由薫が語る、MONJOEらと作り上げた新曲「OUT」 音楽や家族との関係で見つけた、孤独や弱さをさらけ出す勇気

シンガーソングライター・由薫が、8月12日、新曲「OUT」をリリースした。MONJOE、松本京介(KYOSK)、D3adStockとともに作り上げたオーガニックとデジタルが混じり合うトラックの上で、由薫自身が殻を破って一歩踏み出した経験を歌うこの楽曲は、TOYOTA「クラウン」スタイルムービーのテーマソングに起用されている。ここでは、音楽ジャーナリスト・矢島由佳子によるオフィシャルインタビューを掲載する。なお、同内容のトーク映像は、由薫の公式YouTubeチャンネルにて見ることができる。

ーこうやって由薫さんをインタビューさせてもらうのはEP『Sunshade』リリース時以来、約2年ぶりです。

由薫:衝撃の事実ですね。そんなに久しぶりだとは思ってなかったです。

由薫(Photo by Shun Komiyama)

ーこの期間、どう過ごされていたのかをしっかりお伺いできればなと思います。まず、新曲「OUT」がリリースされました。これは昨年の冬、CEIPAが主催するコライトキャンプで制作された曲だそうですね。今年6月も、BillyrromのRinさんなどとコライトキャンプに参加されているのをSNSで拝見して、「めちゃくちゃ面白そうな組み合わせだな」と思ったんですけど、コライトキャンプでいろんな人と一緒に作るというのは、由薫さんにとってどういった刺激や普段の制作からの変化がありますか?

由薫:もともと自分の性質としては人と曲を書くことが好きだし、今までもやってきているほうではあったので、コライトセッションの話をいただいた時は「楽しそうだな」というポジティブな気持ちでした。人と作ると、自分からは出てこないものが出てくるのが楽しいし、化学反応みたいなものが起きるのがいいところだなと思っていて。今回もすごく楽しくコライトすることができました。

ーコライトキャンプというものが、どういうふうに進んでいくのか想像が付かないリスナーもたくさんいると思うので、言葉にしてもらいたいなと思うんですけどーー今回の「OUT」の場合、どういうふうに進んでいったんですか?

由薫:「OUT」は、かなり特殊でした。特殊な点として一番大きかったのは、初対面でコライトするということ。曲を書くという作業って、お互いの芯にあるものを見せ合うようなことが多いので、信頼関係が大事だと私は思っていて。だから世の中のコライトされているみなさんはきっと、何度も話し合いながらお互いのパーソナリティを知って、時間をかけて作っていると思うんですけど、今回はそこが一切ないままスタートしたことが特殊でした。しかも人数が多いということですね。私とMONJOEさん、D3adStockさん、松本京介さんと4人で部屋に入って、最初は緊張感があったんですけど、私はそれも「いいぞ」と思って(笑)。押し引きも大事だし、誰が進めていくのか、いっぱいあるアイデアの中でどれを選ぶのかとか、選択の連続でした。

ー最初に、どういう音楽性や方向性で作ろうといったディスカッションはあったんですか?

由薫:私が歌う曲になるので、私からリファレンスを何曲か共有したんですけど、その中の1曲にみんなから「これいいじゃん」という反応があって。そしたらMONJOEさんの中ですぐにイメージができたみたいで速攻で作業に取り掛かって、松本さんがその場でギターを入れたり、D3adStockさんがメロディを鼻歌で歌ったり、それに影響されて私からもメロディが出てきたりして。出会ってから1、2時間で、いざメロディを入れるとなった瞬間、コライトの奇跡が起きたんですよ。その時にマイクを渡されて歌ったメロディが、ほとんどそのまま「OUT」のメロディになっています。その瞬間にみんなで「うわー!」ってテンションが上がって、そのあとも「これはやばいぞ」って言いながら作って、完成した時にはみんなで固い握手を交わしてお互いの才能を讃え合いました。小学生の頃って、たとえば知らない子同士でドッジボールを遊んでいる中で、チームプレーで1点取れた時に「わあ!」ってなるじゃないですか。ああいう人とのピュアなコミュニケーションとか、音楽がもたらす高揚感を感じました。会話じゃなくて音楽を通してお互いを知るということを、今までの音楽人生の中で一番強く感じた日でした。そんなことって滅多にないと思うから、この曲はリリースしたいなと思っていました。たった1日で3人と心の距離が縮まって、それ以降も仲間としてリスペクトしています。

ー最終的には自分の名義でリリースして、自分が歌うことになる曲で、由薫さんらしさやアーティストとしての個性を出すことも大事にされていたんじゃないかと思うんです。そのあたり、何か意識されていたことはありますか?

由薫:方向性ややりたいことは自分から発信して、「それいいですね」「それはちょっと違う」ということを積極的に言おうと思っていました。そこはちょっと頑張りポイントでした。年齢もバラバラだし、私はキャリアや音楽知識がみなさんより少ないんですけど、そこで萎縮したら絶対に後悔するから、遠慮せずに話すということをコンセプトにしていました。自分がやりたいことや自分が生み出すものと、他の方のアイデアをリスペクトするところの塩梅がすごく大事だといつも思っているんですけど、この曲はその塩梅が上手くいったと思っていて。私のアイデアも入っているし、みなさんのアイデアも均等に入っていて、それがいい曲になったと自分で納得できるポイントかなと思います。

ー由薫さんの譲れないアイデアや軸というのは、言葉にしてもらうと、具体的にどういうものだったんですか?

由薫:これから先の音楽人生の中で、ライブでお客さんを目の前にして、このメロディや言葉を自分の口で歌い続けていくイメージが湧くかどうか。それが一個の譲れない軸でした。自分の中で、目を閉じながら「これを歌っているイメージができるかな」「みんなに伝えたい歌かな」ということをずっと確認しながら進めていました。

カフェで母親と本音を話して号泣した

ーお話を聞いていると、歌詞にある通り、自分の《心の弱いとこも今/OUT!》という気持ちで挑まれたからこそいい曲が生まれたんですね。

由薫:まさにそうです。互いに本音や内に秘めていることをちゃんと外に出したり、「自分はこれができないから教えてほしい」「このメロディには自信がないからみんなも一緒に考えてほしい」と弱さを表示していたことがインスピレーションになって、セッションの時に「OUT〜♪」って鼻歌を歌いながら思い浮かんで、そこからずっと変わってないです。

ーしかも《心の弱いとこも今/OUT!》は、コライトキャンプの時間だけじゃなくて、きっと由薫さんが今人生において大切にしたいと思っていることを表現するフレーズでもあったのだろうなと思います。サビの1行目には《I dont wanna get back in my mind》とありますが、どういう「my mind」には戻りたくないと考えていたのでしょう。

由薫:音楽を書く時にいつも思い出すのは音楽を始めた時期のことなんですけど、10代の頃、私だけがこの世界でこんなにひとりだって思っていたんですよ。今振り返ると、誰しも同じ悩みを抱えていたなって思うんですけど、10代の頃は本当に自分のことしか見えてないから。日々繰り返し生きていく中で、言いたいことが言えなかった経験がすごく多くて、モヤモヤがどんどん積み重なって、孤独感が強まったりして。学校の友達にも、家族にさえも心を閉ざしていた時期もあって。そういうモヤモヤを自分で抱えきれなくなった時に曲を書き始めて、そこでやっと初めて言葉にできることが多かったんです。「私はなんで今こんなにモヤモヤしているのだろう」「本当は何が言いたかったのだろう」ということが、家に帰ってからギターを持ってノートに言葉を書く中で初めてわかる、みたいな。今も大人になったからこそ、内に秘めていることがあると思っていて。みんなそうだと思うんです。自分だけがひとりだって思うし、自分の中に全部を溜め込んでグルグルさせているだけだと世界が敵みたいに思えてくるけど、外へちょっと出てみたり、「私、今つらいんです」「私、弱いんです」「私、本当はこういうことがしたかったんです」ということを一歩踏み出して言ってみると、そこには人がいて、手を差し伸べてくれたり、逆に怒ってくれたりするということに「ちゃんと気づけよ、自分」という気持ちで書きました。だから《I dont wanna get back in my mind》というのは、自分だけが世界の被害者みたいな気持ちでグルグルしていた自分に戻りたくないということですね。

ーそうやって弱い部分やコンプレックスを出して「ここは助けてほしい」って言えたからこそ、コライトキャンプで最高な曲が作れたのだろうし、そういった姿勢はいろんな次元で言えることですよね。

由薫:お仕事でもそうだけど、友達でも、家族でもそうだと思います。去年、初めてお母さんに「あの時、私はこう思っていた」ということを言ったんです。チェーン店のカフェで2人で、大号泣しながら本音を語り合うという会をして。それも、ずっとグルグルしていたところから一歩勇気を出してみた。幼い頃の泣いてばかりの自分を、勇気を出して伝えてみた。お母さんはずっと支えてくれていたし、愛をくれていたんですけど、そのあとは私もより素直になれたし、よりいい関係になれたので、話し合うことは大事だって思いました。《心の弱いとこも今/OUT!》というのは、そういう今の自分のシチュエーションや考えていることがコライトセッションで思い出されたので曲にしました。

ー家族って、話し合わなくてもわかっているだろうと思っちゃったり、ちょっとしたわだかまりについて話しづらかったりもするし。お母さんとのその時間は、きっとこの先振り返った時も、人生において大切な日として残るでしょうね。

由薫:多分、一番強がっちゃう相手なんですよね。今まで注いでくれたものがたくさんあるし、期待してくれているとわかっているからこそ裏切りたくないし、上手くいってると思ってほしいし。心配してほしくないという気持ちが、子どもにはあるじゃないですか。だから弱いところを隠そうとしたり、「全部上手くいってるよ」って言っちゃったり。家族だからこそ、そういうことがありますよね。

由薫(Photo by Shun Komiyama)

友達付き合いを絶ってまで、自ら孤独に向かった理由

ー去年の今頃は弾き語りで全国を回られていましたが、『弾き語りツアー 2025 ”UTAU”』は、由薫さんにとってどんなツアーでしたか?

由薫:昨日の夜、この1年のことを思い返していたんです。そうしたら、キーワードの1個は「孤独」だったなと思って。自分と向き合うことが嫌でずっと逃げてきたんですけど、25歳は自分と向き合う時間が何度もあったなと思っていて、弾き語りツアーはそのきっかけとなる大事なものでした。弾き語りツアーって、練習する時はバンドメンバーもいないからスタジオに入って練習して帰るということを繰り返すし、ツアー中もマネージャーと2人で車に乗って地方に行ったりしていた日々で。自分の声とギターで何を表現するのかということしかない中で、逃げてきたことすべてに向き合う時間みたいな感じでした。

『弾き語りツアー 2025 ”UTAU”』東京・スコットホール公演(Photo:Tae Tomimoto)

ー弾き語りツアー後にリリースした「The rose」「echo」「Ray」は、曲のテーマのひとつに「孤独」が滲んでいたと思いますが、そうやって今「孤独」をテーマに曲を作っているのは、どういうことを表現したいからだと言えますか。

由薫:「The rose」「echo」「Ray」は、別にそれをテーマにしようとしていたわけじゃなくて、気づいたらそうなっていて。明確に意識し始めたのは今年の春なんです。冬から春にかけて、「自分は何がやりたいの?」みたいにふわふわしていたというか、自分自身に捉えどころのない感じがしていて、それがメンタル的にもあまりよくなくて。それで腹を括って自分と向き合う時間を作ろうと思って、友達とかと会うこともシャットアウトして、家やファミレスで自己分析して文章を書くっていう、ジャーナリングに近いことをしていました。

ーわざわざシャットアウトしてまで、ですか?

由薫:逃げちゃうから。妙にポジティブな部分もあって、友達とかと会うと「なんだ、ハッピーじゃん」みたいな気持ちになったりするから、あえてどん底まで落ち込んで自分と向き合ってみて、「自分は何がしたいのか」「何が目的で音楽をやっているのか」「どういう人生を送りたくて今生きているのか」をひたすら書きまくるっていう。その時間は孤独だったんですけど、必要なものでした。やっぱり人間の根源は孤独で、それをちゃんと受け入れないとふわふわして、よくわかんなくなるなと思って。なんで音楽を聴いてほしいのか、なんでみんなに聴いてもらう必要があるのかを考えた時にーー人間みんな孤独で、それには国籍も性別も関係ない。ライブに来た人を見た時に、「ただ個と個がいる」ということをすごく感じるんです。みんな、寝る時や目を瞑った時はひとりじゃないですか。そういう時間に寄り添える音楽や、それをテーマにした音楽をやっていこうと思ったりして。いろいろ自己分析する中で、世界中のひとりぼっちたちに音楽を届けたいなって思いました。だから「孤独」という問いを立てて、今もそこに向き合いながら新しい曲を書いています。作品が出ていく頃には、自分の中でもうちょっと答えが出ているのかもしれないです。自分の中の問いから逃げずに向き合って、それに誠実に答えて、ということをやっていけば、自分の向かいたい方向に音楽が連れていってくれるんじゃないかなと思っていて。問いを立てて、ちゃんと勇気を出して外に出してということを繰り返して、いいものを作り上げていきたいなって思います。

ー孤独に関していえば『Alone Together』を完成させた3年前と同じことを言ってくれている部分もあるし、自分はどうしたいのか、なぜ音楽をやっているのかを真摯に考え続ける姿勢も、前からそういった素質はあったと思うんです。ここ最近で大幅に意識の変化があったというより、昔からずっと大事にしていることを、何周も回りながら深めているんだなという気がしました。

由薫:それはもう、何回もインタビューしていただいている由佳子さんだからこそ書けることですね。

ー「OUT」には《ああ、どこにでもいけるなら、/Right?》という歌詞がありますが、どこにでも行けるなら、これからの由薫さんはどこへ行きたいですか?

由薫:質問がすごい!(笑)自分が持ち得る可能性の中で一番でっかくて、一番楽しくて、一番最高だなって思えるところに行きたいです。今、曲を書き溜めているんですけど、できればアルバムを作りたいなと思っています。来年5周年になるので、節目の年として「これが由薫のやりたいことだ」みたいなものをバンッと提示できるアルバムができたらいいなと思っていますが、まだ制作中なのでひたすら頑張るのみです。

<リリース情報>

由薫

『OUT』

2026年8月12日(水)配信リリース

https://lnk.to/yu-ka_OUT