人気シリーズだからこそ、守るべきものがある
「人がどう感じるか」を考え続ける――。その姿勢は、『レールガン』の開発でも一貫していた。西牧氏が「ぜひ注目してほしい」と真っ先に挙げたのが、ブラックアウト演出だった。
「ブラックアウトの音は全部で6種類。ブラックアウトは基本的に期待できる演出なので、『気持ち良い音』であることを前提に作られています」
同じように聞こえる演出音でも、実際には細かな作り分けが施されている。それは、キャラクターごとの個性を音で表現するためでもあった。
「それぞれ状況やキャラクターに合わせて変えています。例えば、アクセラレータが絡む場面であれば、少し禍々しい雰囲気を入れたり。単純に同じ音を鳴らすのではなく、場面やキャラクターに合わせて作り分けています」
人気シリーズだからこその難しさもあった。新しさだけを追い求めるのではなく、「残すべきもの」も見極めなければならない。
「前作を好きだった方がいるので、残すべき部分は残したいと思っていました。そのため、『ここは前作と同じ音を使う』『ここは新しく作る』という判断を、企画課とも相談しながら進めています」
シリーズ機には、「変わってほしくないもの」がある。一方で、新作としての驚きと感動を届けなければならない。
「新しいものを作りながらも、『前作が好きだった人が喜ぶポイント』は残しているのですが、それはシリーズ機の大事な部分だと思います」
こうした試行錯誤を繰り返す日々の中で、頭から仕事が離れなくなることはないのだろうか。そう尋ねると、西牧氏は少し笑いながら答えた。
「音について考えるのは好きなので、そもそも癖のようになっていた部分もあります。好きだから、自然と考えてしまうのだと思います」
「好き」が、人の感情を動かす
“新卒1年目”が心血を注ぎ込んだ、『eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT』。その一台が全国のホールへ導入された日、西牧氏は一人の開発者として、初めてユーザーと同じ空間に立った。
「藤商事では、自社機種が導入された際に、社員が実際にホールへ行って遊技できる制度があります。導入から2週間以内であれば、自分の都合の良い日に打ちに行けるんです。開発者だけではなく、全社員が対象です」
導入初日。西牧氏は朝からホールへ向かった。
「私は初日に朝から並んで、無事に座ることができました。整理券で3番か4番だったのですが、前に並んでいた方々は『レールガン』を選んでくださって、すごくうれしかったですね。ユーザーさんの反応を間近で見られるのも、この仕事の醍醐味だと思います」
何カ月もかけて作り上げた一台が、目の前で動き出す。西牧氏にとって、それは忘れられない特別な時間となった。
「これまでずっと作ってきたものが実際にホールで並んでいて、多くのお客様が打ってくださっている。その光景を見られたことが本当にうれしかったです。私が並んだホールでは、朝からしっかり埋まっていました」
開発者としての喜びを分かち合ったのは、ユーザーだけではない。パチンコの楽しさを最初に教えてくれた両親も、特別な思いでホールへと足を運んだ。
「右打ちには入ったらしいのですが、あまり続かなかったみたいです(笑)。ただ、『音は良いんじゃない?』と言ってくれました。それは素直にうれしかったですね」
感動体験を生む、正解のないものづくり。だからこそ、西牧氏は一人で答えを決めないようにしている。
「いろいろなやり方があると思いますが、私の場合は聞く人を増やします。多数決というわけではありませんが、できるだけ多くの人に聞いてもらい、『どちらの方が良いと思うか』を参考にします。やはり正解がある仕事ではないので、多くの意見を取り入れるようにしています」
その姿勢は、入社当初から変わらない。分からないことがあれば学び、知らないことがあれば吸収する。その積み重ねが、開発者としての成長につながっている。
「やはり学び続けることだと思います。探求心というと、ちょっとカッコよすぎる気もしますが(笑)。音やランプもですが、まだまだ知らないことがたくさんあります。他社さんの機種を打っていても、『こういう見せ方があるんだ』『こういう音の使い方があるんだ』と勉強になることばかりです」
その探求心は、どこから生まれるのか。その答えはシンプルだった。
「好きだからだと思います。音も好きですし、パチンコも好きです。好きなものだからこそ飽きずに追求し続けられる」
人気シリーズのサウンドを担当した、かつての“新卒1年目”。その歩みはまだ始まったばかりだが、4月からは後輩が彼の背中を追いかけ始めている。
「この4月に新入社員が入りました。今は研修中ですが、これから一緒に働くことになります。楽しみですが、少し緊張もしますね(笑)」
音に耳を澄ませ、人の心を動かすために
ホールに響く、ほんの一瞬の効果音。その音に心が高鳴る理由を、遊技中に意識する人はそこまでいないだろう。それでも、「人の心を動かしたい」という思いを胸に、今日も開発者たちが音を磨き続けている。
「私にとって、パチンコは“芸術品”です。“芸術品”を作るわけですから、やっぱりそれが“好きなこと・もの”であることが大事だと、私は思っています」
“芸術品”は、遊技機そのものだけを指しているわけではない。人の心を動かす体験を、仲間とともに一つひとつ積み重ねていくこと。そのものづくりに向き合う姿勢も含めて、彼にとっては「総合芸術」なのではないか。
学生時代、研究室で追い続けていたのは、「人は音によって、どのように感情が動くのか」という問いだった。やがて一台の遊技機との出会いが、その探究心を「研究」から「ものづくり」へと変えた。
音に耳を澄ませ、人の声に耳を傾け、ユーザーが何を感じ、何を求めているのかを考え続ける――。西牧氏が学生時代から積み重ねてきたその探究心は、遊技機という“芸術”の中で、これからも生き続けていく。


