国内シェアナンバーワンを誇るモバイルバッテリーシェアリングサービス「CHARGESPOT(チャージスポット)」が、大きな実証実験に乗り出した。

6月15日から10月31日まで、九州エリア限定で実施される「新料金プラン」。24時間借りてもワンコイン以下の495円、6時間なら330円という、これまでの中間料金を大幅に見直した内容となっている。

なぜ今、九州を舞台にあえて値下げに踏み切るのか。運営会社INFORICHの石橋晋さんに、その狙いについて詳しくお聞きした。

  • (INFORICH・マーケティング部 統括部長 石橋晋さん)

    (INFORICH・マーケティング部 統括部長 石橋晋さん)

最大の狙いは「翌月も使ってくれるか」というリテンション率の向上

――今回、九州エリアで大胆な新料金プランを導入されました。まず、その最大の狙いから教えてください。

最大の狙いは、リテンション率(継続利用率)を上げていきたいというところにあります。特に「翌月リテンション」と呼んでいるのですが、新規ユーザーの方が初めて使った後に、翌月もまた使ってくださるかどうか。ここが私たちにとって重要なKPIになっています。

過去のデータを深掘りしていくと、料金が安かった時期のほうがリテンション率が高いという結果が見えてきたんです。当たり前ですが、安いほうが手軽に使い続けてもらいやすい。逆に、高いと思われてしまうと、次は使うのをためらってしまう。今回、大胆に価格を下げることでリテンション率を上げ、その結果として売上を伸ばすことができるか。それを九州でテストしている状況です。

――テストの場として、なぜ九州を選ばれたのでしょう。

福岡が大都市圏で、東京や大阪と同じような行動が起きるかどうかをテストするのに適しているんです。さらに福岡だけでなく、近隣の都市から通勤されている方や旅行者も含めて、エリア全体でテストしたいと考えた時に九州がちょうど良かった。

九州は海に囲まれていて、人の行き来が九州内で完結しやすい。例えば、テストしたのが埼玉なら、「東京で借りた時は安かったけど、地元に帰ったら高くなっている」という状況になります。そういった混乱を招かず、生活圏全体で安さを体感してもらいたかったんです。特に福岡はサービス開始当初から重点的にCHARGESPOTを設置してきたエリアなので、ユーザーの成熟度が高いのも選んだ理由のひとつです。

「6時間330円、24時間495円」の価格設定に行き着いた理由

――今回の新料金では、特に“短時間利用”の価格が大きく見直されているように感じます。このような料金体系にした理由を教えてください。

  • (テーマパーク等、一部の特別料金適用スポットは対象外。CHARGESPOT Pass、CHARGESPOT Businessユーザーは従来通りの利用料金となる)

    (テーマパーク等、一部の特別料金適用スポットは対象外。CHARGESPOT Pass、CHARGESPOT Businessユーザーは従来通りの利用料金となる)

今回、半額に値下げした「30分以上1時間未満」という時間帯ですが、実はこの時間で使った方のリテンション率が一番低かったんです。私たちとしては1時間330円でも安いという自負があったのですが、1時間って意外と長いようで短いんですよね。

例えば、都内で借りて1時間ぐらいかかる通勤をされている方が、地元の駅で返そうと思ったら、ちょうど1時間を数分オーバーしてしまった……とか。私自身も千葉から都内に通っているのでよくわかりますが、1時間で借りて返すというのは、意外と難しい。だからこそ、料金的に満足いただけない部分もあったのでしょう。なので、30分未満使用の価格と同じ165円に収まるように設計しました。

――リテンション率をもとに綿密に料金設定をされているのですね。

適正価格や許容できる価格帯を探る調査を行ったのですが、以前の料金体系では「1時間を超えたあたり」から、多くのユーザーが「高すぎる」と感じていたことがわかりました。

私たちのミッションは、充電のストレスをなくすことです。でも「借りる」という行動のあとには、必ず「返す」というタスクが生まれます。その返すまでの工程をストレスなく設計できないと、私たちのミッションは達成できません。そこを突き詰めた結果、6時間330円、24時間495円という形に行きつきました。

「利用時間を長く借りる人ほど、また使ってくれる」という意外なデータ

――他にも、データを見て気づいたことはありますか?

実は「利用時間が長ければ長いほどリピート率が高い」ということもわかっています。長く借りると料金が高くなるから次から控える、と思われがちですが、実際は逆でした。

なぜかというと、長く借りる人のほうが「違う店舗で返している」確率が高いんです。新規の方は、同じ場所で返さなきゃいけないと思っているケースも多いのですが、私たちのサービスの価値は「どこでも返せる」こと。渋谷で借りて、地元のコンビニで返す。この利便性をしっかり体験していただくには、6時間や7時間といった長い時間使ってもらうほうがいいんです。

30分未満で返す人と、6時間ぐらい借りてくれた人を比較すると、LTV(顧客生涯価値: 顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益の総額)で1.5倍ぐらいの差があります。今回の新料金で6時間まで330円、24時間まで495円と設定したのも、ゆとりを持ってこの体験の価値を感じてほしいと思ったからです。

――以前、価格改定によって新規ユーザーが伸び悩んだ時期もあったとお聞きしました。

そうですね。2024年に値上げをした際、一番安かった165円という単価をなくしたことがあったのですが、その当時、新規ユーザーのコンバージョン率もリテンション率も悪化してしまったんです。

当時は「今月の売上が上がればいい」という、事業者側の目線、スナップショット的な捉え方をしてしまっていたんだと思います。でも実態は、30分でもとにかく安く済ませたい時もあれば、家まで持って帰りたい時もある。このときの教訓もあって、今は「ユーザーにとって最適な価格を、もっと長いスパンで考えよう」という風に変わっています。

全社を挙げて「九州」に思いを馳せる

――今回のプロジェクトは、かなり力を入れたプロモーションも展開されますね。

このプロジェクトは、全社で取り組まなければ成功しないと思っているので、社内でもかなり機運を高めています。たとえば、毎週の朝礼で関連トピックスを共有したり、九州でCHARGESPOT設置をさらに強化したり。

面白いことに、そこからさまざまなコラボレーションも生まれてきました。九州出身のシンガーソングライターの方にライブをやってもらおうとか、公式キャラクター「チャポポ」の着ぐるみを作って、九州でのサンプリングに連れて行こうとか。

――石橋さんご自身も、現場に行かれるのですか。

もちろんです。メンバーにも「1人1回は必ず行ってほしい」と伝えています。九州で最もレンタルされている店舗「トップ100」のリストを作り、まずはその店舗でのCHARGESPOTの見え方を完璧にしようと動いています。CHARGESPOTスタンドに販促物が付いていなければ店員さんとお話しして付けてもらったり、不具合があればすぐ改善したり。現場の肌感を大事にしています。

今のところ、梅雨や台風の影響でまだ初速がはっきり見えていない部分もありますが、毎日数字をチェックして九州に思いを馳せています(笑)。価格を下げることは、ユーザーの皆さんにとってメリットのある取り組みだと思っていますし、自信を持って届けていきたいです。

  • (その後、実際に九州へ足を運び、公式キャラクターのチャポポと一緒にCHARGESPOTをアピールしていた石橋さん)

    (その後、実際に九州へ足を運び、公式キャラクターのチャポポと一緒にCHARGESPOTをアピールしていた石橋さん)

充電の「地味なストレス」から解放したい

――今後、CHARGESPOTをどのようにユーザーに浸透させていきたいですか。

スマホの充電って、地味ですけど意外とストレスなんですよね。寝る前に充電しなきゃいけないとか、朝起きたら充電できていなくて焦るとか。モバイルバッテリーを持ち歩くのも、コードを忘れないようにするのも、実は細かいストレスなんです。

私たちのサービスさえ使っていただければ、それらから解放されるという自負があります。なので、なるべく日常使いしてもらいやすい価格にして、ストレスなく充電を行ってもらえるようにしていきたい。

今回の九州での結果次第ではありますが、リテンション率の向上と売上への貢献が確認できれば、新料金を全国、さらには海外にも広げていきたいと考えています。そのためにも、キャンペーン終了となる10月末まで、しっかり検証していきます。