
超絶テクニックと既成概念にとらわれない感性で、一気に世界の注目を集めたドミ&JD・ベック(DOMi & JD BECK)。YouTubeやInstagramで公開した演奏動画をきっかけに頭角を現した彼らは、SNS時代ならではの広がり方でシーンに登場した、新しいタイプのミュージシャンだ。
その後の活躍は目覚ましかった。シルク・ソニック(ブルーノ・マーズ+アンダーソン・パーク)の「Skate」のソングライティングに加え、BTSのRMによるアルバム『Right Place, Wrong Person』にも参加。さらにアリアナ・グランデやサンダーキャットとの共演など、ジャンルを超えて存在感を発揮してきた。
2022年にはデビュー・アルバム『NOT TiGHT』を発表。プロデュースはアンダーソン・パークが手がけ、ハービー・ハンコック、サンダーキャット、カート・ローゼンウィンケル、マック・デマルコ、バスタ・ライムス、スヌープ・ドッグら豪華ゲストが参加した。作品は大きな話題となり、第65回グラミー賞では最優秀新人賞と最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムの2部門にノミネートされるなど、大きな成功を収めた。誰がどう見ても順風満帆なキャリアを歩んでいるように見えた。
しかし、デビュー作以降、彼らの活動は少しずつ様子が変わっていく。ライブは行っているものの、SNSの更新は激減し、以前のような派手な露出もほとんどなくなった。そんな中で突如発表された2ndアルバム『WHO ASKED?』は、これまでのイメージを覆す内容となった。フィーチャリング・ゲストはゼロ。木管、金管、弦楽器を取り入れたオーケストラ的なアプローチを打ち出し、ほぼ全曲で自分たちのボーカルをフィーチャーしている。
ところが、実際にアルバムを聴くと、その印象はさらに覆される。オーケストラを大胆に取り入れながらも、鳴っている音はどこを切り取ってもドミ&JD・ベックそのもの。前作の延長線上にある自由奔放なサウンドを保ちながら、作曲やオーケストレーションは飛躍的な進化を遂げ、音楽家としてのスケールはひと回りもふた回りも大きくなっている。前作を超えたと言っても過言ではない仕上がりだった。
今回のインタビューでは、その新たなサウンドの背景を探るために、オーケストレーションや作編曲、制作プロセスについてじっくり話を聞いた。返ってきたのは、やはりドミ&JD・ベックらしい、予想の斜め上を行く自由で型破りな答えだった。
※ドミ&JD・ベック来日公演が12月に開催決定、詳細は記事末尾にて
『WHO ASKED?』ライブ演奏メドレー
音符を書くまで楽器に触らない
―まず最初に、新作『WHO ASKED?』のコンセプトについて教えてください。
JD・ベック:コンセプトか。わかんない(笑)。でも、僕たちにとっては、このアルバムが初めての作品のような感覚なんだ。実際に何かを作り始めたり、曲を書いたりする前から、頭の中で完全に完成形が見えていた作品だったから。もちろん、サウンド面で細かいところまで決まっていたわけじゃないけど、自分たちが何をやりたいのか、自分たちとして何を成し遂げたいのか、自分たちのサウンドを見つけたいという思いははっきりしていた。最初のアルバムを作ってから受けた新しい影響や、その間に知った新しい音楽もたくさんあったしね。
だから、「これがコンセプトです」と言えるようなものが最初からあったわけではないんだ。ただ、できる限り自分たちらしくあろうとした作品だった。
―今作ではフルートやクラリネットなど、木管楽器をたくさん使っていますよね。そうした楽器を取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
ドミ:アルバムのすべての音符はSibelius(シベリウス)という楽譜作成ソフトを使って書いている。自分たちに課したルールがあって、アルバムの全音符を書き終えるまでは、一切楽器に触らないって決めていた。だから、曲が全部完成したあとで、自分たちでその曲を演奏できるように練習することになったんだ。
―へー。
ドミ:Sibeliusでは思いついた楽器を何でも追加できるから、最初の曲を書いている時点で、すでにフルートやクラリネット、パイプオルガン、それからチェレスタも入っていた。想像力の赴くままに書いていったの。そのまま作業を続けていくうちに、フルオーケストラの曲もあれば、少人数編成の曲も自然にできあがっていった。
JD・ベック:特に木管楽器を多く使ったのは、僕たちが楽器も使わず、自分たちの歌も入れずに作曲していたからなんだ。木管楽器がボーカルの役割を果たしてくれるような感覚があった。息づかいや音の動き方が、人の声に一番近い気がしたんだよね。だから、本当に自然な流れだった。それで長い間、その木管楽器入りのアレンジを聴いていたら、「このメロディは自分たちでも歌ったほうがいいよね」って思うようになった。
そもそも僕らは木管楽器が大好きなんだ。お気に入りの音楽にも木管楽器はたくさん入っているし、僕が好きなキーボードの音色も、フルートのサンプルみたいなものが多い。そういう音がすごく好きなんだよね。
―2023年にはメトロポール・オーケストラと共演されましたよね。その時はお二人が作曲、編曲、オーケストレーションを担当していました。その経験は、今回のアルバムにおけるオーケストラ・アレンジにも影響を与えたのでしょうか。
ドミ:もちろん! あの経験こそが、私たちがオーケストラのために書くようになったきっかけ。メトロポール・オーケストラからツアーの話をもらった時、最初のアルバムを自分たちでオーケストレーションしたいと思った。本当に自分たちでやりたかったから。
実際にオーケストレーションやリアレンジを進めていく中で、音色やテクスチャーの選び方によって、とてつもなく大きな色彩のパレットが手に入ることに気づいた。作曲面でも、サウンド面でも可能性が一気に広がった。だから最初のアルバムをオーケストレーションし終えた時には、「次からはこのやり方で書かなきゃいけない」と思った。
JD・ベック:そう。一度あのやり方を経験してしまうと、元には戻れなかった。それまでは二人だけでできることの範囲でずっと作ってきた。その制約の中でできる限りのことはやったし、最大限のものを引き出せたと思う。でも他の楽器を加え始めた瞬間、「これは音楽にとって本当に必要なものだ」と感じたんだ。ライブで再現できるかどうかを基準に、自分たちの音楽を制限したくはない。作品として作ることと、ライブでどう演奏するかは完全に別だと考えたかった。
ドミ:それに加えて、ストラヴィンスキーをものすごく聴き込むようになった。ラヴェル、ドビュッシー、スクリャービン、アルバン・ベルク。それからビョークもね。『NOT TiGHT』が出る頃、2022年の半ばくらいから、そのあたりを一気に掘り下げて聴くようになった。
JD・ベック:それらの音楽に出会って、本当に頭の中が変わった。それまで洞窟の中にいたみたいな気分だったんだ。耳が一気に開かれたような感覚だった。それからオウテカもそう。あのエレクトロニック・グルーヴは僕たちにとってアイドルみたいな存在なんだ。
ドミ:あとはデス・グリップスもね。
音楽系YouTuberリック・ベアトのインタビューで、二人はビョーク『Utopia』の影響を語っている
デス・グリップスのザック・ヒルは、『WHO ASKED?』でサウンドデザインを担当
すべての音をひとつに接着する
―前回のインタビューでもお話しされていましたが、お二人は楽器を弾きながら作曲するのではなく、頭の中で思い浮かんだ音楽を、そのままSibeliusを使って入力していくという作曲スタイルですよね。でも今回は木管楽器やストリングスがたくさん入っています。こうした曲を書いていた時、それらの楽器は曲が完成してから割り振ったのでしょうか。それとも、最初からそれぞれの楽器をイメージしながら書いていたのでしょうか。
JD・ベック:Sibeliusって、基本的には楽譜そのもので。オーケストラのプレイヤーに渡すスコアそのものを作るソフトなんだよね。だから、音符を書く時も、本当に楽譜を書いている感覚で、ただ違うのは、それをその場で聴けるということだけ。
ドミ:だから、楽器の選択も最初から決まっていたの。作曲している時点で、作曲家がスコアを書くように「ここはピッコロ」と決めて、そのピッコロの譜面を書いて、それから「じゃあ次はチェロを書こうかな」という感じで進めていった。だから楽器は作曲しながら、その場で割り当てていった。
―つまり、最初から楽器編成まで含めて考えながら、クラシックのスコアを書くような感覚で作曲したということですね。
JD・ベック:そうだね。
―木管楽器はシンセサイザーやキーボード、それからボーカルとも、とても自然に溶け合っていますよね。時にはどれが木管楽器で、どれがシンセなのかわからなくなるくらいです。あれほど滑らかに混ざり合うのは、木管楽器ならではの特性なのでしょうか。
ドミ:たぶん、私のキーボードのパッチも関係していると思う。使っていたキーボードの音色は、空気感のあるパッド系のサウンドが多かったから、それも自然に馴染む理由だったのかも。
JD・ベック:それと今回のアルバムは、すべての楽器が同じ役割を果たしているように感じられる作品にしたかったんだ。何かひとつの楽器が前に出るんじゃなくて、どのパートも対等であってほしかった。ボーカルもそう。ベースやドラムと比べて、ボーカルだけを特別な存在にするのではなく、全部ができるだけひとつに接着されたような状態にしたかった。
でも、それを実現するのは本当に難しかった。今でも聴き返すと、「ああ、ここはもっとこうできたな」って思うことはあるよ。でも、あれだけたくさんの音を全部溶け合わせながら、それぞれの音もちゃんと聴こえるようにするというのは、本当に大きな挑戦だった。だから、ああいうサウンドになったのは意図的だったんだ。
―前回のインタビューでは、作曲している時には「実際に演奏できるかどうかは考えない」ともおっしゃっていましたよね。それは前作が基本的にお二人だけで演奏する作品だったので理解できます。でも今回はたくさんの演奏家が参加していますし、中には本当に演奏するのが難しそうなパートもあります。頭の中で書いた音楽を、実際にミュージシャンが演奏できる形にするうえで、どのような作業をしたのでしょうか。
ドミ:演奏者とはちゃんとやり取りをしたよ。譜面も送った。でも正直に言うと、かなり大変な仕事をお願いしてしまったと思う(笑)。中にはレコーディング前日の夜になって初めて譜面を受け取った人もいたから。
―それはしんどい(笑)。
ドミ:それでも、本当に素晴らしいプレイヤーたちだったから関係なかった。ロサンゼルスで考えられる最高の演奏家たちを集めたから。
JD・ベック:演奏者のみんなが口を揃えて、「今まで演奏した中でも一番難しい部類の曲だった」と言っていたよ。僕らはそれぞれの楽器にどんな限界があるのかを完全にはわかっていなかったんだよね。
ドミ:だから制作を進めながら、「あ、ここはこうしないと無理なんだな」と知っていった感じ。
JD・ベック:だから、いろいろ工夫(Tricks)もしたよ。実際には4回に分けて録音したものを重ねて、ひとつのフレーズに聴こえるようにしたりね。
ドミ: 例えばフルートで8小節ずっとすごく難しいフレーズが続くとするでしょ。そういう時は、フルート奏者に最初のテイクでは1小節目、3小節目、6小節目を録ってもらって、次のテイクでは2小節目と4小節目を録ってもらう、というようにして、ちゃんと息継ぎができるようにしてる。
JD・ベック:あるいは、もっと細かく、最初の小節の最初の2音だけ録って、次にその続きの2音を録って、さらに次のテイクでまた続きを録る、ということもあった。
ドミ:だからライブ録音ではあるんだけど、実際にはそうやって細かく録り分けている。もしこの作品をそのままライブで演奏するなら、オーケストレーションを書き直さないといけない。それぞれの楽器に複数人ずつ必要になるから。でもレコーディングでは、各楽器につき演奏者は1人しかいなかった。ヴァイオリンも1人だけ。その人がヴァイオリン1を6パート分、ヴァイオリン2も6パート分、全部録音したの。本当に大変だった。
JD・ベック:本当に信じられない作業だったね。録音だけで300時間以上かかったんだ。
ドミ:それで終わりじゃなくて、111の録音があって、それを全部繋ぎ合わせて、継ぎ目がわからないように自然に聴こえるよう編集する時間もさらに必要だった。本当に気が遠くなるような作業量だった。
―今回は、本当にものすごく編集を重ねて作ったということですよね。
JD・ベック:そうだね。本当にたくさんのテイクを録ったし、その中からいろいろなテイクを組み合わせたし、何層にも重ねていった。でも、演奏者それぞれの個性まで消してしまうような編集はしたくなかった。「その人らしい音」はちゃんと残したかったんだ。編集をやりすぎたくはなかった。
ドミ:それに、参加してくれたクラシックの演奏家たちは、もともと音色が本当に素晴らしかったから、その部分を編集する必要は全然なかった。でも例えば、フレーズ同士のつながりが自然に聴こえるようにするとか、そういう細かな調整はたくさんやってる。
あと、JDのドラムは曲ごとに全部通しで録っている。もちろん何テイクも録ったけど、毎回フルテイクだった。私のキーボードやハープ、チェレスタなんかもフルテイク。もちろん時間はすごくかかったけど、何度も練習して、それで演奏できるようになった。でもオーケストラの演奏者たちは、本当に早くても譜面を受け取ったのがレコーディングの3日前くらいだった。だから、いきなり1テイクで全部演奏するなんて不可能だったの。
―普通に管楽器や弦楽器を集めて録音するのではなく、そうやって録ったものを何重にも重ねて作品を作るという方向性になったのは、木管やストリングスそのものの音に惹かれて、「この音をもっと使いたい」と思ったから、というのもあるんですかね。
JD・ベック:そうだと思う。でも、正直に言うと、もし始める前に「あれほど大変な作業になる」とわかっていたら、たぶんやっていなかったと思う(笑)。でも、そのおかげで本当にたくさんのことを学べた。このアルバムを通して、自分たちでも想像していなかったくらい多くのことを学んだと思っている。制作を始めた時は、「前作を通じて多くのことを学んだ」と思っていた。でも今回は、その10倍くらい学んだ気がする。確かに一番大変な道を選んだことになったけど、それを最初から狙っていたわけではないんだ。でも、その経験をしたことで、「次はこういうことをやりたい」という考えが見えてきた。それが一番大きかったと思う。もし全部やり終えて、「じゃあ同じことをもう一回やろう」となっていたら、たぶんここまで満たされた気持ちにはなれなかったと思うね。
ドミ:結局、音楽って終わりのない学びの旅だよね。だったら、その過程を楽しみながら、できるだけ多くの知識や経験を吸収していけばいいと思ってる。

―ちなみに、この作品はライブでも演奏する予定なんですよね。
ドミ& JD・ベック:(声を揃えて)うん、もちろん。
―その場合は演奏人数も増やすことになりますよね。
JD・ベック:そうだね。各楽器に複数の演奏者が入ることになる。ぜひライブを観に来てほしいな。ただ、一つ言っておきたいのは、これからのライブはアルバムをそのまま忠実に再現するものにはならないということ。むしろ、この先自分たちがやろうとしていることを少しだけ先に見せるようなライブになると思う。今回初めて、自分たちは「この先へ進もう」「少し違う方向へ進もう」「新しいことを試そう」という状態になることができた。そして今回は初めて、その新しいことを音楽として作品にする前に、ライブで試してみるんだ。だから今までとは全然違う。
ドミ:ライブでは今回のアルバムの曲だけを演奏するけどね。
JD・ベック:でも、その演奏の仕方自体はこれまでとは違うものになるよ。
―今回のアルバムでは、スタジオでできることをすべてやり切った、ということですよね。ライブでの再現性よりも、まず作品としてやりたいことを徹底的に追求した、と。
JD・ベック:そう、その言い方が一番しっくりくるね。今ライブでやろうとしていることは、むしろ今後スタジオで作っていく音楽に近いものになっていくと思う。今のライブは、次のアルバムに向けた準備みたいなものなんだ。楽しみたいという気持ちもあるしね。
ドミ:このアルバムには2年間取り組んできたから、同じ曲を2年間ずっと聴き続けてきたことになる。だから今はもう、新しい刺激を受けているし、新しいアイデアもどんどん見つかっている。頭の中は、もう次のアルバムのことを考え始めているくらい。だからライブでは、そういう新しい発想も取り入れながら演奏していくことになる。アルバムの世界と、これから向かう方向、その両方が混ざったようなライブになるかな。
JD・ベック:このアルバム自体は2024年6月にはもう全部書き終わっていたんだ。あとは、それを形にするまでにすごく時間がかかっただけ。曲そのものはもう完成していたから、今はその先へ進みたいという気持ちなんだ。
ストラヴィンスキーからの型破りな学び
―演奏する前は「これは無理かもしれない」と思っていたけれど、試行錯誤の末に演奏できるようになった曲ってありましたか? もしくは、オーケストラの演奏者たちが想像以上に見事に弾きこなしてくれたからできちゃった曲もあったのでしょうか。
ドミ:私たちについて言えば、最終的には全部演奏できるようになった。演奏するために曲を書き換えたものは一つもないかな。必要だったのは、とにかく練習だけ。
一方で、オーケストラの人たちは練習する時間がほとんどなかった。譜面を受け取ったのが本当に直前だったから。だから彼らは、「スタジオで一番効率よく録るにはどうすればいいか」ということを私たちに教えてくれた。映画音楽のレコーディングをやっている人も多かったから、短時間で結果を出すことには慣れてた。だから、この曲を一番早く形にする方法をみんな知っていた。そして、ありがたいことに今はテクノロジーもあるから、テイクを組み合わせることもできる(笑)。
JD・ベック:でも、僕たち自身にとっても本当に大変だったけどね。
ドミ:とはいえ、演奏不可能だったわけじゃないから。ただ、オーケストラに関しては一人で演奏するには物理的に無理な場所はいくつかあった。例えばフルートなんて、1分近く息継ぎできないようなフレーズもあったから(笑)。そういうところは、やっぱりテイクを分けるしかなかった。だから、ああいう録り方になったってこと。
JD・ベック:でも、曲自体を書き換える必要は一度もなかった。それに、自分たちのパート、彼女のキーボードやベース、それから僕のドラムについては、ちゃんと納得できるテイクが録れたのは運が良かったと思う。今こうしてライブで演奏していても、このアルバムの曲は、自分がこれまで演奏してきた中で一番難しい音楽なんだ。
ドミ:チャレンジングだよね。ステージでは毎回マラソンを走っているみたいな感覚(笑)。
JD・ベック:難しい理由は、速いとか正確性といったテクニックだけじゃない。演奏の強度そのものだね。それに、お互いの間にある空気感や感情まで再現しようとしているから、そこで本当に消耗するんだ。
ドミ:持久力が必要だよね。
―オーケストレーションでは、例えば中音域や低音域の楽器に、あえて非常に高い音域を演奏させることで緊張感を生み出すという手法がありますよね。今回のアルバムでも、そうした特殊なアプローチも使ってますか?
ドミ:かなりやってる。バスーンやフレンチ・ホルン、フリューゲル・ホルンには、本当に難しい高音域を演奏してもらってる。ああいう高い音域ならではの響きがすごく好きだから。それからチェロにも、本来ならヴィオラやヴァイオリンで弾いたほうがずっと簡単なフレーズを弾いてもらっている。でも私たちは、チェロならではの胴鳴りというか、あの音色がほしかった。ストラヴィンスキーのスコアを研究したことからも、本当に大きな影響を受けた。実際にYouTubeでストラヴィンスキーのスコア動画を流して、音楽を聴きながら楽譜を読んで勉強したの。
JD・ベック:それぞれの楽器が何をしているのか、どうしてそうなっているのかを細かく勉強したんだ。一番驚いたのは、本当に小さなディテールの一つひとつが、どれほど重要なのかってこと。
ドミ:ストラヴィンスキーはルールを破るんだけど、その破り方が本当に巧み!
―このアルバムは、本当に細部まで緻密に作り込まれていて、まるで音楽のパズルのような作品だと感じました。でも、その一方で、ライブならではの即興性や予測できないスリルも失われていません。こうした非常に細かく書き込まれた音楽の中で、即興演奏についてはどのように考えていたのでしょうか。
JD・ベック:単純に、そのためのスペースを残していただけなんだ。
ドミ:Sibeliusで書いている段階から、「ここはソロ・セクション」って最初から決めていた。
JD・ベック:でも、「ソロを入れたいから入れる」ってことは絶対にしなかった。曲の流れが自然にそこへ導いてくれる時だけ、ソロのセクションを作るようにしていたんだ。それに、僕らはお互いのことを本当によく知っているから、相手の即興演奏を引き立てるようなパートを書くことも自然にできたと思う。
ドミ:例えば、「ここはJDのドラム・ソロにぴったりのループになりそう」とか、「ここは私のソロ・セクションかな」とか、そういうことが自然にわかる。どんなアレンジにすれば、その場面が一番引き立つのかも、感覚的にもうわかっている。アルバムではソロを入れなかったセクションでも、ライブではソロやジャムをすることがある。でも、このアルバムにはソロを詰め込みすぎたくなかった。今回は何よりも、作曲やアレンジ、オーケストレーションといった、音楽を「書く技術」(craft of writing)そのものに焦点を当てた作品だったから。
JD・ベック:このアルバムを通して、僕らが一番受け取ってほしいと思っているのは、「僕らがどうやって音楽を書いているか」って部分。好きになってもらえるかどうかは、もちろん人それぞれだと思う。でも、聴く人が何か一つに注目してくれるなら、演奏よりもまず、その作曲の部分に注目してもらえたら嬉しいね。

悪夢の編集作業と「創造的な自由」
―今回はサウンドデザインやレコーディング、ミックスもご自身たちで手がけていますよね。シンセサイザーやキーボード、ドラム、それからオーケストラの楽器まで、本当にさまざまな音が使われていますが、それらがすべてひとつのサウンドとして自然に溶け合っています。この作品の音作りについても聞かせてください。
JD・ベック:悪夢としか言いようがなかった(笑)。今までで一番大変だった。全部のレコーディングが終わったのは、2025年8月の初め。
ドミ:最後に録ったのはボーカルなんだけど、そこへたどり着くまでが本当に長いプロセスだった。まず最初に作曲をして、それからJDがドラムを練習して録音する。その間に、私はほかのパートを全部MIDIで打ち込む。私はいつも全部MIDIで作るから。MIDIベース、キーボード、すべての鍵盤、それからMIDIのハープやヴィブラフォンもそう。実際の楽器を録音したのはチェレスタだけ。
JD・ベック:そうそう、本物のチェレスタが鳴ってる。
ドミ:そこまででもかなり時間がかかった。それから、私たちの友人で、デス・グリップスのザック・ヒルが、サウンドデザインを手伝ってくれた。ベースやキーボード、ハープ、ヴィブラフォンの元になる音を渡して、そこから彼に自由に作ってもらった。
JD・ベック:本当に好きなように暴れてもらった(笑)。それから、そのあとでオーケストラを録音した。
ドミ:でも、その時点では、まだオーケストラは録っていなかった。
JD・ベック:だから、さっき言ってくれた「パズル」っていう表現の通りだった。全部を録り終えてから、今度はアルバム全体をもう一度、パズルみたいに組み立て直さなきゃいけなかった。頭の中で鳴っていた音をそのまま形にするために、本当に膨大な時間をかけて、それぞれの素材を録音していったからね。そして全部がそろってから、最後の最後にボーカルを録った。
ドミ:面白かったのは、この1年間ずっと、ボーカルが一切入っていない状態の曲を聴き続けていたこと。だから、その状態に完全に慣れてしまっていて、実際にボーカルを録音した時は、自分たちでもものすごく不思議な感覚だった。それに、私たちは同じ音程では歌わない。歌詞は全部一緒に歌うけど、必ずハーモニーになっている。
―あ、全部でしたか。
JD・ベック:そう。それぞれ違う音程を歌っているんだ。
ドミ:だから、1本のトラックの中に本当に膨大な情報量が入っているんだよね。
JD・ベック:さらに音色の面でも、いろんな楽器の響きが重なり合うように作っていた。ミックスを始めて3カ月半くらい経った頃だったかな。その頃になってようやく、「全部をひとつにまとめる唯一の方法は、すべてを接着するように一体化させることなんだ」って気づいた。
ドミ:本当にひとつのユニティとして作るってこと。
JD・ベック:どの音も、ほかの音を押しのけないこと。でも同時に、全部の音がちゃんと聴こえるようにすること。それが一番難しかった。
ドミ:今でも完全には満足していないよね。
JD・ベック:「あそこはもっとこうできた」「ああすればよかった」っていう気持ちは、まだある。でも、その経験のおかげで、これから自分たちが何をやりたいのかがすごくはっきり見えた。だから今は、本当に自信もあるし、すごくワクワクしている。
―そういえば、前作では、ドラムの一部をiPhoneで録音していましたよね。今回はそういう実験的な録音も何かやっていますか?
JD・ベック:いや、今回は違う。でも今回も、別の意味で大変だった。実は、このアルバムで使ったマイクは、ほとんどバイノーラル・ヘッド・マイクだけなんだ。ちょっと待って。今ここにあるよ。
ドミ:ボーカルもオーケストラも、全部これだけ。オーケストラは一人ずつ録音したけど、それも全部このマイク。
JD・ベック:頭の形をしたマイクなんだけど、中にはステレオマイクが1本入っているだけなんだ。アルバム全体で使ったマイクは、基本的にこれだけ。キック用にもう1本だけ別のマイクを使ったけど、それ以外の生楽器は全部これで録音した。オーケストラも、ボーカルも、僕らのドラムも全部ね。でも、これも本当にひどいアイデアだった(笑)。
ドミ:全部ステレオで録れてしまうから、最初から音が左右に広がった状態で……。だからミックスが本当に難しかった。でも、そのおかげで学べたこともたくさんあった。今回みたいな情報量の多い作品を作ったからこそ、「こうすればもっとよかった」ってことが、終わってからたくさん見えてきたかな。
―さっきから話を聞いていると、おふたりは既存の常識やセオリー、慣習やルールをあまり気にせず、自分たちの中にあるものをそのまま形にしようとしているように感じました。「自由に想像していい」「どんな突飛なアイデアでも否定しなくていい」って思想を感じるというか。そのような「創造的な自由」を持ち続けるためには、何が必要だと思いますか。もしくは練習や訓練で身につくものですか?
ドミ:必要なのは好奇心かな。そして残念なことに、それは教えられるものではない気がする。もちろん、子供たちに好奇心を持ってもらえるように働きかけることはできる。でも、好奇心って、自分の中に持っていなければならないものだと思う。知りたいという気持ちや、新しい知識、芸術、あらゆるものをもっと求めたいという渇望。それが大切かな。
JD・ベック:僕らはこれまで何度も、自分たち以外の誰かのために音楽を作ろうとしてきた。でも、そのたびに何か違うって感じていたんだ。そうやって作ったものは、自分たちでも「いい作品だ」って思えなかった。正直に言うと、僕らは、自分たちが作ったものをみんなが好きになってくれるなんて、最初から期待していない。これまで作ったものを人に聴かせても、「何をやっているのかわからない」って言われることは何度もあった。でも、それを長い間経験してきたことで、「結局、それってそんなに大事なことじゃないな」って思うようになったんだ。
一番大切なのは、自分自身が、自分の作ったものをどう感じるかだと思う。僕は、それこそが一番純粋な芸術であり、一番純粋な自己表現だと思ってる。余計なことを何も考えずに、自分自身のために作ること。そして、その気持ちに誰かが共感してくれたら、それが一番嬉しい。人は結局、むき出しの真実みたいなものに惹かれるんじゃないかと思う。本物らしさ、オーセンティシティだね。僕らの音楽からも、そういうものが伝わっていたら嬉しい。
―なるほど。
JD・ベック:だから僕らにとっては、その音楽を好きになってもらえるかどうか以上に、聴いた人が何かひとつの感覚を持ち帰ってくれることのほうが大切なんだ。さっき言ってくれたような、「創造する自由」みたいな感覚だね。
僕らは、リスクを恐れない人がもっと増えてほしいと思っている。僕らより若い世代で、これからもっとすごい音楽を作っていく子たちが、もっと自由に、自分の思うままに表現してくれたらいい。そのきっかけに、僕らの音楽が少しでもなれたら嬉しいと思ってるんだ。
―ではそんな感じで、ありがとうございました。今年聴いたアルバムの中でも、もっとも素晴らしい作品のひとつだと思います。
ドミ:ありがとう、すごく嬉しい。
JD・ベック:励みになるよ。
ドミ:12月には日本へ行く予定! すごく楽しみにしてる。

ドミ&JD・ベック
『WHO ASKED?|フー・アスクド?』
発売中
日本盤SHM-CD ¥3,300(tax in)
再生・購入:https://domi-jdbeck.lnk.to/WhoaskedPR

DOMi & JD BECK来日公演
WHO ASKED? TOUR
2026年12月15日(火)東京・豊洲PIT
2026年12月17日(木)大阪・Yogibo META VALLEY
2026年12月18日(金)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:オールスタンディング 9,900円(税込・別途1ドリンク)