- 岩谷産業のマーケティング部は、市場シェア争いではなく「新しい使い方」を提案することで市場規模や製品ファン層の拡大を目指す。
- Makuakeで成功した炊飯器やコーヒーロースターに加え、暖炉型インテリアやサウナなど、多彩な新商品が参考出展された。
- 「できなかったことができるようになると、モノは売れる」という開発思想のもと、社内の常識にとらわれない商品企画がヒットにつながっている。
5合のお米を約18分で炊き上げるカセットガス式炊飯器、3年かけて開発されたこんろ用コーヒー豆焙煎機、本物の炎の揺らぎを見て楽しむ暖炉型インテリア――。“カセットガスの可能性を追求し続ける”とうたう岩谷産業の新商品アイデア群が面白い。
「カセットガスの再定義」から生まれた日常用途の新製品に注目
岩谷産業といえばカセットボンベの国内シェアNo.1の大手企業。上に挙げた商品はいずれも応援購入サイト「Makuake」で販売された製品で、一見突飛なアイデアながら高い支持を集め、例えば炊飯器は総額86,427,390円、焙煎機は総額51,256,590円、暖炉型インテリアは32,227,468円と、すべて数千万円台の支援を集めている(初回およびアンコール販売の2回を合計した総額。2026年7月27日時点)。
これら新規商品を仕掛けたのは、岩谷産業のマーケティング部。一般的にマーケティング部というと、市場調査や自社製品の分析などが中心となるが、同社マーケティング部は社内から懐疑的な声が上がるなか、独自の視点で需要を捉えゼロから新商品を企画する。
岩谷産業が開催した新製品展示会(7月22日・23日開催の大阪会場)で、未発売商品を含むマーケティング部発の新製品群を見学してきた。なお、多くの製品が参考出展となっており、名称やデザイン、価格などは変更される可能性がある。
PROGOHAN
PROGOHANは、ガス火ならではの高火力でお米を炊き上げる携帯可能な炊飯器。Makuakeでの応援購入は初回で71,341,200円(サポーター990人)、アンコール(再販)で15,086,190円(サポーター199人)を集めたヒット商品だ。
ポイントは非常時やアウトドアが主目的ではなく、あくまで高火力で美味しく炊くためにカセットガスを使うという、炊飯にこだわる人派向けのアイテムだ。電源は不要、1合炊くのに約12分とタイパも良好で、火力調節もいらずガスコンロより便利に使える点も特徴。炊きあがった後は自動でガスが遮断され、火が止まる設計だ。
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PROGOHAN本体。5合のお米を約18分で、1合のお米を約12分で炊き上げる
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カセットガスは背面から設置
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Makuakeでも7,000万円以上を売上げたヒット商品となった。一般販売は2026年9月を予定し、希望小売価格は79,800円
OKUDOSAN
PROGOHANの“後継機”として現在開発しているのが、同じくカセットガスでお米を炊き上げる新商品「OKUDOSAN」(参考出展)だ。開発段階のため、写真はNG。見た目は京言葉で“かまど”を意味する「おくどさん」の名の通り、薪で火を燃やす小さなかまどのようにも見える。
高火力で美味しくお米を炊くというコンセプトは引き継ぎながら、最大3合(PROGOHANは最大5合)と本体を小型化。また、カセットガスの設置場所を前側へ移動し、より使いやすい設計とした。Makuakeで2026年12月頃に応援販売を開始する予定だという。
MY ROAST
カセットこんろで自分好みの本格焙煎が楽しめる専用コーヒーロースター。岩谷産業と同じく大阪に本社を構える富士珈機が展開するコーヒー機器ブランド「フジローヤル」監修のシリンダーは二重仕様で、内部を高温にすることで焙煎するため、焼きムラが少なく焦げにくい点が特徴という。
同梱品はロースター本体、ごとく用ベース、テストスプーン。対応するカセットこんろは小型の「カセットフーミニ」や「カセットフー 達人スリムβ」などで、こんろは別途購入する必要がある。
MYDANRO
「炎との暮らし」をコンセプトとし、焚火のような心地よい炎のゆらぎを眺めるだけでなく、本体天板のポットでお香やアロマウォーターを焚き、香りを楽しめるインテリア商品だ。
当然のようにカセットガス式なので、工事やメンテナンスの心配もなく、リビング・ダイニング・書斎など、好みのシーンに合わせて、手軽に暖炉の雰囲気を味わえる。揺らぐLEDではなく、カセットガスを燃焼させた本物の炎が燃えている様子は思わず見入ってしまう。不完全燃焼防止装置/立ち消え防止装置/転倒時消火装置/圧力感知安全装置など、安全には特に配慮したとのこと。
ピザオーブンポット(仮称)
展示してある大きな鍋のふたを開けたら、ピザ(模型)が丸ごと焼かれていた。カセットこんろとピザ窯を組み合わせた「ピザオーブンポット(仮称)」(参考出展)は見た目のインパクトが大。ピザをカセットこんろで焼ける商品で、2027年3月頃に発売を見込む参考出展品となる。
熱を効果的に集めるため、鍋とこんろの間にドーム状の空間を設けている点に注目。オーブンとしても活用でき、焼き芋や蒸し料理、焼肉、焼き魚調理なども想定されている。
カセットこんろ用スタンド
ありそうでなかったアイデア商品が「カセットこんろ用スタンド」(参考出展)。棚の中やシンク下にしまいがちなカセットこんろを、より出し入れしやすくするため、立てかけ収納できるスタンドだ。立てかけることで狭いすき間にも収納しやすくなるほか、鍋ぶたスタンドとしても活用可能。こちらも参考出展で、2027年3月頃に発売を見込む。
カセットボンベ用ラック
意外とどこへしまったか忘れる/使いかけのボンベがどれかわからなくなる、カセットボンベ収納問題を解決する専用ラックも参考出展。使いかけのものは横倒しに、未開封のものは立てて収納するなど置き分けできるデザインになっている。フックと組み合わせて壁掛けも可能だ。同じく参考出展で、2027年3月頃に発売を見込む。
ナノこんろ&マルチポット
「ナノこんろ」は最高のスぺパ(スペースパフォーマンス。限られた空間をどれだけ効率的に使えるか)を目指した、岩谷産業最小サイズのカセットこんろ。カラーは落ち着いたくすみカラーで、日常使いしても悪目立ちしなさそうだ。
小さなナノこんろに合ったケトル兼用鍋が「マルチポット」。お湯を沸かすケトル、食材を煮込む小鍋として活用でき、一人暮らしのユーザーに適する。ナノこんろの“五徳”部分にフィットするスリットがあり、安定して置けるという。いずれも発売時期は未定。
ストーブガードmini
「ストーブガードmini」は小型ストーブ「マイ暖シリーズ」や「イザまる」にフィットする小さなストーブガード。小型ストーブは子どもやペット向けにも使われるアイテムだが、熱が心配なのでガードが欲しいという声があったそう。
下部の隙間は本体の火力調節や、カセットガスの入れ替えをスムーズにするためのもの。四角形タイプと六角形タイプの2種類を想定しており、組み立て式なので収納時は平らにして仕舞える点も魅力だ。
MY SAUNA(仮称)
「MY SAUNA(仮称)」は4本のカセットガスで稼働する簡易サウナ(一人用)。ビジネス系テレビ番組で取り上げられたこともあるそうだ。内部のスイッチで点火した後は10分以内に90度まで昇温する(上昇温度は環境等により変動)。火力調節もでき、カセットガス4本で約2時間ほど温められるそう。ガス式のため薪ストーブのような煙が出ない点もポイントだ。
テントの強度や製品化へ向けた試験などへの対応が難しく、開発に4年ほどかかっているとのこと。個人向けだけでなくキャンプ場など法人向けへの販売も予定している。発売時期は2027年4月頃、予定価格は300,000円前後だが、変更の可能性があるとのこと。
「できなかったことができるようになると、モノは売れる」
岩谷産業はカセットボンベシェアNo.1の大手企業だ。会社全体の売上高に占める各事業の割合は、LPガスや電力・都市ガスなど総合エネルギー事業が43.6%、産業ガス・機械事業が31.8%、機能樹脂や資源・新素材などのマテリアル事業が24.0%で、連結売上高は9,085億円となっている(2026年3月期、「その他」の事業セグメントおよび調整額を除く)。
個人向けのカセットこんろ・カセットガスは総合エネルギー事業に割り当てられるが、その割合は同事業の8%とわずか。セグメント売上高3,964億円(2026年3月期、同上)のうちの8%というと、約317億円。岩谷産業の担当者によるとカセットこんろ・カセットガス事業の市場規模は300~500億円ほどで、規模が限定されているため「シェア拡大だけでは大きな成長が見込みにくい」という。
ではどうやってより多くの人に製品を使ってもらうか。この回答の1つが、既存商品の「新しい使い方」を提案し、使用頻度を上げることで市場全体のベースラインを引き上げるというものだ。
同社調査によると、カセットボンベは災害時の備えとして需要が高いという。岩谷産業のマーケティング部では、カセットこんろの役割を「災害時の備蓄品」から「日常を楽しくする便利なツール」へとシフトさせ、防災を「特別な備え」として隔離するのではなく、日常の楽しい生活の一部として組み込む新商品として“再定義”した。これがいまMakuakeでヒットしている新商品群だ。
岩谷産業 マーケティング部 部長 新商品開発担当の阿部周作氏は、「できなかったことができるようになると、モノは売れる」と話す。
マーケティング部発案の新商品は多くの場合、「売れるわけないだろう」と社内で懐疑的な声が上がるという。しかし、企画側としては売れる見込みがあり、狙った層へ商品を開発する。事前にSNSで広がる声を細かく吸い上げ、また自身も購入者目線で欲しい商品を考えるという。
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他部署発案で商品化された例になるが、アウトドア向けに風防を備えた小型こんろ「タフまるJr.」も、アウトドアでカセットこんろを使う際に風で火が安定しない問題を、風防を付けることで「できなかったことをできるようにした」アイテムとなる。大型の「タフまる」もあるが、こちらは少人数向けの小型版
マーケティング部 新商品開発担当の山崎すみれ氏は、ユニークな商品の開発ストーリーや想いを伝えることで、製品の機能だけでなく、ブランドそのものに共感してくれるファンを増やすことが重要だと話す。
個人向け製品は多く売れても、会社全体の売上規模の中での貢献は限定的だ。しかしユーザーから必要とされる、新しい視点の商品を開発することで「『イワタニって結構面白いよね』という声が広がれば、新しい取引が始まるかもしれない。それは企業としての成功につながるのでは」(山崎氏)。




















