
昨年のフジロックで一大旋風を巻き起こしたアルゼンチンの異端デュオ、「カトパコ」ことカトリエル&パコ・アモロソが4月に再来日。人生の一大試練と向き合い、成功のプレッシャーから解き放たれた最新アルバム『FREE SPIRITS』が話題の彼ら(日本盤も先日リリース)。スティング、ジャック・ブラック、アンダーソン・パーク、フレッド・アゲインという豪華ゲスト陣と共に、ありったけのカオスと音楽的冒険を詰め込んだ同作の制作秘話から、10月に控えるジャパンツアー、相思相愛の絆を育む日本のファンへの想いまで──東京タワーを背にした二人に、大いに語ってもらった。
Photo by Haruki Horikawa
「自由な精神」を手にするまで
ー羽田空港での歓迎ぶりはすごかったですね。日本を再訪してみて今どんな気分ですか?
パコ:幸せの一言ですね。カトがよく言ってるように、日本は僕たちの大好きな”惑星”なんです。この国に来て、みんなが僕たちと心を通わせてくれているのがすごく嬉しいですし、特別なことだと感じています。
カト:地球の反対側にある僕たちの故郷(アルゼンチン)と、また違う形で繋がっているような気がします。日本の人たちはすごく礼儀正しいけど、地元の人たちはそうでもないので。僕らと同じように(笑)。
ーパコはフジロックのあと、年末年始も日本で過ごしていましたよね。
パコ:仕事で来るとなかなかじっくり見て回る機会がないので、あのときは色々なエリアをより深く探求することができました。例えば、毎日地下鉄に乗って、中野とかいろんな街へ足を伸ばしてみたんです。渋谷のような人混みやネオンのきらめきから少し離れて、東京の郊外にある美しい街並みを知ることができました。

Photo by Haruki Horikawa
ー昨年と明らかに違うのは、二人の髪色。見事に入れ替わってますね。『FREE SPIRITS』のコンセプトはどのように思いついたんですか?
カト:これは僕たちのメンター(スティング)から降りてきたコンセプトなんです。”白”という色を通じて、平和を表現しています。”自由な精神(Free Spirits)”を手にするためのキャンバスのようなものです。白という色は、その上に自分が好きなものを何でも描くことができますから。
パコ:混沌としながらも美しかった昨年を経て、必要不可欠なステップだったと思っています。自分たちのマインドを一度真っさらにする必要があったんです。
ーそれで髪色を変えたわけですか。
パコ:2年近く同じヘアスタイルを続けていたのもあって、内面の変化が必要だったのと同じように、外見にも変化を起こす必要があったんです。髪って、あらゆるものをキャッチして循環させるためのアンテナでもあると思うんですよ。
カト:相棒(パコ)は若返ったよね。どんどん若くなっている。僕たちは10年、15年とバンドを一緒にやってるけど、彼は15年前からまったく変わらないんですよ。ちくしょう、羨ましい(笑)。

Photo by Haruki Horikawa
ースティングが主宰するホリスティック・ヒーリング施設〈フリー・スピリッツ・センター〉で、12の治療プログラムに取り組む光景をYouTubeで拝見しました。どれが一番効き目がありましたか?
パコ:氷風呂かな。
カト:物凄く冷たかった。人生観が変わるような経験でした。ある種のトランス状態になって、一気に感覚が研ぎ澄まされるんですよ。氷から出た瞬間、「あぁ、もう氷点下にいないんだ」って、自分の細胞の一つひとつが感謝し始めるんです。
ーその氷風呂とサウナで、アンダーソン・パークと一緒にととのってましたよね。
パコ:彼もあのセラピーを必要としていたのかもしれない。
カト:僕たち以上にね(笑)。
パコ:お互いにとってWin-Winだったと思います。共に浄化されるような感覚を味わえましたし、一緒に作った音楽に素晴らしいブローチをあしらうこともできましたから。
カト:氷の中にいるときって、ある種のサバイバルモードになるから、半分瞑想しているような状態になるんです。そうすると、必然的に深い会話に行き着くんですよね。最初は体が苦しいから一緒になって「冷たすぎる!」みたいな文句を言うんですけど、最終的にはディープに入り込んでいくしかなくなるんです。
ーアンダーソン・パークは「Ay Ay Ay」で、歌だけでなくドラムも演奏し、共同プロデューサーとしてもクレジットされています。この曲の方向性について、どのようなビジョンがあったのでしょうか?
パコ:今回のセッションで、彼とは3曲作ったんです。そのうちの2曲は、いかにもアンダーソン・パークとのコラボから生まれそうな、ある意味で予想どおりの楽曲でした。そのなかで「Ay Ay Ay」は、もっとフリーキーで予想外な仕上がりになったんです。僕たちが持ち込んだラテンの語法のようなものが色濃く出て、彼もそこに興味を惹かれたみたいで「絶対にこの曲だ」と確信していました。
カト:僕が(ギターで)いくつかコードを弾き始めたら、アンディが気に入ってくれて。そこからみんなで踊り始めたんです。あれは物凄くサイケデリックな瞬間でした。その場にいた全員が自然とそのコードを受け入れて、そしたら彼がドラムセットに座って……とにかく楽しいセッションで、そこから曲自体も愉快な仕上がりになったんですよね。
その途中でアンディが「よし、もう細かいことはクソ食らえだ! ここからロックに変えちゃおうぜ!」と言って、ドラムを叩き出して。曲の終盤でサウンドがガラッと変わりますよね。だから、僕たちが特定のサウンドに到達したかったというよりは、その場のセッションを通じて、ただシンプルに方向性を発見していったという感じでしたね。
パコ:アンディは僕らが深くリスペクトしているアーティストですし、彼自身が最高のエネルギーを持っているのもあって、まるで夢のような時間でした。

アンダーソン・パークとカトパコ
「トラウマを吐き出す過程」赤裸々かつユーモラスに
ー1曲目「Nada Nuevo」の冒頭で、〈誰も新しいものなんて発明しちゃいない、すべてはもうやり尽くされている〉と歌っていますよね。結果的に『FREE SPIRITS』が「何もかもとことんやり尽くす」アルバムになっているだけに興味深いです。
パコ:そもそも「Nada Nuevo」という曲は、「クリエイティビティの限界を押し広げて、誰も聴いたことがないような音楽ジャンルを自分たちで発明しよう」と考えたことから生まれたんです。だから、本当にクレイジーな仕上がりになっていますよね。ボリウッドの映画音楽みたいな響きや、オーケストラが入っていたり、ラストで4分の5拍子という奇妙な展開に突入したり。「今の時代、心の底から驚かせてくれるようなものなんて、そう簡単には転がっていない」と感じているからこそ、あえて「とことん奇妙で、突飛なものを生み出してやろう」というアイデアから制作された曲なんです。
ー今のお話は『FREE SPIRITS』というアルバム全体にも当てはまる気がしますが、作品を通じてどんなことを表現したかったのでしょう?
カト:僕たちが語りたかったのは、自分たちの中にある”影”をすべて吐き出して浄化するということ。このアルバムを作っていく過程で気づいたんです。もしかしたら残りの人生で、ずっと自分自身のトラウマや闇と共生していかなければならないのかもしれないと。このアルバムは一聴すると、穏やかで落ち着いたサウンドには聴こえないかもしれません。なぜなら、これは自分たちの中にあるすべての影、すべての暗闇を必死に吐き出している泥臭いプロセスそのものだからです。
もしどこかユーモラスに聴こえるのだとしたら、それは僕たち自身の本質がそうだからで、どんなことでもユーモアに変えて表現するのが好きだからです。そして今、僕たちは本当に、自分たちが「FREE SPIRITS」を手にしたように感じています。
ープログレッシブ・ロックを奏でていた前進バンドのアストール時代から、初期のトラップ、そして現在に至るまで、お二人は一貫して『過剰の美学』を追求し続けていますよね。それこそがカトパコのアイデンティティのようにも映ります。
カト:最高ですね、その見立て。
パコ:その辺りは自分たちの”生き方” に通じるものだと思います。僕たちはいつだって限界ギリギリまで、貪欲に楽しみたい人間なんです。それに、人生が僕たちに与えてくれた「演奏して、音楽を作って、自分たちのやりたいことをやる」というチャンスは、いつだって僕たちに「音楽で遊びたい」という気持ちを沸き立たせてくれます。英語で「Play Music」と言うように、音楽をやるというのは結局のところ「遊ぶ(Play)」ってことだから。僕たちはいつだって、子供の頃と同じように夢中で遊んでいるんです。
「Nada Nuevo」今年5月、母国アルゼンチンでの最新ライブ映像
ー「Nada Nuevo」に話を戻すと、パコが曲中で〈レディー・ガガはアルゼンチン人だ!(Lady Gaga es Argentina)〉と叫んでますよね。それって本当なんですか?
カト:(爆笑)。
パコ:間違いないと思いますね。完全に証明されたと言ってもいいくらい。
ー(笑)パコとレディー・ガガ、たしかに似てますよね。以前からファンがネタにしてきたように。
カト:ニューヨークで間違えられたこともあって。まだ髪をブロンドに染めていた頃に。
パコ:あと、2月にアメリカでグラミー賞があったじゃないですか。授賞式の会場に入るために送迎車から降りたら、カトが「おい、見ろ! あそこにレディー・ガガがいるぞ!」と言ってきて。「うわっ!」と思って近づいてみたんです。そしたら……「同一人物が同時に2つの場所に存在できる」ことの証拠映像みたいになりましたね(笑)。
ーカトリエルは右手の甲に『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』のタトゥーを入れるほど、もともとジャック・ブラックが大好きだったそうですね。そのタトゥーを掘ろうと決めたのはなぜ?
カト:あの映画は、数々のバンドや世代を超えて受け継がれてきた、成功をもたらしてくれるお守りを探し求める物語ですよね。僕は本物のお守りを見つけることができなかったから、代わりに自分の体にタトゥーとして彫り込んだんです。もしかしたら、これが僕たちの成功の鍵になっているのかも。他にもいくつかお守りのタトゥーを入れているけど、これが間違いなく一番強力ですね。
ージャック・ブラックとコラボするなら、普通は『スクール・オブ・ロック』的な曲を用意しそうなものですが、「赤ちゃんになりたい」と歌う「Goo Goo Ga Ga」を選んだのが最高です。
パコ:このアルバムの収録曲は、どれもまったく異なるテーマを扱っています。「Goo Goo Ga Ga」では歳をとることへの恐怖、大人になって”自由な精神” を失ってしまうことへの恐怖について歌う、というアイデアが当初からありました。そこで僕らにとってジャックは、あれだけ長いキャリアを築いてもなお、信じられないくらい若々しく、最高に面白くて、「一生フレッシュなままで生きられる」っていう理想的なロールモデルだったんです。
彼にこの曲のコンセプトを説明したら、説明を聞くやいなや、ダイレクトにマイクを引っ掴んで、叫びながら床をゴロゴロと転がり始めたんです(笑)。それこそ赤ちゃんみたいに。その光景を見て僕らは「これだ!」と確信しましたし、彼も「これでもう曲にできるだろ、じゃあな!」と去っていきました(笑)。
カト:どこから湧き出てきたのかわからないようなエネルギーを全身に憑依させて、完全に赤ちゃんに変身してましたね。〈Goo Goo Ga Ga〉と叫びながら、何もかも破壊して、ハイハイして……最高にご機嫌でハッピーな赤ちゃんでした(笑)。

ジャック・ブラックとカトパコ
ー「Goo Goo Ga Ga」でのボサノヴァ、「Vida Loca」や「Muero」でのサンバなど、新作にはブラジル音楽のエッセンスが色濃く反映されていますよね。実は日本でも昔から親しまれてきたジャンルなんですよ。
パコ:たしかに、日本に来てそう思ったんですよね。朝食の時間にもブラジル音楽がよく流れているし。ブラジル音楽で使われるコード(和音)って、物凄く甘美じゃないですか。アルゼンチンと隣り合わせの、兄弟のような国ですから、その影響はいつだって身近なものなんです。カエターノ・ヴェローゾ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルト……たくさんの素晴らしいアーティストがいますよね。
カト:ジャズをやらせても最高だし、オタク的とも言えるくらい音楽を知り尽くしている人が多い印象です。
パコ:もし人生で一度でも、ブラジルのカーニバルを見に行く機会があったら、絶対に圧倒されると思いますね。
ー「Vida Loca」は切ない曲調で、パコが悲しい気分のときに書かれたそうですね。
パコ:そう、かなり落ち込んでいた時期に作った曲です。音楽というのは、自分自身を癒やすための役割を果たしてくれることがあるんですよね。悲しかった瞬間を言葉に落とし込み、ポートレートとして描き出す。そうすることで、後からその経験をプラスに書き換えて、自分を変えてくれるような大切な思い出へと昇華させることができるんです。
ー〈今の気分はアヴィーチーさ、有名になるってのはなんて最悪なんだ〉という一節も印象的です。
パコ:あの曲を作っていた頃、アヴィーチーのドキュメンタリー映画(『アヴィーチー:アイム・ティム』)が公開されたばかりで、頭の中にその記憶が鮮烈に残っていたんですよね。彼のキャリアはもちろん、一人の人間として物凄くリスペクトしているからこそなんですけど……あのドキュメンタリーを観たとき、なんだか自分自身を見ているような気持ちになったんですよね。あれほどすべてが順調で、周りからは何もかもが輝かしく見えていたにもかかわらず、その内側には大きな苦しみを抱えていた。当時の僕は、そんなアヴィーチーの姿に、自分の痛みを完全に重ね合わせていたんです。
スティング、フレッド・アゲインとの化学反応
ー次はスティングについて。優れた人格者にしてヨガの探求者で、お二人と同じく多種多様なジャンルを融合させてきた先駆者でもありますよね。ポリス時代からソロに至るまでの独創性をどのように見ていますか?
カト:今も音楽を作り続けていて、自分の道をひたすら突き進む。まさしく『FREE SPIRITS』を体現していますよね。これまでの生涯を通じて、世界中を旅しながら、あらゆる場所で、異なる文化を持つ人たちと一緒に音楽を作ってきた。世間で言うところの「ワールドミュージック」という、僕からすれば大雑把すぎる括られ方の音楽を。
それに、見た目も信じられないくらい若々しくてハンサムじゃないですか。年齢不詳すぎますよね(笑)。15歳なのか40歳なのか見分けがつかないくらい。でも実際は70代なんですよね。バイタリティ溢れる、柔軟かつパワフルな人だと思います。
ー「Hasta Jesús Tuvo Un Mal Día」のイントロを聴いて、ポリスの「Roxanne」を連想しましたが、そこは意識したんですか?
パコ:いや、実はそうではなくて。あの曲の制作中、自分たちのパートの録音を終えたあと、「この曲、スティングというかポリスっぽくない?」って話していたんですよ。
カト:「ここにスティングが参加してくれたら最高だよな」なんて、夢みたいなことを言い合ったりして。
パコ:そこからしばらく寝かせていたら、(スティングと)繋がるチャンスが巡ってきたんです。目に見えない力が味方して、物事がトントン拍子に進むことってあるじゃないですか。だから思い切って「この曲に参加してほしい」と伝えたら、なんと快諾してくれて。しかも、お願いした次の日には、新しいパートがすべて曲に入って送られてきたんです。あれは信じられない出来事でした。

スティングとカトパコ
ーあの曲では、アルゼンチン・ロックの巨匠たちと共演してきたベーシスト、ギジェルモ・ヴァダラの参加も重要だと思います。この曲はひょっとして、アルゼンチン・ロックの歴史にリスペクトを捧げた部分もありますか?
カト:いや、特定のオマージュというつもりはなかったです。でも、自分たちの楽曲に彼みたいな偉大なミュージシャンを迎えて演奏してもらえるのは光栄ですよね。ギジェルモは真の音楽家で、「Todo Ray!」でも素晴らしいベースを弾いてくれました。
ー今回のアルバムにはいろんな国の音楽要素が入っていますが、逆にアルゼンチンっぽいと思う曲はどれですか?
カト:難しいな、どれだろう……(しばし考え込む)強いて言えば、「Himno Del Mediocre」ですかね。少しミランダ!っぽいし、パリート・オルテガの要素もありますし。この曲のサウンドは、僕たちの親や祖父母の世代が聴いていたような音楽をどこか思い出させるんですよね。
”アルゼンチンらしさ”は、すべての曲の至るところに散りばめられているようにも思います。たとえば「Muero」は、世界中のどこに住む人でも楽しめそうな開かれたポップソングですが、そこに込められた意図や歌詞の言葉選びなどは、超が付くほどアルゼンチン的だと思うんですよね。
ーその「Himno Del Mediocre」については、フリオ・イグレシアス(スペインの国民的歌手)による1977年のヒット曲「Soy Un Truhán, Soy Un Señor」を下敷きにしたという指摘も見かけました。
カト:たしかに、そういう要素もあるかもしれない。狙ったわけではないけど、似たような雰囲気はありますよね。ただ歌詞に関しては、たぶん真逆のことを歌っているんですけど(笑)。フリオはもっと幸せなことについて歌っているはずなので。
パコ:ちょっとした裏話があって。あるときUberを頼んだら、車内でフリオ・イグレシアスの曲が流れ始めて、僕らはそれを聴きながら「めちゃくちゃ名曲じゃん!」となったんです。音楽にはそういうところがあるじゃないですか。耳にしたものが自分の心に引っかかって、どこかに連れて行ってくれるような感覚。もちろん、最終的にはまったく別の曲になるわけですけど、そうやって日常の中でふと聴いたものが、特定の曲を作るインスピレーションになることってありますよね。
ーフレッド・アゲインとの「Lo Quiero Ya!」は、一体どういう思考回路をしていたらこんな曲が生まれるのかと驚かされるほど、クレイジーな仕上がりです。
カト:あの曲を作る前から、フレッドとはすでに何曲も一緒に作っていて、よく知る間柄だったんです。それであるとき、一緒にブルガリアン・ヴォイスのアルバムを聴いたんですよね。僕たちはとにかく「テンポの速い曲を作りたい」と考えていたところに、それを聴いた彼が「このブルガリア合唱団のコーラスをサンプリングして、ダークな響きにしてみたらどうだろう?」と思いついたんです。あのコーラスって天使のようでありながら、同時にどこかダークな雰囲気も持ち合わせていますよね。
パコ:実を言うと、彼がそのサンプルを聴かせてくれたのは、僕らと初めて出会った日だったんです。たしか2024年の11月。2時間くらい一緒に過ごして、お互いのことを色々知っていくなかで、彼が「こんなアイデアがあるんだ」ってたくさんの素材を見せてくれて。その中に、あのサンプルがあったんです。それから長い時間が経ってから、僕たちがあのアイデアをもう一度引っ張り出してきて、形にしたのが「Lo Quiero Ya!」なんです。
フレッドが素晴らしいのは、曲がリリースされる当日まで、何バージョンも手を加え続けて、新しい要素やサンプルをどんどん足していくところ。曲の中にスネアロールが入っているパートがありますが、そういう作業を直前までやり続けるから、次に何が起きるか予測がつかない。
カト:まるで「料理することを絶対に止めないシェフ」ですよね。料理が仕上がって、さあお皿が出てくるぞっていう瞬間、やっぱり一度引っ込めて、また手を加えて出し直してくる(笑)。でも、絶対に食べ飽きないというか、いつも新しい味を体験させてくれるんです。本当に天才ですよ。
ー昨年のフジロックで、パコはフレッド・アゲインのステージを観に行ってましたよね。フェスの合間に何かやり取りもあったんですか?
パコ:もちろん。彼のショウが終わったあとに「最高だったよ」と挨拶しに行って。
カト:ショウが始まる前にも会ってたよね。
パコ:そうそう、一緒にタバコを何本か吸ったりして。フジロックが素晴らしいのは、出演するアーティスト全員が同じホテル(苗場プリンスホテル)に泊まるところ。レトロフューチャーなスキーリゾートのホテルで、部屋に怪しげなボタンがたくさんついたラジオのコントロールパネルがあったりして。
カト:僕らにとって、あそこは物凄くサイケデリックな空間だよね。
パコ:フジロックには出演者みんなが同じ空間に集まって、特別な時間を共有できる、あのフェスならではの素晴らしいマジックがあるのも最高ですね。
燃え尽き症候群、極限状態からの再生
ーアルバムの歌詞では制作当時、消耗しきっていた2人の葛藤や混乱が赤裸々なまでに明かされています。『TOP OF THE HILLS』のリリース中止もありましたが、自分たちの中で「そろそろヤバい」とはっきりと感じたとき、どのような状況だったのでしょうか?
パコ:当時は本当に疲れ切っていました。ラテン・グラミー賞の授賞式(昨年11月)で、たくさんの賞をいただいて。そこから「今なら何でもできる!」っていう万能感が湧き上がってきて、『TOP OF THE HILLS』というアルバムを記録的なスピードでレコーディングするミッションに突入したんです。
最初は物凄く順調でした。信じられないくらいスムーズに進んでいたんです。でも、あらゆるクリエイティブなプロセスがそうであるように、ある瞬間、ふと疑問や迷いが頭をよぎってきて。「また世界に向けてこのアルバムについて語り、ミュージックビデオを撮影し、インタビューに応じる、あのサイクルに飛び込んでいく準備が本当にできているんだろうか?」って。それで、まさにリリースの前日、「キャパを超えている、これ以上は持ち堪えられない」となったんです。そして12月18日、「延期した方が絶対いい」という決断を下し、その翌日に(リリース中止の)公式声明を出したんです。
カト:もうすぐ一年が終わろうとしている時期に、肉体のバッテリーがゼロになっているのを自覚したんですよね。この先も生き延びていくために、突入しかけたミッションを途中で中止することが必要だと、そこでようやく気づいたんです。
ー 「Muero」では〈立ち止まらなければ俺は死ぬ〉といったことを歌っていますが、昨年は成功の大きさゆえに、自分たちを追い込みすぎた部分もあった?
パコ:そうですね。あれほど多くのステージに立つこともそうだし、何もかも初めての経験でしたから。昨年の僕たちは「これこそ自分たちの進むべき道だ」と信じて疑わなかったので、巡ってきたチャンスを文字通りすべて、貪欲に掴もうとしていました。その結果として消耗していったんだと思います。
今はそういった経験を経て、このペースに少しずつ体が慣れてきましたし、以前よりもしっかりプランが練られるようになったと思います。あらかじめ先の予定が見えていれば心の準備もできるんですけど、すべてが初めてのことばかりだとそうはいかなくて。昨年はとにかく次から次へと突発的に物事が決まっていって、常に走りながら対応しているような状態だったんですよね。それに、ライブが終わった直後は、アドレナリンが出ていて体を休めづらいし、うまく眠れなかったりする。そこに時差ボケも加わって。そうやって少しずつ、自分でも気づかないうちに疲労感が雪だるま式に膨らんでいって……。
カト:世界を征服しようとするのは、本当にしんどいんですよ。めちゃくちゃエネルギーが必要なんです。
『THE FIRST TAKE』で披露した 「Muero」のパフォーマンス
ー そこから自分たちの心と正直に向き合い、生々しい感情をそのまま音楽として昇華させていくプロセス。それこそが、お二人が再び『FREE SPIRITS』を取り戻すための、一種のセラピーとして機能したのではないでしょうか?
カト:間違いないです。音楽というのは、それ自体がセラピーなんですよね。自分の中にある醜いもの、あるいは素晴らしいものを、別の形へとトランスフォームさせるための手段というか。僕たちはただのチャネラー(媒介者)に過ぎず、受け取った感情を作品へと形を変えているだけ。人によっては絵画かもしれないし、他の何かかもしれない。自己表現の方法なんて無数にありますよね。僕たちの場合はたまたま「音楽を作ること」であり、「すべてをめちゃくちゃにかき混ぜること」だった、というだけなんです。

Photo by Haruki Horikawa
愛する日本との特別な繋がり
ー今回のアルバムで、お二人が一番気に入っている瞬間はどこですか?
パコ:難しい質問ですね。アルバムのすべてが大好きだし、その時々で気に入っている部分も変わっていくので。ただ、二人の意見が完全に一致しているのは、「Ha Ha」が特別な楽曲だということ。ファンのお気に入りでもあるみたいですね。
カト:あの曲ではパリート・オルテガの曲をサンプリングしていますし(1966年の「La Felicidad」)、他にもたくさんのアルゼンチン人アーティストの要素を詰め込んでいます。
ーライブでも盛り上がりそうな曲ですよね。
パコ:うん、間違いなくハイライトになりますよ。この曲がとびきりスペシャルな瞬間を迎える場所、どこか知ってますか? 初めてのジャパン・ツアーが決まって、喜びと未来への希望で胸がいっぱいです。10月21日に大阪、10月22日に東京で、日本の皆さんと一緒に「Ha Ha」で最高にグルーヴして、バイブスを響かせ合えるのが楽しみです。
ーフジロックも含む『PAPOTA』のツアーはTiny Deskの成功を踏まえたセットでしたが、『FREE SPIRITS』のステージでは、どのような編成や演出を考えていますか?
パコ:まさに今いろいろと模索しながら、実験を繰り返しているところです。ファンに何か新しいものを提示したいと常に考えているので。カトもよく言ってますが、いつも同じやり方で演奏し続けるのは飽きちゃうので。僕たちにとっても大きなチャレンジで、観客の度肝を抜くサプライズを持ち帰ってもらえる、そんなステージを追い求めているところです。
カト:今回も間違いなくバンド編成で、とてつもないスーパーバンドになりますよ。僕たちのライブを観たことがある人なら、お馴染みの顔ぶれも登場するはずです。
ーフジロックでの初来日のあと、カトパコと日本の間には特別な繋がりが生まれたように思います。これから日本のファンと、どのような関係を築いていきたいですか?
パコ:ありとあらゆる関係を築いていきたいですね。何度でも言いますが、日本は世界で一番大好きな場所ですから。フジロックのステージに立った日は、僕らにとって大いなる祝福でした。大勢の人たちが待ってくれていたのを目にしたときの驚き、一気に湧き上がった感情の爆発……大袈裟ではなく、人生最高のショウの一つだったと思っています。日本とはただただ最高の関係でいたいし、僕たちは日本が大好きだから、これからも来られるチャンスがあれば何度だって、何度でも足を運びますよ。
カト:単なるファンという関係を超えて、”amigo(友達)”を探しに来ているような感覚ですね。故郷から遠く離れた日本に来るたび、たくさんの友達を作って、文化を教えてもらったり、この美しい惑星の素晴らしい景色を教えてもらいたい。そんなふうに思っています。
ー以前、『OLGA』という番組でのトークで、「日本のファンは展開やアレンジが複雑な曲、ハッピーな曲が好きみたいなんだ」と話していましたよね。今回の『FREE SPIRITS』は、まさに日本で歓迎されるであろう仕上がりだなと思いました。
パコ:そうそう! フジロックでのライブをやりながら気づいたんですけど、日本のオーディエンスは「メロディを一緒に歌うこと」が物凄く好きですよね。僕らの曲はスペイン語なので、どうしても言語の壁がある。だからこそ、キャッチーなメロディが流れる瞬間こそが、一緒に声を合わせて歌える瞬間なんだと気づいたんです。
そこでニューアルバムには、みんなで一緒にハミングしたり歌ったりできるようなメロディックな瞬間を、意図的にたくさん詰め込んであります。フジロックの現場で僕らが肌で感じ取った「日本のファンが熱狂してくれる要素」を、ほぼすべての楽曲にちょっとずつエッセンスとして振りかけたつもりです。
ーアーイ、アイアイ♪
パコ:ララララーラ♪(「Goo Goo Ga Ga」のイントロを口ずさむ)
カト:イェーイ!
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カトリエル&パコ・アモロソ
『FREE SPIRITS|フリー・スピリッツ』
国内盤アルバム:発売中
対訳/ライナー付き
購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/freespiritsALjpRS
配信:https://ca7rielpaco.lnk.to/freespiritsjpRS
CA7RIEL & Paco Amoroso: Free Spirits World Tour
2026年10月21日(水)大阪・なんばHatch
2026年10月22日(木)東京・豊洲PIT
公演詳細:https://www.livenationhip.co.jp/all-events/ca7riel-and-paco-amoroso-tickets-ae1554639
King Gnuのドラム・勢喜遊とベース・新井和輝がゲスト参加、「THE FIRST TAKE」パフォーマンスもチェック
