弘南鉄道、長良川鉄道、山形鉄道、北越急行の4社で、クラウドファンディングを通して支援者が贈ったはずの支援金を受け取れない状態だと報じられた。4社合計で総額約1,800万円、支援者はのべ1,173名にのぼる。弘南鉄道は支援額確定のため、支援者にメールで調査を開始。長良川鉄道、山形鉄道、北越急行は法的措置を検討中と伝わっている。北越急行は未回収金の半額を貸倒引当金に計上したという。

  • 弘南鉄道、長良川鉄道、山形鉄道、北越急行の4社でクラウドファンディングの支援金を受け取れない事態に

4社はクラウドファンディング(CF)サービス「うぶごえ」を利用していた。「うぶごえ」は大手CFサービス「CAMPFIRE」の運営会社の元執行役員が退社して始めた会社で、「CAMPFIRE」在任時は営業部門と広報部門を統括していたという。「うぶごえ」は2020年に設立され、他社と比べて後発ながら、社長の経歴を知れば信頼できると思われた。

掲載手数料ゼロが魅力だった

「うぶごえ」のおもな特徴として、「掲載手数料0円」が挙げられる。掲載手数料はCFのプロジェクトにおいて、サービス料としてCF会社が差し引く費用。先行する大手CFサービスは約20%に設定しており、返礼品アドバイスなどサポートの内容によって上下する。「掲載手数料」という名前が示すように、プロジェクトの主体は起案者にあり、CF会社は紹介サービスを提供するというしくみになっている。

たとえば、大手CF会社で1,000万円のプロジェクトを立ち上げた場合、起案した鉄道会社は掲載手数料の200万円を差し引いた800万円の支援金を受け取る。これが「うぶごえ」では無料になり、1,000万円のプロジェクトを実施すれば1,000万円を受け取れるとされた。起案した側にとって手数料負担は見過ごせないから、掲載手数料ゼロは魅力的だった。

とはいえ、掲載手数料がゼロではCF会社が成り立たない。そこで、「うぶごえ」は支援者から決済手数料を徴収するシステムにした。他社のCFサービスでは、支援者が1万円を支援した場合、1万円の他に250円程度のシステム手数料が加算され、1万250円前後を支払う。「うぶごえ」はこれの他に、決済手数料として返礼品額の5%を加算していた。1万円の支援で3,000円の返礼品を受け取る場合、3,000円の5%にあたる150円が加算される。システム手数料が250円とすれば、支払額は1万400円となる。

つまり、起案者の負担になる掲載手数料をなくす代わりに、支援者に少額を幅広く負担していただこうというシステムだった。しかしCF会社にとっては、支援総額の20%の手数料ではなく、返礼品の5%の手数料だから実入りは少ない。1,000万円のプロジェクトで、支援総額の3割、300万円相当の返礼品を用意した場合、「うぶごえ」が得る決済手数料は15万円。大手CFなら1,000万円のプロジェクトで200万円の掲載手数料になるところだが、1割以下しか収益がない。

起案者にとって、掲載手数料ゼロは魅力的といえるものの、「うぶごえ」のビジネスモデルはかなり危ういと言わざるをえない。個人事業だったらなんとかなるかもしれないが、ウェブサイトの運営、プロジェクトページの制作、入出金管理、営業など1人では回せず、雇用が必要になる。事務所の賃料などもかかる。ある第三セクター会社に勤める知人によると、「この会社の営業担当と話をしたけれど、御社はどこで利益を出すのかと質問したら、それ以降連絡がなかった」という。

鉄道趣味誌の冠を付けたサービスだった

鉄道会社にとって、掲載手数料ゼロと同じかそれ以上の魅力もあった。鉄道趣味誌との企画協力である。「雑誌名+クラウドファンディング」のブランドをつくり、雑誌がバックアップする課題解決プラットフォームという触れ込みで起案者を集めた。そこには「御社発信による集客に加えて、『雑誌名』(本誌、web、SNS)でも拡散フォローいたします」と明記されていた。

この雑誌は、鉄道趣味誌の中でも旅行に特化しており、地方ローカル線を魅力的に紹介する記事に定評があった。その雑誌が本誌、公式サイト、SNSでフォローしてくれると、鉄道ファン、鉄道会社のファンに早く、広く拡散できる。鉄道会社としては、魅力的な雑誌と行動力のある鉄道ファンと、両方の結びつきを強くできるという期待もあった。

しかし未回収問題が起きると、期待が裏目に出る。その雑誌は紹介するだけで、責任を取ろうとする姿勢を見せない。それは無責任ではないかという声が上がる。事態を重く見た出版社は、6月18日にプレスリリースを公開した。その中で、「多大なるご心配をおかけしておりますことを重く受け止めております」とした上で、「『プロジェクト自体の告知協力』のみを行っており、CF 運営会社の経営や同社におけるプラットフォームの資金管理等には一切関与しておりません」「返礼品のアイデア提供や返礼品の制作を受託しておりますが、これらはいずれも、プロジェクト実施事業者様と弊社との直接の契約に基づくものであり、CF運営会社を通じた取引ではございません」と説明した。

さらに、「弊社においても、CF 運営会社からの一部未払い状態(告知協力費等)が発生しており、現在、法的措置を含めた対応を検討しております」と表明した。料金未回収という意味で、出版社も「被害者のひとり」と言える。

「うぶごえ」元副社長のSNS履歴をたどると、この雑誌と提携したきっかけは2022年11月号の記事だった。「ニッポンの鉄道を応援する」という特集の中で、「うぶごえ」副社長(当時)と編集長(当時)の対談が掲載されており、CFのしくみと利点を紹介している。現在のような状況でなければ、良い記事だったと思う。ただし、すでに多数の鉄道プロジェクトを手がけた大手CFではなく、なぜ鉄道プロジェクトの実績がない「うぶごえ」だったか。

そのヒントは広告にあった。この記事が掲載された雑誌の表3、裏表紙(表4)をめくったところに「うぶごえ」の広告が掲載されている。筆者は雑誌の広告営業を経験しているから、すぐにわかった。これはいわゆる「バーター取引」を思わせる。広告と編集企画を組み合わせる形態で、「記事を書くので広告をください」あるいは「広告を出すから記事を書いてよ」と表現されることもある。

雑誌広告の世界ではよくあることで、筆者も新創刊誌やムックでこの手法を使っていた。ただし、編集長の判断が必要だから、読者に有益な商品・サービスであることが条件となる。このあたりは雑誌の良心による。筆者の場合、編集部が納得しなければタイアップ広告としてきっちり料金をいただき、広告と明記した。

じつは、紙面に登場した編集長が副編集長だった頃に名刺をいただいたことがある。すでにその出版社を退社されていたので、名前をたどってSNSで連絡したところ、「自分もこのようなことになって驚いている」とのことだった。名刺には法人営業部部長の肩書きもあり、「雑誌名+クラウドファンディング」にも関わっているとみられる。しかし、すでに退社しており、事情は不明のようだった。

前述の通り、紙面に登場した「うぶごえ」副社長も退社している。つまり、「雑誌名+クラウドファンディング」について、この出版社と「うぶごえ」の当事者は現在の状況を知らない。その意味でも出版社は事情がつかめぬままプレスリリースを出さざるをえなかった。とはいえ、出版社の表明をそのまま受け取ると、ブランド使用料を設定しないまま、一企業のサービスに雑誌名のブランドを与えてしまったことになる。これは雑誌の信頼関係を損なう。そこは自戒すべきだし、すべてのメディアが反面教師とすべきだろう。

「鉄道CFだけ決済手数料14%」の謎

筆者は、雑誌記事の掲載や「雑誌名+クラウドファンディング」について、いまだに「誰かの便宜や利害関係があったのではないか」という疑問を持っているものの、憶測の域を出ない。ただひとつ、説明のつきにくい点がある。この雑誌の記事や、他のCFの紹介記事をたどると、「うぶごえ」の決済手数料は5%となっている。しかし、「雑誌名+クラウドファンディング」の決済手数料は14%に設定されていた。なぜこうなったか。

ここからは筆者の予想だが、過去の未払いプロジェクトを返済するために、「雑誌名+クラウドファンディング」で回収しようとしたのではないか。出版社の言う「手数料の分配はない」が事実であれば、返済資金を確保するために決済手数料を引き上げたとも考えられる。その結果、「うぶごえ」が自転車操業状態に陥っていた可能性も否定できない。

2025年9月1日、「うぶごえ」はゲーム『シブヤスクランブルストーリーズ』開発支援プロジェクトのCFで、約5,475万円の未払いを発生させた。ゲーム情報サイトなどによると、ゲームデザイナーで『428 ~封鎖された渋谷で~(チュンソフト)』などのヒット作を手がけたイシイジロウ氏が、新作『シブヤスクランブルストーリーズ』の開発支援プロジェクトを立ち上げたところ、目標の500万円を大きく超える5,475万円が集まったという。

「電ファミニコゲーマー」2026年3月30日付の記事に詳細がある。当初、「うぶごえ」は「誤って他の取引先に送金してしまった」と説明した。この場合は銀行に組み戻し手続きを依頼し、誤送金先が返金に同意すればお金は戻ってくる。ただし、返金先が同意しなければ戻ってこない。じつは筆者(杉山)も過去に振込先を間違えたことがあり、戻ってくるまで1カ月以上かかった。しかし、記事では後半に「うぶごえ」の説明内容と異なる可能性が出てきたという。

そこでイシイ氏は弁護士を通じて交渉し、連帯保証を含めて個人名と会社名の押印をした期限付きの全額返済の覚書を交わした。それでも期日までに支払われず、分割で入金された。2025年9月2日に300万円、2025年9月16日に600万円。最後の入金は2025年11月21日の100万円。これ以降は未入金で、未払い金は2,775万円と、6月30日付の別の記事が伝えている。

記事の入金リストを見ると、弘南鉄道、長良川鉄道、山形鉄道、北越急行が行ったCFの実施時期と重なっている。時系列を見ていくと、「雑誌名+クラウドファンディング」で支援者から届けられたお金が、『シブヤスクランブルストーリーズ』の未払い金返済に回った可能性は否定できない。ただし、『シブヤスクランブルストーリーズ』のCF立上げは2025年5月で、「雑誌名+クラウドファンディング」の立上げはそれより前の2022年11月。『シブヤスクランブルストーリーズ』のために手数料が値上がりしたわけではない。

そうなると、なぜ「雑誌名+クラウドファンディング」の決済手数料が14%になったのか。冒頭に書いたように、その時点で未払い分の返済のために上乗せしたのではないか。あるいはなにか特別なサービスがあったのか。

支援金回収の見込みは低い

企業情報サイトなどの公開情報によると、2021年11月時点で総資産1.7億円、純利益はマイナス1.9億円。2025年10月に「うぶごえ」の本社は渋谷区神南のオフィスビルから、渋谷区桜丘町に移転している。当該所在地はシェアオフィスで、従業員数は3人から1人になっている。いまは社長ひとりである。もっと早く知っていればと思うが、後の祭りだ。

「うぶごえ」は2026年4月15日に公式サイトがダウンしており、すべてのプロジェクトが確認できない状態にある。公式X(Twitter)は更新されており、連絡先のメールアドレスが公開されている。そこで、筆者は6月27日にメールを送った。「なんのためのプラス9%か」など、いくつか質問を投げかけてみた。

6月29日に社長から返信があった。「高熱と激しい頭痛のため水曜日まで待ってほしい」とのこと。水曜日には「金曜日まで待ってほしい」、金曜日には「入院している」と返信が送られてきた。入院患者に対して返信を強いることはできないので、体力回復を待つと伝えた。これ以降、連絡は途絶えたままになっている。疑惑の焦点は「プラス9」と、ゲーム開発支援金約5,475万円の行方。ここから始まったように思う。

2,700万円の未払い残金がある上に、サイト閉鎖で新たなプロジェクトが立ち上がらないから、自転車操業をしようにもペダルがない。こうなると、「うぶごえ」から鉄道事業者への支援金送金は難しそうに思える。ゲーム開発会社のように、連帯保証を含めた覚書を作ったほうが良いと思うが、法的に争って鉄道事業者の正当性が認められても、支援金を得られる可能性は低そうだ。

不思議なことに、実際の被害額は集めた金額より少ない。支援者にとっては、返礼品を受け取った時点で取引が成立しているし、起案した会社も被害額は返礼品の実費にとどまる。ただ膨大な支援金がどこかに行ってしまった。

筆者は鉄道事業者と鉄道ファンを結ぶ新たな形としてCFを高く評価してきた。現在まで参加したCFは鉄道以外も含めて59件、支援総額63万4,040円(システム使用料込み)。鉄道ライターとして利益を得る者として、鉄道や鉄道趣味を応援し、還元したいと思っている。他の多くの支援者も、起案者とのつながり、応援の気持ちで参加しているはずだ。

善意で成立するCFのしくみは、どうやら隙だらけで、悪用すれば詐欺などの犯罪や資金洗浄に利用されるおそれもあるのではないか。官民の連携で、なんらかの対策を取る必要があるだろう。そのためにも、本件の全容解明を望みたい。