2026年9月に発生した「大型で強い」台風25号は、9月21~22日にかけて千葉県の鉄道に大きな被害をもたらした。被災路線はJR東日本の5路線と小湊鐵道。うち4区間で現在も運転見合わせが続いている。不通区間のうち、総武本線と内房線は千葉・東京方面への通勤通学利用が多い。東京方面へ直通する列車も多く、早期復旧が待たれる。一方で、利用者の少ない久留里線と小湊鐵道の復旧が危ぶまれる。

  • 台風25号による千葉県内の鉄道の被災状況。赤線が不通区間、青線が減便区間、紫線は台風以前からの不通区間(10月3日の国土交通省、JR東日本、小湊鐵道の情報をもとに、地理院地図を筆者加工)

    台風25号による千葉県内の鉄道の被災状況。赤線が不通区間、青線が減便区間、紫線は台風以前からの不通区間(10月3日の国土交通省、JR東日本、小湊鐵道の情報をもとに、地理院地図を筆者加工)

JR東日本は台風25号の勢力が大きいことを受け、9月20日夕方から首都圏の各路線で計画運休を発表した。台風25号が通過した後も、総武本線、内房線、外房線、成田線、久留里線で列車の運行を再開できなかった。小湊鐵道も不通となった。これら各路線の被災理由は、土砂流入、路盤流出、倒木など。前月にも千葉県内の各地で線状降水帯が発生し、短期的な不通区間が生じた。その雨によって地中に大量の水が残り、台風で崩れたとみられる。

河川の増水による鉄橋の流出がなかったことは救いだったかもしれない。鉄橋の再建には巨額の費用がかかり、廃線論議のきっかけになるおそれもある。廃線しないと決めても、鉄道事業者が復旧費用を全額負担できないとなれば、自治体および国と費用負担の枠組みを作るため、復旧に時間がかかる。

久留里線、廃止予定区間も「復旧予定」と報じられたが…

久留里線で不通区間となった久留里~上総亀山間は、もともと利用者が少なく、沿線自治体と協議の末、鉄道廃止・バス転換する予定となっている。JR東日本は2026年3月、同区間の鉄道事業廃止について届出を行ったと発表。廃止予定日は2027年4月1日とされている。半年後に廃止と決まっている区間に対して、復旧工事を実施するだろうか。

日本経済新聞電子版は、9月25日付の記事で「JR久留里線、廃止予定区間も『復旧予定』 台風25号で砂利流出」と報じている。上総松丘~上総亀山間で路盤流出が数カ所あり、被害の大きい区間で延長60mに及ぶという。ただし、JR東日本千葉事業本部長は「現時点では復旧するつもり」としている。産経新聞電子版の10月2日付「台風25号で運休のJR久留里線木更津-久留里間が再開 成田線佐原-銚子間4日再開へ」によると、久留里線の複数箇所で土砂流入と路盤流出が発生しているものの、復旧作業が進められているとのこと。

久留里線は、JR東日本が災害による不通以外の理由で廃止する最初の路線になる予定だった。もしJR東日本が久留里線を復旧させたとしたら、それはJR東日本の交通事業者としての誇りと責任の表れとして、筆者は賞賛したい。「せっかく直したなら、廃止を延期しても……」という声も聞こえてきそうだが、それはそれ、これはこれである。上総亀山駅周辺の亀山湖は紅葉の名所であり、関東で最も遅い紅葉スポットとしても知られる。乗り納めは紅葉の時期と決めていた鉄道ファンや観光客は筆者だけではないだろう。

小湊鐵道は自治体と新たな支援の枠組みを作ってほしい

産経新聞電子版の10月8日付「台風で被災の小湊鉄道、全線復旧まで半年から1年以上 一部でバス振替輸送開始」によると、上総牛久~上総中野間で土砂流入など26カ所の被害が確認され、全線復旧に半年から1年以上を要する見通しだという。記事では被害の内訳も詳しく紹介されている。

  • 小湊鐵道は全線復旧に半年から1年以上を要する見通しと報じられた

    小湊鐵道は全線復旧に半年から1年以上を要する見通しと報じられた

小湊鐵道は10月8日から上総牛久~上総川間駅で路線バスによる振替輸送を開始。10月14日から上総久保~里見間も同様の対応を行う。同日から平日限定で、上総牛久駅から養老渓谷駅付近まで代行バス輸送を行う。10月13日から復旧工事に着手し、完了区間から順次運転再開をめざすことも報じている。

小湊鐵道の鉄道部門は、2019年の「令和元年房総半島台風15号」と、同年10月25日に発生した大雨の影響で赤字に。翌年以降も台風と大雨が続き、度重なる運休を余儀なくされた。2022年には、回送列車が脱線するなど安全性の問題も露呈した。2023年、市原市などに対し、10年間で合計約60億円の支援を要請したが、自治体側が上総牛久~上総中野間の上下分離を提案すると、小湊鐵道は「全区間の支援」を求め、自治体側の提案を辞退した。

小湊鐵道は東京湾アクアラインを経由する高速バスなど、バス事業が鉄道事業を支えている。今後の鉄道部門について、安全に対する投資と設備更新により、内部補助にも限界があるとみている様子がうかがえる。鉄道路線は毎年のように自然災害で運休しており、今後も変わらないだろう。だからこそ、この復旧の機会に自治体と新たな枠組みを作る必要がある。

小湊鐵道も久留里線と同様、沿線に紅葉の名所があり、養老渓谷は通年のハイキングスポットとなっている。上総中野駅で接続するいすみ鉄道との房総半島横断ルートは、関東からの日帰りや1泊程度の「乗り鉄旅」として定番のひとつ。ただし、いすみ鉄道も脱線事故の影響で運休中である。「乗り鉄」の1人として、小湊鐵道・いすみ鉄道ともに復旧を待ちたい。

総武本線代行バスは時間が読めず…東金線ルート推奨も

総武本線は八街~日向間で路盤流出があり、この区間を含む八街~成東間で運休中。復旧まで1カ月程度かかる見込みとされている。現在、千葉~八街間の列車は通常の7割程度で運転され、八街~成東間は代行バス、成東~銚子間は通常の8割程度で運転されている。特急「しおさい」は銚子方面の列車が運休となり、東京~佐倉間などで、通勤時間帯に設定された上り「しおさい4・6号」、下り「しおさい11号」のみ運転している。

JR東日本はサイト内で千葉~八街間の時刻表を公開しているが、八街~成東間の代行バス、成東~銚子間の時刻表は公開していない。利用者によるSNS等での報告によると、代行バスは「株式会社 旅友」の大型貸切バス1台で、八街駅・成東駅ともに始発は6時30分発、最終便は21時発だという。所要時間は約30分で、通常時に運転される普通列車の約2倍。駅の掲示物にて、運行間隔は2時間に1本程度とされている。一方で、「成東駅で1時間に1本程度と言われた」というコメントも見られた。

成東~銚子間も「通常の8割程度」と示されているだけで、時刻表を公開していない。「JR東日本アプリ」で成東駅の時刻表を表示させても、運休しているはずの特急「しおさい」が表示されており、通常時の時刻しか出てこない。バスの時間が読めないという事情はわかるし、復旧作業に関連して発車時刻が変動するかもしれない。しかし、特急列車も運休している現在、所要時間や到着時刻の目安もない状態は不親切ではないか。

  • 大網駅経由で外房線・東金線を直通する千葉発成東行の普通列車。10月から千葉エリアにE233系が導入された

    大網駅経由で外房線・東金線を直通する千葉発成東行の普通列車。10月から千葉エリアにE233系が導入された

現地では、駅の掲示等で「千葉方面、銚子方面に、東金線と外房線を経由しての迂回が可能です」と案内されているという。外房線・東金線直通の列車に乗るか、大網駅で乗り換えることで成東駅や銚子方面に行けるため、これで代行バス区間を迂回できる。とはいえ、前述の通り成東~銚子間の時刻表がわからないため、到着時刻が読めないことに変わりはない。

東京~銚子間は高速バスがあるので、長距離利用者は高速バスを使うだろう。だからといって、鉄道が不案内で良いわけがない。地元の人々は困らないのだろうか。そもそも鉄道利用者が少ないのだとしたら、少し残念な状況だと筆者は思う。

内房線の不通区間にバス集結、1日約100台の代行輸送が始まる

内房線は姉ケ崎~長浦間の複数箇所で、隣接の法面が崩壊して大量の土砂が線路に流れ込み、架線柱もなぎ倒したという。この区間を含む姉ケ崎~木更津間で列車が運休となり、復旧に3カ月程度かかる見込みとされている。線路の土砂を取り除くだけでなく、同様の土砂崩れが起きないように法面を改良する必要がある。改良工事を行う箇所がJR東日本の敷地でない場合、地主や行政との交渉も必要になる。土砂で損傷したレールの歪みや信号回路を確認し、場合によってはレールを敷き直すこともある。

内房線の蘇我~君津間は、通常時において横須賀線・総武快速線の一部列車が乗り入れるなど大きな通勤需要がある。姉ケ崎~長浦間はその区間内にあり、千葉・東京方面の通勤通学需要が大きいと考えられる。通常時、横須賀線・総武快速線から直通する列車は15両編成または11両編成、千葉駅折返しの普通列車はおもに6~8両編成で運転されている。

  • 内房線蘇我~君津間は横須賀線・総武快速線のE235系も乗り入れる区間。現在は姉ケ崎~長浦間で運転見合わせに

    内房線蘇我~君津間は横須賀線・総武快速線のE235系も乗り入れる区間。現在は姉ケ崎~長浦間で運転見合わせに

JR東日本は9月28日、姉ケ崎~木更津間で運行予定だった代行バスの延期を発表。十分な台数のバスを確保できなかったためと説明した。姉ケ崎駅付近を走る列車がつねに満員ではなかったとしても、長編成の列車をバスで代行する際、路線バス1~2台では足りない。大勢の利用者がバス1台に乗り込もうとすると危険だし、乗れなかった利用者を長時間待たせてしまう。

JR東日本は千葉県や国に協力を要請し、バス事業者に応援を頼んだ。しかし、バス事業者は9月の大型連休で貸切バスを観光ツアーに充てていた。路線バスは近年の運転手不足もあり、他社の応援に出すゆとりがない。そこへ救世主が現れた。小湊鐵道と東京都交通局である。

小湊鐵道はすでに姉ケ崎~長浦間でバス路線「長02」系統、長浦~木更津間でバス路線「木22」系統を有している。そこで、新たに姉ケ崎駅から長浦駅まで直行する臨時バスを設定し、9月30日から運行開始した。代行バスではないため、鉄道の運賃とは異なり、小湊バスが設定した運賃440円で運行している。

東京都は都営バス10台と運転士を派遣。小湊鐵道の臨時便に参加し、共同運行とした。ちなみに、東京都も料金を受け取るが、臨時収入として被災地に寄付するとのこと。

バス事業者は運転士不足と働き方改革の影響下にあり、路線維持の努力が続いている。小湊鐵道も例外ではなく、2024年3~4月にかけて大幅な減便と路線休止を行った。こうした苦しい事情の中でも、JR線の不通区間に代行バスを提供している。東京都も協力し、東京都交通局のバス10台と運転士10人を供出。アクアライン経由で回送した。運転士はバス路線運転経験を持つ内勤職員を充当し、都営バスの運行を維持した。

JR東日本は代行バスによる輸送力を補うため、長浦駅に折返し設備を仮設した。当初の不通区間は姉ケ崎~木更津間(16.2km)だったが、これは同区間の途中駅に列車の折返し設備がないという事情もあった。長浦駅の折返し設備により、内房線の不通区間が姉ケ崎~長浦間(5.4km)に短縮され、なるべく少ない台数で代行バスを運用できるようにした。

国土交通省の呼びかけで、多くの事業者がバスを提供。10月5日からバス代行輸送が始まり、「1日に30~60社、約100台ほどのバスが運行している」と報じられた。これを受けて、小湊鐵道と東京都による臨時便は10月4日をもって終了した。代行バスは千葉県、東京都の事業者が多くを占める中、福島県の福島交通、栃木県の関東自動車も参加している。もちろん小湊鐵道も参加している。交通事業者の矜持といえるだろう。

千葉県はバス代行輸送を補完するため、10月14日からシェアサイクルを開始する予定。電動アシスト自転車を姉ケ崎駅・長浦駅の両駅合計で130台配備し、10月16日までに300台へ拡大するという。12時間まで無料とのことで、通勤・通学、買い物などで利用されるだろう。

これだけ多くのバス事業者が集まる機会は珍しく、現地の様子を見に訪れるファンもいるという。被災した区間や代行輸送の様子に関心を持つこと自体は自然なことだが、訪問する際は、被災地域で暮らす人々や、通勤・通学などで移動する人々への配慮を忘れないようにしたい。現地を訪れるなら、地元の店舗で飲食するなど、無理のない範囲で地域経済への貢献につなげることもできるだろう。代行バスやシェアサイクルを利用する場合も、地元の人々の移動を妨げないよう、運行状況や利用条件を確認したほうがいい。道路や駅周辺で撮影する場合も、交通の妨げにならないよう、安全に十分注意してほしい。

10月9日、内閣府は「令和8年梅雨前線豪雨」から「台風第25号」までの一連の気象現象による災害について、「激甚災害」と指定する見込みと発表した。鉄道軌道整備法では、激甚災害など大規模な災害を受けた鉄道路線について、復旧費用を国と自治体が2分の1ずつ負担できる。鉄道の復旧だけでなく、経営が厳しい中で代行輸送したバス事業者も支援してほしい。