新たな「PS」が示した、ピュアスポーツの現在地|マツダ・ロードスター

軽さを磨けば、ロードスターはまだ変わる

初代登場から37年を迎えたマツダ・ロードスター。その現行ND型に新たな特別仕様車「PS」が加わった。PSとは「Pure Sport」の略である。単純に足を固めたり、動力性能を高めたりしたモデルではない。ロードスター本来の軽快さをもう一度見つめ直し、日常の速度域で車を操る楽しさを研ぎ澄ましたモデルである。

【画像】ロードスターが37年間追い続けてきたものを、いま一度鮮明にしたモデル「PS」(写真10点)

その違いは、走り始めて間もなく伝わってきた。

PSにはブラック塗装の軽量RAYS製ホイール、シルバー仕上げのブレンボ製ブレーキキャリパー、そして専用チューニングを施したビルシュタイン製ダンパーなどが与えられている。特に効いているのが足元の軽量化とサスペンションのセッティングである。

今回の考え方が興味深い。スプリングレートを高めて車体の姿勢をしっかりと支える一方、ダンパーの縮み側減衰力を抑えている。つまりダンパーで無理に車体の動きを押さえ込むのではなく、まずスプリングに仕事をさせ、その動きをダンパーが整える方向へ機能分担を見直したのである。結果として、スポーツモデルだから乗り心地が硬いという単純な図式にはなっていない。むしろ路面からの細かな入力に対して足が素直に動き、バネ下重量の軽さもあって路面への追従性が高い。今回の試乗はウェットコンディションだったが、それがかえってPSのしなやかさを分かりやすくしていた。

コーナーへ入れば車体の余分な動きが少なく、リアも落ち着いている。そこからアクセルを踏み込んでいった際にも姿勢変化が自然で、車全体がひとつの塊として旋回していく感覚がある。ブレンボのブレーキも絶対的な制動力を誇示するタイプではなく、踏力に対して制動力を組み立てやすい。速さよりも「意のままに動かせること」を大切にしてきたロードスターらしい仕上がりである。

参考のため通常モデルにも乗り換えてみると、PSとの差はさらに明確になった。ベースとなるロードスターにも軽快さは十分にある。しかしPSでは、ステアリングを切り、車体が向きを変え、リアがついてくる一連の動きがより滑らかにつながっている。単独で乗る以上に、乗り比べることでPSに施された細かな仕事の意味がよく分かる。

ステアリングにも手が入った。EPSのアシスト特性を見直し、切り始めでは過剰にアシストせず、舵角が増したところでは必要な分だけ助ける。戻し側もタイヤそのものが持つセルフアライニングトルクを生かしながら、センター付近のみ適切にアシストする考え方である。もっとも、運転していて「電子制御されたステアリングだ」と意識することはほとんどない。むしろそれこそが狙いなのだろう。切り始めから戻りまでごく自然で、システムの存在をドライバーに意識させない。

今回の改良でもうひとつ重要なのが、車外騒音規制への対応である。新しい規制に合わせ、吸気系、排気系、タイヤなど広範囲に手が入った。スポーツカーにとって音量規制は、ともすれば魅力を削ぐ方向へ働く。しかしマツダは、それを逆に音質を整理する機会として利用した。排気系ではサイレンサー容量を見直し、吸気系にも対策を施した。そのうえでソフトトップの1.5リッター車にはインダクションサウンドエンハンサーを採用。単純に音を大きくするのではなく、不要な成分を抑えながら、アクセル操作に呼応するエンジン音を自然にドライバーへ届ける方向に仕立てている。実際、音量そのものは抑えられているにもかかわらず、エンジンの存在感が薄れた印象はない。むしろ回転上昇に伴う音がすっきりと整理され、アクセル操作とサウンドとの関係が分かりやすくなった。規制対応を単なる「消音」で終わらせなかった点は、この車らしい。

今回はリトラクタブルハードトップを備えるRFのATモデルについても新旧を乗り比べた。こちらの変化も予想以上に大きい。個々の変更点だけを並べれば小さく見えるかもしれないが、ステアリング、タイヤ、音、車体の動きなどが総合的に整えられたことで、車全体の仕上がりは明らかに一段上がっている。新旧を続けて乗ると、まるで別のモデルかと思うほど洗練度が違う。とりわけ印象的だったの排気音の質である。乾いた爽やかなノートが軽やかに響き、走っていての爽快感がまったく変わる。ラゲージスペースに若干影響を受けたものの、この変化を楽しめるならば許容できる仕上がりである。

またATの走りの良さにもあらためて驚かされた。スポーツモードを選べば、ワインディングでもドライバーの意図をかなり正確に読み取り、必要なギアを選択する。無闇に低いギアを保持するのではなく、加速、減速、コーナーへの進入といった状況に応じてシフトが決まり、自分で頻繁に操作しなくてもリズムを崩さない。ロードスターといえばMTという先入観を持つ人ほど、一度試してみる価値がある。

カラーリングの選択こそが愉しみ

PSを象徴するもうひとつの存在が、新色のジンクグリーンメタリックである。歴代ロードスターにはさまざまなグリーンが存在したが、今回は単純な復刻ではない。航空機のプライマーから着想を得たという色で、従来のブリティッシュレーシンググリーン的な世界観とは異なる、少し乾いた現代的な表情を持っている。ブラックのRAYSホイールとシルバーのブレンボとの組み合わせもPSによく似合う。このボディカラーはPSだけではなく他のグレードでも選ぶことができる。たとえばS Leather Package V Selectionにスポーツタン色のナッパ―レザーを合わせれば、より上質なグランツーリスモのような雰囲気を味わうこともできる。

37年間作り続けてきたロードスターに、今さらどれほど進化の余地が残されているのか。今回のPSに乗ると、その問いへの答えが見えてくる。

単にパワーだけを増やす必要もなければ、派手な電子制御を加える必要もない。足元を軽くし、バネとダンパーの仕事を整理し、ステアリングを自然にし、音を整える。その小さな改善を積み重ねることで、ロードスターはまだ軽く、まだしなやかに、そしてまだ楽しくなる。

PSという名前が示す「Pure Sport」とは、速さのためのスポーツではない。余計なものを削ぎ落とし、車を動かすことそのものを楽しむ。その意味では、今回のPSはロードスターが37年間追い続けてきたものを、いま一度鮮明にしたモデルなのである。

文:堀江史朗(オクタン日本版) 写真:尾形和美

Words: Shiro HORIE Photography: Kazumi OGATA