新型A110の誕生間近!フィリップ・クリエフCEOに聞く、アルピーヌの将来図

現在のアルピーヌが、フィリップ・クリエフ氏という新しい最高経営責任者(CEO)を迎えたのは2023年7月のことだった。実際にはそれより10カ月ほど前に、ルノー・グループの最高技術責任者(CTO)に抜擢されていた彼は、さらにそのキャリアをさかのぼるのならば、フェラーリやアルファロメオのエンジニアリング部門で多くの実績を積み重ねてきた。30年ほど前には某タイヤメーカーの社員として日本での勤務も体験している。

【画像】アルピーヌのフィリップ・クリエフCEOとA110(写真15点)

それだけにクリエフ氏は、アルピーヌというブランドの日本における平均的な顧客層を正確に分析していた。

「ヨーロッパやフランスの平均的な顧客と大きく変わることはありません。平均年齢は56歳か57歳くらい。男性が中心です。それはこれまでA110が純粋なスポーツカーだったからです。明日私は、8人の顧客に直接会う時間を用意してもらったのですが、そのうち2人は女性です。アルピーヌは女性層も惹きつけたいと考えているのです。スポーツカーだけでなく、A290のような製品においても。昨日名古屋や大阪にいた時に、ミニをたくさん見かけました。つまりA290もまた、女性層に選択される余地がまだまだあるということです」

アルピーヌの最新技術といえば、それはやはり電動車プラットフォームとして新開発されたAPP(アルピーヌ・パフォーマンス・プラットフォーム)が話題だ。すでにアルピーヌからは、このプラットフォームを使用して、4タイプのモデルが市場に投入されることが決定している。2シーターのクーペとオープン、そして2+2シーターのクーペとオープンがそれだ。これ以外にAPPの拡張性を生かした新型車は誕生するのだろうか。

「まずはこの4モデルを実現してからの話になりますね。その後は私たちが成長を狙う市場しだいです。現在はヨーロッパ、アジア、そしてその次に北米ですので、この北米向けにAPPをベースにした特定のモデルが必要になるかもしれません。重要なのはこのプラットフォームとその拡張性によって、非常に多様なタイプの車を作れるということにあります」

アルピーヌ・ブランドについても質問した。A110はアルピーヌの歴史の中でも特に象徴的なモデルだが、熱心なファンの中にはA310やA610の後継車を強く望む声もある。

「私たちは今、A310を成功させたモデルについて考えています。APPはもちろんA110のベースになりますが、このプラットフォームのおかげでA310のようなモデルを開発することも可能です。それも私たちが検討していることのひとつです」

APPに搭載されるリチウムイオンバッテリーについて、5月にフランスで開催されたテックデイで、そのエネルギー密度は1Lあたり750Wh、もしくは1kgあたり275kWhと紹介された。そしてアルピーヌはバッテリーの搭載量よりも、このエネルギー密度を重視したエンジニアリングを行っていくと。

「そのとおりです。この非常に高いエネルギー密度のおかげで、A110の車体サイズ、特に車高を低く維持することができます。アルピーヌにとって重要コンセプトはどれだけのエネルギーを詰め込むのかではなく、可能な限り少ない容積と重量で、どれだけエネルギーを確保することができるかにあるのです。優先事項は軽くて美しい車、A110のような車を作ることだからです。大きな車や背の高い車を作ることは簡単です。床下にバッテリーを搭載すればいいだけの話ですから。しかしながら私たちは、真のA110を作ることを目標としてきました」

その一方でユーザーが気になるのは、やはり一充電あたりの走行可能距離ということになるだろう。

「私たちがA110、すなわちスポーツカーとして最重要視したのは、サーキットで長時間走行できることでした。少なくとも20分間のサーキット走行をフルパフォーマンスでこなせるようにしたかったのです。それができれば、結果として航続距離は550kmに達する見込みです。十分な距離といえるでしょう。最も過酷なのはサーキット走行でのパフォーマンスで、それを満たせば自動的に長い航続距離が得られるのです。言葉を変えるのならば、顧客に600kmの航続距離を与えるのではなく、20分間のフルパフォーマンス走行と、550kmの航続距離を与えるというのがアルピーヌのコンセプトになりますね」

2シーターモデルと2+2シーターモデルとでは、キャラクターやデザインに違いはあるのだろうか。

「2+2の方が航続距離は長くなるでしょう。2シーターではプラットフォームの前後に分割して搭載されるバッテリーは、2+2では床下に搭載されます。ホイールベースも長くなるでしょう。4WDバージョンも用意されます。2+2は技術的な特性として、2シーターとは少し異なる顧客層をターゲットにしています。週末に子供2人や友人と出かける時、2+2なら荷物を積むスペースも十分にあります。少し多用途に感じる車になりますね」

「アルピーヌの社内で重要視しているのは、いわゆるファミリー感を演出することです。まったく同じではありませんが、アルピーヌというブランドの車に乗っているという感覚を与えます。新しいA110から、このファミリー感を私は打ち出したいのです。私たちはすでに自分たちのファミリー感を決定しました。それはおそらく来年にはお見せすることができるでしょう」

アルピーヌのファンにとってもうひとつ気になるのは、彼らがこれからBEVブランドとしての道を歩むのかどうかだろう。最後にICE(内燃機関)に関しての取り組みについてクリエフ氏に伺った。

「将来的にアルピーヌ車のほとんどは、ディエップの工場で生産されます、現在同工場で生産されていない唯一のモデルはA290ですが、A390はディエップで生産されます。現行のA110もそうでしたし、新型A110ももちろんそうです。現行のA110はヨーロッパでの規制のために、すでに生産を終了しています。しかし新型A110とICEの組み合わせについては、市場や機会しだいと答えておくべきでしょう。また再開するかもしれません。現在は計画にはありませんが、技術的には可能です」

新型A110の誕生を目前に控え、これからますますスポーツカー・ファンの心を刺激していくブランドとなるだろうアルピーヌ。その成功への道のりは、確実に前へと歩を進めているようだ。

文:山崎元裕 写真:アルピーヌ

Words: Motohiro YAMAZAKI Photography: Alpine