【オールド・タイマー 210号[2026年10月号]】 極東開発工業70周年 オート三輪再生の軌跡 DAIHATSU CO10D 〈1964〉 油圧機構の再生編

オールド・タイマー207号の「気になるレストア1」で展開した、極東開発工業のオート三輪レストアプロジェクト。こちらは同社の70周年記念事業の目玉企画であり、本誌ではその発端や経緯、完成した車両の姿を掲載した。オールド・タイマー209号の「荷台の板金作業編」に続き、「油圧機構の再生編」をお届けする。

ダイハツCO10Dのレストアに際し、極東開発工業が行なった作業は、荷台の再生と油圧機構のオーバーホールである。これは車両の生産当時、同社が製造し架装した部分。およそ60年の時を経て、自社の技術の変遷をたどる旅となった。

現代とは異なる設計

前回は、ダイハツCO10D型ダンプトラックの荷台部分のレストアの模様をお伝えした。極東開発工業の社内で、傷んだ荷台の各部の板金修理および、再使用不可の部分は残存の図面や現物を参考に新規製作。往時の姿そのままの荷台を、見事に再現していた。

 この美しく甦った荷台を機能させるには、シャシー側と荷台を繋ぐ“油圧機構”も復活させる必要がある。荷台に守られ、比較的コンディションは悪化しにくいと思われる油圧機構であるが、製造から60余年が経ち、フルオーバーホールは免れないだろう。

●レストア前の油圧機構一式。中央の大きな筒がシリンダーで、その両脇にある三角形の部品を含むリンクを介し、荷台をダンプさせる。全体的に土汚れが付着しているが、大きなサビ、腐食はなさそうなのが幸いだ

●極東開発工業に残されていた油圧機構、ホイスト機構の図面。左下の側面図を見ると、下部のオイルポンプ(②)、シリンダーを含むホイスト機構(①)のレイアウトがよくわかる

CO10Dに備わっている油圧機構は、荷台をダンプさせるための油圧を生み出すオイルポンプ、その油圧を受けて直接荷台を持ち上げるシリンダー、そして、エンジンからの動力を振り分け、オイルポンプを作動させるためのPTO(パワーテイクオフ)の3つに大別できる。この3つをまとめて「開発部油機課」が担当し、レストアすることになった。

長年の使用と経年劣化により、油と泥汚れにまみれた油圧機構は、まず手作業でそれらをかき落とすことから作業が始められた。汚れの堆積により、一部は本来の形状がわからないほどである。これは一般的なレストアにおいても、エンジンやミッション、足まわりなどで必ず経ることになる“汚れ”作業だ。

その後、各部を分解してゆくことになるが、作業を担当した津山 遼さん、樫本有司さんの両名は、普段扱う油圧機構との違いに戸惑うことになる。

CO10Dの時代に作られた油圧機構の最大の特徴は、オイルポンプとシリンダーが一体構造になった設計にあった。現行製品はオイルポンプをシャシー側に固定し、フレシキブルホースを経てシリンダー側に油圧を導く、いわゆる別体構造の油圧機構を持つものが一般的。しかしこれらを一体化することは、現代の技術者の目には「セオリーから外れた設計」に映ったという。

●シリンダー底部に鉄製のパイプが固定され、写真の右奥にあるオイルポンプに接続される。ここが一体構造たるゆえんで、荷台のダンプ時には、シリンダーと一緒にオイルポンプも揺動(ようどう)することになる

無論、それぞれに長所・短所がある。現行の別体構造は車両側に合わせたアレンジのしやすさ、長いシリンダーストロークの確保といった利点を持つ。一方でCO10Dの一体型は、とにかく堅牢な作りが身上と言えよう。装着車種のバリエーションが少ない時代背景、恐らく今以上に過酷な使用状況……。一体構造を採用した油圧機構には、当時の設計者の明確な意図があったことだろう。

このレストアを通し、担当した技術者は人知れず悩みを抱えたこともあったはずだ。しかしその悩みは、今後の仕事の取り組みにも役立つ、多くの“引き出し”を与えてくれたに違いない。

●オイルポンプ本体と、手前は油圧回路を切り替えるためのシャフト(車体との接続は切り離されている)。下部のフランジはPTOからのドライブシャフト接続部で、ここから動力を受け取り、ポンプ内部で油圧を発生させる

●オイルポンプを分解。手に持つのは「グランドパッキン」の調整ボルト。これを適切に締め付けることで、本体奥のグランドパッキンを圧縮し、オイルの密封度をコントロールする。細い針金で緩み止めの処理がされていた

●ポンプ本体のカバーを外すと、2枚のギヤが顔を出した。動力を受けてギヤが回転し、ギヤの歯と本体の隙間に入ったオイルが運ばれ、出口から圧力を伴って吐出される。なお、このポンプの型式は「KP-35」である

●徹底した洗浄とパッキン類の交換をし、組み立てた上で塗装。オイルシールは同じものがなく、サイズを計測した上で内外径が同じものを見つけ出し、2枚重ねにすることで対処した。これでオイルポンプの機能が回復

●次はシリンダーだ。写真はトップカバーを外し、ロッドとピストンを抜き出したところ。分解し点検したところ、シリンダーの内壁はキレイな状態で、当時の製品の品質の高さが実感できたという

●これはシリンダーの下部に取り付けられる「トラニオン」と呼ばれる部品。シリンダー本体が揺動する際の軸となる部品で、現行品は鍛造が多い。だが、レストア中のものは板金組み立てである

●シリンダーロッドは硬質クロームで再メッキ。4重になったピストンリングは再利用をして組み立てる。現行製品はゴムのパッキンも併用するが、これの場合油圧を受けるのはピストンリングのみ。多少の漏れは許容していたようだ

●シリンダーを組み立てる。ピストンリングを圧縮するための治具がなく、グリスを塗りながら苦労をして押し込むことになった。かなりの重量物であり、チェーンブロックで吊りながらの作業となった

●シリンダー、トラニオンともに塗装し、組み立てたところ。塗装の際は、現行製品に使う塗料と同じものを使用した。この方式の油圧機構は、シリンダー自体がオイルタンクの役目も兼ねるという合理的設計

●次は「パワーテイクオフ」ことPTOの作業だ。エンジンで発生した動力を、トランスミッションから振り分けて取り出し、走行以外の動力を得るための装置がこのPTOである

●PTOの内部。中央のシャフトの上を、その下のギヤがスライドすることで、トランスミッション側との機械的な断続を行う構造。組み立て時、交換が必須のオイルシールはスズキの二輪用がぴったりだった

●パッキン付きのボルトを緩めると、中にはスチールボールと、それを奥に押し込むスプリングが入っていた。ギヤのスライド機構を適正な位置に固定し、操作に節度感を持たせる

●完成し、車両側に取り付けられた油圧機構の一式。リンク部分は荷台と一緒に作業を分担しつつ仕上げた。作動確認はぶっつけ本番となり、最初はうまく動かなかったが、エア抜きをするなど何度かトライすると正常に作動するようになった

〈文=神山雅道(オールド・タイマー編集部)〉

〈写真=極東開発工業/岡 拓〉

〈取材協力=極東開発工業〉