大塚製薬が医師監修のもと、「認知症に伴う行動症状のアセスメントシート」が果たす役割について解説している。
認知症に伴う行動・心理症状「BPSD」とは
アルツハイマー型認知症の症状には、もの忘れなどの認知機能の低下に加え、「怒りっぽくなる」「落ち着きなく歩き回る」「介護や支援を嫌がる」といった行動や気持ちの変化が見られることがある。これらはBPSD(認知症の行動・心理症状)と呼ばれ、本人の不安や戸惑い、生活環境などが関係している場合がある。しかし、こうした変化は「年齢のせい」や「性格の変化」と受け止められ、見過ごされることも少なくない。また、家族や介護者がこうした変化に気づいていても、診察の場でどのように伝えればよいか迷う場合もある。そうした日々の気づきを整理し、適切な医療やケアといった対応につなげる手段の1つに、「認知症に伴う行動症状のアセスメントシート」がある。
東京都健康長寿医療センター精神科部長・認知症疾患医療センター センター長の古田光氏が、認知症ケアの考え方やBPSDに気づくうえでの課題、アセスメントシートが果たす役割について解説している。
認知症ケアの目標は「その人らしい生活」の継続
認知症の治療やケアで大切なのは、「本人と家族がその人らしい生活を、できるだけ長く続けていくこと」だと、吉田先生は語る。診療の場でも、困りごと含め本人・家族の話を丁寧に聞くことを大切にしているという。
認知症というと、もの忘れなどの「認知機能障害」を思い浮かべる人が多いかもしれないが、症状は、記憶障害や判断力低下といった「認知機能障害」と、「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」という行動・心理症状の2つに大きく分けることができる。現れ方や程度には個人差があるが、適切な対処やケアにより改善できる可能性があるという。
BPSDには様々な症状がある。一例として、急に大声をあげる、たたこうとする、落ち着きなく歩き回るといった興奮や行動の変化、落ち込みや不安、誰もいないのに人やものが見える、財布を盗まれたと思い込むといった現実と異なる認識、これまで好きだったことに興味を示さなくなる、無気力・無関心になるといった意欲の低下などがある。
このような症状は客観的に把握しづらく、家族や介護者から見ると対応が難しく感じられる場合がありますが、認知症の本人の不安や戸惑いが隠れていることも少なくない。
「日常の行動や困りごとを見える化し、"その行動がどうしておきているのか"という背景に目を向けることが、ご本人とご家族のその人らしい生活を支える第一歩になると考えています」(古田氏)
「以前と少し違う」は、BPSDのサインかも
「怒りっぽくなった」「日常的なことに関心が持てない」といったBPSDが認知症に伴うものであることを知り、驚く人も少なくないという。BPSDを加齢や性格の変化と捉えてしまったり、「医師に相談することではない」と思ってしまう場合もあり、困っていても、病院での相談を控えたり、ためらったりすることも。一般外来の診療では、もの忘れの度合いや薬の相談が中心になりやすく、認知症の本人も何に困っているのか言語化することが難しかったり、生活の中で起きている細かな変化まで話すきっかけや十分な時間が取りにくいという課題もある。しかし、本来とは違う精神面での不調や、行動の変化はBPSDのサインの可能性があるという。
BPSDを見える化するアセスメントシート
「少し違う」という日常の変化や気づきを、医師や看護師などの医療従事者や介護職に伝える際に活用できるツールとして、「認知症に伴う行動症状のアセスメントシート」がある。これはBPSDを"見える化"し、客観的に把握することで、より適切な治療や支援につなげるためのもので、日常生活の中で気になりやすい行動症状である13項目について5段階でチェックできるようになっている。言葉や文字だけではピンとこない症状でも、イラストを見ることで直感的に「あ、これと同じ状態だ」と気づくことができる。
アセスメントシートは、大塚製薬が運営する「すまいるナビゲーター」公式サイトの「認知症」ページからダウンロードできる。
点数より大切なのは、変化を見ていくこと
シートは、1回記録して終わりでない。3回分記録に残せる構成となっており、定期的に確認・記録することで、本人の状態の変化を追いやすくなる。薬が合っているか、ケアの工夫がうまくいっているかといった治療やケアの効果を、経時的な変化として見ることができる。余白に気になったことを書いておくのもおすすめだという。
「"シートにあてはまる症状がないから相談することではない"と考える必要は全くなく、認知症と関係があるか分からなくても、診察や今後のケアを組み立てるうえで大切な手がかりになるので、項目外の気づきも伝えていただければと思います」と古田氏は語る。
シートに記入することで家族や介護者における認知症の症状の理解が進んだり、変化が見えることで家族が前向きな気持ちにつながる場合もある。すでにデイサービスや介護施設などを利用している場合は、施設のスタッフとシートを共有したり、施設での様子を記録してもらうこともできる。
また、点数にとらわれすぎないことも重要だという。チェックがついた数字を、そのまま点数でみるのではなく、現状を把握し、話を具体的に聴く入り口とする。点数が高いから悪い、低いから困っていない、と決めつけるべきではなく、大切なのは、日々の様子や変化の背景を探り、治療やケアに生かしていくことだという。
「何を相談してよいか分からない」を解消し、専門職とともに支える一歩へ
古田氏は、認知症の人・家族に向け、次のようなメッセージを寄せている。
「BPSDは、ご本人の生活のしづらさにつながるだけでなく、ご家族の精神的・身体的負担にもつながります。日々対応しなければいけない場面が続くと、ご家族が強い疲れを感じたり、どう接すればよいのか悩んだりして、ご本人に穏やかな対応が困難になる場合があります。
しかし、BPSDは決して"どうにもならないもの"ではありません。適切な、非薬物療法、日々のケア、薬物療法といった治療とケアの工夫によって、症状が穏やかになることも多いです。
また、ご本人の症状をご家族だけで抱え込む必要はありません。医師、看護師、介護職、ケアマネジャーなど、さまざまな専門職が多職種でチームを作りサポートを行います。気軽にこのシートを用いてかかりつけ医やケアマネジャーに困りごとを相談してみてください。『何を相談してよいか分からない』『診察室でうまく説明できない』『日々の変化を整理したい』。そんなとき、アセスメントシートは治療やケアに関する相談のきっかけになるでしょう。
認知症とともに生きる人が、その人らしい生活を続けていくために。そして、ご家族や介護者がお一人で抱え込んで疲弊しないために。日々の小さな気づきを、ご本人・介護者双方のよりよい暮らしに繋げていく手助けにこのシートが役立てば幸いです」(古田氏)
