ワールドカップを戦った先で、ついにWNBA挑戦へ

--ちなみに指名については驚きが大きかったとのことですが、田中選手ご自身にとって“WNBA挑戦”は想定外だったのでしょうか?

田中:WNBAへの憧れはありましたが、現時点では考えていなかった、という感じですかね。自分の中での将来設計として、まずは2028年に行われるロサンゼルス五輪に出場することが重要な目標でした。その大舞台で活躍することで、世界で注目されるようになり、その先にWNBAへの道が拓けてくるのかな、と思っていたので、五輪の前に指名されるのは本当に予想外でした。

--想像していた転機が思ったより早く来たわけですね。ただ先日チームを通じて、2026-2027シーズン(以下、今季)はヴァルキリーズの活動には合流せず、今季の契約は締結しないことが発表されました。その決断に至った理由を教えてください。

田中:ドラフト指名後にヴァルキリーズの方とオンラインでお話していく中で、今季は合流せず、来季から本格的に挑戦することにしました(※WNBAではドラフト指名から数年後に本契約を締結する“ドラフト&スタッシュ”が広く認められている)。その方針自体はスムーズに決まりましたね。

--その決断に至った理由を伺えますか?

田中:やはり1番大きいのは、今季に日本代表としてのワールドカップが控えていることがあります。それにWリーグでも、まだ自分が満足できるほどの結果は出せていないこともあって、しっかりと結果を残してからWNBAに挑戦しようという気持ちが大きいです。

「日本のエンジン」として戦う初めてのワールドカップ

--ではここからは、今のお話にもあった“日本代表”への想いについてもお伺いしたいと思います。田中選手は中学時代にバスケを始められたそうですが、代表というものを意識したタイミングはいつだったのですか?

田中:そうですね、中学3年生の時にアンダーカテゴリーの代表選考に参加したことがきっかけだと思います。そのころは最終選考にも残らないレベルでしたが、アンダーの代表に関わったことで日本代表の試合を見るようになりました。ただその時点で代表に入りたいという気持ちはなかったですね。

ただ、伝統のある桜花学園高校に進学してからは、ENEOSサンフラワーズでも活躍した渡嘉敷来夢選手(現・トヨタ自動車アンテロープス)をはじめとする先輩たちが卒業した高校でバスケ漬けの生活を送っていて、Wリーグや五輪の試合を必然的に見るようになりました。またその時期にもアンダー代表に呼んでいただけてバスケをしていた中で、「もっとレベルの高い選手と戦いたい」という想いや「五輪を目指したい」という気持ちが芽生えていきました。

--そういった変化を経て、今や日本代表の一員として活躍されていますが、代表におけるご自身の役割はどのように考えていますか?

田中:ヘッドコーチのコーリー(・ゲインズ)ともよく話をするんですが、彼は「あなたが日本代表チームのエンジンだ」と言ってくれています。それは、私がプレーのスピードを上げればチーム全体も上がっていくということであり、私が遅くなればみんなのペースが落ちるということ。私次第で試合の内容が変わる、ということをずっと言われています。その点はENEOSサンフラワーズの時と同じで、“自分にかかっている”と感じています。

--そういった役割は「モチベーション」になるのか、それとも「プレッシャー」になるのか、どちらですか?

田中:今のところは、それをプレッシャーだと思ったことはありません。逆に、「自分が良ければみんな良くなる」とだけ考えてプレーしていれば、自然とギアも上がりますし、自分らしいパフォーマンスにつながると考えています。

世界の舞台での戦いは「とても楽しみ」

--チームの重要な役割を担っている中で、いよいよ9月のワールドカップが近づいています。今の代表チームの雰囲気はどうですか?

田中:国内合宿だったり海外遠征だったりと、ほとんど変わらないメンバーでいろんな活動を続けている中で、本当に立てなくなるようなきついワークアウトをこなしたり、強度の高い練習を重ねることができています。よく声も出ていますし、良い雰囲気だと感じています。ただ波が無いわけではなく、若干盛り上がりが足りないと感じる練習もありました。まだまだ伸びしろは全然ありますし、もっと上げていかなければいけないとは思っています。

--チームとして、あるいは個人として、ワールドカップでの目標はありますか?

田中:まずは日本代表として、しっかりと予選を通過することが重要だと思います。3月のワールドカップ予選では、最初の3試合での出来が良くなくて苦しんだ(結果は3連敗)ので、本戦では開幕の出だしからギアを上げて、エンジン全開でやらなければいけません。その代表チームでは私がエンジンなので、最初から上げてチームを引っ張らなくては、と思っています。

自分自身、アンダーカテゴリーではアジアカップなどの国際試合に出させてもらっていましたが、ワールドカップに出るのは今回が初めてです。世界にはどんな選手がいるのか、映像で見ていた選手を実際に目の前にしたとき、自分はどういう感情を持つのか、そして何が通用するのか。そういったことに対してとても“楽しみ”な気持ちがすごく強いです。不安な気持ちは、今はまったくないですね。

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目標は3冠、そしてリーダーとしての成長

--「ENEOSサンフラワーズの田中こころ選手」としての目標も聞かせてください。

田中:3冠です。昨季は皇后杯とユナイテッドカップで優勝はしましたが、肝心のリーグ戦では5位になり、プレーオフに進むこともできなかったので、ただただ悔しい思いをしました。今年こそは、3冠を目指します。

--個人の面でも目標は掲げていますか?

田中:もちろん優勝したいですし、どの試合も負けたくはないですが、個人の目標としてひとつあるのが「チームを勝たせられるガードになること」です。試合終了の瞬間に1点でも上回ったチームが勝つバスケにおいて、ガードの役割は本当に重要で。シュートの精度やゴール下の強さなど特徴のある選手がいる中で、その個性を最大限活かすゲームメイクをするのが、ガードの役割です。チームスポーツでは自分ひとりで勝てません。もちろん「自分が」という想いは持っていますが、チームがひとつになれるようなゲームメイクや雰囲気づくりを考えなければいけないですし、それが結局チームの勝利にもつながるんじゃないかな、と思います。

まずは自分がどれだけ頑張れるか。周りが苦しい時も、自分が顔を上げて、みんなを引っ張っていく。特に試合中は、私のポジションは一番“顔を見られる”ので、その時に不安な顔をしていたら全体に伝染してしまいます。だからこそ、私が顔を落とさずに自信をもってプレーしていれば、自然と成績も良くなっていくんじゃないかな、と思います。

節目の1年、絶対に忘れない「顔を上げること」

--渡米前のラストシーズン、ワールドカップイヤー、チームの中心としての戦いなど、今季はいろんな意味を持つ時間になると思います。どんな1年にしたいですか?

田中:難しいですね……。きっとこの1年は、めちゃくちゃしんどくなるだろうな、とは何となく感じていて(笑)。宮崎選手が抜けて、私が頑張らなくてはいけない。宮崎選手はチームの核として、常に笑顔で引っ張ってくれましたが、きっとその裏には苦しみもあったと思います。それをすべて自分で背負うと思うと、私でも多少は不安だなと感じます。

また、WNBAからの指名があったことで注目度も高まっていると思います。その影響で、ミスを恐れたり固くなってしまう時期もあるのかな、と。きっとうれしい瞬間よりも、つらい瞬間の方が多いだろうと想像しています。だから、“楽しいシーズンにしたい”とは言えません。宮崎選手や馬瓜エブリン選手のようなベテランが、昨季のカップ戦で優勝へ引っ張ってくれたように、今季は自分から率先して勝つために必要なことを続けていけたらいいな、と思います。

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--最後にひとつ。そんな重要な今季、最も大切にしたいことは何ですか?

田中:うーん、やっぱり「顔を上げる」ですかね。体力的にも精神的にも、苦しい時は絶対にあると思います。でもどんなにつらくても、絶対に顔は上げるようにしていきます。

そして私自身、バスケが好きな子どもたちに夢を与える使命があると思っています。なので、私のプレーや表情を通じて、“バスケを楽しんでいる姿”や“最高の喜び”を伝えたいなと思います。

--アメリカ挑戦に向けて最後のシーズン。頑張ってください!

田中:ありがとうございます! もし試合中に私の顔が下がっている瞬間があったら、「顔上げろ!」って言ってくださいね(笑)。

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