
パリから西へ約40km、レ・ミュローのセーヌ河畔に、ヨットクラブ・ドゥ・リル・ドゥ・フランス(YCIF)はある。6月7日、この緑豊かな4ヘクタールの敷地で「Sails & Wheels (& Wings)」が開催された。クラシックカーのオーナーと、木造ヨットやクラシックなモーターボートを愛する人々を一堂に集めるという、フランスでも珍しい性格のイベントである。なお括弧付きの「Wings」については、隣接する飛行場から飛び立ったセスナが何機も低空で会場をかすめていったから、というのが実態に近い。帆と車輪の上空を小型機が行き交う、それもまたこの土地らしい光景だった。
【画像】クラシックカーと、木造ヨットやクラシックなモーターボートがフランスのヨットクラブに集う(写真22点)
YCIFの前身は1902年、シャトゥの「印象派の島」に創設されたセルクル・ノーティック・ドゥ・シャトゥ(CNC)だ。創設期のメンバーには探検家のシャルコー船長、クチュリエのポール・ポワレ、繊維王アルマン・エデルス、無声映画のスターであるジュリエット・クラランスらが名を連ね、伝統的なヨットクラブの形式主義から距離を置いた自由闊達な気風は「エスプリ・シャトゥイヤール」と呼ばれた。1924年にはポワレ自身がクラブの旗章をデザインしている。クラブは1929年にムーラン水域へ移転して現在の名称となったが、この水域こそ1924年パリ・オリンピックのセーリング競技の舞台である。敷地は地域文化遺産に指定され、係留される艇の中には歴史的記念物に分類されるものも含まれる。冬には100艘を収容する艇庫が、今も現役で使われている。
海のないパリ周辺において、セーヌはかつてのヨットマンたちの海だった。印象派の画家たちが描いたアルジャントゥイユやシャトゥの帆走風景がそれを証言しており、YCIFはその系譜を今日まで途切れさせずに継いできた数少ないクラブのひとつといえる。
「Sails & Wheels」は2022年に始まった比較的新しい試みで、趣旨は明快だ。古い自動車と古い舟、ふたつの「伝統あるオブジェ」の愛好家を結びつけること。当日は朝から参加車両が芝生と並木の下に並べられ、参加者はクラブの船主が操る木造ヨットやモーターボートでセーヌのクルーズに招かれた。河畔でのピクニック、ペタンク、レストラン「レ・ヴォワル」での昼食と、晴天の一日はゆったりと流れていく。
集まった車両は英国車の層の厚さが目を引いた。オースチン・ヒーレー100にジェンセン・ヒーレー、ジャガー・Sタイプ、トライアンフ・スピットファイアにMGB、そしてACエースにいたっては3台が木陰に顔を揃えた。一方でクラブメンバーの愛車として圧倒的に多いのはポルシェで、空冷の世代から現行型までが信号マストの列と平行にもう一つの列を成す。ダンスのための舞台に上げられたランボルギーニ・ハラマとデ・トマソ・パンテーラも、メンバーやその仲間たちの持ち込みだ。舟を選ぶ眼で車を選んでいることが一台一台から伝わってくる。趣味の対象が水上にあるか路上にあるかの違いだけで、素材の質感や経年への向き合い方に対する美意識は共通しているのだ。
また、クラブと縁の深いムスタング・クラブ・ドゥ・フランスのイル・ド・フランス支部が、唯一クラブ単位で参加していた。初代から現行型まで世代を跨いだマスタングが菩提樹の並木下に列を成し、セーヌ河畔の木造ヨットの傍らに並ぶアメリカン・マッスルという取り合わせは意外に思えるが、違和感はなかった。
午後、水面では白い帆が風を受け、芝生ではバンドの演奏と海の歌の合唱が続いた。1世紀前の「エスプリ・シャトゥイヤール」は、形を変えながら確かにこの河畔に生きている。
Yacht Club de l'Île de France(YCIF)
- 所在地:23 Chemin du Rouillard, 78130 Les Mureaux, France(パリから西へ約40km)
- 創設:1902年(シャトゥにてCercle Nautique de Chatouとして発足、1929年より現在地)
- ウェブサイト:ycif.fr