
2000年生まれの韓国人SSW、HANRORO(ハンロロ)。今年の韓国大衆音楽賞にて「今年の音楽人(年間最優秀ミュージシャン賞)」を受賞し、国内チャートでも代表曲「Landing in Love」がトップ圏に躍り出るなど、輝かしいキャリアを歩んでいる彼女だが、そこで歌われている言葉は決して中庸なものではない。個人的な憂鬱や不安を素の言葉として吐き出し、親密な語り口でリスナーに向き合うからこそ、彼女は韓国のMZ世代を代表する「声」として静かな共感と熱狂を集めている。
イ・ソラやキム・ユナといったシンガーによる韓国の大衆歌謡文化に影響を受けたHANROROは、聴き馴染みのいいギター・ロックを背に言葉を乗せる。そのアレンジはどれも溌剌としているのだが、例えば「Landing in Love」の〈彼方の私は どれほど泣いたのか / 此方の私は 誰よりも知っているから〉や、「0+0」の〈永生と永眠 その違いをきみは知ってる?〉といった一節には、現実世界の悲痛さが滲んでいる。デビュー曲「Let Me Love My Youth」がHANRORO自身の青春期の不安をテーマにしていたように、そこには「21世紀の韓国で生まれ育ったひとりの女性」という当事者性も投影されているのだ。
さらに小説とEPが同時期にリリースされた『JAMONG SALGU CLUB』では、憂鬱な気持ちを抱えた韓国の少女たちが「自殺クラブ」を結成し、生きる理由を模索するというストーリーが描かれている。「『リリイ・シュシュのすべて』からインスパイアされた」と過去のインタビューで語っていた彼女。決してライトな内容ではないものの、同小説は20万部以上を売り上げ、韓国で全国ベストセラー1位を記録した。
そして今、HANROROの言葉は海を渡り、日本にも届きはじめている。今年のサマーソニックに出演を果たし、本邦のファンにその繊細な声を響かせると、翌月には初となる単独ライブをSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて開催。その単独ライブの翌日、日本でアーティストとしての新たな扉を開いたばかりのHANROROに話を聞いた。
Photo by Kentaro Kanbe
自分の痛みが、誰かを救う歌になる
―昨晩の日本での初となる単独ライブでは、一部の曲で歌詞の日本語訳をVJに映しながら歌うなど、「言葉を大切にしたい」というHANROROさん自身のアティチュードが窺えました。
HANRORO:ありがとうございます。私は子供の頃から、音楽を聴くときはまず歌詞に耳を傾けていました。自分で音楽を作るようになってからも、歌詞を中心に曲を書くようにしています。「音楽を聴くことでエネルギーを与えたり、人を慰めるためには、どんなメッセージを届ければいいんだろう?」といつも考えているんです。
―歌詞を書き始めた当初から、そのような目的を持っていたんですか?
HANRORO:ええ、そういう面もあります。ただ、基本的には私自身の経験に重ねながら書いていました。自分が実際に経験したことをもとに、人間なら誰もが感じ得るような痛みや感情を、ただ正直にさらけ出していった。その結果として、自分の歌詞が誰かを救っているのではないかと。


2026年9月8日、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE『HANRORO 1st Live in Tokyo』より
―もう少しHANROROさんと言葉の関係性について聞かせてください。2020年に現在の事務所であるauthenticの門を叩いたとき、HANROROさんは既に文章を書いていたとお聞きしました。どのような動機で文章を書いていたのでしょうか?
HANRORO:子供の頃から、何かを考えたり、自分の中の思いを整理する時に文章を書いていました。特別なことは書いていない、日記のようなものでした。ただ、その言葉をそのまま人に見せるのは、内心ちょっと恥ずかしくて……。それで自分の文章にメロディをつけるようになっていったんです。「私の書いたものに音楽をつけたんだけど、ちょっと聴いてみない?」という風に形を変えて自分の言葉を届けることで、自然に人と気持ちを通わせることができるようになったんですね。
―その頃はどのようなシンガーに憧れていたのでしょうか?
HANRORO:韓国の、それも少し昔の歌謡曲です。80〜90年代の曲はロマンティックで、叙情的な歌詞が多いんですよね。私自身、今でも韓国語で歌詞を書くことにこだわっているのも、そうした影響があるんだと思います。
―例えばどなたですか?
HANRORO:んー……そこまで古い曲ではないんですけど、今パッと思い浮かんだのはJAURIM(ジャウリム)の「스물다섯, 스물하나(Twenty-five, twenty-one)」ですね。韓国では有名なバラードとして定着しています。私は中学生の頃に聞いて、まだ25歳でも21歳でもなかったけれど、歌詞の中で描かれている境遇に没入した記憶があります。
―HANROROさん自身が学生時代を過ごした頃は既にK-POPがポピュラーで、同世代の間でも非常に人気だったと思います。そんな中でバラードであったり昔の歌謡曲に惹かれたのはなぜでしょう?
HANRORO:学校では友達と一緒にK-POPの動画を見ていたんですよ。ただ家に帰ると、母が昔の歌謡曲を流していたんです。リビングでギターを弾きながら歌うこともありました(笑)。私もその隣で一緒に歌ったりして、昔の曲に自然な形で触れていたんです。
普段の生活も音楽の趣味に似ていて、外向的であったと同時に一人で考え込むような子供だったんです。感情を表に出すことはあまりなかったけど、いつも世の中で起きていることに興味があって、ひとりで思い悩んだりしていました。
―デビュー曲の「Let Me Love My Youth」は青春期の不安をテーマにした曲ですよね。アーティストの名刺として重要な最初のシングルで、まさに今仰ったようなネガティブな心情を歌ったのはなぜでしょう?
HANRORO:当時はパンデミックで、世界的に家に閉じこもっていなければならないような状況でした。そんな中、私はひとりの大学生として「自分はちゃんと就職できるんだろうか」といった不安を抱えていたんです。ただ、そういった不安を突き詰めていくと、青春を生きる人なら誰もが考えるような未来に対する不安が浮き彫りになっていったんですよね。さらに広げるなら、青春の真っただ中にいる人ではなくとも、人間である以上は時代に対して何かしらの不安を感じているはずです。なので「Let Me Love My Youth」ではその感情をストレートに歌いました。
―「Let Me Love My Youth」をはじめ、HANROROさんは創作活動を行う上で、単なる自己表現に終始するのではなく、同世代の不安や憂鬱に寄り添うことを重視していますよね。
HANRORO:そうですね。「これって私だけの悩みなのかな?」という確認は、いつもするようにしています。例えば友達に「こう思ってるのって私だけ?」みたいに聞いてみたり。そうすると、案外友達も同じような気持ちを抱えていたりするんです。さらにそこから、自分が見たり聞いたりしている社会的な出来事についても考えてみる。「二次的な検証(セカンダリ・バリデーション)」みたいなものですね。自分の経験を出発点にしながら、それが他の人にも共有できるものなのか、そして社会の中でも起こっていることなのか……そのことを複合的に確かめるプロセスを必ず設けています。
―なるほど。例えばロングヒットを記録した「Landing in Love」のMVのコメント欄を見ると、「この曲に救われました」というコメントが多数寄せられています。
HANRORO:あぁ、まさに「Landing in Love」を書いた時は私自身が鬱の極限状態にいるような時期で。だからまさに……率直な感情が込められた曲なんです。自分自身を嫌いになったり、世の中を恨んだりしているけれど、それでも結局は生きていくことになるんだろうな、みたいな。
ただ、驚くべきことに、私の曲の中でも「Landing in Love」のメッセージに共感してくれる人が最も多かったんですよね。たぶん、みんな心の中では「自分なんて大嫌いだ」とか「これからどうやって生きていけばいいんだろう?」と不安に思っていたり、曲の中で歌われているように「自分自身を愛せるようになるんだろうか?」と疑ったりしている。そんな中で、「『Landing in Love』が生きる決心を与えてくれた」という声がすごく多かったんです。振り返ってみると、私自身もこの言葉を必要としていたんだと思います。だから私は自分自身にそう言っていたし、同時に誰かからそう言ってもらいたかった。そういう深い悩みから生まれたからこそ、「Landing in Love」は多くの人から共感を集めたんだと思います。
「生と死」について歌う理由
―これまでにリスナーから受け取ったリアクションのうち、特に印象深かったのはどんなものですか?
HANRORO:色々な感想をいただくのですが、今思い出したのは病気によって苦しんでいた方が、完治した時に残してくれたコメントで。「HANROROの曲が処方箋でした。精神的に、あなたの曲は薬なんです」と言ってくれたんです。
―ええ、とてもわかります。HANROROさん自身も過去に芸術によって救われた経験はあるのでしょうか?
HANRORO:幼い子供や10代の少年少女が主人公になっている映画からは救われました。思春期の子供たちのことを扱った映画を観ると、なんというか……心がザワつくというか、少し変な感覚になるんですよね。日本映画で言うと、是枝裕和監督の『誰も知らない』や『怪物』、それと最近公開された『箱の中の羊』ですね。私にとっての大きなインスピレーションのひとつです。

―小説とEPの同時リリースとなった『JAMONG SALGU CLUB』では、韓国の若者の憂鬱──主に自殺を巡る少女たちの一連の物語──が描かれています。今挙げていただいた是枝監督の作品にも通底しているような、ヘヴィな内容ですよね。なぜこのようなテーマを選んだのでしょうか?
HANRORO:正直、当時の私はスランプでした。周りのミュージシャンは歌もライブも遥かに私よりも上手で、心が折れそうで……(苦笑)。なので差別化として、自分の強みは何だろうと考えた時に、小説をまず書こうと思ったんですよね。それからBGMを作るように曲を書いていきました。
テーマについては、結局のところ、自分が中学生の頃に感じたことをごく自然な形で描き出しただけなんです。あの頃は本当に憂鬱で、でも友達と一緒にいるときは安心できたりして。そういう幼くて不器用だった感情が、大人になってから振り返ってみると、すごく大切なものに感じられるんです。「もしあの時に人生が終わっていたら、今こうして振り返ることもなかったんだろうな」って、そんなことを考えるようになったんです。
だからこそ、『JAMONG SALGU CLUB』では自分がかつて感じていたような苦しさや憂鬱を抱えている今の10代には慰めを、そして私のように一度は憂鬱を経験して立ち直った人たちに温かな追憶を届けられるものを作りたいと思ったんです。それこそが今の私が表現するべきものだと確信したんです。
―例えば『JAMONG SALGU CLUB』収録の「0+0」には〈永生と永眠 その違いをきみは知ってる?〉という歌詞もあります。この楽曲は『JAMONG SALGU CLUB』のストーリーの中でどのような役割を果たしているのでしょうか?
HANRORO:『JAMONG SALGU CLUB』に登場する少女たちは、もともと「死にたい」という気持ちを抱えて集まって、最終的には生きるために、お互いを救おうとするクラブの部員たちなんです。「0+0」の歌詞は、その子たちがお互いに問いかける質問として書きました。
永遠の命と永遠の眠り。実のところ、このふたつはあまり違いがないようにも思えるんです。境界線については「よく分からない」としか説明できないというか。そう考えたとき、たとえ自分たちが何も持っていないような人間だったとしても、今この瞬間に感じられる幸せをひとつひとつ積み重ねていけば、それだけで何か永遠に近いものになり得るんじゃないか、と閃いたんです。「0+0」は永遠というものを夢見ながら、お互いに問いかけているようなパートですね。
―昨晩のライブで、あなたはご自身の表現活動におけるテーマを「生と死について歌うこと」と説明していましたよね。『JAMONG SALGU CLUB』や「0+0」はまさにその象徴のような作品なのではないかと。
HANRORO:そうですね。私自身、常に鬱っぽい人間というわけではないんです。ただ、文字通り「人生」について考える機会はとても多いんです。なので生や死をテーマにした言葉がたくさん出てくるんだと思います。
それと、極端な話、人間は生まれたらいつかは死ぬじゃないですか。だからこそ、この人生の中で感じることのできる色々な感情を正直に表現していくことが、アーティストとしての責任なんじゃないかと思っているんです。

「あなたは孤独じゃない」
―「アーティストとしての責任」という点で、『LOVE&HATE』の「GAME OVER ?」についても聞かせてください。MVで会社員の男性が主人公として描かれていることが意外でした。というのも、これまでは「青春」の真っ只中にいる若い世代をテーマにすることが多かったですよね。そこで、「Game Over」のMVにおいて主人公が会社員の男性に設定されているということが、ご自身の心境やライフステージの移行に伴う「アーティストとしての責任」を抱く対象の変化を象徴しているかのように感じたのです。
HANRORO:まさにその通りです。実際、私の曲を聴いてくださっている方には会社員が多いんですよね。「GAME OVER ?」のMVで男性の会社員を主人公にしたのも、「今の疲れ切っている社会人像のシンボルって誰なんだろう?」という考察からなんです。とても疲れていて、その上コミュニティの中では「自分はちゃんとうまくやれている」と思っていたのに、気づいたら周りのみんなから嫌われていた……みたいな。そういう現実に対してすごく虚しさを感じている人間を思い浮かべていったら、主人公が会社員の男性になったんです。
私から見ると、自分では誰かに嫌われるようなことをしたつもりがなくても、いつの間にか誰かから嫌われてしまうような社会になってしまったと思うんです。だからこそ、その「嫌われること」自体を怖がるんじゃなくて、自分がもっと愛せるものを探して、そこへ一直線に走っていこうと。最近は、そんなことをより強く考えるようになっています。それが今、自分が発表している曲において感じている、一番大きな責任なんじゃないかなと思います。
―なるほど。昨晩のライブの感想で、「この壊れたクソみたいな世界で一縷の希望を届けてほしい」というポストを見かけたんです。
HANRORO:おぉ!(笑)
―その上で、HANROROさんはこの世界をどう思っていますか?
HANRORO:うーん……冷たくて、孤独を強く感じざるを得ないような世界だと思います。だからこそ私は、せめて歌を通して「あなたは孤独じゃないですよ。世界はあなたが思っているよりもずっと温かいんです。だから頑張りましょう。お互いに少し愛し合ってみましょう」と伝えたいんです。
―本当に素晴らしいメッセージだと思います。最後に未来についての話を聞かせてください。例えば10年後、あなたはどのようなSSWになっていたいですか?
HANRORO:10年後の私は37歳で、そのときにどのようなアーティストになっているかは正確にはわかりません。ただ、どんな感情を抱えていたとしても、そのときの私と同じような感情を抱えている人がたった一人でもいるのなら、その人のために私は歌っているはずです。

HANRORO日本公式サイト:https://hanroro.jp/
