
もうすぐ3周年。旧ミツワのノウハウを受け継いだ御殿場のポルテックは、クラシックポルシェの駆け込み寺に。
【画像】空冷ポルシェのみならず、2000年代前後までの多様なポルシェが入庫する「ポルテック」(写真8点)
”最新のポルシェは最良のポルシェ”と言われた通り、昔も今もポルシェは目に見えない改良を施すのが常。旧ミツワ自動車が富士小山サービスデポを閉鎖した数年前、そのサービスマニュアルや技術的な資料、パーツ在庫などを引き受け、御殿場でレストア&メンテナンスを受け継いだガレージが、御殿場のポルテックだ。マテリアル面の継承のみならず熟練メカニックも転籍し、今も数人の若手メカニックが彼らに付いて学びながら、空冷時代からのポルシェならではの考え方、「なぜそう造られているか」というロジックごと理解したうえで自律的に修理や整備ができるよう、70年にわたって日本でポルシェを見続けてきたミツワのノウハウが日々、受け継がれている。
旧ミツワ時代のお客様が戻る
初夏の台風一過の昼過ぎ、久々に訪れてみてガレージ内の変化に驚かされた。4基あるリフトが整備中のポルシェで占められているのは予想の範囲内として、968のようなFRモデルから、911として水冷第 1号だった996や、955こと初代カイエンなど2000年代前後までの多様なポルシェが入庫していたのだ。これらの車に対しては、旧ミツワはインポーターでこそなかったが、ひとつのディーラーとして確かに関わっていたのだ。
ここ御殿場でポルテックとして開業してから2年半の歩みを、堀田昌秋工場長は次のようにふり返る。
「リフト1基の体制からひっそりと始めて、本業の整備メンテナンス業務の傍ら、公式サイトを開設したり、オープンガレージを開催したり、ヒストリックカーのイベントに出展したり。それらを通じてポルテックの存在が少しずつ知られていきました。新規のお客さんが来てくれたのもありますが、徐々に旧ミツワ時代からのお客さんたちが戻って来てくれたというのが実感ですね」
関東や静岡県といった近隣だけでなく、それなりに遠方からも、単に空冷ポルシェの車検を通すためだけに預けに来てくれるオーナーが多いという。なぜか。
「昔からポルシェに乗られている方がおっしゃられるには、ポルテックのメカニックは話が通じやすい、伝えたことをすぐに理解してくれる、と。確かに車自体が新車当時からウチのメカニックが見てきた個体だったりもします。クラッチが繋がる時の感触ですとか、アクセルを踏み込んでいく際の敏感度だとか、微妙なタッチや雰囲気の部分で、何が原因でこうなっていたとか、そういう微妙な話ができるのが助かると」
そして実際、思っていた通りの自分のポルシェの感触、感覚を取り戻すことができて満足して帰られるのだという。乗り手が操作をすれば、正しく走る・止まる・曲がるが機能するのは当然だが、どのようにポルシェと対話して、操れるか。ほとんど楽器の調律に近い部分まで、昔ながらのポルシェ・タッチを知る者同士の、濃密なやり取りがあるのだ。一方で水冷モデルの依頼も受け付けている点については、堀田工場長はこう述べる。
「996の、特に初期モデルは旧ミツワでも取り扱っていましたし、その車をずっと乗り続けてきているお客さんが何人かいらっしゃいますから、我々も整備サービスは提供し続けていきたいと考えています。同じような意味で、いま986のボクスターも何台か整備しています。こちらも好きで乗り続けている方が多い車ですので。ただし997以降の世代になると、さすがに電装や制御の面で専用のツールが必要になるので、今のところ扱っておりません」
近年はヒストリックカーとしてかなりの高値がつくようになった空冷ポルシェを、ポルテックという新体制で取り扱いながら、堀田氏はその業界や需要をどのように見ているのだろう?
「ウチは整備メンテナンスが中心です。旧ミツワの時代に日本に入って来たポルシェを、なるべく新車に近い状態に戻す、それが基本だと思っています。新車の状態になることは絶対にありませんが、微妙な感覚には徹底的にこだわります」
「販売は積極的には行っていません。ただし長く所有されている方々からの依頼で、年齢的にもう乗れなくなっちゃっいそうだから、誰か大切にしてくれそうな人いない?といった相談には応えるようにしています。消極的な委託販売というか、マッチングサービスめいた仲介ですね。一方で困るのは「こんなポルシェはありませんか?」という相談ですね。信用という意味でお声掛けはありがたいのですが、
ポルテックは販売ショップではないもので…」
重整備で入って来る車もあるが、ほとんどは今あるポルシェを再び路上で元気に走らせるための依頼だという。軽整備という言い方もあるが、年を経たポルシェの場合、新車の時に感じられたような”望ましい状態”に戻しながら、今日の法規制に適合させて機械としてのポテンシャルをキチンと引き出すには、やはり勝手知ったるメカニックの経験、旧ミツワ時代から伝わるサービスマニュアルがモノを言う。
「これは私の感じ方ですけど、ポルシェって古くなってくると、その魅力がぐっと増してくるところがあるんですよね。ちゃんと手を入れてやれば、まだまだ乗れるし車として機械として魅力が残るという。だからオーナーが一緒に年を取っていける。長年一緒にいるから似合ってくる。実際、そういうカッコいいオーナーがお客さんに多いと思います。若い人が乗っているのも無論良いのですが、運転のテクニックだけでなく、乗りこなすのにふさわしい経験や年輪を、ポルシェは乗り手に求めてくるところがあるんです」 時間が経つほど車として味わいが増す、そんな空冷ポルシェのニュアンスは、修理と整備にもいえることだという。どういうことか。
「時々あるケースですが、ポルシェのエキスパートでないお店に任せて直らなくて、ウチにもって来られて、基本的なところからやり直すために見積りすると、当然高くなるので驚かれます。逆にずっとウチで見ている車は、次はここだなとか、ここを外すならここもやるとか、こういう風に作業すべきとか、そういう流れをメカニックも事前に見えていますから。空冷のポルシェの修理整備ってそういうもので、何でもアッセンブリー交換するんじゃなくて、パーツの能力を引き出して寿命を全うするように使っていく、まだ使えるものは使うように設計されているんですよ。でも途中でそれを知らないショップや業者に預けていると、元のあるべき流れに戻すのにひと手間ふた手間、あるいはそれ以上(苦笑)かかるという」
逆に、流れに乗れている空冷ポルシェは車検や定期点検で大きな出費もなく、手慣れたオーナーほど堀田工場長に「任せたよ」の一言で、自分のポルシェを置いていくのだとか。
「そこまでの信頼関係になると、こちらもフロントマン冥利と尽きます。でも元々のディーラーの役割ってそういうものでしたよね? もちろん、どんな作業メニューなのか逐一知りたいタイプのオーナーもいれば、ヒストリック・イベントに参加したい方も、一人でストイックに乗るのが好きな方もいます。それこそ空冷ポルシェの色々な楽しみ方をサポートするだけでなく、新しいサービスを提案していきたいですね。直近の目標としては、アライメントテスターを導入したいと考えています。変えて試してまた変えて、が即座にできるようになりますから」
空冷ポルシェならではの質実剛健な魅力とは、然るべき手によって蘇り、持続するものなのだ。
株式会社ポルテック
静岡県御殿場市上小林95-12
TEL:0550-80-1911
文:南陽一浩 写真:佐藤亮太
Words:Kazuhiro NANYO Photography:Ryota SATO