Supergoodsが語る、ディスコミュージックの可能性、バンコクとチェンマイの音楽シーン

タイのインディーソウルバンド、Supergoodsが全国4都市を巡る初の日本ツアーを行った。取材の前日、東京・下北沢で開催されたイヴェント「LAB Party with Music Lane Festival Night in Tokyo vol.1」でのライブパフォーマンスを体験することができたが、その音楽性は「インディーソウルバンド」という一言では片付けられない広がりを持つものだった。

モダンディスコ~ブギーやネオソウルからの影響がベースにあることは明らかだが、ギターが延々ソロを弾きまくるサイケデリックロック的なパートもあれば、まるでフランク・ザッパのように複雑な構成を持つ曲もある。70年代末のニューヨークのニューウェイブ・ディスコ・バンドを思わせるところもあり、一聴してあらゆる音楽的ボキャブラリーが駆使されていることがわかる。それでいて、欧米のアーティストにはない抒情性や湿度のようなものを感じさせるのだ。それを単純に「アジア的」と表現するのは短絡的すぎるだろうが、決して欧米追随型ではないSupergoodsというバンドのオリジナリティーとなっている。

日本ではまだまだ知る人ぞ知る存在だが、2020年には日本人DJ/プロデューサー、TOSHIKI HAYASHI(%C)の楽曲「Too Soon…Too Late」にフィーチャー。本国タイでは昨年リリースした最新アルバム『Fabulous Forever』収録曲「Discoentelechy」が2026年度のTOTY MUSIC AWARDSの「Best Record of the Year」を受賞するなど、華々しい活動を展開している。

多様なジャンルを横断しながら、独自の音楽世界を切り拓くSupergoods。その音楽観や彼らの音楽を育むバンコクやチェンマイの音楽コミュニティーについて、Mai(ヴォーカル)、Erm(ギター)、Arm(ドラムス)の3人に話を聞いた。

ーMaiさんは日本語を少し話せるそうですね。

Mai:高校で少しだけ勉強しました。あとは漫画とアニメ、それとDuolingo(笑)。

ー昨日のライブに僕も伺ったんですけど、アルバムよりもさらにエネルギッシュで、とても楽しかったです。

3人:ありがとうございます。

ー昨日のライブだと前半の曲がメドレーのように繋がっていて、DJプレイのような印象も受けました。ArmさんはDJとしても活動されていますが、バンドにもDJ的な感覚は持ち込まれているのでしょうか。

Arm:そうですね、すごく影響していると思います。

Mai:私たちみんなクラブミュージックも好きで、ArmがDJをするときはよく遊びに行ってるんですよ。それがインスピレーションになって、自分たちのサウンドに活かされていると思います。DJって曲ごとじゃなく、全体の絵を見たうえでセットを組んで、お客さんをその中に連れていくような感覚があると思うんです。私たちのライブでもそういうことをやりたい。

Mai

ー昨日の東京公演で初の日本ツアーが終わったわけですが、ツアーの感想を聞かせてください。

Arm:ツアー全体を通して感じたことですが、温かい方々ばかりですよね。

Mai:すごく歓迎されている感じもしましたね。(日本語で)みんな温かい。かわいい(笑)。曲をじっくり聴いてくれるのも、私たちにとって嬉しいことでした。

ー日本のメディアでのインタヴューは初めてだと思いますので、基本的なバイオグラフィーについていくつか質問させてください。みなさんの出身はタイのどちらですか?

Mai:3人ともバンコク出身です。

ーバンドを結成したのは2017年とのことですが、どのような経緯で結成することになったのでしょうか。

Mai:私とErmは同じ大学で勉強をしていて、カヴァーバンドをやっていたんですよ。

Arm:ある時点からオールドスクールのファンクやソウルミュージックの演奏を始め、研究していったんです。

Mai:そのころカヴァーしていたアーティストのことはよく覚えています。ジェイムス・ブラウンとか……。

Arm:パーラメントとファンカデリック、ドナ・サマー、エリカ・バドゥ、ディアンジェロ、アイズリー・ブラザーズ、それとプリンス。

Mai:ジル・スコットもやってたよね。とにかくいろんなアーティストです。70年代から80年代のものが多かったですね。

ー今名前が挙がったアーティストがSupergoodsの音楽的なルーツと考えて間違いないでしょうか。

Mai:そうですね、間違いないです。

ーあえて聞きたいんですが、タイのバンドやアーティストからは影響を受けなかった?

Mai:それほど受けていないですね。私たちは基本的にアメリカの音楽しか聴かないんですよ。大学ではジャズを勉強していたんですが、私の場合、英語のアクセントを真似する必要があると思っていました。耳を塞いで、目の前にあるもの・学ぶべきことに集中し、言語や発音などを理解できるように心がけました。

ー昨日のライブでは最後に長尺のインスト曲をやっていて、Ermさんがギターを弾きまくる場面もありました。ギタリストとしてはどのあたりのプレイヤーから影響を受けているのでしょうか。

Erm:たくさんのギタリストから影響を受けましたよ。たとえばキング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューとか。あとはジミ・ヘンドリックス、フランク・ザッパ、トム・モレロ。ただ、ギタリストに注目して聴くというより、バンドそのものの演奏を聴くのが好きですね。アルバート・アイラーのようなフリージャズのサックス奏者からも影響を受けていると思います。

左から、Arm、Erm

ーSupergoodsの音楽がなぜユニークなのか、少しわかった気がしました。MaiさんとArmさんのジャズやR&B、ファンクからの影響と、Ermさんが持ち込むプログレッシブ・ロックやフリージャズの影響がブレンドされ、Supergoodsの音を独創的なものにしているわけですね。

Mai:ありがとうございます。それはプロデューサーであるジャン・デヴィッド・カイウェーのおかげかもしれませんね。

ー彼はフランス人ですよね。プロフィールを読むと、音楽だけじゃなく、映画やアニメーション、演劇などの分野でも活動されているようですが。

Mai:そうですね。私たちはJDと呼んでいるんですが、彼が私たちの音楽のポテンシャルを上げてくれていると思います。JDは私たちのことを理解し、可能性を引き出してくれるんです。

Arm:僕はJDからコンポジションについても学んでいます。曲を作るときも「ロックを作ろう」みたいに特定のジャンルをイメージするわけではなく、自分たちの感覚を大事にするようにしています。なので、デモと最終的な完成形がかけ離れていることもあるんです。

ーデモからセッションを重ねるなかで違うものになっていく?

Arm:そうやって作ることもありますが、曲によりますね。歌詞から作ることもありますし、僕が作ったトラックにMaiが歌を乗せることもあります。

ー現在の活動拠点はバンコクだと思うんですが、アルバムはチェンマイ拠点のポイ・レコーズから出ていますね。ポイ・レコーズに所属することになった経緯を教えてください。

Arm:ポイ・レコーズとはJDが繋いでくれました。別のプロジェクトでポイ・レコーズのレーベルオーナーとJDが会う機会があって、そのときのJDが僕らのアルバムを推薦してくれたんです。それをポイ・レコーズのオーナーが気に入ってくれて、僕らにコンタクトがあったんですよ。

ーみなさんはチェンマイの音楽シーンとの繋がりも強いんですか?

Mai:そうですね。チェンマイにはバンドをやってる友達もたくさんいるし、チェンマイに行くとみんなが温かく迎えてくれるんです。チェンマイの音楽シーンも結構活気があって、いい感じです。

ーバンコクとチェンマイの音楽シーンはどのようなところに特徴があって、どのように違うんでしょうか。

Arm:どうなんだろう……(レーベルのスタッフに対して)どう思う?

ポイ・レコーズのスタッフ:バンコクとチェンマイにはどちらも非常に優れた音楽大学があるので、似たところがあると思います。多くの若手ミュージシャンはそうした大学で成長し、演奏するようになるんですね。唯一の違いは、バンコクが首都だということ。だからあらゆる資源が豊富だし、とても風変わりなところもあるんです。

ーチェンマイには古都のイメージがあります。

ポイ・レコーズのスタッフ:そうですね。バンコクに比べるとチェンマイの音楽シーンは規模がずっと小さく、発展しているとは言えませんが、ミュージシャンの集中度は同じくらいです。だから、チェンマイの音楽シーンは他の小さな街よりも活気があるように見えるのかもしれません。あと、チェンマイにはソリチュード・イズ・ブリスやヨンラパのように国際的に認められている素晴らしいミュージシャンがたくさんいますね。

ーこのRolling Stone Japanでも以前ヨンラパのインタビューが掲載されたことがあって、そのなかでメンバーは「チェンマイは割とヒッピー的なスタイルの生演奏志向のバンドが多いような気がします」と話していました。実際のところはどうなのでしょうか。

Mai:うん、そうですね。生演奏のバンドはたくさんいるし、夜になると通りのライブハウスから生演奏が聞こえてくるんです。

Arm:福岡ではMuchaMuchaMというバンドと一緒になりましたが、京都のバンドと比べると、彼らの音楽は全然違うんですよね。もっとリラックスしていて、ゆったりしている。街によってそういう違いはありますよね。

ーSupergoodsの音楽性はサイケデリックな部分もありますが、都会的で洗練された部分もあります。その意味ではチェンマイとバンコクのハイブリッドという感じもするのですが、いかがでしょうか。

Arm:確かにそういう見方もできると思います。私たちの音楽はエレクトロニックな要素もありますし、曲によってはアコースティックでゆったりしたものもありますからね。それを「チェンマイらしさ」というのであれば、ハイブリッドとして考えることもできるかもしれない。

ーでは、バンコクとチェンマイの音楽シーンのそれぞれの課題は何だと思いますか。

Arm:難しい質問ですね。バンコクにもチェンマイにもたくさんのライブ会場があり、そこで自分たちの音楽を表現したいというアーティストはたくさんいます。でも、その数に対し、ライブ会場が十分ではないんです。もっといい会場がたくさんあればな、と思うこともあります。

ー東京だと都心の家賃が上がりすぎて、ライブスペースを新しく作るのが難しいという現状があります。バンコクやチェンマイも同じような問題はあるのでしょうか。

Arm:そうそう、バンコクやチェンマイもまったく同じです。

Mai:ライブハウスができてもすぐに閉まってしまうんですよ。会場としてはチケット代だけでなく、ドリンクを飲んでもらわないと経営的に厳しいわけですが、お客さんも生活があるので、そう簡単にはお金を使えないですよね。それで経営に行き詰まるライブハウスも少なくありません。

ーアルバム『Fabulous Forever』で目指していたものとはどのようなものだったのでしょうか。

Arm:アルバムを作るときはあまり事前に話し合って何かを決めることはないんですが、今回のアルバムに関してはクラフトワークをよく聴いていたので、その影響が少しあるかもしれません。「Take Me」という曲ではクラフトワークのシンセサイザーを真似しようと考えていて、ドラムパターンにもちょっとクラフトワークの影響があると思いますね。あと、カヴァーバンドだった時代、ディスコの曲をたくさんやっていたので、そのころ学んだディスコの要素が自然と滲み出た曲もあります。

Mai:私自身はあまりエレクトロニックミュージックは聴いてこなかったんですけど、その代わりに聴いてきたエリカ・バドゥやマーヴィン・ゲイの歌い方や発音の仕方は意識していました。

ー収録曲である「Discoentelechy」というタイトルは、ディスコのきらめきと「エンテレケイア(自己実現)」を融合させた独自概念だと伺いました。「Discoentelechy」とは何か、もう少し具体的に説明いただけないでしょうか。

Arm:実はこの曲はパーラメントの「Funkentelechy」のオマージュなんです。彼らがファンクミュージックの可能性を示したように、僕らはディスコミュージックの可能性を示したいと思ってこの曲を作りました。

Mai:私は割れたお皿などを金で繋ぐ金継ぎにハマった時期があるんですね。「Discoentelechy」のなかには<Every broken piece, still fabulous forever(壊れたかけらも永遠に美しい)>という歌詞がありますが、「ひとつひとつのかけらも美しい」という言葉には金継ぎからのインスピレーションもありました。本当の自分たちを受け入れ、自由になる――そういうメッセージも込められています。蝶々のように、蛹が外に向かって花開いていくイメージというか。あと、私はそこに人を自由にしてくれる「Entertain key」、つまり「エンターテインメントへの鍵」という意味でも使っています。「Disco Entertain Key」みたいに言ってもいいと思って。

ーみなさんにとっては音楽自体が苦しみや恐れから解き放つものなんでしょうか。

Mai:そうですね。他の人はどうかわからないけど、少なくとも音楽は私を助けてくれましたし、音楽を通してたくさんのことを学びました。エリカ・バドゥやジョニ・ミッチェルが大好きなんですが、彼女たちの歌は私にたくさんのことを教えてくれました。

Erm:音楽って自分たちの人生のサウンドトラックだと思うんですよ。

Arm:音楽は自分の記憶が凝縮されたものでもありますよね。すべての思い出に紐づいていて、自分が子供のころに聴いていた音楽をひさびさに聴くと、当時のことが蘇ってきます。60年代から70年代、ジェイムス・ブラウンの歌は黒人たちのパワーを象徴するものでもありました。同じ時代のジャズでもそうした力を持っていました。当時の公民権運動とも結びつくものでもあり、人々の救いや助けにもなりました。音楽ってそういう力を持つものだと思うんですよ。

ーその「Discoentelechy」は2026年度のTOTY MUSIC AWARDSで「Best Record of the Year」を受賞しました。TOTY MUSIC AWARDSはメジャー/インディー、ジャンルの垣根を超えたアワードですが、そうした音楽賞を受賞した感想を聞かせてください。

Mai:嬉しいですし、すべての人びとに感謝しています。TOTY MUSIC AWARDSはメインストリームの音楽賞で、他の部門を受賞した他のアーティストのなかでも私たちは異質の存在でした。誰かが私たちの努力を認めてくれたんだと嬉しい気持ちになりました。自分たちがやりたいことをやってもちゃんと受け入れてくれるファンがいる。そのことがわかって今後の活動に希望を持つことができました。

ーあなた方のようなインディーバンドがTOTY MUSIC AWARDSで受賞するのは珍しいことなんでしょうか。

Mai:そうですね。比較的T-POPのようなアイドルグループやメインストリームのロックバンドが対象になっている音楽賞なので。

ータイのインディーシーンを取り巻く状況が変わってきたということなんでしょうか。

Arm:多少は変わってきたと思います。でも、もっと変わる必要があると思いますね。

Mai:そう、まだ十分じゃないです。もっとたくさんのインディーバンドに出てきてほしいですよね。

ー今年1月にはタイ人の打楽器奏者であるSalinのライブでオープニングアクトを務めていましたよね。彼女は現在カナダを拠点にしていて、インターナショナルな活動を続けています。タイ国外での活動についてはどのように意識していますか。

Arm:もちろん声がかかればもっと海外でもやりたいです。

Mai:今回のアルバムで自分たちのサウンドや存在を知ってもらえたわけですが、もっともっと多くの人に知ってほしいですね。そのためには私たちもさらに頑張らないといけないと思います。(日本語で)お願いします(笑)!

ー今回の日本ツアーの経験は、今後のあなた方の活動にどのように活かされていくと思いますか?

Arm:曲作りにも活かされていくと思いますし、ライブにも活かされていくと思いますね。いずれにせよ、早いうちに日本に戻ってきたいと思っています。

Mai:今回のツアーで日本に滞在するあいだ、たくさんのことを書き留めておいたんですよ。日本での素敵な思い出が次のアルバムに反映されると思います。

ーちなみにコラボレーションしたい日本のアーティストはいますか?

Mai:正直、誰とでもコラボしたいです(笑)。昨日のイヴェントで一緒になった田上碧さんが印象的でした。すごくソウルフルで、ライブを見ながらその場で私と田上さんがハーモニーを合わせる光景が浮かんできました。実現できたらおもしろいと思いますね。

Arm:僕はMaya Ongakuが好きなんですよ。KEXPのライブ動画でハマってしまって。彼らと何かできたら嬉しいです。

<リリース情報>

Supergoods

アルバム『Fabulous Forever』

タイを代表する音楽アワードTOTY MUSIC AWARDS にて「BEST RECORD OF THE YEAR」を受賞した「Discoentelechy」を収録

Spotify https://open.spotify.com/intl-ja/album/6Cr25aO1IpPC4H41LJ7LZ6

YouTube https://youtu.be/J28dMJKNyiU

現在、新アルバムの制作を進めており、秋〜冬頃のリリースを予定

あわせて、2027年1月には日本での再来日ツアーも予定