大阪市住之江区の商船三井ミュージアム「ふねしる」(以下、ふねしる)では、開業1周年を記念した特別展『せんいんになろう展』が開催中だ(9月30日まで)。船の運航やエンジン管理を担う「海のプロフェッショナル」を育成する広島商船高等専門学校(以下、広島商船高専)・弓削商船高等専門学校(以下、弓削商船高専)・大島商船高等専門学校(以下、大島商船高専)の協力のもと、船の仕組みや船員の仕事を、展示やゲームを通じて親子で楽しく学ぶことができる。

この特別展では、広島商船高専・弓削商船高専・大島商船高専の先生たちによる出前授業「夏休み自由研究講座」も行われている(8月1日から16日までの土日祝日)。今回は、8日に実施された講座「海図を開いて出航だ!~航海士さんと船の冒険~」の模様をレポートする。

凄まじい輸送力で私たちの生活を支える船の話

当日の整理券は、講座が始まる前に配布終了。約20名が参加し、用意された席がすべて埋まる盛況ぶりだった。講師を務めたのは、愛媛県上島町に拠点を構える弓削商船高専 商船学科 山崎慎也准教授だ。

  • 弓削商船高専 商船学科 山崎慎也准教授

    弓削商船高専 商船学科 山崎慎也准教授

海上交通の流れを専門としている山崎准教授が、最初に紹介したのが、こちらのスライド。

  • 海の上に赤いラインがくっきりと描かれている

    海の上に赤いラインがくっきりと描かれている

赤いラインは、船が出している電波を受信してつないだものだという。このデータは、なんと1日分。「毎日、これだけの船が走っている。海は広いが、ちゃんと道がある」と、解説した。

続いて映し出されたのは、船の甲板。オモテ(船首)で作業していた山崎准教授が忘れ物に気づいてブリッジ(操舵室)に取りに帰ると、戻ってくるまで40分もかかったらしい。船のスケールの大きさが伝わるエピソードを聞き、参加者たちは驚きの声をあげていた。

  • 弓削商船高専では、船を動かすライセンス(海技資格)を取得できる

    弓削商船高専では、船を動かすライセンス(海技資格)を取得できる

また、自動車を約7,000台運べたり、コンテナを24,000個積めたりする凄まじい輸送力に加え、紙を作る木材チップや、ガソリンやジェット燃料、アスファルトの原料となる原油など、私たちの生活になくてはならない物資の調達に船が大きく関わっている実態が語られた。

  • 山崎准教授からの問いかけに参加者たちは積極的に答えていた

    山崎准教授からの問いかけに参加者たちは積極的に答えていた

  • 木材チップや原油などを運ぶ船は、私たちの生活を支えている

    木材チップや原油などを運ぶ船は、私たちの生活を支えている

いざ、海図の世界へ。位置を求め、距離を測る

いよいよ本題「海図の世界」へ。海上保安庁が発行する本物の海図を囲み、参加者たちは興味津々。

  • 海図には、地名や数字、英語のスペルなどが書かれている

    海図には、地名や数字、英語のスペルなどが書かれている

海図は、タイタニック号沈没事故を契機に制定されたSOLAS(ソーラス)条約に則り、世界共通のものとして定められていて、安全に航海をするために必要な情報が満載だ。水深をはじめ、海底の状態、山や橋の高さ、灯台の場所や光の色と間隔、沈船の位置などまで網羅されている。山崎准教授は「航海士は海図を使って、船の進むべき方向や距離を決める。海図が使えなければ、航海士にはなれない」と指摘した。

  • 「航海士にとって、海図は“仕事の相棒”」

    「航海士にとって、海図は“仕事の相棒”」

そんな海図を用いて、いくつかのケースに応じて自分の位置を求めてみることに。海の上では、コンパスが力を発揮する。コンパスでは、北は0度、東は90度、南は180度、西は270度となる。「自分の位置がわからないとき、対象物が何度の方角に見えるか、それがわかれば導き出せる」と、山崎准教授は説明した。

  • 鹿島が0度、小島が90度に見える場合

    鹿島が0度、小島が90度に見える場合

「井上式三角定規」と呼ばれる航海用の三角定規と鉛筆、コンパスローズを使って、船位測定に挑戦。参加者たちは真剣に海図に向き合い、慣れない手つきながらも線を引いて、位置を求めていた。

  • さながら気分は航海士!

    さながら気分は航海士!

  • 弓削商船高専の学生がサポート

    弓削商船高専の学生がサポート

  • 小さな子どもも頑張って取り組んでいた

    小さな子どもも頑張って取り組んでいた

そして、「ディバイダー」という器具を使って、導き出した3点の距離も測定。海図の左端に記載されているメモリで30kmの距離を測り、その幅を当てはめて1点目と2点目の距離を測る。2点目と3点目も同様に。

  • ディバイダーをくるっと回しながら距離を測っていく

    ディバイダーをくるっと回しながら距離を測っていく

位置を正確に求め、距離も正しく測ることができ、参加者たちは喜びの表情を浮かべていた。

  • 一日船長証明書を手に持ち、記念撮影!

    一日船長証明書を手に持ち、記念撮影!

上記写真の兄弟の両親に話を聞いてみたところ、「小学2年生の長男は以前から船員に興味を抱いていて、今日の出前授業を心待ちにしていました。海図に触れること自体が初めてで、学校でもコンパスを使った経験があまりないものの、最後まで意欲的に楽しみながら取り組んでくれて良かったです。『弓削商船高専に行きたい!』と言っていました」との感想が返ってきた。講座の最後、「ぜひ、弓削商船高専に遊びに来てほしい」と山崎准教授は呼びかけていたが、未来の航海士を目指す少年にしっかりと届いていたようだ。

講座をサポートした学生にも話を聞いてみた。

  • 商船学科3年生の大堂誠哲さん(左)と専攻科2年生の山﨑希海さん

    商船学科3年生の大堂誠哲さん(左)と専攻科2年生の山﨑希海さん

「子どもたちに『ありがとう』と言ってもらえたことが印象に残っています。船員に興味を持ってくれた子が、将来、入学してくれると嬉しいです」(大堂さん)「いつも以上に集中して取り組んでいただけたように思います。おかげさまで講座が盛り上がりました」(山﨑さん)

本物の海図を用いて航海士の仕事を疑似体験できた貴重な体験は、この夏の思い出として、子どもたちの心に刻み込まれたことだろう。

ふねしる「せんいんになろう展」

  • 開催期間:2026年7月10日(金)から9月30日(水)まで ※期間中休館日:7月16日(木)、9月3日(木)・10日(木)・17日(木)・24日(木)
  • 料金:無料(ふねしる入館券が別途必要)

出前授業「夏休み自由研究講座」

8月15日(土)・16日(日)11:00、13:30、15:00

  • 担当:広島商船高専 岸拓真 准教授
  • テーマ:「おふねは何人いたら動くかな?」(ボードゲームを通じて、大きな船を動かすために必要な船員の仕事や役割を考える授業)

各出前授業共通の参加方法

  • 定員:1回あたり10名程度
  • 参加方法:事前予約は不要。各回開始30分前より整理券を配布(定員に達し次第、受付終了)
  • 料金:無料(ふねしる入館料別途必要)
  • 対象:どなたでも参加可能(未就学児は、保護者と一緒に参加必須)

施設情報:商船三井ミュージアム「ふねしる」

  • 住所:〒559-0034 大阪府大阪市住之江区南港北2丁目1−10 ATC(アジア太平洋トレードセンター) ITM棟2階
  • 休館日:毎週木曜日(夏休み中7/21~8/31を除く)、年末年始
  • 開館時間:展示/日~水曜日:10:00~18:00、最終入館17:30、金・土曜日:10:00~18:30、最終入館18:00、カフェ/展示の開館時間と同じ(ラストオーダーは閉館の15分前)、ショップ/展示の開館時間と同じ
  • 入館券:当日購入(個人)平日/高校生以上800円、小中学生400円、未就学児無料、休日/高校生以上900円、小中学生450円、未就学児無料他、詳細は公式サイトを参照のこと