
誰も真似できない声を持つシンガーソングライター・荒谷翔大が、初のカバーアルバム『Sing in Blue』をリリースした。
2017年から2023年までバンド・yonawoのボーカルとして活動し、現在はソロアーティストとして真っ直ぐ「歌」に向き合っている、荒谷翔大。いつもよりちょっと無理して頑張った日も、穴に落とされたような気分の日も、心の中が慌てているときも、これから何かに向けて集中力を高めたいときも、荒谷翔大が発する音の粒は身体の周りでゆらゆらと漂ってくれる。彼の歌は、部屋の中で灯すロウソクのようだと、私は思う。
今回のインタビュー特集では、最初に「なぜ人は歌を求めるのか?」「いい歌とは何か?」という問いについて聞いてみた。そして後半では、ウルフルズ、玉置浩二(安全地帯)、椎名林檎、中島みゆき、アリシア・キーズなど、今作でカバーした、荒谷のルーツにあるアーティストや楽曲に対する解説・分析を彼なりの言葉で語ってくれた。カバーと原曲を行ったり来たりしながら、楽しんでほしい。荒谷自身が、そうしてカバー曲を愛聴してきたように。
ー前半では、「歌とは何か?」という話を聞きたいなと思っています。荒谷さんが、「もしかして自分は、人よりちょっと歌が上手いかもしれない」と自覚を持ったのはいつでしたか?
謙遜とかじゃなくて、「歌が上手い」と思ったことはなくて。子どものときも、「歌、好きやね」と言われたことはあるんですけど、「歌が上手いね」と言われたことはなくて。周りに歌が上手い友達がいたから、「それよりは上手くないな」と思っていて。でも人一倍、歌が好きだなという自覚はありました。あと、「声が素敵だね」と言ってもらうことはあって、それは素直に嬉しいです。……「上手い」って思いたいですけどね。ステージに立つときは自信を持ってやっていますけど。「もっと自由に歌えるはずだ!」って思っています。自分の理想には到底叶ってないなという感じが強いですね。
ー「歌、好きやね」と周りから言われるようになったのは、何歳くらいですか?
小学校低学年くらいかな。お風呂掃除とかをしながら、窓が開いてるから、近所の人みんなに聴こえるくらい歌っていました。「歌う」というより「叫ぶ」みたいな(笑)。当時は、Mr.Childrenも好きだったし、流行り歌を歌ったりもしていたし。近所に声が響きわたっていたから、「歌うの好きやね」って言われていましたね。
ーそもそも「上手い歌とは何なのか」「”上手い歌”と”いい歌”の違いは何か」という視点がありますよね。人がお金と時間を費やして聴きたい歌というのは、ただピッチが合っていたらいいとかではないじゃないですか。「いい歌」を求めるのが、人間の心理だと思っていて。
確かに、ピッチが合っているとかは「上手い」に当てはまるのかな。いい歌は、その人の想いや、その曲自体の何かが溢れ出す、みたいな。それを「共有できる」というのが、いい歌なのかなと思います。聴いてくれるみんなと何かを共有するための音だと思っていて、独りよがりのものは「いい歌」ではないのかなって、俺は思っちゃいますね。
ー今回のカバーアルバムは、やまもとゆきこさんによるグランドピアノの弾き語りアレンジということもあって、荒谷さんの歌声が際立っている作品だと思うんですけど、これを聴いて、荒谷さんの歌はロウソクみたいだなという印象を持ったんです。
うわ、やられた!(笑) 素敵な表現。ありがとうございます。自分が曲を作るときにも指針になるワードだなと思います。これは比喩とかではなく直接的な話なんですけど、部屋がバーンって明るいと落ち着かなくて、間接照明とかが好きで、制作するときもポツンみたいなものがちょうどよくて。マインドとしては一緒で、だからそういう歌い方や曲の作り方になるのかなと思って……全部、腑に落ちました。勝手に感激しました。
ー嬉しいです(笑)。初めて「自分にとって、歌うのは楽しい、気持ちのいいことだ」と思った瞬間のことは覚えていますか?
まだ文字もそんなに読めないときに、親戚で集まってカラオケをしているところで、何かの曲を歌って、文字が読めない部分は適当にやっていたら、みんなが笑ってくれたんですよ。それが嬉しくて。みんなが笑っている空間に俺も関与できて、楽しませられていることで存在意義を見出せた、というか。それが歌の原体験として、最初に「楽しい」と思った瞬間かもしれないです。その記憶が強く残っていますね。
ー「歌を通して人と何かを共有したい」「人がいる空間で、歌を通すと、自分の存在意義が表現できる」というのが、なぜ荒谷さんは歌うのか?という問いへの答えなんだなと受け取りました。逆に、なぜ人は、歌を聴くことを求めるのだと思いますか?
マインドを上げたり自分を楽しませたりしたいときに聴くこともあるけど、どちらかというとリラックスするために、セラピーとして聴く感覚のほうが近いのかなと思っていて。上手くいかないときも、よくないことがあったときも、その音楽はいつも変わらずそこにあるという安心感。こちらの状況がよかろうが悪かろうが、いつでもそこにずっとあるような音楽。そういう、ふと帰れるお家みたいな曲を自分は聴きたくなります。みんながみんな、それを求めているかどうかはわからないですけど。矢島さんは、どうですか?
「人間」を知るための歌
ー今荒谷さんが話してくれたことも名アンサーだなと思います。私は……自分にない考えや経験を知る術としても、音楽を聴いているところがあるなと思っていて。「こういうふうに考えたらいいんだ」「人にはこういう感情があるよな」とか、人間を知るという意味で歌を聴く楽しみもある気がします。それがきっと、自分を豊かにしてくれたり、自分だけの世界にいるとしんどくなるところを緩めてくれたりするのかなと思っています。
そっちもありますね。「この人、どう考えているのだろう」「ああいう感情もあるんだ」とかの引き出しが増えると、人との関わり方も変わりますよね。
ーそう。それで他者を理解できたり、優しくなれたりすることもあると思うから。
確かに、その感覚もありますね。自分の受け皿を大きくするとか、そういう作業でもあるかもしれない。
ー前半の最後の質問としてーー声は年齢とともに変わっていくものだと思うんですけど、今の荒谷さんの、この独特な歌声だからこそ表現できるものとは、どういうものだと思っていますか?
それを言ったらもう、「ロウソク」になります。さっきからずっとそれが脳裏に焼き付いて、頭から離れないです(笑)。自分よりも、見てくれている人のほうが自分のことをわかってくれていたりすることがあるじゃないですか。それこそ矢島さんは俺にわからないところまで見てくれているからこそ、「ロウソク」という発言が出たんだと思うんですけど、それが自分として本当に腑に落ちていて。だから今の問いに対しては、僕の声で歌うならポツンと、でも確かに灯るもの。かつ、お家に帰ったらいつも絶対にあるもの。そういう歌なのかなと思います。
(左から)荒谷翔大、やまもとゆきこ:『Sing in Blue』レコーディング時
UA、上田正樹、玉置浩二、井上陽水へのリスペクト
ー初のカバーアルバムを制作するにあたっては、いろんな人のカバーを聴き返したりもしました?
他の方のカバーを色々振り返りました。ハナレグミさん、玉置浩二さん、徳永英明さん、平井堅さんとか。清水翔太さんも「化粧」をカバーされていて、それが好きだったので改めて聴いたり。藤井 風さんの英語カバーも聴きました。井上陽水さんのセルフカバーアルバムも、めちゃくちゃよくて。もともとカバーアルバムを聴くのが好きで、それで知った曲もあるし、本家とカバーを行ったり来たりして聴くのもまた素敵だなと思っていて。時代を超えて歌われるって、こういうことなんだな、そういうことができたらいいな、という憧れがずっとありますね。
ーカバーアルバムに『Sing in Blue』というタイトルを付けたのは、どういう理由からですか? なぜ「Blue」という色を選んだのかが気になりました。
ジャケ写もそうなんですけど、タイトルも、ジャズスタンダードのアルバムのイメージがあって。今回チョイスした歌たちは、歌詞の世界観がちょっと憂鬱だったり、ブルーな悲しみを歌っているものが多かったし、かつ、自分が日頃から聴くのが好きな曲や、好きで歌ったりする曲もそういうものが多くて。ジャンル的に「ブルース」ではないけれど、言ってしまえば、どの音楽もブルースから派生されたものだし。そういったことを全部まとめて『Sing in Blue』、「青に歌えば」というイメージでした。ちょっとした影響を挙げるとすると、「Born To Be Blue」というジャズの曲があったり、『Born To Be Blue』というチェット・ベイカーの伝記映画もあるんですけど、そういうのがずっと好きで、実際にジャズの曲から引用したりもしていたので、今回カバーをやらせてもらうなら「Blue」は絶対に入れたいなと思っていました。
ー「ジャズのイメージがあった」というのは、どういう背景からですか?
もともとジャズは好きで、オリジナル曲の制作のモードとしても、もうちょっとジャズを取り入れたいなと思っていて。あと、ピアノを弾いてくれたゆきこちゃんもジャズアレンジが好きで、意図的というよりは無意識的にジャズのフレーズを入れる手癖があるので、それならそっちのほうが自然体で絶対にいいものができるなと思って。自分もジャズをやりたいモードなので、ジャズの好きな要素が滲み出るくらいの感じでやれたら2人のよさを最大限に出せるかもね、みたいな話をして、表現やアレンジを固めていきました。

(左から)荒谷翔大、やまもとゆきこ:『Duo Grand Piano One Man Live』
ーここからは選曲した9曲について、楽曲やアーティストについて語っていただこうと思います。1曲目はUAさんの「情熱」です。UAさんやこの曲には、どんな印象を持っていますか?
UAさんは日本のR&Bのパイオニアというイメージがあって、自分もR&Bの影響を色濃く受けているので、R&Bをやる人間として、自分だったらこの曲をどう表現できるのだろうという想いでトライしてみました。自分が歌わない譜割もあるし、リズムやグルーヴの取り方が難しくて。原曲の「情熱」は強烈なドラムから入って、あのリズムだからこそのノリがあると思うんですけど、今回はピアノと2人で、ドラムをなくしたときにどう歌えばいいのかが難しかったです。時間をかけて話しながらレコーディングしたので、原曲にはないグルーヴが出せたのかなと思います。あと、複雑なメロディと歌詞の相乗効果が素晴らしいなと思いながら歌いました。特にDメロとか「すげえな、これぞDメロだな」って感じます。《愛しても愛し切れない》とか、行ききらないようなもどかしいメロディなんですよ。でもDメロの最後の《まぶしい朝日を待ってる》で、パッと開けるようなイメージになるんです。特にそこが印象に残りました。
ー2曲目は、上田正樹さんの「悲しい色やね」。大阪の街をテーマにした曲ですが、大阪出身の自分としては、大阪の海や川を「悲しい色」と表現するのがすごいなと改めて感動しました。
今年6月にやったグランドピアノツアー(『Duo Grand Piano One Man Live』)の大阪公演で「悲しい色やね」をカバーさせてもらって、そこでゆきこちゃんとアレンジを固めたときに「これ、めちゃくちゃいいね」ってなって、ツアー中も「これは音源にしたいね」と話していたことが実現できました。アレンジとしては原曲リスペクトな感じですけど、ピアノ一本で聴くとまた沁み方が違うなと思います。この曲を初めて聴いたときは上田正樹さんの声とメロディがパンッと入ってきて「いい曲やな」と思ったけど、そのあと歌詞を見たらさらに……それこそ歌謡だなっていう、恋焦がれている感じ。いい歌詞って、何回も歌うことによって情景が染み付いてくるんだなということを感じる曲ですね。上田正樹さんはレイ・チャールズさんの曲も歌われていますけど、自分のルーツにもソウルやレイ・チャールズさんがあって。上田正樹さんはソウルシンガーとして日本人に届くヒットソングを歌っているという、そこも尊敬していて、自分の目指すところでもあるので、歌いながら感激していました。最近、上田正樹さんがウイスキー提供の動画をYouTubeに上げていて、それがまたバリバリ渋くて。ぜひ見てください(笑)。
ー3曲目は、安全地帯の「ワインレッドの心」。玉置浩二さんは、荒谷さんがリスペクトするシンガーとしていつも名前が挙がる存在ですが、どういうところに憧れていますか?
それこそ「歌とは」みたいな話で、歌に対する姿勢が自分の理想像だなと思います。自然と一体になって声を出している、みたいな。自我があるにはあるんだろうけど、最大限になくなっていて、ただ楽器として鳴っている。歌に込められている想いがただ鳴っているというのが、その曲のよさが一番伝わる方法なのかなという考え方を自分は持っていて。心の内側の奥底まで掘って、そこで響いているだけで、ただそれが外に漏れ出すというのかな……言葉にしづらいんですけど、その感じが玉置さんはすごいなって感じます。しかも、年代によって歌い方が違うし、ご本人もそう語られていて、いろんな葛藤や病気も乗り越えて自分のスタイルを築かれていったんだなと思うと、励みにもなります。自分が上手くいってなくても、まだ道の途中であると思えると思わせてくれる人でもあって、すごく尊敬しています。
ー「ワインレッドの心」は井上陽水さんによる作詞で、井上陽水さんのこともリスペクトする存在としてこれまでも名前を挙げられていたと思うんですけど、井上陽水さんについては、どういうところがすごいなと思いますか?
歌も素晴らしいけど、書く曲の影響がデカいかもしれないですね。直接的でも説明的でもないのに、めっちゃぶっ刺さる詞というのが……もう、よくわからなくて。「なんでなん?」みたいな(笑)。コラージュ的な詞を書かれる方だと思うんですけどーーそうじゃない曲もありますけどーーそれで、ストーリーがちゃんとできちゃうのが不思議だなって思います。「ワインレッドの心」もそうだと思うんですけど、語りかける誰かと、語りかけられる誰かがちゃんと浮かぶんですよ。《もっと勝手に恋したり》という歌い出しからもう、すごいですよね。しかも現実味がないというか、ちょっと異世界な感じもあって、それが曲と相まって吸い込まれちゃうなと思います。
椎名林檎、中島みゆきなどを男性が歌うことで立ち上がる強さ
ー4曲目は、椎名林檎さんの「ギブス」。椎名林檎さんの曲は、これまでもライブでカバーされていましたね。
中学生の頃から大好きなので。でも「ギブス」は1回もカバーしたことなかったので、挑戦ではありました。この歌詞は女性が歌うからこそいいというのもあると思ったから、男性が歌うとどうなるんだろうという懸念があったんですけど、歌ってみたときに自分としては「こういう面白さもあるかも」「男性が歌うよさをどうにか出せるんじゃないか」と思って歌わせていただきました。それこそさっきの矢島さんの話に近いかもしれないですけど、自分じゃ知り得ない感覚に手を伸ばす作業に近かったかもしれないです。たとえば《厭がるの》という感覚や愛で方は、女性特有な気もしていて。そういう男性もいるとは思うし、女性的というよりも林檎さんの感覚なのかもしれないですけど。一貫して芯が強いんですよ。そこの表現が、あまりにも強すぎる声だとなんか違うなと思って、かといって弱々しく歌うのも違うしっていう、その塩梅が難しかったです。
ー5曲目は中島みゆきさんが桜田淳子さんに提供した「化粧」で、これも女性目線の曲ですけど、確かに荒谷さんの声自体が柔らかくて優しいから、女性らしい強さを歌うのに合っているのかもしれないなと思いました。たとえばこれを野太い声で歌ったら、また違う類の強さが表現として立ちあがっちゃうと思うんですけど。
自分で「歌える」と思えたのも、そこなのかもしれないです。かなり新しい扉を開けたのかなって思います。この曲も、主人公の芯は強い。でも、足元はゆらゆらしていて立てていないくらいの印象を受ける。強すぎてもいけないし、かといってただか弱い感じでもないし、ということを考えながら歌いました。中島みゆきさんの詞は、主人公の顔まで浮かんじゃうんじゃないかというくらい迫ってくる感じがあるのがすごいですよね。悲しみ、憂い、恋しさとかの描写がすごい。どの曲も、歌詞のすごさだけで圧倒される印象があります。それこそ中島みゆきさんのことは、櫻井(和寿)さんがBank Bandでカバーされた「糸」を聴いて、「あ、この曲知っとる」ってなったのがきっかけでした。
ー6曲目は、アリシア・キーズの「If I Aint Got You」。1曲、洋楽が入ります。これは世界的な名曲のひとつですけど、荒谷さんは、この曲にどういう魅力を感じていますか?
ここまでストレートに「あなたがいないと何もないです」という、歌詞が素晴らしいですよね。生きていて、お金とか名声は、もちろん付随してあったらいいかもしれないけど、「YOU」「あなた」というものがなければ……そういうことやな、って常々思います。いつ歌っても沁みる、大事な曲です。これもライブでよく歌ってきた曲で、自分のルーツを表現する上でも英語の曲を1曲は入れたいなと思っていました。しかも、今回のテーマはブルーだと言いながらも、ブルーって、ただ落ち込むだけの話でもないというか。その中に希望も見出せるのが、俺が求めるブルーのあり方で。悲しみの中で「それでも希望を見出したい」という行為や、諦めないという意思表示が、歌というものだと思うから、ちゃんと希望を歌うことは忘れたくない。英語がわからない方にはただ音として入っていくと思うんですけど、その魅力もあると思っていて。言葉がわからなくても、音だけで「If I Aint Got You」という大きな気持ちが伝わったら、それはすごいなっていうワクワクもあります。
ウルフルズ、星野源、尾崎豊は「日本のブルース」
ー7曲目は、ウルフルズさんの「笑えれば」。ウルフルズの歌はすごくパワフルなのに、滲み出る哀愁、ブルー感がありますよね。ただ明るいだけだったら、きっとこんなに多くの人の心を深く掴んでなかっただろうし。
込み上げるものがあるんですよね。ウルフルズは本当に、日本のブルースだなって思っちゃいます。熱いのに、なんかすげえ悲しいんですね。それがブルースというか、いいなあって思っちゃいます。それを自分が歌えるのかという挑戦でした。「笑えれば」はわかりやすく希望を歌うような曲だけど、言いきれない感じが自分はすごく好きです。他の曲も大好きなんですけど、「笑えれば」は、哀愁寄りというか、ブルーな要素が強い感じがして、今回のアルバムにいいんじゃないかなと思って歌わせてもらいました。でも、これも難しかったです。それこそ、ピッチとかは別に当たっているけど、全体を通して、歌声そのものに込み上げるものがないなっていう感じのテイクが続いて。実際に使ってもらったものは、最後の最後に思いに任せて歌ったラストテイクでした。曲と同じように《最後に笑えれば》マインドになった状態で歌えて、それは自分に届くものがあったので、すごく気に入ってます。
ー8曲目は、星野源さんの「くせのうた」。星野さんの曲というか、星野さん自体が、ブルーが漂っているような方だという印象を私は持っています。
星野源さんのブルーは、諦めている。でも、生きるという選択を取っているわけで、諦めているけど……の、「けど」がある。言いきらない感じ。そこに何か希望がある。でも、希望があるとも言いきらない。でも希望があってほしいという余白を感じる。そうやって言いきらない余白や余韻をみんなで共有するのは、日本人が持っている感覚なのかなとも思います。「さようなら」という言葉の語源も、そうじゃないですか。この感じが自分も好きだし、日本人のブルースだなって思います。
ー素晴らしい。星野源という存在を、荒谷さんならではの言葉で的確に表現した「星野源評」ですね。
星野源さんは自分のルーツに色濃くあって、「くせのうた」は中学生の頃から、ミュージックビデオ込みで好きだったので、今回もし歌わせてもらえるなら「くせのうた」を歌いたいなと思って選びました。(くも膜下出血で)倒れて、復活して、『YELLOW DANCER』を出すというのをリアルタイムで追えていたし、ちょうど「自分も音楽をしたい」と思うようになった頃で、ブラックミュージックをベースに日本人がどう表現できるのかというマインドや志も重なって、さらに追いかけていました。それまで周りの子は星野源さんのことを知らなかったけど、「SUN」はみんなで歌える状況になって、「お茶の間に届くというのはこういうことか」ということを感じましたね。
ー日本人としてブラックミュージックをどう表現したらいいのか、それをお茶の間に届けるとはどういうことなのかというのを星野源さんから学んで、yonawoの活動でも影響を受けていたということですよね。そして最後は、尾崎豊さんの「ダンスホール」です。尾崎豊さんは、なぜここまで伝説的な存在として日本の音楽史に残っているのだと思いますか?
「ダンスホール」は、それこそ尾崎豊さんは女性目線で歌うとまたいろんな表情や景色を見せてくれる印象があって、それを自分もどうにかできないかなという想いからも、前からギター弾き語りでカバーしていました。今回、ピアノでアレンジできるのかなと思ったけど、ゆきこちゃんがめちゃくちゃいいアレンジを持ってきてくれて、さびれたバーの隅でポロロンってピアノを弾いているイメージが重なるような、また違う世界のダンスホールが見えたなって感じました。「ダンスホール」は歌っていて、改めて曲のすごさを思い知りましたね。尾崎豊さんは、《盗んだバイクで走り出す》(「15の夜」)とか、歌詞の強烈さがどうしても印象として先行していると思うんですけど、僕は、ビリー・ジョエルとかニューヨークのアーティストへの憧れから生まれた音楽的な素晴らしさに惹かれていて、それこそブルースを感じるから好きな曲がいっぱいあるんですよね。「街路樹」とか、中学生の頃からカラオケで歌っていて、今でも歌います。お父さんが車の中でかけていたことがきっかけで、自分でも掘るようになって、幼馴染にも尾崎豊さんを好きなやつがいて一緒に教え合ったりしていました。昔から、あの感じが好きだったんです。「米軍キャンプ」とかも、尾崎さんにしか歌えない歌詞だなと思います。
ーこうやって1978年から今に至るまでの国内外の名曲を歌って、自分のルーツともじっくり向き合って、この先、荒谷翔大としてどんな歌を歌っていきたいと思いますか?
オリジナル曲では自分にしか出せない色ーーそれは歌声しかり、曲や歌詞しかり、音楽性しかりーーを、改めて突き詰めたいなと思いました。どの曲も素晴らしくて、いい意味で、自分には作れない。だからこそ、自分にしかできないものがあると信じてやり続けたいなと思いました。まずはシンプルに、みなさんから了承を得て歌わせてもらえたことに感謝です。それに応えられるくらい、この曲自体を知らない人にも、もちろん知っている人にも、伝えていきたいなと思います。
<リリース情報>

荒谷翔大
『Sing in Blue』
配信中
=収録曲=
1. 情熱
2. 悲しい色やね
3. ワインレッドの心
4. ギブス
5. 化粧
6. If I Ain't Got You
7. 笑えれば
8. くせのうた
9. ダンスホール
<ライブ情報>

荒谷翔大 1st Full Album ”TASOGARE SOUL” Release One Man Live Tour
10月23日(金)大阪 梅田Shangri-La
10月24日(土)名古屋 Tokuzo
10月31日(土)福岡 DRUM Be-1
11月1日(日)札幌 SPIRITUAL LOUNGE
11月3日(火・祝)東京 Shibuya WWW X
