
毎年恒例のモントレー・オークションは、コレクターカー市場の趨勢を決定づける存在だ。だが、今年の結果はそれほど単純に読み解けるものなのか。ジョン・メイヘッドがその結果を検証する。
【画像】ランボルギーニ・ミウラ、フェラーリ・ルーチェ、シボレー・コルベットなど、モントレーのオークションを彩った車両たち(写真6点)
なんとも凄まじいことになった。2026年モントレー・カー・ウィークに合わせて開催された5つの主要オークションは、単に記録を更新したという程度ではなく、それまでの記録を打ち砕いた。落札総額は7億5830万ドル(約1200億円:概算で日本円に換算。以下同)(しかもまだ増える可能性がある)に達し、ロックダウン後の活況に沸いた2022年に記録した従来最高額の4億7120万ドル(約750億円)を61%上回った。さらに1000万ドル(約16億円)を超える価格で落札された車は11台。過去2年はいずれも3台に過ぎなかった。
ニュースの見出しやソーシャルメディアの話題は高額落札車に集中し、そこには人々を惹きつけるエピソードがいくつもあった。2026年フェラーリ・ルーチェ・テーラーメイド(RMサザビーズ、チャリティ出品)をハービー・ワートハイム博士が4000万ドル(約64億円)で落札したことはネット上を騒然とさせた。しかし、すでに本誌でお読みになったかもしれないが、この週の最高額を記録したのは1964年シェルビー・コブラ・デイトナ・クーペ(グッディング・クリスティーズ)で、落札額は4290万5000ドル(約68億円)だった。公開オークションで落札されたアメリカ車として史上最高額となった。
他にも記録が次々と塗り替えられた。以前にも取り上げているニック・メイスン旧蔵の1996年マクラーレンF1 GTRは3465万5000ドル(約55億円)で落札され、公開オークションにおける英国車の史上最高額を記録した。シボレーの記録を更新したのは1963年コルベット・グランスポーツで、落札額は1870万ドル(約30億円)。オークション開催前に、落札予想価格が低すぎるのではないかと筆者が匂わせておいた車両だ!さらにRMサザビーズでは、ルバロンが手掛けた1934年パッカード1108トゥエルヴ・インディヴィジュアル・カスタム・スポーツ・フェートンが430万ドル(約6億8000万円)を記録し、パッカードの最高額を更新した。
フェラーリのいわゆる”ハローモデル”も、2026年に入って続く天井知らずの価格上昇を維持した。288GTO、F40、F50はいずれも新記録を樹立し、他のスーパーカーもそれに続いた。アド・ペルソナム仕様の2010年ランボルギーニ・ムルシェラゴLP640スーパーヴェローチェは310万ドル(約4億9000万円)という新たな基準を打ち立て、カウンタックLP400Sも240万ドル(約3億8000万円)を記録した。ブガッティ・ヴェイロン・グランドスポーツとヘネシー・ヴェノムF5も、それぞれ新記録を更新した。
同じ個体が再び市場に出された際の落札価格は、市場の動きを知る上でしばしば最良の指標となる。その間に施されたレストアなどは考慮されないものの、今回もおおむね同じ傾向を示していた。2025年のグッディング&カンパニーによるアメリアのオークションで245万ドル(約3億9000万円)を記録した1968年ランボルギーニ・ミウラP400Sは、ザ・クエイルでブロード・アローが407万5000ドル(約6億5000万円)で売却した。わずか1年余りで66%の上昇であり、近年このモデルへの需要が急速に高まっていることの何よりの証だろう。メカムで357万5000ドル(約5億7000万円)を記録した2005年ポルシェ・カレラGTも同様の軌跡を辿っている。2023年1月にバレット・ジャクソンで159万5000ドル(約2億5000万円)だった個体が、3年足らずで200万ドル(約3億2000万円)近く上昇したのだ。
だが、本当に注目すべきなのは、市場の二極化がさらに進んだことだった。1984年以降に生産された比較的新しいスーパーカーは、ドル換算の落札総額の40.1%を占めた。一方、出品台数で最も多かったのは1950年代と1960年代のクラシックカーで、全ロットの3分の1以上を占めている。しかも、この二年代だけがハガティの予想評価額に届かず、それぞれ7%、8%下回った。つまり、現代のスーパーカーが総額を過度なまでに押し上げている一方で、古いクラシックカーには思わぬお買い得な車も生まれていたのである。平均製造年1962年の車176台が、最低予想額の80%にも満たない価格で落札された。
なかには、落札前の予想価格から割合にして大幅に値を下げたものもあった。リック・ボッシャーがカスタムを手掛け、400ci V8を搭載した1963年コルベット・スティングレイ・コンバーチブルは、メカムで3万3000ドル(約530万円)という価格で落札された。10~12万ドル(約1600万~1900万円)という予想価格のおよそ3分の1にすぎない。また、3台のモーターサイクルを搭載できるようスクアドラ・コルセ仕様にレストアされ、展示用の不動MVアグスタ750Sまで付属した希少なMVアグスタ1100 D2アウトカロのフラットベッドは、ブロード・アローでわずか4万4800ドル(約720万円)だった。事前の17万5000~20万ドル(約2800万~3200万円)という、いささか楽観的な予想額を大きく下回った。
グッディング・クリスティーズでは、1924年シュナール&ワルケールT5ロードスターが7万ドル(約1100万円)で落札され、25万~30万ドル(約4000~4800万円)の予想額には遠く及ばなかった。見事なアヴィオン・ヴォワザンC3リムジンも、予想価格の10万~15万ドル(約1600万~2400万円)に対して4万320ドル(約640万円)という価格だった。さらに同じメーカーのC6ラボラトワールのリクリエーションは、ペブルビーチへの参加歴を持ち、側面にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのステッカーまで残されていたにもかかわらず、20万~30万ドル(約3200万~4800万円)の予想額に対してわずか12万3000ドル(約2000万円)だった。この3台はいずれもマリン・コレクションの旧蔵車で、戦前を代表する名門メーカーの車だった。
”お買い得”という意味では、高額車両の中でもそのような例が見受けられた。1936年メルセデス・ベンツ500Kジンデルフィンゲン(メカム)は、最低予想額の250万ドル(約4億円)に対して126万5000ドル(約2億円)だった。1968年ポルシェ907ラングヘック(グッディング・クリスティーズ)は450万ドル(約7億2000万円)の予想に対し330万5000ドル(約5億3000万円)、1937年ドラエ145カブリオレ(RMサザビーズ)は同じく450万ドル(約7億2000万円)の予想に対して341万5000ドル(約5億4000万円)だった。予想額を最も大きく下回った15台のうち11台が戦前車だったことを考えると、売り手側の期待値が現実より高くなっている可能性がある。
他にも興味深い車があった。1904年カーブドダッシュ・オールズモビルは、かつてアンティーク・オートモービル・クラブ・オブ・アメリカ(AACA)のグランド・ナショナルで受賞歴があり、ロンドン・トゥ・ブライトンへの参加資格も得られる可能性を持つ一台だが、RMサザビーズで実に妥当と思える5万8800ドル(約930万円)で落札された。また、マッチングナンバーの1950年タルボ・ラーゴT26レコード・ベルリーヌは、ブロード・アローでたった3万3600ドル(約530万円)だった。たしかに、1950年代のサルーンであり、いわば自動車界における「茶色い家具(訳注:現代の感覚からすると堅苦しく、格式張りすぎていると思われがちな、しっかりと作られたトラディショナルなもの)」のような存在なのは分かっている。それでも、まともなMGC一台分の値段で手に入る車としては、途方もなく珍しく魅力的な存在ではないか。
こうした一見お買い得に映る車の多くに共通するのは、ひと癖あったり、現在の流行から外れていたりすることだ。信じ難いほどの入札額を次々と叩き出し、価格が高騰するスーパーカーとは、まさに対極にある存在である。この市場の乖離はきわめて大きい。そして先に述べたように、スーパーカーが数字を大きく歪め、市場全体が活況を呈しているかのように見せている。
だが、実際にはそうではない。一方で、メーカーのウェイティングリストで自らの順位を上げるため、あるいは大幅な値上がりを期待して巨額を投じる一部の買い手もいる。しかも伝え聞くところでは、そうした購入に占めるファイナンスの比率も高まっているという。当然ながら、彼らが負うリスクも増している。もっとも、市場がここまで大きく二極化している以上、仮にそうした価格に調整が入ったとしても、大多数の愛好家向けクラシックカーの価値にはさほど影響しないだろう。こちらはすでに相場が軟化しており、実質的にみれば、多くの人に手が届き得る価格で実に興味深い車を見つけられる水準まで下がっている。
文:John Mayhead 翻訳:西原和希