(左から)フィリーズのアラエス、シュワーバー

 

 ナ・リーグ東地区で逆転優勝を狙うフィリーズが、異色の打順で勝負をかけている。1番には今季43本塁打のカイル・シュワーバー、そして4番には6本塁打ながら打率.316でメジャートップに立つルイス・アラエス。一般的なイメージとは逆にも見える並びだが、アラエス加入後はチームの三振率が低下し、出塁率や1試合平均得点は上昇している。なぜフィリーズは“長距離砲を1番、首位打者を4番”に置くのか。その狙いと、加入後に起きた変化を探る。(文・八木遊)

 

[caption id="attachment_288339" align="aligncenter" width="1200"] フィリーズのカイル・シュワーバー(写真:Getty Images)[/caption]

 

 

 

 ナ・リーグ東地区のフィリーズが、一味違う“強力打線”を武器に逆転Vを狙っている。

  

 1番打者が43本塁打、そして4番打者は6本塁打――。数字だけを見れば、普通は逆だろう。今季メジャーで最も多くアーチを描いているカイル・シュワーバーが1番に座り、4番を任されているのは巧打者のルイス・アラエスだ。

 

 アラエスといえば、2022~24年に3年連続で首位打者に輝き、今季も打率.316でメジャートップに立つ。空振りがとにかく少なく、タイプ的には1番か2番をイメージする打者である。

  

 もちろん、アラエスに4番経験がないわけではない。ただ、昨季はパドレスで主に2番を打ち、今季もジャイアンツでは1~3番での起用が大半だった。ではなぜ、フィリーズはそんな打者を4番に据えたのか。

 

 フィリーズがアラエスを獲得したのは8月3日のトレード期限直前だった。

 

 翌4日の新天地デビュー戦から、ドン・マッティングリー監督代行は「1番シュワーバー、2番トレイ・ターナー、3番ブライス・ハーパー、4番アラエス」と上位を並べた。実際、アラエスを1番、シュワーバーを4番にする案も検討していたというが、そうはしなかった。

 

 マッティングリー監督代行は、アラエスを4番に置くことで「彼の安打が得点につながる位置になる」という趣旨を説明している。シュワーバーやハーパーの後ろで、その高いコンタクト力を得点につなげる。長打力だけで4番を決めない発想だった。

  

 そしてアラエスの加入後、フィリーズ打線には興味深い変化が起きている。加入前113試合と加入後31試合を比べると、チーム三振率は23.6%から17.0%へ低下し、出塁率も.305から.336へ上昇した。

 

 逆に本塁打率は3.4%から2.2%へ下がったが、1試合平均得点は4.39から4.71へと増加している。本塁打の割合が下がった一方で、三振を減らし出塁を重ねながら攻撃をつなぐ形が増えているといえそうだ。

 

 チーム成績もアラエス加入後に21勝10敗と上向いた。8月には一時、地区首位ブレーブスとの差が9.5ゲームまで広がったが、9月7日終了時点では4ゲーム差まで接近している。

 

 

 

[caption id="attachment_288340" align="aligncenter" width="1200"] フィリーズのルイス・アラエス(写真:Getty Images)[/caption]

 

 もちろん、これを「4番アラエス効果」の一言で片づけたいわけではない。加入前後で1試合平均失点は4.40から3.55へ大きく改善しており、勝敗を押し上げた最大の土台は投手陣だからだ。

 

 それでも「4番アラエス」の意味を考えるうえで、興味深い言葉を残している選手がいる。3番を打つハーパーだ。

 

 ハーパーはもともと相手投手から厳しく攻められ、四球も多い打者である。実際、アラエスが後ろに入ってからも相手がハーパーへストライクを増やしたわけではない。それでもハーパーは、後ろのアラエスを信頼し、「自分が決め切らなくても任せられる」という趣旨を語っている。

 

 アラエスは三振が極端に少なく、走者がいる場面でもボールを前に飛ばせる。つまりハーパー自身も、何が何でも自分で決め切る必要はないと思えるわけだ。4番の価値は、本塁打や打点だけでは測れないのかもしれない。

 

 ただ、フィリーズ打線はここにきてやや勢いを失いつつある。直近のブレーブス4連戦は計11得点。最終戦も得点はシュワーバーの43号ソロだけだった。

 

 「4番アラエス」は、もちろん魔法ではない。それでも43本塁打男を1番、首位打者を4番に置く並びを、フィリーズは今後も貫くのか。首位ブレーブスまで4ゲーム差。打順の常識をひっくり返したフィリーズが、最後は順位までひっくり返せるか注目だ。

 

【著者プロフィール】

八木遊(やぎ・ゆう)

1976年生まれ。スポーツライター。米国で大学院を修了後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLなどの業務に携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬記事を執筆中。

 

 

 

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【了】