
アークティック・モンキーズ、ブラー、デペッシュ・モード、War Child『Help(2)』などを手掛け、シミアン・モバイル・ディスコのメンバーとしても知られるジェイムス・エリス・フォード(James Ellis Ford)が、2ndアルバム『Lost In Another World』を〈Domino〉から発表した。急性骨髄性白血病と診断され、生存率30%と告げられたフォードが、入院生活のなかで最小限の機材を使い、わずか2週間強で形にした作品だ。病との闘いを乗り越えたフォードが、その制作背景を語る。
一歩間違えば、ジェイムス・エリス・フォードにとって最後のアルバムになっていたかもしれない。『Lost In Another Word』はロンドンの病院、正確にはSt Bartholomews Hospitalで生まれた。化学療法と幹細胞移植の合間、恐ろしい診断と一筋の希望の間、点滴スタンドと電子音を鳴らす医療機器に囲まれながら作られたのだ。ただ、そこに欠けていたのは、彼が何より愛する機材だった。最悪の時期を乗り越え、ひとまず白血病との闘いに勝利した今、フォードは楽器や機材に囲まれた自宅スタジオに座り、こう語る。「僕は機材が好きなタイプなんだ。画面を見ながら作業するより、手を動かして作るほうが好きなんだよ」。だが新作を作るために使えたのは、最低限のものだけだった。「ノートパソコンとマイク、それにMIDIキーボードがあった」。妻はさらにIKEAのテーブルを持ってきてくれた。病床にいながらも、どうにかまともな姿勢で自分の情熱に打ち込めるようにするためだ。フォードは2025年、ほとんど不可能に思えることを成し遂げた。アルバムを作り、そして癌を克服したのだ。治療を始めた当初、医師から告げられた生存率はわずか30パーセントだったにもかかわらず。
フォードがこの四半世紀における英国最高のプロデューサーであることは、もはや誰もが知るところだ。何しろ彼は、アークティック・モンキーズの『AM』や『Tranquility Base Hotel & Casino』といった傑作に、あの荘厳なフィルム・ノワール調のロック・サウンドを与えた男であり、アイルランドのフォンテインズD.C.を『Romance』で最高のパフォーマンスへと導き、フローレンス・ウェルチ、ジェシー・ウェア、ゴリラズといった面々に、緻密にアレンジされたポップ・ミュージックのアイデアを提供し、デペッシュ・モードが今なお現役感のあるサウンドを鳴らし続けることにも一役買い、素晴らしいブラーのアルバム『The Ballad Of Darren』を手がけ、さらにはパルプともスタジオに入っている。
そして忘れてはならないのが、フォード自身もバンド・メンバー、作曲家、演奏家、シンガーとしてたびたび表舞台に立ってきたことだ。彼はジャス・ショウとともにエレクトロ・デュオ、シミアン・モバイル・ディスコを組み、ハウス、ディスコ、DJポップからの引用をふんだんに取り込んだサウンドで世界中をツアーしてきた。また、アークティック・モンキーズを率いるアレックス・ターナーやザ・ラスカルズのマイルズ・ケインとともにスーパーグループ「ザ・ラスト・シャドウ・パペッツ」の中核メンバーとして、60年代のバロック・ポップを21世紀へと送り込んだ。さらに2023年には、サイケデリアとエレクトロニカ、ブライアン・イーノとロバート・ワイアットの間を鮮やかに行き来する初のソロ・アルバム『The Hum』も発表している。ただし『Lost In Another Word』は、ところどころでデビュー作と同じインスピレーションの源泉が顔をのぞかせるとはいえ、まったくの別物だ。
新作の前日譚は2024年末に始まる。この年のクリスマスを目前にして、フォードは次第に体調の異変を感じるようになった。最初は燃え尽き症候群だと思っていた。つい最近まで、パルプの復活作『More』の制作に取り組んでいたからだ。しかしクリスマス・イブには、ソファからほとんど立ち上がれないほどになった。そこで彼は、それまでの(いかにも男性らしい)習慣に反して診察を受けることにした。「人生の大半で、僕は医者に行かなかった。自分は無敵だと思っていたし、身体を酷使していたんだ」とフォードは認める。そして2025年1月、打ちのめされるような診断が下された。白血病だった。彼はまず、疲弊した英国の医療制度を身をもって知ることになる。「患者が廊下で寝なければならない」ような病院に入れられたのだ。幸い、その後まもなくSt Bartholomews Hospitalへ移される。そこでは環境こそ改善したものの、彼自身が回復できる見込みは、決して明るいものではなかった。
驚かされるのは、フォードがいかに早くそのショックを振り払ったかということだ。St Bartsに入院して最初の数週間のうちに、病院にいる間にアルバムを書き、レコーディングしたいという思いが彼の中で形を取り始めた。「それが、病気になる前の自分の人生や、現実の世界と僕をつないでくれた。精神的な健康を保つうえで、計り知れないほど大きな意味があったんだ。普通でいられる感覚を取り戻そうとする試みだった」と、今ではほぼ完全に回復したフォードは語る。完全に無防備な状態に置かれた時期に、少しでも自分の手にコントロールを取り戻したかったのだという。デヴィッド・シルヴィアン、トーク・トーク、ジョン・グラント、デーモン・アルバーン、坂本龍一を思わせる楽曲は、その助けになった。絶えず深淵を覗き込まずに済むよう、自分を少しずつ励ましてくれるものだったのだ。フォードは『Lost In Another World』に収められた12曲を、「自分自身に向けた励ましの言葉(Pep talks to myself)」と呼んでいる。
フォードは(いかにも英国人らしい)ユーモアを失ってはいないようだ。満面の笑みを浮かべながら、録音を台無しにしないよう、つま先立ちで歩いてくれた看護師たちのことを話す。なかにはヘッドフォンをつかみ、この有名な患者が治療の合間にいったい何をやっているのか、実際に聴いてみた看護師もいたという。フォードは同室の患者のことも覚えている。2人を隔てていたのはカーテン1枚だけだった。理想的なレコーディング環境とは到底言いがたい。フォードが見つけた解決策はこうだ。「彼の邪魔をしないように、わざと小さな声で歌っていたんだ。あの人、僕のことを頭がおかしいと思っていただろうね」。
とはいえ、その合間にも状況の深刻さが彼を現実へと引き戻した。2025年の春から夏にかけては、何度も後退を余儀なくされた。完全な絶望や死への恐怖に襲われる時期もあった。最初の化学療法で免疫系は壊滅的な打撃を受け、白血球の数は憂慮すべきほど低い水準まで落ち込んだ。幹細胞移植もうまくいかなかった。そのうえ不運にも感染症まで患い、集中治療室へ運ばれ、数日間は命が風前の灯火となった。それでも彼は、そのすべてを乗り越えた。スピリチュアルな教訓の類に聞こえるかもしれないが、根底にあるある種の楽観性が、決して小さくない(プラセボ的な)効果をもたらしたのだろう。「頭の中で『大惨事だ! 大惨事だ!』と叫ぶ声を、あまり大きくしたくなかった。もちろん、『なぜ僕なんだ?』『なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ?』と思う瞬間もあったよ。でも、そういう考えに囚われても何もいいことはないと思う。そういう思考の袋小路に、自分の音楽の中で居場所を与えたくなかったんだ」
『Lost In Another World』は、フォードの人生で最も過酷だった時期を、見事なまでの率直さで捉えている。そこに収められた曲は、次のクリスマスを迎えられるかどうかさえわからない人間が何を経験するのかを隠そうとはしない。この運命を刻み込んだアルバムには、それでも多くの光がある。不条理に思えるかもしれない。なぜなら、フォードがこれらの曲を思いついた時点では、まだ危機を脱したとは到底言えなかったからだ。しかし、重い病を患うミュージシャンに、墓場のように真っ暗な哀歌を期待することのほうが、よほど不条理ではないだろうか。いずれにせよ、『Lost In Another World』の軽やかで、ときにポップですらあるメロディは、フォードが精神的にも肉体的にもいくつもの深い谷を通り抜けるなかで得た、ある前向きな経験の表れだ。
47歳の彼が口にするのは、感謝という言葉だ。恵まれた仕事に就けていること、妻に対する感謝(「彼女はものすごいパワーの持ち主なんだ!」)、そして8歳の息子への感謝。「不思議なことに、何もかもが悪かったわけじゃない。たとえば、その瞬間を楽しむことや、愛する人たちをこれまで以上に大切にすることを学ぶ。『誰と、どんなふうに自分の時間を過ごしたいのか?』と自分に問いかけるようになる。人生がいかに脆く、有限なものなのかを意識するようになる。それは本当に僕の目を開かせてくれた」。そして、自分の苦しみを芸術のために食い物にしているような後味の悪さを感じさせることなく、彼はこう語る。「ああいう時期には、曲に書ける感情が十二分にあるんだ。もう一度あのマインドセットに戻れたらいいと思う。ただし次は、白血病抜きでお願いしたいね」
フォードは新作を宇宙船にたとえる。制作していた当時、自分が並行世界にいるような感覚だったからだ。「窓の外を見ると、世界がそのまま動き続けているのが見える。でも、その世界がまだ自分にも開かれているのかどうかはわからない」。『Lost In Another World』によって、彼はこの世界へと戻る道を切り開いていく。それも、これ以上ないほど心を高揚させるやり方で。
アークティック・モンキーズ 『AM』
アークティック・モンキーズが2作目を発表した頃から、フォードは彼らのプロデュース・チームに名を連ねている。だが、この4人組に対する彼のサウンド・ヴィジョンが完全な形で結実するのは、『AM』(そして続く『Tranquility Base Hotel & Casino』『The Car』)になってからだ。2000年代のせわしなく過剰に高揚したインディー・ロックはここで影を潜め、代わってグラム、R&B、ブルース、デザート・ロックが息を呑むような一体感で結びついている。シンガーのアレックス・ターナーは、カリフォルニア、ソウル、そしてクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジをたっぷりと吸収していた。「One For The Road」や「Snap Out Of It」といった曲を支配するのは、重々しく堂々としたグルーヴだ──言うなれば、エレキギターを鳴らすディスコをスローモーションにしたようなサウンドである。
デペッシュ・モード 『Spirit』
アナログ・シンセサイザーと80年代のエレクトロ・ポップ・バンドを愛するフォードにとって、この仕事は夢が叶ったようなものだった。とはいえ、ここで彼は安易なレトロ趣味に走ることも、自らのヒーローたちを歴史の残響の中に埋没させることもない。インダストリアルへ向かうこともあれば、ノー・ウェイヴへと逸れていくこともあるマーティン・ゴアの楽曲に、シャープでダイレクトなサウンドを与えている。それがシンガーの心情にも完璧に合っているのだ。デイヴ・ガーンは、愚かな愛国主義者、進歩を盲信する楽観主義、グローバル企業の強欲に対する怒りを、キャリア屈指の歌詞へと凝縮している。フォードは続く『Memento Mori』もプロデュースした。
ギース 『3D Country』
ニューヨークを拠点とし、卓越したシンガー、キャメロン・ウィンターを擁するギースの最新作『Getting Killed』は、2025年の年間ベスト・アルバム・リストのほとんどに名を連ねた。それも当然だ。だが、その前作『3D Country』の時点ですでに、なぜギースが久々に現れたアメリカでもっとも独創的で刺激的なバンドと評されているのかは十分に伝わってくる。ドラッグで朦朧としながら砂漠をさまようカウボーイを描いた幻覚的な旅には、アメリカーナの熱に浮かされた夢に必要なものがすべて詰まっている。カントリー、ブルース、パンク、ソウル、スワンプ・ロック。フォードはその混沌としたミックスを、サウンド面ではリトル・フィート、フランク・ザッパ、ザ・ストロークス、ローリング・ストーンズのどこか中間に位置するものとして仕立て上げている。
ブラー 『The Ballad Of Darren』
この40年でもっとも重要な英国バンドのひとつであるブラーのアルバムをプロデュースできたことは、フォードにとって当然ながら大きな名誉だった。実験色の強かった『The Magic Whip』のあとだけに、『The Ballad Of Darren』はほとんど往年のブラーそのものとさえ言える。どこか酩酊したようにロックする「St. Charles Square」だけは少し毛色が違うが、それ以外は事実上、バラードで占められている。そして、その一曲一曲が見事だ。美しい別れの歌「Barbaric」から、胸が張り裂けるほど悲しい「The Everglades (For Leonard)」、アンセミックな自己省察を聴かせる「The Narcissist」まで。フォードは、それらの楽曲がふわりと宙に浮かぶように響くための十分な余白を与えている。
ザ・ラスト・ディナー・パーティー 『Prelude To Ecstasy』
鮮烈な一撃となったデビュー作だ。2021年にロンドンでザ・ラスト・ディナー・パーティーを結成した5人の女性たちとともに、フォードは壮大なオーケストラル・ポップのパノラマを描き出している。その中には、ミュージカルの断片やドゥーワップへの参照、ケイト・ブッシュとABBA、ジュリア・ホルターとフローレンス・ウェルチ、ピアノのエチュード、そして空一面を覆い尽くすかのようなストリングスまで、あらゆるものが居場所を与えられている。荒々しくも陶酔的なバラード「On Your Side」や、華やかなアンセム「Nothing Matters」で、ザ・ラスト・ディナー・パーティーは豪奢さとドラマティックな大仰さを存分に味わいながらも、決して楽曲の核を見失わない。そして今では珍しくなったものを持っている──大きく、否応なく人を惹きつけるメロディだ。
ベス・ギボンズ 『Lives Outgrown』
これまでフォードが携わってきた中でも、もっとも親密なプロジェクトだ。ポーティスヘッドのシンガー、ベス・ギボンズと共同でプロデュースした『Lives Outgrown』は、夢の中を歩くようにフォークとチェンバー・ポップの間をゆらゆらと行き来する。10年という歳月をかけて書かれたこの作品で、ギボンズは死と死すべき運命、老いと移ろいゆくものについて思索を巡らせる一方、再生への希望をも呼び起こしている。母であることと肉体の衰え、不安と自らの運命を受け入れることについて、これほど優雅に、美しく、そして深く人間的に語ったアルバムを探そうとしても、そう簡単には見つからないだろう。
From Rolling Stone Deutschland

ジェームス・エリス・フォード
『Lost In Another World』
発売中
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