
毎年9月8日に行われている「クリープハイプの日」。今年は2026年9月8日(火)、札幌文化芸術劇場hitaruにて「クリープハイプの日2026 北海道」が開催された。同公演の様子をレポートする。
これまで東京・大阪・愛知・福岡で開催されてきたクリープハイプの日。
昨年の全国ツアー以来となる札幌文化芸術劇場hitaru公演は、長くこのバンドを推しているだろうリスナーから、今回が初めてだろうリスナーまで、男女、年齢層問わず多くの人々で超満員となっていた。
開場前、近くのベンチに腰掛けて待っていると、横にいた女性3人組は、1人が制服、ほかの2人はクリープハイプのグッズを身につけていて、どうやら同じ高校の友人同士のようだ。良く見ると制服の子も、イタタオルのグッズを首に巻いている。3人は「1曲目はなんだろうね」と過去のセトリを見て予想を立てている。そのうち、予想というより「この曲が聴きたい」と要望に変わっているのが何とも微笑ましい。
そのうちの1人が「私、ママとか友達にクリープハイプって言っても、知らないんだよね」と言った。何を言い出すんだろう、と続けて聞いていると「だってテレビとか出ないじゃん、こんなに良いのに」。それを聞いていた1人が「確かに、チケット取るのめっちゃ大変だったのにね」。
それを受けて、それまで話さなかった制服の子が「だからライブに来れないと見れないってめっちゃ良くない?」と言って、他の2人が「言えてる」「確かに」と返して、また聴きたい曲を各々言うモードに戻った。
自分も、同じ気持ちだな。
会場の熱気が高まりきった頃、メンバーが登場して、盛大な拍手が一旦鳴り止み、そこでしばらくの静寂のあと、尾崎が話し出す。

尾崎世界観
「9月8日『クリープハイプの日』を、札幌で、北海道でやれて、本当に嬉しく思っています」
歓声と拍手がまた鳴る。それを受けて尾崎はまた話す。
「めちゃくちゃ良いライブがしたい、そう思ってるけど、その前になんか食べたい。北海道はジンギスカンが有名だけど、今は生レバ食べたい」
そう言って、「生レバ」からライブはスタートした。さっきの子たちの予想は当たっていなかったな。それでも、何とも不思議で、テレビでは見られないこの曲を1曲目に聴けて、嬉しく思っているだろうな、と感じる。
「生レバ」を終えたあと、ベースの長谷川カオナシが話し出す。
「生レバも良いけど、私が今食べたいのは…茹でガエル」

長谷川カオナシ
クイズの答えが分かった人のように、イントロが鳴らされるまでの一瞬の間で沸く観客。カオナシによる楽曲「かえるの唄」だ。カオナシらしい、メルヘンチックな世界の中に、少しのシニカルさを混ぜた楽曲で、観客がどっと沸く。
続いて「ホテルのベッドに飛び込んだらもう一瞬で朝だ」を披露し、改めて、来てくれた感謝を観客に述べたあと、尾崎がおずおずとカオナシに問いかけた。「カエル食べるの?」。
カオナシは「なりゆきで」と少しの照れを見せて答える。
それを受けて「カエル食べたことあるよって人」と尾崎が観客に問いかける。客席に動揺が広がる中、その質問を引き取るようにカオナシが「串焼きなら食べたことあります」
尾崎が「えっ、どこで?」と聞くと、「尾崎さんと昔行った昭和っぽい居酒屋で、キャベツが無料で」と答える。
その店が『薄利多賣半兵ヱ』だとわかると、尾崎が「半兵ヱって北海道にある?」と聞くと、先ほどカエルを食べたことあるか聞かれた時は静かだった観客が「ある!」「あるよ!」と答える。
そこから尾崎は、クリープハイプがこのメンバーになる前、先輩に『薄利多賣半兵ヱ』に連れて行ってもらった思い出、そしてそこでまだクリープハイプ加入前だったギターの小川が飲みすぎてしまい、会計を気にした先輩から「もう小川くん、やめとこうか」とたしなめられ、飲み会終了後、尾崎に小川が「だったら自分で払ってでも良いから飲みたかった」と愚痴ったエピソードが明かされた。
これが、クリープハイプっぽい、尾崎世界観っぽい視点と記憶だな、と改めて思う。

小川幸慈
先輩の、後輩にご馳走したいけど、会計が気になる人間らしさ。小川の、せっかく良い気持ちで飲んでいるんだから、自分で支払ってでも飲みたいという気持ち。そして、下手したら20年近く前のその記憶をしっかりと覚えている尾崎。
この人間臭さ、全てひっくるめて、クリープハイプの楽曲に惹かれる理由なんだろうな。
時代は移り変わっていくからこそ、メンバーとほぼ同世代の自分が、このバンドに惹かれるのは、同じ時代で同じものを見てきたから良くわかる。でも、自分と20年以上離れた、なんならこのメンバーになった時にはまだこの世に生まれていない人たちの心をも掴むのは、時代が変わっても揺るがない、人間の人間らしい部分。隠そうとしても漏れ出てしまうその匂いに惹きつけられているからこそ、だと感じる。
最近のライブでは恒例となっている、尾崎のポエトリーリーディングのような語りのあと披露された「タヌキネイリ」。
時代が移り変わろうとも、好きな人の過去を勝手に詮索して、勝手に悶々として、勝手に落ち込んで勝手に立ち直る。同世代だからこそわかるけど、なんでこんなにも、10代、20代の恋愛に悶々としている時の感情を新鮮な状態で浮き彫りにできるのか。毎回感嘆の声を漏らしてしまう。
「HE IS MINE」の披露前に語られた尾崎の「みよしの」漫談(漫談と言わせて欲しいほどの出来だった)も見事だった。昨日前乗りをして、夜に札幌名物のみよしののテイクアウトの餃子を楽しみにしていた尾崎が、醤油とラー油が一緒になった袋を相手に悪戦苦闘する話。噛み切る、という言葉からシームレスに「神木くん結婚したね」と観客に問いかけるところは圧巻で、ネットの人たちは楽曲の転調にいちいち騒ぎ立てるくらいなら、トークのこういう間と転調にも同じくらい騒ぎ立てて欲しいな、と思ったけど……難しいか。これもライブでしか味わえない魅力だもんな。そしてメンバーは、醤油だけで食べた尾崎、何もつけずに食べたカオナシ、先にラー油を開けてしまったから滑って開かずに、結局ラー油だけで食べたドラムの小泉拓、そしてきちんと醤油とラー油のマリアージュを楽しんだ小川と、四者四様だったのも記しておきたい。

小泉拓
……ここまで書いて、言い訳のように聞こえてしまうかもしれないが、その場にいる人にしか味わえない、筆舌に尽くしがたい楽曲の素晴らしさ、魅力よりか、楽曲と楽曲を繋ぎ合わせるメンバーのMCに注目したライブレポになっていることをご容赦願いたい。
今回披露された曲の中で、ライブに行きたくても来れなかった人が発狂してしまったのではないか、と思うのが「すぐに」だ。シングル『愛の点滅』のカップリングに収録されているこの曲は、珍しく、というかクリープハイプのディスコグラフィーの中では唯一であろう、尾崎世界観作詞作曲、長谷川カオナシ歌唱の歌で、とてもストレートで爽やかな楽曲だ。
この曲の披露前、カオナシは最近隣の家に家族が引っ越してきたという話をはじめる。
とても素敵な家族だけど、旦那さんの格好や生活時間帯を見ると、多分自分と似たような仕事をしているのではないかと思う。その人を自分が形容する時に「おしゃれな人」と言ってしまうが、そういえば自分も「おしゃれですよね」と言われることに気づき、「おしゃれ」とか「やさしい」は決して褒め言葉ではないんだ、と気づく。でも今日来ている皆さんは「好き」という気持ちで来てくれているから、「好き」は偽れない良い言葉だな、と思った、と。
この日は披露されなかったが、先日クリープハイプが発表した「私の歌」でも、好きについて歌われている。
一番最初に登場させてしまった女性3人組も同じ想いをしたことがあるかもしれないけど、こんなにも会場に来るとクリープハイプを好きな人は多いし、こんなにも大きな会場でできるバンドなのに、知らない人が多いように感じるのはわかる。
たとえ知っていたとしても「メンヘラ?」とか「声が変で無理」とか、本当に無意味で無価値なレッテルや感想を返されることもあるから厄介だ。

でも、「私の歌」の中で尾崎は<それでも好きならそれだけでいいよ これを好きな私が私は好き>と歌う。すごく言葉に神経を研ぎ澄まし、気を遣っている尾崎が、<死にたい夜をぶっ殺す声が恥ずかしいくらいに刺さる今を生きてる>と、「死にたい」「ぶっ殺す」とあえて歌詞に盛り込んでいる。
人に指摘されたらめちゃくちゃ恥ずかしいけど、それでも抗えない感情が好きという感情で、どうしても漏れ出てしまうもの。好きって、そういうことだ。そして、この歌のタイトルが「私の歌」なのも、ここでの「私」はクリープハイプでもあり、クリープハイプを聴いているみんなでもあり、というのが素晴らしい。この日披露された「今今ここに君とあたし」でも、リスナーへの感謝を述べているけど、楽曲以上に、この日のライブは「クリープハイプの日」にふさわしい、「これを好きな私が私は好き」と言い切れるライブであったと思う。
この日のライブはクリープハイプのライブにしては長丁場で、楽曲もたくさん披露されたし、ご褒美のようなライブであったが、終盤尾崎は「いろいろな曲を作ったし、作らせてもらった。音楽をやっている人で、ただ演奏しているだけで幸せ、歌を歌っているだけで幸せって言う人がいるけど、見てくれる人、待ってくれる人がいないと、新曲を作ろうと思わない、もう十分作ってきたし。それでも作ろうと思うのは、こうやってライブにきてくれる人がいるからです」と語った。
「音楽が好きで、はじめて、必死でやって、夢が叶って、でもそのさきの事は考えてなくて、思ったよりも大変です。だから最初の頃みたいに、音楽が好きって気持ちではない。むしろ、音楽のことが嫌いになりました。でも、そう思ってはじめて、プロのミュージシャン、プロのバンドマンになったなと思いました。音楽が嫌いになった分、好きなものができました。このバンドが作った曲を好きになって、大事にしてくれる人たち。自分の暮らしの中で、いい時も悪い時もムカつく時も嬉しい時も恥ずかしい時も幸せな時も、クリープハイプの曲を流してくれる人。できれば、そのままでいて欲しいなと思います」

こうして、表現者としての自分たちのブレることない芯の部分を、実直に語ってくれるバンドが今どれだけいるだろうか。ネットにより世間は、熱く語っている人、曝け出している人を突いたり刺したりする文化となりつつある。その側面がこのバンドにないとは言わないし、そこも魅力ではあるけど、世間と違うのは、このバンドはずっとそこから揺るがないということだ。世間の風潮に流される世間とは違って、このメンバーになってからずっと揺るがない芯のような部分。世間に流されることないその芯の部分が観客の心を掴んで離さないのだろう。
「音楽の良いところでも悪いところでもあるのかもしれないけど、目の前の現実がどうであれ、曲を聴いた瞬間に、もうひとつの物語に引き込まれていく。それが音楽の良いところだと思っています。まあクリープハイプは明るい曲ばかりじゃないから、めちゃくちゃテンションの高い時に落ち込ませることもあるのかもしれないけど、それくらいはいい……よくないか(観客笑)。でも本当に、どんな時でも、曲は一緒だから。今、外が曇っていたとしても、今から歌う曲の中では、月が綺麗です」
こうして本編最後に歌われた「ex ダーリン」。曲を作ったバンド自身が、どんな時であれ、曲は一緒だから、と断言してくれる大きな安心。自分が今から14年前、クリープハイプをはじめて知った時から、いや、20年以上前から歌い続けられている歌だ。
その歌がいまだに聴く者の心を揺さぶるのは、この曲に限らずだけど、曲の中のふたりはこの現実と別の世界で生き続けているからだと思っていて、それを尾崎が、いやバンドの4人が肯定してくれたように思えたのだ。
「音楽の良いところでも、悪いところでも」と悪いところでも、というエクスキューズを入れる尾崎世界観の可愛さも含めて、この日のライブに足を運んでよかったと心の底から思えた瞬間であった。
そして、そんな瞬間が、クリープハイプのライブにはこれまでもこの先もたくさん詰まっていると断言したい。
最後の挨拶で、テレビで観られない、ライブ映像もなかなか公開しないこのクリープハイプが、オフィシャルの記念撮影後、尾崎の「カメラ出していいよ」というひと言で、パニックになる観客もとても愛おしかったし、なぜか軽やかな足取りで、余韻もなくステージをあとにするメンバーもとても愛しかった。
ライブに来ないとなかなか見れないこのバンドが、私は好き。

Text:佐久間トーボ
Photo:岩本彩
<リリース情報>
クリープハイプ
「23、24」
2026年9月30日(水)リリース
https://creephyp.lnk.to/23_24_adsv
<ライブ情報>
太客倶楽部限定ツアー2027「それはそれで幸せ」
2027年
1月23日(土)北海道 サッポロファクトリーホール
1月27日(水)愛知 DIAMOND HALL
1月31日(日)東京 東京ガーデンシアター
2月6日(土)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
2月7日(日)福岡 Zepp Fukuoka
2月13日(土)愛知 Zepp Nagoya
2月14日(日)大阪 Zepp Osaka Bayside
2月19日(金)大阪 なんばHatch
2月23日(火・祝)宮城 仙台GIGS
2月25日(木)東京 Zepp Haneda
特設ページ: https://www.creephyp.com/feature/cp_tour2027_fc
公式サイト:http://www.creephyp.com/