もあるけれど、僕らのセットリストは毎晩違うからね。それでも、「Midnight in Harlem」や「Bound for Glory」は、どんなときも演奏していて楽しい曲だよ。個人的には「Pasaquan」のようなインスト曲もやっぱり好きだね。

結局は、ライブで演奏していて、そのとき一番気持ちが乗る曲、インスピレーションが湧く曲が、そのときのお気に入りになる。しかも、それは週ごとに変わるんだ。突然新鮮に感じられて、やっぱりいい曲だなと改めて思うこともある。

かと思うと、演奏しすぎてマジックが薄れてしまうこともあるから、そういうときはしばらく演奏しないでおく。久しぶりに演奏すると、また新鮮さが蘇るんだ。そういうところが音楽って面白いなと思う。僕らの場合、たくさんレパートリーがあるおかげで、曲を入れ替えたり、変化をつけたりできる。すごく恵まれているね。

―ミュージシャンとして、将来叶えたい夢や目標はありますか?

デレク:うん。夢や目標が尽きることがないっていうのが、音楽なんだよ。今日、車を運転しながらソニー・ロリンズを聴いていた。おそらく彼が60代か70代の頃に作ったアルバムなんだけど、その演奏には鬼気迫るような迫力があった。「この人はもう音楽の歴史を変えて、頂点を極めた存在だ。それでも、こんな情熱的な演奏をしている」と思うと、本当に刺激を受けるというか……。

自分もステージに立って考えるのは、そういうことなんだ。キャリアがどうなるとか、どれだけ人気があるかとか、それは自分でコントロールできない部分だ。でも、音楽にどう向き合うか、どれだけ情熱を込めて演奏するかは自分次第。だから、その情熱の火を灯し続けられたら、僕は幸せ者さ(笑)。

クラプトン、スライ、ストーンズ──先人から受け継ぐ情熱

―今年9月に開催されたエリック・クラプトン主催の「Crossroads Guitar Festival」に、テデスキ・トラックス・バンドも出演しましたよね。デレクもスーザンも何度も出演してきましたが、過去の忘れられないエピソードを教えてください。

デレク:最初の頃、バックステージを歩いていると、ヒューバート・サムリンやB.B.キング、バディ・ガイといった僕らのヒーローたちを見かけて、すごく嬉しかったのを覚えているよ。ジョニー・ウィンターが僕らのセットに飛び入りしてくれたときは、エリックがジョニーと話したいとやって来たから、僕が2人を紹介したんだ。2人が会話を交わすのを、隣で見守っていたのを覚えている。ロス・ロボスを観られたのも良かったな。

テデスキ・トラックス・バンドが初めて出演したのは、オールマン・ブラザーズ・バンドの穴を埋めるためだった(2010年6月)。グレッグの体調が悪くなり、肝臓移植を受けることになったので、急遽代わってくれと前日に連絡を受けたんだ。メンバーの中には海外ツアーに出ているやつもいて、さすがに戻る時間はなかったから、何人か代役を立てて臨んだ。

エリックとジョージ・ハリスンの「Isn't It a Pity」を演奏したのを覚えている。土壇場で決めて、前日のリハーサルで合わせたんだ。そのときの映像が残っていると思うけど、本当にパワフルな演奏だった。演奏を終えてふと見たら、カメラマンが涙を流していた。美しい瞬間だったし、何といっても美しい曲だ。そのリハーサルでの「Isn't It a Pity」が、一番印象に残っているね。

2010年の「Crossroads Guitar Festival」出演時の映像

―最近のライブでは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのメドレーを披露していますよね。カバーすることになった理由は?

デレク:だってスライは最高だし、メッセージも音楽も最高だからさ。テデスキ・トラックス・バンドは何というか、ああいう音楽を演奏するために作られたようなバンドだ。人間的にも似たような集まりだし、スライの音楽からはすごくインスピレーションを感じるよ。

僕らは毎晩変化をつけたいから、セットリストも変えるようにしているけど、彼らの曲だけは毎晩演奏したいくらいだ。でも、毎回やらないからこそ、セットリストに入ったときにはワクワクするというか、余計に楽しめるんだと思う。

―あなたにとってスライはどんな存在で、どのような影響を受けてきたのでしょうか?

デレク:彼が登場した当時、ああいったメンバー構成、つまり黒人と白人が混在するバンドで、あれほどパワフルでエレクトリックな音楽をやっているバンドは、まだそう多くなかった。いろんな意味で、道を切り拓いた人だった。世の中で起きていたことに、多くの人と同じように怒りを覚え、それを音楽で乗り越えた。そして、あまり希望が見いだせない時代に、たくさんの希望を与えてくれた。

僕にとってのスライは、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイに並ぶ存在だ。でも、スライにはバンドがあった。その素晴らしいツアー・バンドを従えて、5枚、6枚、7枚……と最高傑作を立て続けに送り出した。スティーヴィー・ワンダーにもそういう時期があったね。出すものすべてが最高傑作という時期さ。スライの曲なら、一日中だって弾いていられるよ。

スライ&ザ・ファミリー・ストーン・メドレー(2026年)

―最近のライブでは、ザ・ローリング・ストーンズの「Loving Cup」もカバーしていますね。選曲の理由は?

デレク:マイク・マティソンのアイデアさ。マイクがたまに持ってくる曲は、演奏した瞬間に「だからいつも僕たちはマイクのアイデアを取り入れるんだ」と納得させてくれる。

演奏していて本当に楽しい曲だ。ストーンズの曲の中でも、最もよく書けた曲の一つだと思う。ちょっと肩の力を抜いて、荒々しい感じに演奏できるし、いろんな方向にも持っていける。テデスキ・トラックス・バンドの持ち味にすごく合った曲だと思う。

―ストーンズの新作は聴きましたか?

デレク:まだだよ。何曲かは聴いたけど、すごく良かった。ちゃんとアルバムを全部聴かないといけないね。

―ミック・ジャガーやキース・リチャーズ、エリック・クラプトンも80歳を超えた今なお、エネルギッシュに活動しています。あなたとスーザンは、将来のキャリアや音楽活動についてどんなビジョンを描いていますか?

デレク:彼らのように、あの年齢になっても音楽を作り続けている人たちを見ると、刺激になるよ。B.B.キングとはツアーを回ったけど、B.B.だって80代まで演奏していた。最近もバディ・ガイと共演したけど、彼は90歳だ。今一緒にツアーを回っているルーカス・ネルソンの父親、ウィリー・ネルソンのこともよく知っているけど、90歳を超えてもまだ現役でツアーをしている。

僕らも負けちゃいられない、という思いさ。そうやって走り続けられることが、音楽の素晴らしさだ。彼らは何かしら秘策を持っているみたいだね。常に進化しつつ、自分たちのやり方を貫いている姿からは、大いに刺激を受けるよ。

僕らがいつまで続けられるか、それは誰にもわからないけど、人生への情熱は持ち続けたいし、音楽を作り続けたい。ツアーの大変さや旅の苦労を除けば、ツアーを辞めたいと思う理由は何もない。だって僕は大好きなんだよ、音楽が。もしかしたら、いずれは旅と仕事と自分の生活のバランスを考え、模索しなければならないのかもしれない。ミュージシャンはみんなそうだよ。でも、音楽って「歳を取ったから引退する」というものでもない。ほとんどの人がそう思っているんじゃないかな。

―「Crossroads Guitar Festival」にはジュリアン・ラージも出演しましたよね。彼はボブ・ディランのバンドへの参加で注目を集めていますし、テデスキ・トラックス・バンドとも3月にニューヨークで共演していました。実際に共演してみてどうでしたか?

デレク:最高だった。ものすごい才能の持ち主だし、とても優しくて穏やかな人なんだ。確か、ベーシストのジェイムス・ジーナス(James Genus)を通して会ったんだ。ジェイムスはそのとき、ハービー・ハンコックと演奏していて、「ジュリアンと一緒にいるんだけど、彼が行きたいと言っている」と連絡してきてくれたんだ。すぐに意気投合したよ。またジュリアンとは連絡を取るつもりだ。

もう一人、ブレイク・ミルズともいろんな音楽の話をして、意気投合した。彼もすごくいいアイデアをたくさん持っている。アイデアを交換し合える相手がいるって、楽しいね。僕も長くやっているから、彼らからいろいろと質問されることもあった。小さいけど、すごく楽しい仲間の輪という感じさ。刺激を受けるし、大好きな連中だ。

テデスキ・トラックス・バンド×ジュリアン・ラージの共演映像

―ジュリアンはギタリストとして、どんな点が特別だと思いますか?

デレク:ギターに対する視点がすごく新鮮なところかな。どう言葉で説明していいのかわからないんだけど……本当に幅広く音楽を聴いていて、アイデアに対してとてもオープンなんだ。そして、それを「人間的な」形で、押し付けがましさがまったくないように表現する。だから、一緒に演奏していてとても楽しい。

ギタリストによっては、自分を主張するのに必死なことが多いじゃないか(笑)。でも、ジュリアンのように、すごく自然に、流れるように、スッと音楽の中に入ってこられる人もいる。もっと彼の音楽を聴かなきゃと思っているよ。今年に入って聴き始めたばかりで、まだ詳しくないからね。名前は知っていたけど、ちゃんと聴いたことがなかったんだ。

―ディランはなぜジュリアンを起用したのだと思いますか?

デレク:ボブはいつもアンテナを張り巡らせて、情報をキャッチしようとする人だ。ボブが誰かに「こういうバンドが俺の曲をカバーしているらしくて……」というようなことを言っていたと聞いたことがある。そのときに流行っているものや話題になっているものは、常にチェックしているんだ。きっとジュリアンの演奏に何か彼の耳を引くものがあって、「今すぐ来い!」と自分で電話したんじゃないかと思う。それがボブのいいところだ。

エリックもそういうのが得意なんだ。しばらく前からブレイク・ミルズのことをエリックに尋ねられていたんだけど、気づいたら「Crossroads Guitar Festival」にも出演していた。そうやって、今起きていることに耳を傾けることが、音楽を若々しく保てている秘訣なんだろう。実際、楽しいことだと思う。それまで自分が知らなかった音楽を作ったり、聴いたりしている人が、自分の前に現れてくれるのは。

TEDESCHI TRUCKS BAND 2026|ウドー音楽事務所サイト

テデスキ・トラックス・バンド「FUTURE SOUL TOUR 2026」

2026年11月15日(日)愛知・COMTEC PORTBASE

2026年11月16日(月)大阪・フェスティバルホール

2026年11月18日(水)東京・SGCホール有明

2026年11月19日(木)東京・SGCホール有明

2026年11月21日(土)東京・EX THEATER ROPPONGI【追加公演】Peter Barakan's LIVE MAGIC! Edition

チケット料金(税込):

名古屋:全席指定19,000円/立見指定18,000円(別途ドリンク代)

大阪・東京(SGCホール有明):S席19,000円/A席18,000円

東京追加公演:指定席21,000円/スタンディング19,000円(別途ドリンク代)

※未就学児入場不可

公演詳細:https://www.udo.jp/shows/TTB26

テデスキ・トラックス・バンド

『Future Soul』

発売中

SHM-CD 3,300円(税込)

※日本盤ボーナストラック、解説・歌詞対訳付き

再生・購入:https://ffm.to/ttb-futuresoul