震災の実際の映像は、未来の災害から命を守るためにも伝えるべき。一方で、見たくない人が避けられる選択肢も必要ではないか――。8月に行われた放送倫理・番組向上機構(BPO)青少年委員会の中高生モニターとの意見交換会で、「震災と青少年をめぐる放送について」をテーマに議論が行われた。

サブチャンネルの活用や年齢に応じた番組、映像が流れる前のテロップなど、中高生からは具体的な提案が相次いだ。

  • BPO事務局が入る千代田放送会館

    BPO事務局が入る千代田放送会館

震災関連番組「見た」が62%

青少年委員会は今年度の中高生モニター30人に、過去1年間に震災関連番組を見たかどうかを事前アンケートで尋ね、26人から回答を得た。

「見た」が16人・62%、「見ていない」が5人・19%、「記憶にない」が5人・19%。震災に触れた入口は、ニュース、情報番組、ドキュメンタリー、音楽番組の特別企画、防災番組、ラジオ局を取り上げた番組、YouTube上のニュース映像などだった。

TBS『音楽の日』の特別企画を見た高校1年の女子生徒は、音楽番組の中で震災を扱うことで「普段震災関連番組を意識して見ていない人にも、震災について考えるきっかけになると思いました」と評価した。

一方、中学3年の女子生徒からは「3月11日にしか映像や話題に触れないので、もっと今どうなっているかを放送するべき」との声も。

中学3年の男子生徒は、震災を直接知らない世代に向けて、テレビやラジオがどう「怖がらせすぎずに、でも大切な教訓を伝えていくか」は重要なテーマだとした。

「映像だからこそ伝わる」一方で…

議論の中心となったのが、地震や津波の実際の映像をどう扱うかだ。

地震や津波などの災害映像に強い恐怖を感じるという中学1年の男子生徒は、実際の映像で事実を伝えることの重要性を認めながら、「被災した方が思い出してしまうこともあります」と指摘。「映像だけでなく、言葉や身振り、被災者の方の話で伝える方法もあるのではないか」とし、「危機意識を高めるために流すなとは言いませんが、もう少し配慮があると助かるというのが、僕個人の願いです」と語った。

中学3年の女子生徒も「津波があったという事実は多くの人に知ってもらう必要があり、映像だからこそ伝わることがあります」とした上で、被災者が当時を思い出す可能性を考え、「津波の映像が流れます」と事前に知らせる配慮を求めた。

「触れたくない人は避けられる仕組みを」

別の中学3年の女子生徒は、将来さらに大きな地震や津波が起きた際、過去の映像を知らなければ危険の大きさを理解できない可能性を指摘。「歴史として映像を流すべき」としつつ、「触れたくない人は避けられる仕組みも必要だと思います」と提案した。

高校1年の女子生徒も、災害映像には当時何が起きたのかを伝え、次の災害で被害を減らしてほしいという意味が込められているとして、「記録としても教訓としても活用すべき」と評価。その一方で、つらく感じる人への配慮とセットで放送する必要性を訴えた。

サブチャンネルで「映像を見る人」「言葉で学ぶ人」を分ける案

「見たい人」と「見たくない人」の両方に選択肢を用意する具体策も出た。

高校3年の男子生徒は「サブチャンネルを使い、映像を見る人と言葉で学ぶ人を分ける方法も考えられます」と提案。

高校1年の女子生徒は、生成AIなどによって実際より大げさな映像が作られる可能性があるからこそ、多くの人が見るテレビでは「本物の映像はこれだ」と分かるよう、実際の映像を流してほしいと要望した。その際には、テロップによる注意喚起や、誰かと一緒に見るよう促すメッセージもあればよいのではないかとした。

別の高校1年の女子生徒からは、津波映像を流すか流さないかの二択ではなく、「子ども向けや大人向けなど、多様な番組を放送することが必要」との意見も。高校3年の女子生徒は、実際の映像を流すだけではなく、「今後どう対策していけばよいか」まで伝えるべきだと訴えた。

佐々木輝美委員「忘れがちなのは『目的』」

佐々木輝美委員は「メディアで流すときに時々忘れがちなのは、『目的』です」と指摘。「生の映像を流すか流さないかということではなく、流した後にどうなってほしいのか、そこを目指していくべきだと思います」とし、小学生、高校生、大人と受け手に応じて伝え方を変える時代が、AIの発達によって訪れるとの見方を示した。

その上で「何を伝えるために、どの映像を、誰にどう届けるのかを、一緒に考えていくことが大事だと思いました」と語った。

山縣文治委員は「私は『中立』というものはないと思っています」と発言。自分の考え方に近ければ中立に見え、遠ければ中立ではないように見える「相対的なもの」だとし、「だからこそ、今日皆さんが話していたように、多角的に見ることはとても大事です」と語った。一方、その多角的な視点にも、それぞれ何らかの“ゆがみ”があると指摘した。

沢井佳子委員は「恐怖を与えないようにする配慮は大事」としながら、「私たちの心に恐怖があるのは、恐らく私たちを救うためでもあります」と説明。怖い映像をただマイルドにするのではなく、「どうかみ砕いて伝えるか」が重要だとし、繊細な人へのケアをしながら、何に注意すべきなのかをどう説明するのかについて、中高生だけでなく制作現場にも「これから開発していってほしい」と期待した。

池田雅子委員は「今の時代、『オールドメディア不信』ということがあちこちで言われています」と言及。この日、中高生が生放送の現場を見学したことに触れ、「たった15分の番組に、あれだけたくさんの人が関わり、力を込めて、誠実に努力していることがよく分かったと思います」と語った。

今後も既存メディアへの批判や「SNSのほうが速い、信頼できる」という声に触れることはあるだろうとしながら、「そのような情報に触れたときには、一歩立ち止まって、今日見た放送現場のことを思い出してほしいと思います」と呼びかけた。

「テレビ放送がなくなってネットだけになったら」

最後に吉永みち子委員長は、実際に放送現場を見ることの重要性を強調。現場を知らないまま「既存メディアは信頼できない」と言われることがある一方、「現場では、ひたすら一生懸命取材をして、確認を重ね、どうすれば正確に、誠実に伝えられるかを考えながら、放送に持っていくということをやっています」と説明した。

さらに「もし若い人がテレビを見なくなったら、テレビという放送は消えてしまうかもしれません」と指摘。「テレビ放送がなくなってネットだけになったら、どういう世の中になるのか」と問いかけ、速く便利な情報がある一方で、「現場に足を運び、人に会い、確かめながら伝えるという営み」が細っていった時に何を失うのかも考えてほしいと呼びかけた。

そして「テレビは、作り手だけのものではありません」とし、「見てくださる人、意見を寄せてくださる人、そして今日のように率直に考えを話してくれる皆さんと一緒に育っていくものだと思います。これから先のテレビを、ぜひ一緒に育てていってもらいたいです」と締めくくった。