2010年、国際海事機関(IMO)は、世界の経済や社会を支える船員の貢献に感謝し、その重要性や船員が直面する課題について国際的な認識を高めることを目的に、国際的な記念日として6月25日を「船員の日」と定めた。
しかし、海運立国である日本において、「船員の日」そして船員の役割や価値の認知されていないという課題もある。海運業に特化した労務管理システム「TRANS-Crew」(トランスクルー)を提供するエイ・アイ・エスは、「6月25日は船員の日」であることを広く周知することを目的として、"6月25日は「船員の日」日本定着プロジェクト"を立ち上げた。今回、このプロジェクトを進める同社取締役 TRANS-Crew事業部 事業部長の仲村俊彦氏に話を伺った。
日本の生活を支える「船員の仕事」とは?
四方を海に囲まれる日本において、海運業は不可欠な存在だが、実際の業務内容、特に船員の仕事は、多くの人にとって“見えない仕事”となっている。船員の仕事を一言で言えば、船を安全に動かして、人や貨物を目的地まで届ける仕事だ。
海運業は、海外との貿易などを行う外航海運と、日本周辺を運行する内航海運の2つに大きく分かる。外航海運は、日本の貿易における輸出入量の99.6%とその役割のほぼすべてを船が担い、内航海運は国内貨物輸送の約4割、特に産業基礎物資と言われる金属や石油製品、セメントなどの輸送の約8割を担うなど、まさに船なくして日々の生活は成り立たないレベルと言っても過言ではない。
同プロジェクトは「6月25日は船員の日」とともに、船員の仕事の認知拡大も狙う。船の仕事、船員の仕事があまり認知されていない点について、仲村氏は「トラックや電車、飛行機などは、動いているのを見たり、実際に乗る経験も少なくないと思います。一方、船はそもそも近くに海や港がないと、その活動を間近で見ることができないことが大きい」と分析する。一般的に「船乗り」と聞くと、漁師やセーラー服を着た水兵を思い浮かべる人も多いだろう。「なかなかイメージしづらいかもしれませんが、実は我々の生活に密着し、生活に不可欠な存在である海運を支える船員の仕事についてもぜひ知っていただきたい」と強く訴えかける。
船員の日、海外では…
「船員の日 日本定着プロジェクト」を推進するエイ・アイ・エスは、海運業を含む幅広い業界に向けたクラウド型の労務管理システム開発や、海運業に関わる基幹システムを構築する、海運業とも深い関わりを持つIT関連のソフトウェアメーカーだ。その中で、海運業に特化した労務管理システム「TRANS-Crew」を担当している仲村氏が、今回のプロジェクトの立ち上げに至った背景は、ある元外航船員からの言葉だったと振り返る。
「仕事柄、たくさんの海運会社や業界関係者の方にお会いするのですが、その中で、ある元外航船員の方から『6月25日って船員の日なんだけど、知ってる?』と言われたんですよ。しかし、長く業界に関わりながら、その時まで私もまったく知りませんでした」と当時を思い返す。「話を聞くと、海外では『船員の日』にあわせてイベントが開催されたり、海運会社からメッセージが出されたりしている。しかし日本ではほとんど知られてもいない」という現状を顧みた仲村氏は、船員の仕事の専門性、希少性、社会的な役割などの重要性を以前から強く実感していたという経緯もあり、「『船員の日』をきっかけに、船員の仕事の役割や魅力を社会に広く伝え、業界の発展に少しでも貢献したい」という思いで、今回のプロジェクトを立ち上げたという。
「船員の日 日本定着プロジェクト」のコンセプトともなるキャッチフレーズは「見えない仕事に、見える感謝を。」だ。船員の仕事や働き方は、一般の方にはなかなか伝わりにくい一方で、生活のインフラ基盤を支えていることから、「普段はなかなか見えない仕事に対して、何か見える形で感謝の気持ちやメッセージ、エールを送りたい」という思いを強く込めた。プロジェクトのポスターの掲示やSNS、動画配信、イベントの開催などを通して、「船員はもちろん、海運業そのものも身近に感じてもらいたい」と期待を寄せる。
「なぜ御社が?」IT会社が「船員の日」を推進する理由
仲村氏が元外航船員から「船員の日」について聞いたのは、実は今年に入ってから。そこから社内外の調整を行いプロジェクトを準備。約4か月後の4月15日に公式発表へとたどり着いた。このスピード感で実現できたのは、仲村氏の熱意はもちろんだが、「弊社は創業から40年以上の歴史を持ちながら、外部資本を受けていない独立系企業である。そのため意思決定が非常に早く、会社のバックアップも大きな支えとなった」と振り返る。まさに機動力の高い組織だからこその強みが発揮された結果であり、エイ・アイ・エスという会社ならではの特徴、そして持ち味が、この短期間での実現につながったという。
海運業に特化したシステムを開発していることから、多くの関連企業、関連団体との関係が築けていたことも大きかったという。「誰もが何かをやりたいと思っていながら、個別には動いていても、それが大きな形として表に出ていなかった部分ではあるので、結果として皆様から多くの賛同や協力、応援をいただけることになった」と笑顔を見せる仲村氏だが、この半年間は決して順風満帆というわけにはいかなかったという。
「プロジェクトを進める中で『なぜ、エイ・アイ・エスさんが?』という疑問はよく聞かれました。そして、やはり弊社だけで活動するのには限界がありますから、企業・団体にご後援をいただきたかったのですが、特に業界団体はフラットな立場を重視するので、一社が単独で行うプロジェクトに対して後援するのはなかなか難しいという事情がありました」と振り返る。
業界団体がプロジェクトを立ち上げて、企業に後援を求めるというパターンが多い中、今回はまさに逆パターン。当初はかなり苦戦したが、エイ・アイ・エスとしての海運への真摯な取り組み、そして仲村氏の個人的な熱い想いも重なって、企業・団体を説得。商船系高専を中心に多くの後援を獲得することになった。
一般の方への認知を深める取り組みも
プロジェクトの初年度となる本年は、第一ステップとしてロゴやポスター、ノベルティを制作。各種展示会やイベントにおいて告知活動を行うことで、一般への認知を深めていく。
また6月21日には学生を対象とした海運業界への理解を深める体験型イベント「海事クラスター交流会 in 神戸クルーズ」も開催。さらに、6月25日の「船員の日」当日は、大阪・道頓堀を航行するLEDビジョン搭載広告船「LEDアドクルーズ」を活用して、船員に向けた感謝・応援メッセージを放映する企画が実施される。
「LEDアドクルーズというのは、ボートの上がすべて電光掲示板のようになっている広告船で、お話によると5万人くらいの方の目に留まるそうです」と、本プロジェクトにおけるひとつの集大成として大きな期待を寄せる。
LEDアドクルーズで公開される応援メッセージは、本プロジェクトにあわせて募集されたもので、100件に及ぶメッセージが集まった。
「当初の想定では、『いつもありがとうございます』といった一言が多いと思っていたのですが、意外なことに、心の籠もったメッセージも数多く寄せられています」と驚きを隠せない仲村氏。「なかなか見えないと言いながらも、多くの皆様が、船員の仕事や役割、立場を理解し、共感して、メッセージを書いていただけたことは非常にうれしいですね」と感謝の意を表すると同時に、「自分たちが現在やっている活動は決して間違っていなかった、この方向性で良かったんだという自己認識にもあらためて繋がりました」と安堵の表情を浮かべる。
なお、本プロジェクトに寄せられた応援メッセージは、6月25日の「船員の日」に大阪・道頓堀のLEDアドクルーズにて放映されるだけでなく、6月24日に、エイ・アイ・エスが発信しているYouTube公式チャンネル「『とらくるチャンネル』船員働き方改革 スマート船長」でも公開する。
今回の活動を続けていく中で印象に残っていることのひとつとして、「SNSで『船員の日』の歌を作っていただけた」ことを挙げる仲村氏。「決して私達からお願いしたわけではないのですが、すばらしい歌で、映像も良く、感動しました。日本ガット船協会四国支部さんに作っていただいたのですが、こういったものが自然に生まれてくるのは非常に喜ばしいことだと思います」と笑顔を見せる。たまたま仲村氏がネットを見ているなかでの発見だったとのことで、驚きと同時に喜びも格別だったという。
「船員の日」今後の展望は?
6月25日の「船員の日」当日まであとわずか。約半年という期間を全力で走り抜ける仲村氏だが、現時点では「手応えとしては想像以上。初年度のこの短い期間にしては、よくできたほうではないかと思います。少し手前味噌な話かもしれませんが」と苦笑いを浮かべつつも、十分な手応えを感じているという。
もちろん「船員の日 日本定着プロジェクト」は、今年一回限りのものではない。「船員の日」を定着させることを目的に、今後も継続して活動を続けていくという仲村氏。
「船員の日」の認知が進むのとあわせて、「船員の日」当日は、「可能であれば、皆様にも、船の上で働いている方がいて、物流、そして私たちの生活を支えてくださっていることに少しでも思いを馳せていただける日にしたい」という思いとともに、「SNSのハッシュタグで『#6月25日は船員の日』といった投稿をしていただり、学校や職場にポスターを貼っていただいたり、海運や船員の仕事について調べてみたり……何かしらの具体的なアクションを起こして、興味や関心を持っていただきたい」との期待を寄せる。
また、「このプロジェクトで『船員の日』を知っていただくのはもちろんですが、現在の海運業界が抱える大きな課題である“人手不足”についても、その解決のための糸口になれば」という仲村氏。そのためにも、「若い方を中心に、もっと船の仕事、船員について知ってもらうことが重要」であり、その思いは6月21日に開催される学生向けイベント「海事クラスター交流会 in 神戸クルーズ」にも繋がっているという。
今後はさらに、船員やその家族を招き、感謝を伝えられるようなイベントを開催したいという夢も。「弊社だけでの開催になると、どうしても規模が小さくなってしまうので、あらためて関連企業や団体の方にご協力いただき、船員、そしてそのご家族に大規模イベントが展開できる環境を広げていきたい」と展望を明かす。
「取り組みを進める中で、『船員の日』を休みにしたら? ということもよく言われました」と打ち明ける仲村氏。「もちろん、認知向上という意味では最高ですが、そうしたら当日は船が止まってしまって、物流に大きな影響が出てしまうかもしれない」と苦笑い。「『船員の日ウイーク』のような期間を設けて、感謝の気持ちを伝えられるような機会を作っていけたら面白いですし、そういったムーブメントが各地で起こってほしい」と、さらなる展開に思いを馳せた。
海運業に広く関わるIT関連のソフトウェアメーカーの熱い思いからスタートした"6月25日は「船員の日」日本定着プロジェクト"、今後の展開に注目していきたい。










