Bialystocksが鳴らす余白──「一瞬」が結ぶ、報道番組から武道館まで

甫木元空と菊池剛からなるバンド、Bialystocksの新曲「一瞬」が、5月22日に配信リリースされた。

本作は、テレビ朝日系報道番組『サタデーステーション』のために書き下ろされたもの。週末の夜、めまぐるしく移り変わる日々のニュースを受け取り、そこから再び日常へと戻っていく私たちの心に、静かな余韻を残す楽曲だ。

Bialystocksは、映画監督でもある甫木元空と、ピアニスト/作編曲家である菊池剛による二人組のバンドである。映画『はるねこ』の生演奏上映をきっかけに2019年に結成され、2022年11月にはメジャー1stアルバム『Quicksand』をリリース。フォーキーで温かみのあるメロディ、甫木元のソウルフルで伸びやかな歌声、そしてジャズを基軸としながら自由にジャンルを横断する菊池のアレンジによって、独自の音楽性を築いてきた。

彼らの音楽は、親しみやすさと奇妙な違和感、日常の手触りとどこか夢の中にいるような浮遊感を同時に抱えている。わかりやすく感情を押し出すのではなく、言葉になる手前の揺らぎや、風景の奥にある気配をすくい上げる。Bialystocksというバンドの魅力は、そうした繊細な「あわい」を音楽として成立させるところにあるのだ。

2025年には、甫木元と菊池の二人だけで全国19カ所32公演を巡る二人編成ツアーを完走し、全公演をソールドアウトさせた。2026年に入り、彼らはその音楽をさらに異なるフィールドへと届けている。

例えば1月にはTVアニメ『違国日記』のエンディングテーマ「言伝」、2月にはフジテレビ系連続ドラマ『ラムネモンキー』の主題歌「Everyday」とその劇伴、そして今回『サタデーステーション』テーマ曲「一瞬」を発表した。いずれの曲も、それぞれの作品世界と折り合いをつけながら、Bialystocksらしい感覚の揺らぎや温度を通わせている。メディアの違いは、彼らの音楽の広がりを伝える指標であると同時に、その楽曲が持つ普遍性を示すものともいえよう。

さらに7月15日には初の日本武道館公演が予定され、同日には過去作『Tide Pool』『Quicksand』『Songs for the Cryptids』のアナログ盤リリースも控えている。加えて7月25日にはフジロック(FUJI ROCK FESTIVAL 26)のGREEN STAGE出演も決定。外側から見れば、彼らにとって大きなステップアップの年に映るはず。しかしその広がりは、突然訪れたものではない。二人だけで音楽の芯を立ち上げ、作品ごとに異なる場所へその響きをなじませてきた積み重ねが、アニメ、ドラマ、報道番組、武道館、フェスという複数の場へと自然につながっている。

その意味で新曲「一瞬」は、Bialystocksが外へ開かれていく現在地を象徴する楽曲であると同時に、彼らがもともと持っていた余白と緊張感がもっとも端的に表れた一曲でもある。報道番組のテーマ曲と聞くと、社会の現実に向き合うための緊張感や、ニュースの重みを引き受けるようなメッセージ性を想像する人も多いかもしれない。しかしこの曲が差し出すのは、そうした「わかりやすさ」や「強さ」とは少し異なる。スマートフォンを閉じてもなお心のどこかに残り続けるざわめき、週末の夜の静けさの中で言葉にできないまま滞留していく曖昧な感情──そうしたものに、そっと寄り添うような音像だ。

歌詞には〈疲れ切った脳〉〈嫌なこと全部郵送しよう〉〈その日暮らしの迷子の気分〉といった言葉が並び、日常に潜む倦怠感や逃避願望がユーモラスに描かれる。そうした軽やかさや諧謔の中で〈君に 一瞬そう手を振る〉というリフレインが何度も浮上するとき、それは単なる挨拶ではなく、混線する日々の中で誰かに向けて発せられる小さな合図、あるいは祈りのように胸に届くのである。

曲が進むにつれ、アンサンブルは少しずつ熱を帯びていく。2番ではリズムの質感が変化し、随所に散りばめられたサウンドエフェクトが、ギミックとしてではなく、曲の呼吸を揺らすアクセントとして作用する。ハーモニーが重なり、展開部ではピアノがスケールアウトぎりぎりのテンションで緊張感を高め、深く歪んだギターソロへとなだれ込む。やがて掛け合うようなコーラスとともに、再び〈君に 一瞬そう手を振る〉が繰り返される。その反復は、ニュースの波にのみ込まれそうな日々の中で、それでも誰かの方へかすかに手を伸ばそうとする身振りのようだ。

報道番組のテーマ曲に求められるのは、単に視聴者の注意を喚起する力強さだけではない。まるでフィクションのような現実が日々更新され、情報の洪水にさらされる現代では、過酷な現実を直視するための緊張感と、心が壊れないための余白を同時に差し出す音楽が必要になる。「一瞬」のアンサンブルが生み出す微妙なズレや揺らぎ、甫木元の歌声の軽やかな跳躍、〈君に 一瞬そう手を振る〉という短いフレーズの反復は、そうした余白を形にしているかのようだ。

さまざまなメディアを横断しながら支持を広げる2026年のBialystocksは、「よりメジャーなフィールドへと開かれていく順風満帆なバンド」という表面的な物語だけでは捉えきれない。甫木元空の声と言葉がすくい上げる日常の揺らぎ。菊池剛のアレンジが作り出す、複数の時間が重なり合うような緊張感。その二つがあるからこそ、「一瞬」は報道番組のテーマ曲でありながら、ニュースのためだけの音楽にはならなかった。

報道番組が私たちに突きつける現実と、その現実に疲れた心のあいだにある「あわい」。そこにBialystocksは、大きな声でメッセージを掲げるのではなく、そっと手を振るような音楽を忍ばせた。これは、二人だけで余白を鳴らし、二人だけで緊張感を保ってきた彼らだからこそ作ることのできた「一瞬」なのだ。

「一瞬」

Bialystocks

PONY CANYON / IRORI Records

配信中

https://bialystocks.lnk.to/Isshun