英国グッドウッドで公開された第3世代A110プロトタイプ「A110 FUTURE」、その進化の中身とは?

「アルピーヌ・A110」の歴史に、再び大きな節目が訪れようとしている。初代A110の生産が終了してから、ちょうど40年目となった2017年、アルピーヌは新型A110をこの年のジュネーヴ・ショーで世界初公開。初代A110の姿を彷彿させるスポーティーなボディデザインは、同時に卓越したエアロダイナミクスを誇るものとなり、初代のリアからミドへと搭載位置が変更されたエンジンには、まず252psの最高出力を発揮する1798cc直列4気筒ターボを採用。A110はこうして現代に復活を遂げたのだ。

【画像】3代目のアルピーヌ「A110」フューチャーの中身(写真9点)

このセカンド・ジェネレーションのA110には、その後「A110S」や「A110GT」、「A110R」、「A110 Ultime」といった高性能モデルや多彩な特別仕様車が誕生し、世界中のスポーツカー・ファンを刺激し続けてきた。その軽量でコンパクトなピュア・スポーツカーとしての魅力は、現在においてももちろん変わることはないが、アルピーヌは2026年7月1日をもってA110シリーズの生産を終了。ちなみにこれまでフランス北部にあるディエップ工場からラインオフされたセカンド・ジェネレーションのA110は、トータルで2万8701台。この成功を受けてアルピーヌは、2027年には後継車となるサード・ジェネレーションのA110を市場に投入する計画を打ち出している。

2026年7月9日、イギリスで開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでは、そのプロトタイプとされる「A110フューチャー」を初披露したアルピーヌだが、同社はそれに先立つこと約2カ月前の5月中旬、フランスのパリ近郊、ギュイアンクールにある研究開発センターで、サード・ジェネレーションのA110、そしてその派生モデルにも大きく関連する技術説明を行う「テックデイ」を開催。ここではその概要を、当日行われたプレゼンテーション、そして質疑応答の内容をベースに解説していこうと思う。

A110フューチャーがそうであったように、サード・ジェネレーションのA110は、エレクトリック・パワートレーンを搭載したBEVとして市場に導入されることになる。そのために新開発されたのが「APP」(アルピーヌ・パフォーマンス・プラットフォーム)と呼ばれる、軽量で強固なアルミニウム製の基本構造体で、これは新型A110のほかに、ルノーから2027年に発表が予定されている「5ターボ 3E」にも使用される計画となっている。つまりAPPの持つ大きな特長のひとつはその拡張性にあり、アルピーヌではまずこのAPPを用いて従来型のA110と同様に2シーターのクーペをデビューさせた後、そのオープンバージョンを。その後はさらにホイールベースを延長した2+2モデルを、やはりクーペとオープンの両バージョンで開発するプランを打ち出している。

バッテリーの搭載位置や前後アクスルの構造を、2シーター用と2+2シーター用で異なるものとしているのも、技術的には興味深いポイントだ。2シーターモデルのバッテリーはAPPの前後に分割して搭載され(正確には総エネルギー量の25%に相当するフロントパックと、同じく75%を占めるリアパックに分割される構造だ)、両者はこちらも軽量なアルミニウム製ハーネスで直列に接続される。ケーシングはダイカストアルミニウム製で、これはバッテリーの保護はもちろんのこと、車体のねじり剛性を高めるための構造部品としての機能も持ち合わせる。アルピーヌによれば、車体の前後にバッテリーパックを分割搭載するのは世界初の試みということだが、それによって前後重量配分を40:60に最適化することも可能になった。

バッテリーは円筒形セル(46115)と2フロアのセル・トゥ・パックを備えた、NCM化学組成を使用したもの。エネルギー密度は750wh/L、もしくは275wh/kgという数字が発表されており、実際の搭載量については明らかにされなかったが、量産モデルではおよそ1500kg程度の車重が実現すると見込まれている。エレクトリック・アーキテクチャーは800V。バッテリー残量10%から80%までの充電は最短15分で行えるというから実用性も非常に高い。 一方2+2モデル用のAPPは、このバッテリーを一体化してフロア下のホイールベース間に収めることになる。フロアは2シーターモデルより若干高まり、ドライビングポジションも多少上昇することは避けられないが、それでもなおドライビングに最適なポジション、そしてキャビンスペースの余裕が得られることは間違いないはずだ。

2シーター・バージョンと2+2バージョンの違いは、そのパワーユニットの配置にも表れている。2シーター・バージョンでは、リアに「デュアルリアeパワートレーン」と呼ばれる、2つのインペラ、2つの減速機、そして2つのインバーターをコンパクトに一体化した、もちろん新開発のパワートレーンが搭載される。モーターの最高回転数は20000rpmで、ローターとステーターにも両方にオイル冷却システムを導入するなど、耐久性を向上させるための対応にも万全の備えを見せている。駆動方式は当然のことながらRWDとなる。2+2バージョンは、このシステムに加えて、フロントにさらにeパワートレーンを追加したもの。したがって駆動方式は4WDとなるが、アルピーヌはこのモデルの開発コンセプトを、BEVスポーツカー時代の新しいリーダーとなることと定義している。

アルピーヌのCEOであるフィリップ・クリーフ氏によれば、今回APPを開発し、ここからサード・ジェネレーションのA110に代表される次世代モデルを生み出すにあたって、彼らはまずおもに3つの技術的な課題に直面したという。バッテリーの搭載に伴う重量増加を最小限に抑えることと、それに関連する要素のサイズを最適化すること。そして車高を1.25m未満に抑えつつ、ドライバーを可能なかぎり低い位置に着席させ、真にスポーティーなドライビングポジションを提供すること。そしてダイナミックな走りを演出するために、電動パワートレーンの音響特性とサウンドシグネチャーを洗練させることの3つがそれだ。そしてこれまでのA110が特別なスポーツカーとして評価されている大きな理由でもある、極端なパワーや加速性能を追求せず、単に速いBEに次世代のA110を終わらせないため、コーナリングの精度やシャシーのバランス、ドライビングフィールを最適化していることも見逃せないという。パフォーマンスは単に数値で計測するものではなく、身体で感じるものでなければならないというのが、アルピーヌが伝統的に最も重んじる哲学であるのだ。

実際にAPPのフロントアクスルやリアアクスルの設計を見ると、アルピーヌがそれらを実現するために、いかに徹底したエンジニアリングを展開しているのかが良く理解できる。リアアクスルはその多くのパートが従来型から新設計されており、鍛造のアルミニウム素材がコントロールアームや上下のウイッシュボーン、ホイールキャリアなどに採用され、サスペンションの軽量性と剛性をさらに高める工夫が見て取れる。フロントではアンチロールバーがアッパーウイッシュボーンに接続される設計になった。ちなみにステアリングは、操舵フィーリングを重視して電動アシストを備えた機械式が採用されるそうだ。

新型A110の誕生によって、再び大きな成長を遂げる可能性が高いアルピーヌというブランド。個人的にはこれまでと同様にICE(内燃機関)を搭載したモデルの継続も切に望みたいところなのだが、これに対してアルピーヌからは、それを完全に否定するコメントはなかった。最初にも触れたとおり、サード・ジェネレーションのA110が市場に投入されるのは2027年の予定。それまでの時間が長く感じられるのは、アルピーヌ・ファンのみならず、スポーツカー・ファンならば誰もが同じではないだろうか。

文:山崎元裕 写真:アルピーヌ

Words: Motohiro YAMAZAKI Photography: Alpine UK - TOBY CORNELIUS, Alpine Design, Design Alpine