
静と動を行き来するギターサウンドと鋭いソングライティングで注目を集めてきたブロンドシェル(Blondshell)ことサブリナ・タイテルバウムが、3作目となるニューアルバム『Violins』を完成させた。世界にあふれる暴力と、自身の生活のなかで増していく美しさや安定をどう受け止めるのか──そんな問いから生まれた本作では、複雑な友情や宗教、身体、癒しの過程までを見つめながら、これまで以上に自由な表現へと踏み込んでいる。結婚式用プレイリスト、ミツキへの憧れ、ノスタルジーへの愛。アルバムを作るたびに「本当に作りたいもの」に近づいているという彼女の最新インタビュー。
ブロンドシェルがセカンドアルバム『If You Asked For A Picture』をリリースしてから、まだ1年しか経っていない。だがサブリナ・タイテルバウムは早くも、素晴らしい新作『Violins』を完成させた。多作にして止まることを知らないインディーロックの存在であることを証明しながら、しかも彼女はまだ始まったばかりだ。〈Partisan〉から9月25日にリリースされた本作では、美と恐怖が鮮やかに並置されている。胸をえぐるような冒頭のタイトル曲で、彼女は〈誰の首も飛ばないといい / その頭はあなたの肩にそっと乗っている(I hope heads dont roll / They rest lightly on your shoulder)〉と歌う。
「毎日のように目にするあらゆる暴力と、自分の私生活が良くなってきて、美しいものに気づくことが増え、以前より忍耐強くなり、安定も感じられるようになったこと。その両方を、どう受け止めればいいんだろう?って考えるんです」と彼女はRolling Stoneに語る。「それに私は宗教を信じていない。でも、まさにこういう問いに向き合うために宗教ってあるんですよね。だから今年は、そういうことすべてにどう折り合いをつければいいのか、しばらく考えていました。私にとっては、それが今回の音楽を作る意味だったんだと思います」
米Rolling Stoneが展開している動画インタビュー企画「Rolling Stone Studio」の最新エピソードで、タイテルバウムとの対話を通じて『Violins』について掘り下げている。以下、その対談からいくつかのハイライトを紹介する。
■こんなに早く新作を出すつもりはなかった
タイテルバウムによれば、当初は『If You Asked For A Picture』からこれほど早く次のアルバムを出すつもりはなかったという。「そもそも自分がアルバムを作り始めてるってことすら、気づいてなかった気がします」
「2ndアルバムを出したばかりだったから、『よし、時間はいくらでもある。これから作るものは全部、自分のためだけ。別にリリースしなくてもいい』って思ってたんです」と彼女は続ける。「でも、そういうときに限って一番曲が書けるんですよね。だから、それがアルバムになるなんて自分でも思ってませんでした」。ところが、タイトル曲「Violins」を書いたことで意識が変わった。「そこで、『あ、これはアルバムになるんだ』って思いました」
■完成した曲を寝かせておけない
「書き上げた曲を、そのまま何もせずに寝かせておくのが本当に嫌なんです」とタイテルバウムは話す。「たぶん無意識のうちに、曲がどこかへ消えてしまうんじゃないかとか、その曲に対する自分の熱が冷めてしまうんじゃないかって怖れてるんだと思う。だから曲を書くたびに、『早く録音しなきゃ。曲をただ溜めておくようなことはしたくない』ってなるんです。それで、すぐに取りかかってアルバムを作りました」
■結婚式用のプレイリストがある
とはいえ、今すぐ結婚する予定があるわけではない。「婚約してません」とタイテルバウムは言う。「結婚する予定があるわけでもないです。でも、自分の結婚式で流したい曲を集めたプレイリストは作ってあります」。ただし、その曲たちはバージンロードを歩くときのためというより、結婚式を含む週末全体をイメージして選んだものだという。そのなかには、エイフェックス・ツインの「Windowlicker」やブロック・パーティーの「Like Eating Glass」も入っている。「結婚式は2010年頃の雰囲気にしたいんです」と彼女は説明する。「心のなかでは、私は永遠にTumblrに住んでると思うから。結婚式でも、ちょっと『Skins』のエフィー・ストーネムっぽさがないとダメなんです。『結婚するから、エフィー・ストーネム的なものは全部卒業します』みたいな感じにはしたくない」
■「Lucky」は皮肉
アルバムのハイライトのひとつ「Lucky」では、印象的なコーラスで〈私はツイてる、運よくうまくいった / 自分がきれいに思えるし、ちゃんと休めてる(Im lucky I got lucky / I feel beautiful and rested)〉と歌う。だが、タイテルバウムらしく、その言葉を額面どおりに受け取ることはできない。「この曲を書いたときはものすごく寝不足で、本気でそう思ってたわけじゃないんです」と彼女は言う。「シングルにしなかったのも、みんな本気の言葉として受け取って、皮肉だと気づいてくれないんじゃないかと思ったから。しばらくは、『誤解されたくない。私がいつもきれいで、ちゃんと休めてるなんて思われたくない』って感じてたんです。実際、そんなこと全然ないから」。一方で、このフレーズをファンと一緒に大声で歌えるライブでは、大きな瞬間になることもわかっている。「今振り返ってみて、それに今の自分の気持ちを考えると、〈I feel beautiful and rested. I feel lucky〉って歌える曲があるのは、いいことだなと思います」と彼女は語る。
■『Violins』のデラックス版は作らない
これまでの2作とは異なり、タイテルバウムは『Violins』のデラックス版をリリースするつもりはないという。「もう何度かやってきたから」と彼女は話す。「今回は、このアルバムをこのままひとつの作品として成立させたい。出してすぐに何かを付け足すようなことはしたくないんです」
■断酒について率直に語る
12月で断酒7年を迎えるタイテルバウムだが、以前ほどそれが自分自身を「決定づけるもの」ではなくなったという。「一時期は、パーティをすることや、そこで築いた友人関係によって、自分の人生が形作られているような感覚があったんです」と彼女は説明する。「酔ったりハイになったりしているときの自分が、『これが本当の私だ。私はこういう人間なんだ。この自分なら自信を持てる』って思えてた。でもその後しばらくは、今度はそれが”ないこと”によって人生が決まっているような気がして、それも嫌だったんです。一時期は、妙に健全で優等生みたいになった気がして。『お酒に頼らず、どうやって自分を見つければいいんだろう?』って。たぶん、こういう話ってみんなよくすることなんでしょうけど。今はもう、以前ほど自分を決定づけるものではなくなりました。私にとって大切であることに変わりはないけど、自分そのものを決めるものではなくなったんです」
■もうヴィーガンではない
長年ヴィーガンだったタイテルバウムだが、必要に迫られて肉を食べるようになったという。「タンパク質が必要なんです」と彼女は話す。「すごく疲れやすくなってしまって。批判しないでくれてありがとう。肉そのものはちょっと苦手で、気持ち悪く感じてしまうんです。でも、たとえばミートソースみたいに形が見えなければ、月に1回くらいは食べてみようかなって。鉄分も必要だし。でも魚はかなり食べてます」
■ステージで泣けるようになりたい
タイテルバウムはミツキの大ファンで、そのステージでの佇まいにも強く惹かれている。なかでも、ステージ上で涙を流せることに憧れているという。「ミツキを見て、いつか自分も心の壁をそこまで下ろして、パフォーマンスしながら本当にステージで泣けるようになりたいと思うようになりました。それは大きな目標のひとつです」と彼女は話す。そして、実際に泣くとしたら、それは自作曲ではなくカバーを歌っているときかもしれないという。「ステージで泣きそうになったときって、いつもカバーなんです」と彼女は言う。「理由はわからないけど。自分の曲だと、作ったり録音したり、そのすべてのプロセスに深く入り込んでいるじゃないですか。でもカバーなら、その夜にその曲を手に取って歌うだけで、それまでの人生を通してその曲と築いてきた関係が全部そこにあるんです」
■ノスタルジーが大好き
「F*ck, Marry, Kill(抱く、結婚する、殺す)」の三択ゲームで、タイテルバウムは「時の流れ」を殺し、「ノスタルジー」と寝て、「今この瞬間」と結婚することを選んだ。「時が過ぎていくのが大嫌い」と彼女は言う。「あまりにもつらいから。どんな失恋も、突き詰めれば何らかのかたちで時間が過ぎていくことと関係している気がする。それって本当に最悪ですよね。だからこそ、今この瞬間を大切にしたいと思う。それに最近は、ノスタルジーを嫌うことがすごく流行ってる気がするけど、私は大好きです。ノスタルジックな気分になりたくて聴く音楽もたくさんある。ニュー・オーダーを聴くのもそのためです」。では、この答えについて本人はどう思っているのか。「我ながら、かなりいい答えだったと思います」
From Rolling Stone US.

ブロンドシェル
『Violins』
発売中