
名門Stones Throwに所属、2023年のフジロックで鮮烈なステージを披露したスーダン・アーカイヴス(Sudan Archives)が、10月8日(木)、東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで自身初となる単独来日公演を開催する。
シンシナティ出身、現在はLAを拠点に活動するスーダン・アーカイヴスことブリトニー・パークスは、シンガー、プロデューサー、ヴァイオリニストとして、R&Bやヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、さらにはアフリカの弦楽器文化まで、多様な要素を独自の音楽へと取り込んできた。
彼女の音楽を語るうえで欠かせないのが、ヴァイオリンという楽器への独特な向き合い方だ。シンシナティで育ったスーダンは、10歳頃にヴァイオリンを始め、転校を機に正式なレッスンから離れたことで、耳で聴きながら演奏する術を身につけた。その後、黒人とヴァイオリンの深い歴史を知り、ロサンゼルスでは民族音楽を学びながら、アフリカ各地の弦楽器や、より自由で即興的な奏法に触れていった。そうした経験を通じて、既成のルールにとらわれず、自分なりの方法で楽器と向き合うようになったという。
米Rolling Stoneによる2023年のインタビューでは、制作について「私は自分中心の世界を作りたい。自分自身で主導権を握るのが私のやり方なの」と語っている(インタビュー日本語版はこちら)。ジャンルやカテゴリーに縛られず、自らの直感を頼りに音を組み立てる姿勢は、2017年のセルフタイトルEP『Sudan Archives』、翌年のEP『Sink』から、2019年の1stアルバム『Athena』、2022年の『Natural Brown Prom Queen』まで一貫してきた。
その先に生まれたのが、2025年にリリースされた3rdアルバム『THE BPM』だ。2023年の時点で彼女は、次作について「初めは、ハッピーなダンス中心のアルバムにしようと思っていても、結局はあらゆるタイプの音楽を盛り込むことになる」と予告していた。完成した『THE BPM』では、父の故郷シカゴと母の故郷デトロイトという、家族のルーツとハウス/テクノの歴史が重なる二つの街を訪れ、LAを含む3都市で制作。ヴァイオリン、電子音、ラップ、歌を高速ビートへと結びつけ、これまで以上にダンスフロアへと接近した。本人が「ただ動いて踊りたかった」と語るように、自らの身体を解放しながら、観客を踊らせる音楽へと踏み込んでいる。ヴァイオリン=フィドルがもともとダンスと深く結びついてきた楽器であることにも立ち返りながら、それを現代のクラブへと持ち込んだ作品ともいえるだろう。
2023年のフジロックではWHITE STAGEに出演し、ヴァイオリン、ビート、歌、身体表現を一体化させたパフォーマンスで強烈な印象を残した。それから3年。今回の来日公演は、『THE BPM』を経てさらにダンス・ミュージックへと踏み込んだ現在のスーダンを、間近で体感できる貴重な機会となる。
以下、米Rolling Stoneによる『THE BPM』レビューを紹介する。
スーダン・アーカイヴス、フィドルをクラブへ持ち込む
スーダン・アーカイヴスとしてのキャリアを通じて、シンシナティ出身の独学ヴァイオリニスト、ブリトニー・パークスは、自ら選んだ楽器と先鋭的なソングライティングを結びつけ、ヴァイオリンという楽器とポピュラー音楽の双方の可能性を押し広げてきた。3作目のアルバム『THE BPM』では、そのフィドルをクラブへと持ち込み、躍動するビートと緻密なオーケストレーションを融合させ、音楽的にも感情的にも複雑な構造を作り上げている。
オープニング曲「DEAD」で、彼女はスネアがせわしなく駆け回り、背後で救急車のサイレンのようなシンセが鳴り響くなか、〈こんにちは/私よ/会いたかった?/この一片を受け取って/最高の私を〉と歌う。彼女はこの言葉を繰り返し、まずはマントラへ、やがて一種のパスワードへと変えていく。そしてある反復を合図に、弦楽器の渦が一気に解き放たれ、キーボードはまるでピクセル化したかのように激しく歪んでいく。ここで姿を現すのが、『THE BPM』におけるスーダン・アーカイヴスの別人格、テクノロジーを肯定するミュージシャン「Gadget Girl」だ。同時にリスナーは、古いものと新しいもの、人間とヒューマノイド、伝統と運動と静止という、この作品を貫く二元的なコンセプトのただ中へと一気に引き込まれる。
Gadget Girlにとって、人生はゲームだ。穏やかに波打つ「TOUCH ME」で、スーダンは〈人生はゲーム、私はVRゴーグルを持ってる〉と軽やかに歌う。とはいえ、このアバターが未来を無邪気に楽観しているわけではない。『THE BPM』には、洗練されたビートに乗せて次々と相手を右スワイプしていく「MY TYPE」のような享楽的な曲もあり、彼女はラップの腕前を披露しながら、〈本当の欲望は/炎の中で育つ〉と歌う。霞がかった「MS. PAC MAN」も同じく快楽的なムードをまとっているが、その一方で、より重いテーマを鋭く見つめる曲もある。「A COMPUTER LOVE」ではスーダンの声が万華鏡のように折り重なり、女性に押しつけられる期待への苛立ちをあらわにする。疾走する「LOS CINCI」では、もう二度と故郷には帰れないかもしれないという感覚と向き合っている(そんなテーマを抱えながらも、『THE BPM』は家族も深く関わった作品だ。スーダンの双子の姉妹キャットや従兄弟たちも制作に参加。彼女がクラブ・ミュージックへと向かった背景には、アメリカのダンス・ミュージックを育んだ重要な土地であるミシガン州とイリノイ州にルーツを持つ両親へのオマージュもある)。
『THE BPM』でスーダン・アーカイヴスが切り取るのは、現在と、その10分後の未来とのあいだにある境界的な空間での生だ。そこは表面的には、快楽と運動をめぐる可能性が無限に開かれているように見える一方で、どうしても過去と切り離すことができない。そんな空間を進んでいくのは容易ではない。だが少なくとも、スーダンの唯一無二のポップ・ヴィジョンがあれば、そこに足止めされることはない。
From Rolling Stone US.
2026年のフルライブ映像

SUDAN ARCHIVES 来日公演
2026年10月8日(木)東京・duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:スタンディング 前売り 8,500円(税込/ドリンク代別)
※小学生以下入場不可、中学生以上要チケット