「最近、もの忘れが増えた気がする」――そんな小さな変化を、年齢のせいだと見過ごしていないでしょうか。実はその違和感の中に、疾患のサインが隠れている可能性もあります。
イーライリリーは4月13日、「その"もの忘れ"アルツハイマー病かも」をテーマにした疾患啓発活動の発表会を実施しました。
アルツハイマー病は身近な疾患である一方、「年齢による変化」と捉えられやすく、受診や相談が遅れてしまうケースも少なくないといいます。
本稿では、発表会で紹介された内容をもとに、「認知症」と「アルツハイマー病」の違いや、見逃しやすい初期症状、治療の考え方について整理していきます。
「認知症」とは?
そもそも、認知症とはどのようなものなのでしょうか。認知症は、さまざまな原因によって認知機能が低下し、日常生活に支障が出てくる「状態」を指します。認知症の中でも、根本的な治療が困難な認知症と治療可能な認知症があります。
根本的な治療が困難な認知症には、「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、「レビー小体型認知症」、「前頭側頭型認知症」などがあります。
治療可能な認知症には、「正常圧水頭症」、「慢性硬膜下血腫」、「甲状腺機能低下症」などがあります。日本の認知症の原因のうち、アルツハイマー病が多くを占めることも紹介されました。
「アルツハイマー病」とは?
今回は、そんなアルツハイマー型認知症の原因となる「アルツハイマー病」について、講演で紹介された内容をもとに、アルツハイマー病に関するポイントを整理します。
「アルツハイマー型認知症」と「アルツハイマー病」は混同しやすいですが、実は別。「アルツハイマー型認知症」は、アルツハイマー病によって認知症の症状が現れている「状態」を指す言葉です。一方、「アルツハイマー病」は、脳内にアミロイドβの蓄積や神経原線維変化などの病理変化が起こる「疾患」を指します。
「アルツハイマー病」の症状とは?
「アルツハイマー病」と聞くと、もの忘れのイメージが強い人も多いのではないでしょうか。実は、伴う症状はそれだけではありません。同講演で紹介された症状は、「(1)段取りに手間取る」「(2)家事、金銭管理、服薬管理が不安定になる」「(3)趣味や社会参加への関心が落ちる」「(4)気分の落ち込みやいらだちが出る」の大きく4つ。
ただし、特定の症状だけでアルツハイマー病と判断できるわけではなく、「年齢のせい」だと思ってしまったり、うつ病の症状と被っていたりと、ほかの要因と見分けにくいこともあるといいます。
登壇した東京都立大学 名誉教授 兼 東京慈恵会医科大学 名誉教授 繁田雅弘氏は、それぞれの症状の中でも(3)の症状について言及しました。繁田氏によると「"趣味や活動に対する意欲の低下"と表現されることが多いですが、"趣味を始めるための道具の用意などおっくうになってくる"といった症状が初期段階の患者さんにみられやすいです」とのこと。
他にも、「言いたい言葉や名前がすぐに出てこず、『あれ』『それ』『ほら、あの人』などの指示語が増える」「会話の途中で話の筋を見失う、他人の話の内容を最後まで追いにくい」「身だしなみへの関心が薄れ、服装や髪形に以前ほど気を遣わなくなる」などの生活上の変化が紹介されました。
また、繁田氏は(1)の症状について、料理を例に「初期段階だと、作った料理の味や使う食材、盛り付け方などのささいな違和感が現れてくることが多いです。それを本人に自覚がない場合は注意したほうが良いかもしれません」とコメントしました。
「アルツハイマー病」の診断はどうやってする?
では、アルツハイマー病の診断はどのように行うのでしょうか。繁田氏によると、本人や家族から上記のような生活の変化を広く聞くことから始めるとのこと。スクリーニングテストやMRIなどの検査も行いますが、、それだけで判断するのではなく、検査結果と生活上の変化の聞き取りをあわせて診断するそうです。
この検査の一つに、脳内の「アミロイドβ」を調べるPET検査があります。「アミロイドβ」とは、先述したようにアルツハイマー病の原因の一つ。このアミロイドβが陰性か陽性かを調べることでアルツハイマー病の診断材料の一つになります。
アルツハイマー病にはどのような治療がある?
アルツハイマー病と診断されたら、治療はできるのでしょうか。アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症と診断された人の一部では、「抗アミロイドβ抗体薬」によって病気の進行を緩やかにすることが期待される治療選択肢があります。ただし、適応の判断には専門的な診断が必要で、すべての人が対象となるわけではありません。
また、現時点で治療の中心となっているのは、アミロイドβへのアプローチです。アルツハイマー病にはほかの原因もあるので、脳内のアミロイドβの蓄積に働きかけても、症状が一律に改善するわけではありません。また、この治療は軽度認知症や軽度認知障害(MCI/正常な老化と認知症の中間にあたる段階)の人にのみ適用可能とのこと。
繁田氏は「それでも原因の一つを取り除く治療ができるようになったのは、私たちとしては意義のある進展だと感じています」と話しました。なお、こうした治療は保険診療の対象となっていますが、実際の適応や実施の可否は、診断内容や医療機関の体制などを踏まえて判断されます。
一方で、アルツハイマー病当事者やその家族でも「抗アミロイドβ抗体薬」という治療法について知っている人は14%と、少ないのだそうです。
「治すのではなく、進行を遅らせること」がそれぞれにとってどのような価値があるか
同社アンバサダーに就任した風吹ジュン氏は、「私の周りにもアルツハイマー病を患う友人もいて、今日の話は決して他人事ではないなと思いながら聞いていました」と話したうえで、「アルツハイマー病は早期発見が重要です。そして自分で気づくのは限界があると思うので、家族が強い味方になるんだなと感じました」とコメント。
また、これを受けて繁田氏は次のように話します。
「ご家族としては相談したい気持ちがあっても、本人を傷つけてしまうかもしれないと思うと言い出せない。一方で、本人も不安を抱えながら、家族や周囲には打ち明けられない――。そのまま時間が過ぎてしまうケースも少なくありません。ただ、私は治療を、本人がこれまで積み重ねてきた何十年もの歴史や日課を守り、"自分らしい生活"を続けるための手段だと考えています。もしそれを妨げる要因があるのであれば、しかるべき医療機関に相談することも大切だと思います」
アルツハイマー病の治療は、副作用や身体への負担もあるため、「それが本人の生活を守るうえでどのくらいの意味を持つのか」を考えながら判断することが大切です。
「記憶力(もの忘れ)や思考力(理解・判断力)の変化(低下)について、医療機関を受診していない理由として一番多かったのが「年齢のせいで仕方がないと思っているから」(72%)という結果が紹介されました。
アルツハイマー病について知り、小さな違和感に気付いた時に受診するかどうかが、アルツハイマー病の早期発見につながるのかもしれません。
※本記事内で紹介する調査は日本イーライリリーが2026年4月13日に発表した、アルツハイマー病に関する意識調査の結果を反映したもの。調査は2026年1月16日~27日の期間、下記の対象者1,000人にインターネット調査形式で行われた。
対象者
(1)55歳以上85歳未満のMCI/軽度認知症(AD)当事者
(2)上記(1)の条件に合致する人とかかわりのある20歳以上85歳未満の家族(20代と80代は少数と想定するが除外しない)
(3)55歳以上85歳未満の記憶力・思考力の低下を自覚している人(未受診の人)※中等症以上の自覚ありの人は除く
(4)上記(3)の条件に合致する人と関わりのある20歳以上85歳未満の家族(20代と80代は少数と想定するが除外しない)






